第135回 中央ユーラシア調査会 報告1 「ロシアの原油・天然ガス輸出政策とウクライナ情勢 – 対中・対日への影響は? -」一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究主幹 杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)【2014/05/20】

日時:2014年5月20日

第135回 中央ユーラシア調査会
報告1 「ロシアの原油・天然ガス輸出政策とウクライナ情勢
- 対中・対日への影響は? -」


一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究主幹
杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)

はじめに
 ロシアの原油・天然ガス生産の現況と輸出戦略、及びウクライナの原油・天然ガス需給の現況を概観し、現在のウクライナ情勢がロシアの対中・対日エネルギー政策にどのような影響を及ぼすのか分析したい。

1. ロシアの原油・天然ガス生産量・価格推移
 ロシアの原油・天然ガス生産量推移を見ると、原油生産量が一番少なくなったのは1996年の3億トンで、それ以降は増えている。2000年代前半の油価の上昇に伴い生産量も増加した。2000年に大統領に就任したプーチンは、油価の上昇に助けられた背景がある。2008年には最高値150ドル近くとなり、その後暴落した。天然ガス生産量は横ばいで、ガスプロムのガス生産量は毎年減っている。天然ガスの価格については、油価連動型で油価に連動して半年後に反映される仕組みである。ここで、ロシアの欧州向けガス輸出量の数字には2種類ある。ロシアからのパイプライン天然ガス輸出量と、ガスプロムが発表する数字である。ガスプロムの数字には、第三国との貿易取引も含まれているためロシアの輸出量よりも多い数字となっている。
 ロシアの西シベリアから欧州への天然ガスパイプラインには、ウクライナ経由 (年間輸送能力約1400億m³)とベラルーシ経由(約300億m³)の2経路の他、黒海を縦断してロシアからトルコまで直接行く海底パイプライン(ブルーストリーム)年間160億m³(計2本)、バルト海経由ロシアからドイツまで直接輸送する550億m³(計2本)の年間輸送能力がある2経路のパイプライン等がある。さらにロシアからブルガリアまで黒海を横断するパイプラインがサウス・ストリームで、合計4本のパイプライン建設予定のうち、2本については2014年から黒海横断部分が順次着工予定である。3本目、4本目の建設については今後の政治情勢次第で変わる可能性があるが、4本が完成すると年間総計630億m³の輸送能力となる。これが完成するとノルト・ストリームとサウス・ストリームで欧州への輸出にウクライナ経由パイプラインが不要となる状況が出現し、トランジット料金を収入としているウクライナにとっては危機となる。ノルト・ストリームは2011年9月6日ラインフィルとなり、現行年間輸送能力計550億m³、全長約1220km。2011年末に輸出を開始し、ドイツから東方のポーランド、チェコ、スロバキアに、また南東のハンガリー向けにロシア産天然ガスの供給が可能となった。
 EUの天然ガス輸入シェアを見ると、10年前はEUが輸入する天然ガスの約半分がロシア産であったが現在は30%程度となっている。EU全体では、輸入が約65%、域内生産約35%で、域内消費量の約20%がロシア産という計算になる。

2. ウクライナの天然ガス事情、ロシアとのエネルギー関係
 ウクライナの外国貿易を見ると輸出入ともにロシアが3分の1、ヨーロッパも3分の1となっている。ウクライナとロシアの間では2009年1月19日に、当時のプーチン首相とティモシェンコ首相が天然ガス長期供給契約に合意した。2009年1月から2019年12月までの11年間の天然ガス長期供給契約で、年間の供給量は520億m³、Take or pay 条項は80%である。

3. ウクライナのエネルギー戦略
 ウクライナは、過去10年間、一貫して対外債務が増大しており、金・外貨準備高が減り、2014年3月には150億ドルまで下がった。IMF基準によれば、輸入の3か月分の蓄えがないと貿易に支障をきたす。ウクライナは現在2ヶ月分程度の金・外貨準備高しかない。ウクライナは天然ガスに非常に多額の金額を支払っているが、原油輸入は減らして支払額は減っている。石炭に転換したが、もともとウクライナは原油生産量が少ないので、影響は小さい。
 現在のウクライナにとって、対ロシア依存度を減少させることが最大の課題である。ウクライナの年間天然ガス需要量は現在500億m³で、内、国内の天然ガス生産は200億m³であり、輸入の300億m³のほぼ100%をロシアに依存している。ウクライナはロシア産天然ガス輸入を削減したい意向にあるが、一方では天然ガスのトランジット量の拡大を希望している。これに対する今後のエネルギー政策として、ウクライナは、欧州から天然ガスパイプライン逆走によるガス輸入や、自国内のシェールガス探鉱、開発促進を進めようとしている。

4. ウクライナ情勢が与える対中・対日への影響
 2014年上半期におけるロシアの極東エネルギー動向最大の注目点は、極東サハ共和国のチャヤンダ・ガス田からの中国向け天然ガス輸出価格が合意に達するかどうかである。
 トルクメニスタンから中国向けに、総延長4000kmのパイプラインが2本ひかれている。2本で年間300億m³の輸送能力で、昨年は220億m³が中国に輸出された。現在3本目が建設中であり今年中に完成予定である。4本目はタジキスタンとキルギスタンを通って中国へ輸出するルートとなっている。供給源の西シベリアの天然ガスは欧州向けに輸出しており、西シベリアの天然ガスを欧州輸出価格よりも安い値段で決めてしまうと、欧州側から価格値下げ交渉が強まる可能性があり、中国との価格交渉に時間が掛かっていた。ガスプロムの提示額は1000m³あたり、360ドルから400ドルという価格水準で、LNG価格に換算して10~11ドルの範囲、これはヨーロッパがLNGを買っている価格と同水準であり、この価格に対して中国が値下げを要求していた。極東サハ共和国のガス田から380億m³(東ルート)と先のアルタイ・パイプライン300億m³(西ルート)を合わせると680億m³となり、ロシア・ガスプロムと中国CNPCは当初、2径路の天然ガス・パイプライン(西ルート・東ルート)による年間計680億m³の天然ガス供給を交渉してきたが、現時点での供給ルートは東ルート、供給量は年間380億m³のみ対象となっている。2014年4月末現在、契約調印に至っていない。ガス田開発とパイプライン建設総工費は500億ドル以上が必要な見込で、ガスプロムにはこの構想を実現する資金はなく、中国側から前金を受領するか、税金投入が必要である。欧州向け輸出価格水準には縛られないが、探鉱・開発等のコストが高くつき実際には欧州向けよりも高くしないと経済性がない可能性もある。
 一方、このガス田を開発しないと、プーチン大統領の「東方政策」も実現しない。プーチン大統領は今まさに訪中しており、天然ガス価格が合意となるかどうかが大変注目される。本日のロシアの新聞では350ドル/千m³くらいで決まるのではないかという報道があった。ウクライナ問題が発生した現在、ひょっとしたら政治決着が起こりえるかもしれない。
 一方、日本への影響であるが、サハリンで日本企業とメジャーの協同プロジェクトが動いており、欧米がロシアに対する経済制裁を強化し、メジャーがロシアから撤退するようなことが起こると、日本企業も撤退を余儀なくされ、大きな影響がでるかもしれない。日本が欧米の対露経済制裁に同調する場合、日露関係が悪化する可能性もある。ただし、原油あるいは液化天然ガス(LNG)のロシアの対日エネルギー供給が減ることはないと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。


担当:総務・企画調査広報部