第140回 中央ユーラシア調査会 報告1 「中央アジアにおけるロシア及び中国の影響」独立行政法人国際協力機構(JICA)理事 柳沢 香枝(やなぎさわ かえ)【2014/11/27】

日時:2014年11月27日

第140回 中央ユーラシア調査会
報告1 「中央アジアにおけるロシア及び中国の影響」


独立行政法人国際協力機構(JICA)理事
柳沢 香枝(やなぎさわ かえ)

はじめに
 現在の中央アジアの国際環境を見るうえで中国、ロシア両大国の動きが各国にどのような影響を及ぼしているのか、また中央アジア各国にウクライナ問題が政治的、経済的にどのような影響を及ぼし得るのかについても考察しご報告したい。

1. 中央アジアの国際環境
中央アジア各国の主要貿易相手国の統計データをみると、ロシアへの依存度が大きい国が多く、さらに中国との関係が増えているのが全体の傾向である。カザフスタンはEUとの貿易関係が深くなぜ関税同盟に入るのだろうという疑問もわく。ウズベキスタンとトルクメニスタンは、ロシア、トルコとの関係が深い。いずれの国も日本との経済関係は微々たる状況となっている。
 地域全体の枠組みとして上海協力機構があり、2001年6月に現在のような形になった。中国、ロシア、トルクメニスタンを除く中央アジア4カ国がメンバーで、事務局は北京に置かれている。総人口15.25億人のうち、13億人が中国人、1.5億人がロシア人であるので、この2カ国がほとんど占めていると言える。オブザーバーとして、モンゴル(2004年)、インド(2005年)、イラン(2005年)、パキスタン(2005年)、アフガニスタン(2012年)が入ったが、注目すべきは今年のサミットでパキスタンが加盟を申請したことである。情報ソースによって異なるが、インド・イランも加盟の意向表明している。両国がメンバーに加わると枠組みが異なったものになるだろう。中立国であるトルクメニスタンはオブザーバー参加である。
 今年のサミットは、ドゥシャンベで行われた。宣言を見ると、まず、ウクライナの早期平和復興と危機の完全な正常化を目指した対話プロセスの継続に賛同を表明し、シリア危機に対して、政治・外交的手段のみによって解決されるべきことを認識したとある。これらを強調していることが、この枠組みの性格を現している。アフガニスタンについては、国民による再生努力を支持するとあり、内政不干渉、国家主権の考え方が表れている。イランの核開発に触れているのは今後同国との関係を深めていくうえでの布石であろうと思う。
 中露関係は接近している。5月、上海でナザルバイエフ大統領が提唱した「アジア相互信頼醸成会議(CICA)」が開催された。アジアの安全保障を話し合う枠組みで、日本はオブザーバー参加である。ここで習近平とプーチン大統領の会合が行われ、同じ5月にガスプロムとCNPCが天然ガス輸出について合意した。それに基づき、9月にはプーチン大統領が起工式に出席している。8月にはモンゴルで、ノモンハン事件の75周年の式典が行われ、中露蒙の会談が実現した。
 中国に絞って中央アジアとの関係をみたい。貿易額を見ると、カザフスタン、トルクメニスタンが大きい。中国への資源輸出と工業製品輸入のパタンが確立している。直接投資については、カザフスタンでの石油関係の投資が多い。トルクメニスタンも伸びているのではないかと想像される。
 中央アジア各国と中国との国交は91年に始まり、2004年のSCOサミットにおいて中国輸出入銀行が9億ドルのバイヤーズクレジットの提供を表明して、大規模な経済協力を行ったことを契機に関係が深まった。その後中国は、SCOのサミットの場で、地域全体への経済協力の意向を表明していく手法をとりはじめた。
 2013年9月、習近平主席がタジキスタンを除く4カ国を歴訪し、カザフスタンのナザルバイエフ大学で、シルクロード経済ベルト構想を発表した。中央アジアに限らず、バルト海に及ぶ新シルクロード経済ベルトを整備し、比類なき可能性を秘めた世界最大の市場をつくると述べた。その後、インドネシアとマレーシアを歴訪の際には、インドネシアで、21世紀の海上シルクロード整備を提唱した。これらは今の中国の2大重要戦略である。
 ウズベキスタンと中国の関係については、カリモフ大統領が8月に訪中した際に、60億ドルの経済協力の約束をした。主な要素はガスパイプラインと鉄道の整備である。ウズベキスタンの国立東洋大学という語学を中心とした大学に、中国語学科ではなく中国語学部が設置されたことは象徴的かと思う。
 昨年10月に、習近平主席がインドネシアでアジアインフラ投資銀行の創設を提唱した。インフラ整備と投資の促進を目的とし、設立時資本金500億ドル、目標は1,000億ドルである。中国は最大50%の出資を行う準備があり、アメリカ、日本の警戒感を呼んでいる。参加の意向を示すのは21カ国。中央アジアで参加を表明しているのはカザフスタン、ウズベキスタンの2カ国である(その後タジキスタンも参加の意向を表明)。中国はさらに、2014年11月のAPEC会合においてシルクロード基金の創設を提唱した。アジアインフラ投資銀行は広い範囲をカバーし、シルクロード基金は、中央・南アジアが対象である。中国が400億ドルを出資する。中国は、上海協力機構の枠組みの中で、SCO開発銀行の創設を提唱しているが、ロシアの事情があってなかなか進まない。そこで、中国単独で出資して進められるシルクロード基金を提唱したのではないか。
 中国がアグレッシブに資金提供の枠組みを作っている背景の一つには、4兆ドルを超える外貨準備高があり、80年代の日本のように還流したいと考えているのではないかと想像される。人民元を国際化していく狙いもある。また国内だけでは雇用、企業の活動を吸収できず海外進出を提唱している。そのような中国の非常に積極的な展開をしている中に、中央アジアが置かれているのが今の状況である。

2. ウクライナ問題の中央アジアへの影響
 中央アジアはウクライナ問題から直接の影響をうけているようにはあまり感じられない。ロシア経済が制裁および以前からの原油価格の低迷によって落ち込んでいることによる影響が大きい。政治的な部分でどのような影響が中央アジアに対してあるのかは今のところはよくわからない状況にある。
 経済状況を見ると、IMFの分析によれば、カザフスタンは2014年第1四半期成長率3.8%(前年同期6%)となり、成長が落ち込んでいる。これは、ロシアだけではなく、中国の減速の影響がある。テンゲの減価もあって落ち込んでいる。キルギスタンは2012年10%という高い成長を誇ったが今年の予測は3%でインフレも進んでいる。出稼ぎの送金が減り、国境管理の強化によって中国製品の再輸出ができなくなった。天候要因も大きく干ばつもあったらしい。タジキスタンはカザフ、キルギスと比べるとそれほど落ち込みはないようだ。建設ラッシュで成長を牽引しているが、綿花・アルミニウムの輸出は急減、送金減はサービスセクターを圧迫している。ウクライナは悲惨な状況だが、ロシアも負けずに悲惨な状況にある。経済状況に資源国と非資源国の間で顕著な違いがあるのかというと必ずしもそうはなっていない。カザフスタンはかなり落ち込んでいるが、タジキスタンは意外に堅調でウズベクもそれほど悪くなっていない。他方では、ロシア向けの欧州からの輸出が制裁により止まっていることをチャンスと見る向きもある。その空隙を埋めるべく、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンから農産物が輸出されている。ウズベキスタンではロシアへの野菜・果物の輸出が増加し、国内価格が上昇した。ガソリンも不足している。国際化価格を見て売れそうだと、国民供給をとめても輸出に回している。国の財政はうるおっても国民の生活は結構大変なのではないか。トルクメニスタンは、中国との関係のほうが今は密接で、あまり影響がないのではないか。
 アルメニアは、関税同盟に加盟するが欧州との関係を絶つわけではないと言っている。アルメニアはWTOに入っているので手続き的にも問題ないと自信を持っている。アゼルバイジャンは、ロシア向けではなく、バクー、トビリシ、ジェイハン・ルート(BTCルート)があり、問題ないようだ。イランと国際社会との関係改善も追い風になっている。
 クリミア的な要素があると思われるのは、グルジアの中のアブハジアではないか。独立はするが、クリミア的になることをアブハジアは望んでいないと聞く。グルジアはEUとの連合協定でヨーロッパの9億人の市場とつながると勢いがよい。EU9億人とCIS 1.8億人の両方の市場を持っている。アルメニアはロシア、グルジアはヨーロッパという二分した分け方は単純過ぎなのではないかと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部