第135回 中央ユーラシア調査会 報告2 「ロシア経済の見通しとビジネス環境~ウクライナ情勢を踏まえて」日本貿易振興機構 海外調査部 主幹 梅津 哲也 (うめつ てつや)【2014/05/20】

日時:2014年5月20日

第135回 中央ユーラシア調査会
報告2 「ロシア経済の見通しとビジネス環境~ウクライナ情勢を踏まえて」


日本貿易振興機構 海外調査部 主幹
梅津 哲也 (うめつ てつや)

はじめに
 ウクライナ情勢が急変し、ロシアで欧州との経済関係に悪影響が見られる。昨年からの景気後退の懸念が一層強まる中、今後のロシア経済の見通しを検証したい。経済全般では明るさは見えないものの、ロシア政府が経済構造の転換と投資環境の改善に注力しており、これは将来のロシア経済・産業構造に根本的な変革をもたらす可能性もあり、無視し得るものではない。ビジネス環境におけるリスク分析とともに報告する。

1. ウクライナ危機の整理
 昨年11月末にヤヌコヴィッチ政権がEUとの連合協定締結を撤回したところから、ウクライナ危機の一連の動きが始まった。今年に入りキエフの反政府運動が高まり、ヤヌコヴィッチ政権の退陣、政変が起こり、3月にはクリミアで住民投票が行なわれてロシアに編入され、米・EU・日本による経済制裁が矢継ぎ早に実行された。経済制裁は個人やメジャーではない企業の資産凍結、渡航禁止と現在のところ限定されている(注:講演時点の状況)。アメリカが一部ハイテク製品、民生軍事両用のデュアルプロダクトの輸出規制を導入したが、ソ連によるアフガン侵攻の際のような措置はとられていない。現状のまま政治的な決着がつけばそれほど大きなダメージはないように思われるが、このままずるずると続けば、ウクライナ、ロシア、欧州も経済成長下方修正の見通しになる。
 反してロシア国内は安定した、磐石な政治体制となった。2011年末から反政府運動が盛り上がり尾を引いていたがそれも下火となり、ウクライナ政変、クリミア半島編入後、ナショナリズムの高揚で、プーチン大統領、メドベージェフ大統領の支持率も上がった。今までは政権側がナショナリズムを利用してきたが、今回は、プーチンが国民のナショナリズムの空気に押されたのではないかとも思える。これはある種、ポピュリズムに乗った危険な動きにも見える。

2. ロシア経済の動向と市場としての見方
 ロシア経済は、エネルギー資源、石油天然ガスの輸出に支えられた外需一本足打法とよくいわれるが、実は内需も国内経済を引っ張ってきた。2000年代の10年間は実質GDPが毎年5~10%で好景気を謳歌したが、よりはるかに高い伸びを消費、小売が占めていた。外需で得たお金がうまく循環したところもあるが、内需が勢いよく拡大したことにより、外需と内需の両輪が上手く回りロシア経済が急速に伸びた。リーマンショック後は大幅なマイナスとなり、2010年に入って以降は3~4%の堅調な成長を示していたが、2013年の成長見通しは下方修正を繰り返し、2014年はマイナス成長という悲観的予測もある。2015年も同じ傾向となり、今年、来年は足踏みとなる予測である。これには、ウクライナを巡る経済措置に加えて、ロシアの根本的経済構造の転換がうまく図られていないという2つの要因がある。今後、ウクライナ情勢の安定化、好転があっても楽観できない。
 現在、ロシア経済の先行きに対する市民の漠然とした不安を反映して財布の紐が締められ、結果、経済が縮小するという悪循環にはいりつつある。ただし、ロシアは外貨準備を高い水準でキープしており、国民福祉基金、準備基金などのソブリンファンドもあり、デフォルトを起こす心配はない。また、対外債務は増えているが、政府債務にはあまり変化はない。商業銀行や企業等が金利の高いロシアを避け、ヨーロッパ市場で起債し、利率を低く資金調達するようなことがあり、これは政府債務と異なり保証のある負債である。
 現在の経済状況からは一見、魅力的には見えないロシア市場であるが、ポテンシャルは高いと考えている。人口規模は最大(1億4,400万人)で日本、ドイツ(8,300万人)より多く、トルコ (7,200万人)の2倍であり市場がある。一人あたりのGDPは2000年代からずっと伸びている。2013年は約1万8,000ドルで、2000年当時の約2.5倍に拡大する急激な伸びを示しており、IMFの統計ではだいたい180ヵ国くらいある中で58番目のというマーケット規模である。

3. 日露経済関係の現状と見通し、ロシア市場の見方
 日本との輸出入の関係においては、1970年代、シベリア開発プロジェクトによる第一次ブームがあった。アフガン侵攻以降の経済制裁、ソ連末期の経済混乱の90年代は輸出ができない低迷の時代が続いたが、2000年代半ばから再び輸出が伸びてきている。現在輸出は30年ぶりの第2次ブームとも呼べる状況になっている。これは日本だけではなく、ヨーロッパ、韓国、中国もロシア向け輸出を伸ばしている。
 輸出入品目は、日本からは機械設備、ロシアからは天然資源を輸入する、ソ連時代から変わらない相互補完的品目構造となっている。2005年は自動車が輸出の半分を占めていたが、最近は、日本の自動車メーカー各社がロシアで現地生産を始めたため、自動車部品の輸出が伸びてきている。
 このような日本企業の進出にあたっての政府のバックアップ体制としては、2014年4月以降は半年で4回の日露首脳会談が行なわれ、首相官邸の主導による「日露経済交流促進会議」「日露交流促進官民連絡会議」、国土交通省による「日露都市環境協議会」等が発足し、官民の枠組みでロシアでのビジネスを開拓していく動きが強まっている。両国政府も交えて勧めていく枠組みが整ってきた。在モスクワ日系企業景況感調査を見ると、ウクライナ情勢に留意しつつも6割が今後事業拡大の見通しにあり、政変前には、7割の企業が対露ビジネスに期待していた。今後1~2年に事業を拡大する予定の企業は8割で、アジア、アセアン進出企業に並ぶ高い見通しとなっている。

4. ロシア経済の今後と経済政策(ロシアの経済構造改革・ビジネス環境改善の行方)
 ポテンシャルはあっても制度改革、経済構造改革がなかなか進まず、思ったような経済発展ができない状況がある。リーマンショック後2011年半ばまで、石油価格とロシア株価指数は似たように推移していたが、その後、乖離がすすんだ。石油価格が高ければ、ロシアの株価も上がって経済も良くなると言えなくなった。経済政策として、エネルギー資源採掘・輸出に頼る経済構造を変えていかなければならないことはロシア政府も認識している。メドベージェフ大統領の時代から、「経済の現代化」をスローガンとして、新たな産業創出、社会資本整備が進められている。具体的には、(1)医療、(2)省エネ、(3)原子力、(4)航空・宇宙、(5)通信・ITの5つを重点分野としている。ここに、日本企業が得意とする医療、省エネ、通信IT分野における日露間の経済協力、ビジネスチャンスが生まれつつある。さらに、工場、発電所、病院といったあらゆる施設において、老朽化設備の更新が喫緊である。高効率、生産性の高い機械の導入が導入されるだろうことは、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスである。
 しかし実際のところ、ロシアでビジネスをするのは一筋縄ではいかない。投資環境、ビジネス環境等難しいことも多い。ここにきてようやくロシア政府もきちんと認識をし始め、ビジネス環境改善のロードマップを作成した。電力インフラへのアクセス向上、国家規制活動の適正化、法人・個人企業登記手続きの適正化等が項目として挙げられている。ロシアがビジネス環境改善を始め、ロシア政府の本気度が窺い知れるようになった。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部