平成26年度 第3回 国際情勢研究会 報告2「日韓・日朝問題を考える」 関西学院大学 国際学部 教授 平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ) 【2014/06/20】

日時:2014年6月20日

平成26年度 第3回 国際情勢研究会
報告2「日韓・日朝問題を考える」


関西学院大学 国際学部 教授
平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)

1. 日朝政府間協議の合意文書
 5月29日に、日朝の政府間協議の結果、「北朝鮮側が拉致問題の再調査に応じた」という発言が安倍総理によってなされ、日本のメディアはこれを大々的に報道した。メディアや多くの人たちがイメージするのは、北朝鮮が昨年ごろから米国に相手にされず、中朝関係も悪くなり、石油も止められて干上がり寸前であるため日本に助けを求めてきたというものだ。しかし、日朝合意文書を見ると、この見方は物足りないと感じる。
 北朝鮮では昨年暮れに、事実上のナンバー2といわれた張成沢(チャン・ソンテク)が粛清され、金正恩体制もガタガタになるのではないかといわれた。しかし、その後はむしろ安定した状況が続いている。党と軍の関係で言うと、軍の影響力が大きくなっているというのが現在の状況かと思うが、北朝鮮の政治体制はそれほど不安定ではない。
 経済に関しても、例えば中国からの原油が少なくとも1~4月には計上されていないという話はあるが、真偽についてはわからない。中国が止めていないのか、あるいは中国に石油で依存しなくても良い状況ができつつあるのかと思う。食糧については、国連の報告などを見ると、穀物総生産量はかなり良くなっており、食糧不足でもない。そうなると、北朝鮮がギブアップして日本に助けを求め、すぐにでも制裁を解除してもらわなければ立ちいかなくなるという、日本の多くの人たちの見方は間違いのようだ。
 北朝鮮は一昨年12月、ミサイル発射実験を行い、昨年2月には核実験を行った。そして3月には「朝鮮戦争の休戦協定は、もはや無効である」として朝鮮半島が戦争状態にあることをアピールし、瀬戸際政策を繰り返してきた。しかし、米国はこれを相手にせず、北朝鮮は今年1月ごろから対話姿勢に転じてきた。一番の象徴的な出来事は、毎年行われている米韓軍事合同演習に関して北朝鮮が中止を求め、その一方で、離散家族問題という人道問題をきっかけに、南北対話を始めようとしたことだ。最初だけ対話をしようと言い、後はやらないというのがこれまでの北朝鮮だったが、今年は実際に対話を行った。この流れの中で、日朝関係も動き始めたという事情がある。その後、南北関係は悪くなるが、北朝鮮は依然として対話姿勢に来ていると思う。南北関係の悪化については、韓国側が仕掛けているようなところもある。
 日朝の合意文書はお互い6項目で、まず日朝平壌宣言に則って不幸な過去を清算し、懸案事項を解決して、国交正常化を実現するため真摯に協議を行った。日本で多くの人が思っているように、単に拉致問題の再調査をするということではない。この合意文書に表れている基本的な発想は、日本と北朝鮮が不正常な状況の中で発生した日本人にかかわる人道的な問題を、もう一度、精査するというものだ。そして、日朝平壌宣言に則って国交正常化を目指すという考え方だ。
 包括的調査のために特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始する時点で制裁を解除するということだ。調査対象としては、日本人の遺骨問題や日本人妻、拉致被害者の問題、そして日本式に言う政府認定していない特定失踪者という4つのパターンがある。特別調査委員会を立ち上げて調査を開始する時点で、数々の制裁を解除するという点については、日本では「なぜ同時なのだ」、「結果が出てからで良いではないか」という受け止め方がある。しかし、これについても北朝鮮はギブアップしている訳ではなく、不信感を前提とした合意であるため、こういう形を取らざるをえなかったと思われる。今後、北朝鮮側がどのような形で再調査をしていくのかはわからず、慎重、かつ粘り強い交渉が必要となるのは間違いないだろう。

2. 中朝関係における変化
 中朝関係に関しては、私もこれまで「中国が北朝鮮をいつ見放すのか」という問題設定で見ていたが、これについては変えた方が良いと思い始めている。なぜ北朝鮮にとって中国が重要かというと、過去にはおそらくイデオロギーの問題や歴史的な関係があったが、現在はおそらく、安全保障と経済という2つの点から重要だといえる。安全保障に関して見ると、北朝鮮にとって、かつては米国への恐怖が非常に大きかったが、昨年ごろからの米国を見ると、どうも戦争ができない国になりつつある。そうなれば北朝鮮の恐怖感は、従来とは随分異なり、それほど中国に頼らなくても米国に攻撃されることはないということになる。
 そうは言っても、北朝鮮にとって中国は経済的に重要であるから、中朝関係が悪くなっては困ると一般的に思われている。しかし、現在の中国が政治的に経済をしっかりコントロールできるかというと、むしろ経済が自律的になっていると考えられる。北朝鮮国内にもかなりの中国利権が発生しつつあり、政治ではコントロールできない経済関係ができつつあると言う人もいる。このように、中国との関係についてあまり神経を使わなくても良いのではないかというのが、現在の北朝鮮の状況かと思う。このため、従来のように「中国が北朝鮮をいつ見捨てるのか」といった問題設定だけでなく、別の問題設定が必要になってきていると考えられる。
 北朝鮮の核ミサイルの問題に関しては、残念ながら突破口が見えない。6者協議再開問題に関して言えば、北朝鮮よりもむしろ中国に働きかけ、北朝鮮を説得させるということが必要になる。中国に働きかけをするには、日米韓の連携が必要不可欠だが、実は韓国では未だにG2という言葉が当たり前のように使われている。そして意地の悪い見方をすれば、G2を成立させるには、むしろ日韓関係は悪い方が韓国にとって都合が良いのではないかと思う。日米韓が連携すれば、中国から「北朝鮮問題を口実にした対中包囲網だ」と言われるが、日本との関係が悪ければ、韓国としては「対中包囲網ではない」と言えるからだ。

3. 日韓関係に求められる新たなスキーム
 日韓関係が悪い背景には、2つ大きな問題がある。1つは歴史問題だが、それ以上に構造的な問題として、中国に対する認識のずれ、姿勢の違いがある。このため、日韓関係は構造的に難しいというのが私の印象だ。日本としては、対中認識にずれがあり、姿勢が異なるということを前提に、韓国とどのような協力・友好関係を築いていくべきかを考えるタイミングが来ていると感じる。
 そして韓国の問題には、米国における慰安婦像設置問題に象徴されるように、第三国で色々なことをするということがある。嘘も100回言えば本当になるという状況もあり、日本としては、あまり放置もできない。しかし、反論の仕方によっては、日本が逆に悪者にされてしまうというデリケートな問題を含む。このため、現在、韓国を担当している日本の当局の方は大変だ。この状況を少し変えていこうということで、日韓の局長級協議が行われ、慰安婦問題や徴用工の訴訟問題、そして福島第一原発の事故を理由とした韓国による日本の農水産物への輸入規制が、議題になっているようだ。
 慰安婦問題と徴用工訴訟の問題は、日本政府からすれば1965年の日韓基本条約で解決済みだが、韓国側は「慰安婦問題は対象外」としている。日韓基本条約では、両者の意見が異なる場合には再び協議を行い、うまく行かなければ第三者に判断を委ねるとする項目がある。このため、韓国側はこれに則ってほしいということのようだ。一方、徴用工訴訟の問題については、韓国政府も「日韓基本条約で解決済み」という立場だそうだが、司法と政治の違いがあり、今後執行させるかどうかがポイントである。韓国には「法律よりも国民感情」という言葉があり、彼らに言わせれば「法治より正義」ということだが、日本人から見ると、「韓国人は約束を守らない」という話しになる。逆に韓国人は、「日本人は法律を盾にして、正しいことをしないから信用できない」ということになる。
 来年は日韓国交正常化50周年だが、従来のやり方で今後50年の日韓関係を考えるのは難しいと言わざるをえない。このため、来年ごろまでに新たなスキームを考えることが必要だろう。日本としては、朝鮮半島がどのような意味を持つのかということを、もう少しグランドデザインに入れていくべきだ。また、かつては韓国のグランドデザインに日本がしっかり入っていたのが、中国の存在感が増したこ
 とによって変化している。今後はこのような状況を変え、日韓関係を築いていく必要があるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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