第136回 中央ユーラシア調査会 報告1 「最近の中央アジア情勢を動かす主要要因」早稲田大学 商学研究科 非常勤講師 ウェブサイト「Japan-World Trends」代表 元駐ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使 河東 哲夫 (かわとう あきお)【2014/06/30】

日時:2014年6月30日

第136回 中央ユーラシア調査会
報告1 「最近の中央アジア情勢を動かす主要要因」


早稲田大学 商学研究科 非常勤講師
ウェブサイト「Japan-World Trends」代表
元駐ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使
河東 哲夫 (かわとうあきお)

はじめに
 中央アジアを巡る大きな枠組みから、米露関係、中露関係、中央アジア、中央アジアの周辺諸国などの主要な問題のポイントを提起し、議論を誘発したい。

1. 米露関係
 米露双方の思い違い、思い込みが激しく、理解のねじれが問題である。アメリカがこれまでロシアに対して実行したことをアメリカ人は見ず、ロシア人の気持を理解していない。アメリカはNATOを拡大し、アメリカNGOは中央アジア、コーカサス、ウクライナで思うように活動し、政権をひっくり返してきた。それをプーチンがどう見ていたか、慮ることが出来ないのはアメリカの欠点である。一方、プーチンも諜報機関出身者であり、アメリカの大統領、国務省がやることに対して反感を持っている。今後の米露関係はウクライナ次第であり、さらにイラクが論点となる可能性もある。他方、プーチンの今後の国内の足場がどうなっていくのか。ウクライナの扱いを失敗しつつあるように見え、力の限界が如実になりつつある。ロシア国内の支持を失い仲間たちに捨てられる可能性もある。

2. 中露関係
 ウクライナ問題を契機に関係が良好になったと言われるが、習近平が就任して初めて3月に訪露したときから、中露は蜜月関係だと言われていた。ただし、ウクライナ問題でロシアが孤立しているように見える中で、中国しかいない構図があらわになったことは新しい。その中露の蜜月の証として、ロシア天然ガスの中国への輸出合意がなされたことが挙げられる。しかし、5兆円の開発費、パイプライン敷設費の一部を中国が前払いすることとなり、それが実行されるのかどうか。ヨーロッパは、ロシアからのガス輸入を今すぐに削減するわけではないのでロシアは急ぐ必要がない。天然ガスの輸出合意がどこまで高く評価できるのか疑問が残る。一方中国は、ロシアしか頼りにならないという状況ではなく、ロシアのほうが分が悪い。ロシアが中国を頼りにしてしがみつけば対価を払わされるだろう。

3. NIS(ユーラシア経済連合等)
 ユーラシア同盟は、カザフスタン、ベラルーシ三国の批准を経て、来年1月に発足する運びである。ベラルーシ大統領ルカシェンコは、「我々はここまでくる間に何者か(ウクライナ)を失った。連合は当初宣言されていたものとは違うものになった。所期以下のものになった」と述べた。またルカシェンコが政治、軍事面での合同強化を唱えたのに対してカザフスタンは明確に否定した。ロシアは共通旅券・通貨・議会、国境警備、共通対外経済政策も提案したが、カザフスタンは受けなかったといわれている。ユーラシア連合の存在意義が薄まった状態で発足を遂げた中、中国の中央アジアの進出が強くロシアの影がかすむほどである。

4. 中央アジアに対する中国の進出/上海協力機構
 中央アジア五カ国各国に対して、中国の進出の対応度、強さ、様相性は異なるが勢いに乗っている。中国に対して距離をおいた対応をしていたウズベキスタンでもチャイナマネーが大きな要素になっている。中国の中央アジア進出にあたって目立つ傾向は、個々のケースをまとめて大きな風呂敷に包んで"大シルクロード構想"と名付け、構想をまとめ始めたことである。具体的な内容はないが、気構えはユーラシア連合を包含すると言い始めるだろう。ユーラシア連合で各国が享受している特権を中国にも与えろと要求する可能性がある。中国の進出は、今のところ経済面が中心であるが、安全保障面にいつ乗り出してくるのか。アフガニスタンの近くを通るトルクメニスタンからのパイプラインが安全保障上の脅威になる。上海協力機構は、この1年、めっきり推進力を失っているが、アフガニスタンとの関連で、安全保障面で利用され始める兆しがある。

5. アフガニスタン
 当面の中央アジア情勢の一つの大きなキーである。1月には、NATOの戦死者が最大年に比べて75%減少し、主要都市へのテロはほとんどなく、道路も危険にさらされていない、カブール、カンダハール・ヘラート等、安全であり、過去数年の約10%の経費で、米国は成果を維持できるという記事もあったが、現在はよくわからない情勢になっている。大統領選挙に絡んで今後どうなるか予測がつかない。決選投票が6月14日にあったが、集計が終わらず、結果がまだ発表されていない。その中で、アメリカ軍、ISAF撤退が始まっている。

6. 中央アジア 全域にわたる動き
 中央アジア各国、中央アジアを周辺と結ぶ鉄道構想が乱立している。その中で注目に値するのは、中国が計画している、キルギスを横切り中央アジアへ抜ける路線と、タジクを通り、アフガン、トルクメニスタンにでて、そこからイランに抜ける路線であり、それぞれ、戦略的、経済的な意味をもつ。しかし、ほとんどは建設が進んでいないようである。経済上の注目点は、中国と欧州を結ぶ鉄道がロシアを経由せずに可能かどうかである。シベリア鉄道が商業プロジェクトとして成り立ちうるのかという問題にもなる。
 石油天然ガスについては、シェールオイルの絡みもあるが、カザフスタンのカシャガン油田の開発が遅れている。稼動時期も遅れ、費用が増大する一方である。西側がこの油田にいつまで関心を持ち続けるだろうか。トルクメニスタン国内では、ガス、電力の供給停止、大学教育の有料化、ガソリンの無料配分の減少などがあり中国への安価な天然ガス輸出による、トルクメニスタン政府の財政状況をうかがわせるものがある。今後、トルクメニスタンはEUに対する天然ガス輸出を本格化させるのではないか。そうなれば、イランの天然ガスを加えて、ナブッコパイプラインの復活の可能性がでてくる。
 ウズベキスタンは、議会選挙が12月21日、大統領選挙が来年3月22日に行なわれるという発表が最大のニュースである。憲法改正が行なわれ、大統領の権限が削られた格好になっている。ウズベキスタンで一番懸念されるのは、76歳のカリモフ大統領の後継者が全く不透明なこと。キルギスは関税同盟に参加することになり、今年の4月には国内のガスインフラをすべてガスプロムに売り渡した建前になっている。しかし南部のオシではガス不足が続き、ガスプロムに売り渡した効果がないという声が高まった。タジキスタンで注目すべき事項は、政府歳入のかなりの部分を占めるアルミニウムの大規模工場の採算がとれなくなり、倒産の可能性があるという報道が増えていることである。アルミニウム世界価格の下落が背景にある。
 カザフスタン以外はロシア語が廃れてきている。ロシア語を使わなくなると、大学で使う教科書がほとんどロシア語のため、文明的に空白地帯になる可能性があり、英語教科書の作成を支援する必要がある。
 中央アジア全体として、職にあぶれた青年たちがシリアに行き、テロリストとして活動していることが懸念される。テロリストとしての訓練をうけ本国、またはアフガニスタンに戻りつつあり中央アジアではテロに対する圧力が高まっている。

7. 日本との関係
 米軍がアフガニスタンから撤退すれば、中央アジアに対する関心が低下する。関心が低下するとアメリカは人権問題を持ち出す。そのとき、日本は中央アジアに対してどういうスタンスをとるべきか。来年戦後70周年迎え、中露は日本を叩こうと習近平が音頭をとっている。それは中央アジアにも及ぶだろう。中央アジアに対して、先取的な働きかけがますます求められる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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