平成26年度 第4回 国際情勢研究会 報告2「中国の海洋進出と近隣諸国」 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 佐藤 考一 (さとう こういち) 【2014/07/14】

日時:2014年7月14日

平成26年度 第4回 国際情勢研究会
報告2「中国の海洋進出と近隣諸国」


桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
佐藤 考一 (さとう こういち)

1. 海洋進出の背景にある資源探求、安全保障上の要請、強国志向
 中国が海に出てきている背景には、資源探求や安全保障上の要請、そして大国化による強国志向がある。尖閣諸島は1895年に日本が領土に編入しているが、中国は1971年から「自分たちのもの」と言い出した。南シナ海でも中国は、東沙(プラタス)諸島、西沙(パラセル)諸島、中沙群島(マックレスフィールド岩礁群)、南沙(スプラトリー)諸島の4つについて「自分たちのもの」と主張し、周辺諸国ともめている。
 資源問題の背景には、人口増加と経済発展があり、タンパク資源とエネルギー資源を海に求めている。東シナ海は、南シナ海よりも魚が獲れる場所だ。中国では海の汚染が相当進んでおり、あまり魚が獲れないから外へ出ていく。石油に関しては、2002年ごろには日本と同じぐらいの消費量だったが、現在はかなり増えている。また、石炭使用による大気汚染も進んでおり、よりクリーンなエネルギーである石油を使いたい。
 安全保障上の要請としては、劉華清が1983年に近海防御戦略を提示し、これを具体化するものとして、1986年に第1島嶼線、第2島嶼線というものを示した。劉華清は当時、「中国海軍は現在、第1島嶼線の内側にとどまる」とした上で、「将来、経済と技術が進み、軍事力が付いたときには、第1列島線と第2列島線の間に進出する」とした。そして、早い時期から「空母が必要」としていた。空母については2008年12月、「2015年までに空母2隻を作る」と軍人が言い出し、さらに戦略潜水艦を使って核の第二撃力を保持しようとしている。これは、米国に対抗するということだ。そして中国はSLBMの実験を繰り返しているが、JL-1というミサイルは2150キロしか射程がない。一応、成功して持っているが、アメリカ側へ相当寄らなければワシントンは攻撃できない。JL-2というミサイルは8000キロの射程があり、2012年8月に発射に成功したといわれるが、公表されておらず、本当かどうかはわからない。今後は第二撃力を確保するために、どのようにするかだ。
 次に大国、強国志向だが、1990年代には、尖閣諸島問題などは、日本脅威論で論じていた。しかし、2000年代に入ると、「大国になった」という自信が付き、デモ隊も「琉球回収」のスローガンを唱えるようになってくる。そして、李国強氏が「琉球の地位は未解決」と言うようになった。海洋強国への志向は、胡錦濤前国家主席が引退する年に党大会で言ったことであり、「海洋資源開発能力を向上させ、国家海洋権益を断固として保護維持し、海洋強国を建設する」とした。さらに、国家海洋局の劉賜貴局長が海洋強国について、「海洋開発、海洋利用、海洋保護、海洋管理統制などの面で総合的な実力を有する国を指す」と述べている。このように、海洋強国という言葉は最初、軍からでなく、党と国家海洋局の中から出てきたというのは注目すべきだ。

2. 海上保安機関の統合と強化
 中国の海上保安機関は、2013年に統合されている。国土資源部の海監、農業部の漁政、交通部海事局の海巡、公安部の中国海警、税関の海関という「ファイブ・ドラゴンズ」には、任務がかなり重複しているところがあり、中国政府はこれを非効率だと捉えていた。そして、国家海洋委員会を設立して改革に着手し、海上保安機関を統合、強化しようとした。2013年3月に国家海洋局に中国海警局を合併し、公安部の部長級を海警局長にした。7月には実際に同じ建物に入るようになり、海監、漁政、海警、海関が統合された。しかし、海巡は統合に加わらなかった。さらに各機関の船艇の塗装を統一し、海警局の船艇とする作業を始めた。
 統合以前は、排水量で1000トンを超える船は、主に海監と漁政が持っていた。海監と漁政の船艇は、南シナ海では特に海軍の艦艇と連携し、中国の漁船を警護、東南アジア諸国連合(ASEAN)側の海上保安機関の船艇や石油探査船、漁船と摩擦を起こし、時に発砲している。そして東シナ海では、尖閣諸島周辺海域で海上保安庁の巡視船と対峙している。しかし、中国内部の新聞報道などを見ると、統合後、必ずしもうまく行っていないようだ。本来あった国内の任務と尖閣諸島周辺の警備に加え、統合によって増えた他機関の任務があり、新しい管轄水域へも出て行かなければならなくなった。メンテナンスも必要で、まだ塗装変更していない船もある。また、南シナ海にも応援に出なければならないため、東シナ海へ来る船は減った。
 ベトナムについては中越で軍事協議を行うなど、中国との間で国境警備の部隊同士、信頼醸成が進んでいたが、突然、状況が変わった。これについては、2013年7月30日の中共政治局集団学習会での習近平国家主席による「海洋強国」論強調が直接の引き金らしい。習近平国家主席はこのとき、「中国は既に陸の大国だが、海の大国でもある」とし、「陸と海を統一的に考慮し、海によって国を富ませ、海をもって強国となるべし」と述べたそうだ。一方、海軍や外交部にとっては、今年5月に起こった、パラセル諸島沖でのオイルリグの設置による、ベトナムとの紛争は相当、迷惑だったろうと思う。今年8月には、ASEAN地域フォーラムも開かれる予定で、そこで批判されることはわかっていた。そして軍はベトナムと信頼醸成を進めたばかりで、党と海上保安機関の動きに、外交部と軍が引きずられたという印象だ。その後に起きた中越の互いを非難する宣伝戦では、中国側の反応はいずれも後追いで、映像等の証拠資料が少なく、説得力に乏しい。
 中国の船については、潜水艦はまだ31.7%が旧式でノイズが大きい。ガスタービン・エンジンの採用率は11.5%に過ぎず、ガスタービンのブレードを作る技術はないそうだ。船は日本の2.2倍あるが、兵員は4.7倍いる。一方、洋上給油艦は5隻しかなく、日本と同数だ。また「遼寧」というスキージャンプ方式の空母からの、艦載ジェット戦闘機の離着艦訓練は、2回しか成功していない。そして現在は太平洋で艦艇の連携、対潜対空母機動演習をやっているほか、海南島や南シナ海の島礁で上陸演習をしている。今、盛んにやっているのは、揚陸強襲艦(LSD)を使った演習で、搭載している、ヘリコプターでエアカバーを付け、これもLSDに搭載しているエアクッション艇(ホバークラフト)や水陸両用戦車等で島礁への上陸を狙うシナリオだ。また現在の状況では、航空母艦はまだ無理なようで、恐らく次にやろうとするのは、日本がすでに運用しているような「ヘリ空母」だ。ヘリ空母を運用しながら、スキージャンプ方式の空母を使えるようにする。最後は、カタパルトを付けた本格的な空母にしたいのだろう。
 アメリカの軍人が中国の様子を見てどう考えるかというと、島へ上がる訓練を繰り返しているため、当然、島礁を奪いにくると見ている。南シナ海には上陸する場所がほとんどないので、台湾か日本の尖閣諸島を狙ってくると指摘している。一方、中国が空母を揃えたものまで運用できるようになるには、2020年ごろまでかかるとみている。さらにアメリカの軍人は、2001年から2010年まで中国の上陸作戦用の艦艇の数の大きな変化はないと言っている。ただし、兵員は1997年から2000年の間に3倍に増えたそうで、艦艇をもっと増やせば能力は確実に大きくなる。このため、日本も対応を考える必要がある。

3. 今後の日本に求められる対応
 今後については、東シナ海では当然、日本が譲歩する必要はない。そして無理な挑発もすべきでない。問題凍結のための外交努力、心理戦、法律戦、世論戦の三戦に対処を続けるしかない。そして東シナ海でも南シナ海でも、海洋安保・環境協力への歩み寄りは必要だ。中国側の海は非常に汚いので、海をきれいにして、魚を奪い合うよりも漁業資源を増殖し、分け合うという発想があって良い。後は、万が一のことを考え、日米同盟を強化して、英連邦5ヵ国防衛協定(FPDA)とも協力しなければいけない。
 中国はエアクッション艇のほか、上陸用舟艇、水陸両用戦車をかなり持っている。このため、日本もこれらを必要とする時期が来ている。そして、南シナ海で起きている事象を注視しなければいけない。中国はさらに、新しい地域秩序を欲しているかもしれない。第1列島線、第2列島線、そして第3列島線ということが、そろそろ言われているらしい。これはハワイだそうだが、そういうものが出てくると気になる。また、地域安全保障の信頼醸成などを進めるため、上海協力機構(SCO)の下、アジア信頼醸成措置会議(CICA)というのを強調し出している。台湾については、日台漁業協定のような経済実体としての行動には、中国もあまり文句を言わない。南シナ海では、フィリピン、ベトナム、マレーシアへの巡視船の贈与が、安倍総理の発言で決まっている。そして、海上保安機関の間での協力強化が必要だ。またインドネシアのような、当事国ではないが、ASEANの指導者である国との戦略的協力関係を強化する必要もある。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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