平成27年度 第1回 アジア研究会 報告 「アセアンにおける有力企業の動向」株式会社ニッセイ基礎研究所 主席研究員 アジア部長 平賀 富一 (ひらが とみかず)【2015/05/29】

日時:2015年5月29日

テーマ『アセアン統合と主要国の動向』

平成27年度 第1回 アジア研究会 報告
「アセアンにおける有力企業の動向」


株式会社ニッセイ基礎研究所 主席研究員 アジア部長
平賀 富一 (ひらが とみかず)

1. アセアン経済共同体に向けた投資の動き
 日中韓によるアセアン(東南アジア諸国連合)への域外からの直接投資(FDI)や、アセアン域内各国間におけるFDIのフローを見ると、2005年から2013年にかけて、先ず、地域統括本部拠点や金融・エネルギーなどの国際ビジネスの中心地となっているシンガポールへの投資が多い。タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムがこれに続く投資の受け入れ国である。アセアン域内では、アセアン経済共同体(AEC)のスタートに向かう中で、例えば、タイからの投資がラオスやベトナムに向かい、シンガポールに域内各国から入ってきている。また、インドネシアからシンガポールには大きな流れがあるが、同時にシンガポールからインドネシアに入っている金額も大きく、相互の投資関係の深化がみられる。域外からアセアンへの投資を見ると、中国のプレゼンスが増しており、2013年には同国によるタイへの投資もかなり増えている。同国のアセアン投資の特徴としてカンボジア、ラオス、ミャンマー(CLM)での投資が大きいことが挙げられる。シンガポールには米国や欧州、日本からの投資が多い。マレーシアについては日本からの投資が多く、次いで米国、シンガポールによるものとなっている。タイでは日本が投資国として大きな地位を占めている。インドネシアについてはシンガポールや旧宗主国のオランダの影響が大きく、直近は日本の投資が大きく増えているが、韓国からの投資も増加している。フィリピンは日本や米国からの投資が多く、韓国や台湾の投資も増えている。ベトナムについては、日本、米国、シンガポールの投資が目立つが、韓国の投資も相当ある(シンガポール拠点を通じている由のサムスン電子による大型投資を含めると大きな額に達していると推量される)。

2. 競争力強化をはかるアセアン企業
 アセアンの主要産業を見ると、例えば、自動車ではタイとインドネシアの市場で日系メーカーが8割以上のシェアを占めている。ただし、シンガポールのように所得水準が大きく向上している市場ではドイツ車の人気が高まっている。アセアン諸国の消費者の多くが豊かになってきた時に、現在同様、多くの消費者が日本車を選好するかどうかという点は、今後、本邦の自動車業界にとって重要な検討ポイントになるかもしれない。家電業界については、日本・韓国・中国・欧州の有力企業が競合している。例えば、ベトナムでは、テレビや家電では大きなシェアを韓国のサムスンとLGが保有しており、中国のハイアールも目立っている。タイについては本来、日系進出企業が非常に多く、在留邦人が5万人以上(韓国人は2000人程度と少数の由)もいる日本が有利なはずだが、テレビでは7割近くのシェアがサムスンとLGになっている。化粧品などの浸透度も高く、それには韓流の影響が大きいと見られる。特に、若い世代は韓国文化に馴染みがあり、ドラマや音楽などの浸透が影響していると思われる。他方、アセアンにおける日用品分野のシェアを見ると、一部の品目を除けば日本の存在は小さく、ユニリーバ、ロレアル、P&Gなど欧米企業が強いといえる。
 米誌フォーチュンによるグローバル500社(売上ベース)の推移を見ると、アジア(除く日本)の企業が増え、その分、米国や日本の企業が減少する傾向にある。アジア企業の中では、特に中国の国有大手企業が多く、韓国の財閥系企業の強さも目立つ。その他のアジア諸国の有力企業では、国営・国有の企業のプレゼンスが大きい。
 アセアン各国の有力企業の動向についてタイを例に挙げると、PTT(タイ石油公社)、サイアム・セメント・グループ(SCG)などが代表格であり、加えて華人系の企業グループの存在が大きい。産業的には資源エネルギー、インフラ、金融、小売り、食品などが目立つ。SCGは1913年に、国王ラマ6世の命によって創立された同国を代表する企業であり、王室財産管理局が30%を占める大株主となっている。元々はセメント会社とはいえ、現在、事業は石油化学、建設資材、製紙などに多角化している。また、業績や経営情報の積極的な開示、社会的貢献といった点でも高く評価されている。現在はアセアンにおける持続的なビジネス・リーダーになるというビジョンを掲げ、アセアン域内での事業の拡大や、付加価値の大きな製品の構成比を増やすという目標を掲げている。同社のトップ経営者は、約100年間で10人のみである。現在のCEOも生え抜きで入社し、厳しい仕事を多く経験しトップになった人物である。その点は、130年の歴史においてわずか9人のCEOであり、内8人が生え抜きの経営者と言う米国のゼネラル・エレクトリック(GE)と似ている。SCGの経営陣である執行役員は9名、チュラロンコン大学工学部の出身者が非常に多いが、その全員がハーバード・ビジネス・スクールのアドバンスド・マネージメント・プログラム(AMP)等に派遣されている。従って、経営陣全員が米国のビジネス・スクール流の考え方や理論を理解しており、共に派遣されて同じキャンパスで学んだ世界の一流企業各社の人材との人脈も保有している。国際展開に当たって、先ずはアセアン諸国をメインに進出するというのがこの会社の戦略だ。特に市場規模の大きいインドネシア、さらにベトナム、CLM諸国へ進出している。タイからアセアンに輸出する製品とアセアン所在の拠点で製造・販売している製品があり、2015年第1四半期の売上高で、自国を除くアセアン(輸出+現地製造・販売)の割合が22%となっている。
 このような中で、同社が、現在不足していると感じている経営資源が、日本の多国籍企業と同様に、グローバル人材だ。M&A手法を活用し企業や事業を獲得することはできるが、その後にうまく経営できるかどうかは別の問題だ。そこには人の問題が絡んでくる。タイ人の人材育成と同時に、有能なローカルスタッフをどのように活用するかが重要なポイントであり、その取り組みを現在進めている。例えば、タイ人スタッフの研修プログラムには米国GEの手法も参考にしている由である。新入社員、中堅層、上位層の階層別にプログラムが整備され、業務関連知識の習得・強化や、リーダー人材の養成に力を入れている。上位層は、上記ハーバードやペンシルバニア大学のウォートン校のAMPに派遣し、マネージャークラスは、スイスのIMDや米デューク大学・ノースウェスタン大学をはじめ、世界的に定評があるビジネススクールと提携し独自のプログラムで社員を研修したり、それらの学校が保有するプログラムに派遣している。同社のビジネススクールでの研修の大きな特徴は、毎年非常に多くの数の社員を派遣していることである。世界市場で通用するリーダーたる経営者をどのように養成していくかは、我が国の多国籍企業にとっても大きな課題でありSCGの取組みは参考になる点があろう。この点に関連して言及すると、国際的に通用する優れたリーダーの育成は単に個社の問題ではなく、国の競争力を左右する重要な課題であり、国家戦略としてそのあり方を検討し、企業による取組みを支援することが必要であると考える。
 次に、タイのCPグループを取り上げる。同グループは最大の華人系財閥グループだ。中国では正大集団の名称で大きなプレゼンスがあり、改革開放により中国への進出が認められた外資企業の中で第一号の免許を受けた。また、CPの食品会社であるCPフーズは、アジアやロシアなど16ヵ国に進出している。国外売上比率は75%に達している。また、鶏の加工や解体処理を非常に近代的な工場で行っており、中国やベトナムなどに横展開していこうとしている。さらにタイの有力華人系企業では、小売りや不動産、ホテル事業などのセントラル・グループもある。タイのデパート事業の売上高が近年増加している大きな要因は、国境付近に出店を増やしていることだ。例えば、ミャンマー、ラオス、カンボジアなど国外に進出するには、未だ様々なリスクがあることから、リスクを回避しつつ、それらの国から買い物に来る顧客を睨んで国境付近へ進出しているとのことである。
 AECに向けての動きもある中で、アセアン諸国の有力企業は、国内の他企業を買収し、競争力を強化しており、今後、他国企業との競争が激しくなることが予想される環境下で、自社の自国市場でのポジションを固め、アセアン域内の他国市場に出ていくということを考えている。一方、アセアンの最先進国であるシンガポールに進出する場合には、地域統括本部の設置や、資本や高度な技術・人材などを確保するという目的がある。あるいは、CPグループが鶏の処理技術を他国に横展開しているように、自社の優れた技術をアセアンで横展開していくということもある。また、中国に早くからCPグループが入っているのは、大規模市場に先んじて参入して大きなパイを取るという狙いがあり、他方、欧米日の市場に参入することは、大規模市場に入ると共に、技術・ノウハウを獲得し、ブランド認知度を高めるとの目的があろう。そういった多国籍化するアセアンの企業にとって今後はグローバル経営のノウハウや人材育成が必要になると考えられる。
 韓国や中国の企業のアセアン市場への進出・展開については、まず中国の場合、国有大手企業や資源エネルギー・不動産事業の大手の多くがシンガポールに拠点を置いている。前述のようにミャンマーやカンボジアなどに多額の投資を行っているほか、最近ではインドネシアへの進出も増加している。韓国企業については、2010年以降、アセアン向け投資が中国向け投資を上回っている。同国の動きは戦略が明確化しており、日本企業の投資が相対的に少ないベトナム、カンボジアを狙った形で多くの企業が進出し大きなプレゼンスを保有している。特に、ベトナムはサムスン電子の大型工場の設置によって、今や携帯電話が輸出品目のトップとなる状況であり、同国の貿易収支・経常収支が黒字化につながっている。

3. グローバル化の経営理論とアセアン企業
 企業がなぜグローバル化するのかを説明するグローバル経営の諸理論において、現在、大きな影響を有するのはダニングの折衷理論であろう。ダニングは、それ以前の内部化理論だけでは多国籍企業の行動全体を説明することは難しいとし、内部化理論に立地論と産業組織論の考え方を加えて国際経営の一般理論化を目指した。そこでは、企業のグローバル化について、以下の3つの要素が同時に満たされなければならないとする。第1に、自分の会社が持っている技術やノウハウ、人材といった優位である「所有特殊的優位」、第2に、立地面で、進出していく国が提供する、あるいはAECに見られるように、域内で立地条件が変化することによって生じる「立地特殊的優位」、第3に、外部の企業との取引よりも自社内で内部化することで生じる「内部化優位」だ。
 今後の研究においては、アセアン各国の有力企業についての様々な事例を調査・分析していき、上記折衷理論など既存の経営理論の範疇で説明が出来る部分と、アセアンの企業に見られる特殊性のような部分を見つけるという方向性で考察を進めたい。アセアンは投資の受け入れ国とのイメージが強いが、近年のタイのFDIのように国外への投資が国内への投資を上回る現象が出現していること、アセアン企業による域外企業の買収など、その海外進出が増加していること(アセアンのブランド製品の海外展開が増加し日本にも進出例が出ている)といった動きがある。このことは、我が国が、企業の展開や投資のあり方、国際競争力などについて考えていく上でも重要な視点やファクターになると考える。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部