平成26年度 第5回 国際情勢研究会 報告2「オバマ外交の課題」 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授 久保 文明 (くぼ ふみあき) 【2014/09/12】

日時:2014年9月12日

平成26年度 第5回 国際情勢研究会
報告2「オバマ外交の課題」


東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
久保 文明 (くぼ ふみあき)

1. 窮地に立たされるオバマ大統領
 アメリカのオバマ大統領の外交については、2期目に入り、様々な批判がなされてきた。1期目は、イラクからの撤退やロシアとの戦略兵器削減条約が順調に進んだほか、オサマ・ビンラディン殺害に成功するなど、それなりの成果もあった。しかし、2期目に入ってからは、シリアの大量破壊兵器問題で「レッドラインを越えると許さない」と言ったものの、あっさり越えられ、その後は空爆を決断したが、「議会に相談する」として議会の承認を得られなかった。これらはオバマ大統領の外交に、壊滅的なダメージを与えたと思う。また当初「地上軍は投入しない」と言ってしまったが、地上で戦わなければ、実効性はなかなか確保できるものではない。同様の発言はクリミア、ウクライナに関してもなされており、それによって、ロシアのオプションが増えることになった。
 最近のオバマ大統領の支持率は41%程度で、かなり下がってきている。また、アメリカのムードが非常に悪く、世論調査では「アメリカが悪い方向に向かっている」と答える国民が60%前後に上っている。実際には、経済はかなり良くなっているのだが、国民のムードは悲観的で、これについて国民を説得するのは難しい。過去の状況を見ても、1992年の大統領選挙の際には、経済はかなり上り坂だったが、国民は「ひどい状態に違いない」と感じており、ブッシュ大統領を一気に追い出した。そして、2年後の1994年の中間選挙でも、経済の状況が改善していたにもかかわらず、国民は再び「経済は悪いに違いない」と思い、共和党が大勝利した。ところが、1996年になると、国民が「経済は本当に良かったのだ」と感じるようになり、このときはクリントン大統領が圧勝した。
 今後、アメリカ経済が次第に良くなっていった場合、国民のムードはいつ変わるのかということだが、おそらく今年11月までの好転はないのではないか。次の大きな注目点は、2016年11月の大統領選挙までに経済が徐々に良くなっていった場合、国民のムードがどうなっているのかだ。また、医療改革については、未だに反対している人が多く、その実施段階でも様々な問題が生じている。このためオバマ大統領は、内政でも窮地に立たされている。

2. アメリカの新しい孤立主義
 最近のアメリカには、新しい孤立主義の傾向がある。これについては、3つのレベルで考える必要がある。1つは、世論だ。例えば、世論調査において、世界のアメリカ以外の地域で起きていることに関し、「自分たちとは関係がない」と答える人の比率が60%程度に上昇している。1960年代には、この数字は20%程度で、冷戦終結後の1990年代も40%台にとどまっていた。このように、世論には確かに「外のことには関わりたくない」という雰囲気がある。ただ、イラクや中東で起きていることを放っておいて良いのかというと、アメリカ人ジャーナリストが残虐な形で殺される映像が入ってくるなどしており、短期的な変化の傾向もある。一方、オバマ大統領はあまり軍事力を使いたいとは思っておらず、イラク戦争を終えたのも自分の偉大な功績だと考えている。このため、オバマ大統領の外交の基本路線は、世論の雰囲気に合っているはずだが、それを評価する人は30%程度にとどまっている。
 アメリカの孤立主義を考える際、もう1つ重要になるのは議会だ。共和党右派のTea Partyが強い影響力を持っていることが、様々なところに影響を与えている。このグループは非常に内向き志向で、軍事力行使にも批判的だ。財政赤字削減を重視するため、国防費も犠牲にしてかまわないと考えている。これは共和党において、非常に新しい考え方だ。そして最近、民主党左派と共和党右派が協調し、「国防費を減らしたい」ということで合意した。それが、予算の強制削減だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についても、Tea Party系下院議員30名前後は正面から反対で、「憲法の趣旨に反する」と主張している。憲法は通商の権限が議会にあるとしており、これを盾に、大統領にファースト・トラックといわれる通商権限を渡さない状態となっている。
 3つ目の軸は、オバマ大統領自身で、武力行使に非常に消極的である。1つは、彼は内政の方に興味があり、外交にはあまり興味がない。イラク撤退は大統領に立候補した際の信念だったが、それを越えた外交にどの程度、関心があるかというと、かなり弱そうだ。また内政と同じく、良いスピーチをすれば外交が動く、と考えていた節がある。そして、反戦、平和主義者のような側面もあれば、アフガン増派ではタカ派的な側面を出しており、現在はかなり強硬姿勢になっているように見える。他方、アジアへのリバランスに関しては、「TPPこそが中心」としているが、ヨーロッパとも同様の自由貿易交渉を進めているので、重視している理由としては弱い。さらに、オバマ外交に見られるもう1つの弱さは、彼を支える人たちだ。例えば、安全保障担当補佐官はスーザン・ライスで、その下にいるのはベン・ローズだが、いずれも広報はうまいものの、外交原則やビジョンを語るような人たちではない。
 日米関係については4月のオバマ大統領の来日で、安全保障条約第5条が尖閣諸島にも適用されることを、アメリカの大統領として初めて明言した。日本の安倍内閣が行っている日米関係のセキュリティー面における強化では、画期的なことを多数行っている。ただ、日本とアメリカで認識の共有ができていない部分がある。アメリカでは「こんなにやっているのに、日本はどうして感謝しないのだ」といわれることも多いが、日本としては、それで中国を十分、抑止できているのかということになり、もう少し多くのことが必要かもしれないと感じる。
 アメリカでは最近、メディアの報道の影響もあり、日本が本当に1930年代の軍国主義に戻ってきたと感じている人たちがいる。歴史問題や慰安婦問題に関しても、日本のメッセージはあまりワシントンに伝わっていない。さらに、尖閣諸島に関する最近の議論として、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授を中心に、「日本は尖閣問題が紛争であると公式に認め、国際司法裁判所に訴えるべき」と提言していることがある。しかし、これは「力による現状変更をしてはいけない」というアメリカの原則にも反すると感じる。つまり、中国がそれをしているときに、日本に対して「譲歩しろ」ということにもなる訳で、そのような側面に気づいていないアメリカ人も多い。

3. 中間選挙と大統領選挙
 中間選挙については、現在、下院では共和党が多数だが、さらに議席を上乗せする可能性がある。上院については現在、55対45で民主党が多数だが、逆転する可能性が70%程度と言われている。今回は民主党が多数の現職議員を抱えており、守りの選挙だが、2016年は逆に共和党が多数の現職を抱え、守りの選挙になるようだ。2016年には再びひっくり返る可能性があるが、共和党が今回53~54程度まで獲得すれば、その多数が2016年以降も残る可能性があり、その辺も見ておくと良いのではないか。
 大統領選挙に関しては現在、世論調査では、ヒラリー・クリントンを支持する人が多いが、共和党の候補者がまだ決まっていないほか、アメリカでは戦後、3期連続で同じ政党が勝利した例は1度しかない。それはレーガンが2期続き、その後にブッシュが当選したときだ。これについては、レーガンの2期目の終わりの支持率は50~60%と高く、このため、ブッシュが当選できたという経緯がある。しかし、現在のオバマ大統領の支持率は低迷している。ヒラリー・クリントンについては、オバマ大統領と距離を置き始めているが、以前は自分も国務長官を務めていた訳で、あまり逃げる訳にもいかない。また、ヒラリー・クリントンがそもそも立候補するかどうかについても、まだわからない。しかし、「大統領になりたい」という気持ちはあるだろうし、多くの女性支持者から「女性のために戦ってほしい。あなたしかいない」と言われれば、出馬するのではないかという気がする。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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