平成27年度 第3回 アジア研究会 テーマ『アセアン統合と主要国の動向』 報告 「2015年版ASEAN経済共同体の到達点と今後の展望: 第27回ASEAN首脳会議議長声明を中心に」アジア経済研究所 新領域研究センター 経済統合研究グループ長 梅﨑 創 (うめざき そう)【2015/11/30】

日時:2015年11月30日

テーマ『アセアン統合と主要国の動向』

平成27年度 第3回 アジア研究会 報告
「2015年版ASEAN経済共同体の到達点と今後の展望:
第27回ASEAN首脳会議議長声明を中心に」


アジア経済研究所 新領域研究センター
経済統合研究グループ長
梅﨑 創 (うめざき そう)

1. AEC2015の進捗状況
 ASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体(AEC)については、いつの時点からかASEANのフォーラムで一般的に、「AEC2015」という言い方がなされるようになった。2015年は1つの区切りに過ぎないというニュアンスを込め、このような言い方がされるようになり、その流れで2025年までのブループリントが出された。元々、AECの話が出たときには、スコアカードを作ってモニタリングを行い、進捗管理がなされることになっていたが、ある時点から、それが表に見えにくくなった。2010年と2012年にスコアカードが作成され、一応の報告があり、次は2014年にスコアカードが出される予定だったが、結局、出されなかった。2007年時点で合意されたAECスコアカードの対象措置は306あり、継続的にレビューしていく中、少しずつ数が増え、最終的には611になった。2012年の第20回ASEAN首脳会議では、「プノンペン・アジェンダ」への合意がなされ、「Prioritised Key Deliverables(PKDs)」に着目してモニタリングを進めることになり、2013年と2015年を期限とする2つのリストが作成された。2015年3月にはAECの措置のうち、影響が大きいものや、実施が済んでいないものの2015年末までに実行可能と思われる54措置をASEAN経済大臣会合で指定し、改めて「高優先措置(HPMs)」と位置づけた。そして、2008年以降に完全実施された452の措置と、54の高優先措置を加えた506の措置がAECの進捗状況を監理していく際の分母として位置づけられることになった。今年10月31日時点では92.7%が実施済みとなったが、元の611まで膨らんでいた措置を分母に計算すると、79.5%と低くなる。さらに、どの措置が完了したとされているかは公表されておらず、少し着手しただけで実施したと判断している場合もある。
 このように、必ずしも実感を伴わない数字ではあるが、ASEANとして総括した92.7%という数字だけを見れば、かなり達成されたことになる。2015年までのブループリントでは、単一市場、生産拠点、競争的な経済圏、平等な経済発展と世界経済への統合という4つの大きな柱の下、様々な措置が講じられており、このうち貿易自由化や周辺国との自由貿易協定の締結などに関しては大きな進展があった一方で、特に各国内の法制度の改正を要する措置についてはまだ実現できていない部分が残っている。
 ASEAN経済は、経済統合を進めたから成長したのかという偏微分的な話、因果関係の特定は難しいが、2007~14年を見ると、非常にパフォーマンスを残している。国内総生産(GDP)は2007年の1兆3300億ドルからほぼ倍増し、1人当たりGDPも76%伸びた。ASEAN全体ではアジアで3番目、世界でも7番目に大きな経済圏となった。また貿易は大きく伸びており、その24%が域内貿易となっている。同時に、域内からの外国直接投資(FDI)は、欧州連合(EU)からに次いで2番目に大きくなった。世界全体で見ても、2007年時点には5%だったASEANへのFDI流入額が2014年には11%となり、経済のパフォーマンスが好調であるのは事実である。

2. AEC2025の概要
 2025以降については、2011年にユドヨノ大統領が公式の場で、「ポスト2015年ビジョン」策定に言及し、具体的な動きが始まった。2013年10月のブルネイでのサミットでは、「ASEAN共同体ポスト2015ビジョンに関するバンダルスリブガワン宣言」が採択された。ここで、2014年末のサミットで「中核要素」を決め、2015年末のサミットで最終合意するという、ポスト2015ビジョン策定のタイムラインが設定された。この「中核要素」を参照し、分野別の行動計画が策定されることとなった。さらに2014年 5月の「ネピドー宣言」では、2025年のビジョンの骨格として、現行通り、経済共同体、政治安全保障共同体、社会文化共同体を三本柱とすることが確認され、2014年11月には、単一市場や生産拠点などに関する「中核要素」への合意がなされた。そして、先日のサミットで合意された「クアラルンプール宣言」において、「ASEAN2025: Forging Ahead Together」というタイトルの2025年版ASEAN共同体ブループリントが採択された。サミットでは同時に、今年12月31日付けでASEAN共同体を公式に設立するという合意もなされている。
 2015年までのブループリントと今回のものは、基本的に同じ構成だ。冒頭にサミットの宣言が付き、政治安全保障共同体、経済共同体、社会文化共同体の各ブループリントに、ASEAN域内の先進国からCLMV諸国に対する協力に関するASEAN統合イニシアチブ(IAI)のワークプランが付く。他方で、経済共同体のブループリントを見ると、構成がかなり変化した。特に大きな変化は「連結性と分野別協力の強化」という新たな柱が立てられ、2015年版にあった4つの柱が、5つになったことだ。しかし、新たな柱は全く新しい訳ではなく、2015年版に組み込まれていた「優先統合分野」に含まれる内容で、ヘルスケアや観光業、交通、エネルギー、情報通信などの分野が含まれる。当初のAECブループリントが作られた際には、各大臣会合を全体で統合し、シナジーを出していきたいという発想が前面に出ていたが、今回のAECブループリントでは、実務を担当する各省庁、各大臣会合の流れを活かして分野別協力を強化しつつ、AECブループリント自体を上位構想と位置づけて全体を取りまとめるアプローチに切り替えたようだ。
 実施メカニズムに関しては、特にASEAN事務局の機能強化が1つ大きな柱として取り上げられている。同時に、AMRO(ASEAN+3マクロ経済調査事務局)、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)、世界銀行など他の機関も、実施メカニズムに組み込まれる形になってきている。また、前回のブループリントでは具体的に、何年までに何を行うという一覧表(strategic schedule)が付いていたが、今回はそれが付いていないことが前回との最大の違いだ。同時に、本文中においても、具体的に何をいつまでに行うという表現はほとんど見られない。
 具体的には、物品貿易については自由化措置が大きく進展しており、AEC2025でも引き続き、同様の方向で取り組んでいくとした。予定どおりに進めば、2018年にCLMVでも関税が撤廃され、ASEAN域内の貿易自由化は完成する。原産地規則の簡便化・強化では、当面の動きとして、品目別規則(PSRs)の導入に関し、どの分野から行うかという検討を始める。そして、今後の中心になるのは貿易円滑化の措置であり、官民対話のための共同諮問委員会の設立、全加盟国でのナショナル・シングル・ウィンドウの実施などが当面の目標となる。
 一方、非関税措置に関しては、その定義から始める必要がある。各国の国内制度であっても貿易を阻害する可能性のあるものについては何らか基準の導入を検討したり、サンセット条項や「よき規制慣行(GRP)」を制度自体に組み込んだりする。また、基準認証でも制度の調和化を進める。サービス貿易では、ASEANサービス貿易協定の交渉加速が次の課題として挙げられている。これまでAFAS(サービスに関する枠組み協定)のもとで10ラウンドの交渉が行われ、約束表が作られてきているが、約束の実施を担保、強化する必要がある。投資環境については、包括的投資協定(ACIA)の実施を通じ、ASEAN全体として改善していこうとしている。中身は投資保護の大幅な強化、透明性の確保など外国の投資家としては気になる部分だが、具体的措置が規定されている訳ではない。
 金融については、金融統合、金融包摂、金融安定という形で入っている。これまでは、2007年のAECブループリントに基づき、2011年にASEAN中央銀行総裁会議でASEAN金融統合枠組み(AFIF)が採択され、それを財務大臣会合が承認する形になっている。そこで目的とされたのが、2020年までに、完全ではなく半分程度の統合を目指すというものだ。加盟国ごとに初期条件が大きく異なるため、共通の目標を掲げつつ、各国がそれぞれ行程表などを定めるとしている。2013年に報告書が出され、これが1つの今後のレファレンスという形になり、2014年12月には銀行分野に関して、ASEAN銀行統合枠組み(ABIF)が承認された。保険に関してもASEAN保険統合枠組み(AIIF)を作る予定だが、まだ交渉中という扱いだ。
 2015年のブループリントで遅れが見られがちな措置として、国内の法制度改革を要するものがあり、これらに関してはベストプラクティスの共有や、域外、域内先進国からの法制度整備への支援が必要だろう。また、非関税障壁については官民協力を促進し、対応策を検討する体制が整えられているものの、具体的な成果はあがっていない。熟練労働者の移動では、エンジニアや医者、看護師のような資格職を相互承認するという制度は整ったが、実際にこれに基づいて移動した熟練労働者はいないと言われる。このため、今後はニーズのある分野への展開が求められている。さらに、国内の特定部門の反対が強いものとして、交通円滑化や航空自由化がある。そして、ASEANハイウェー、SKRLなど多額の資金を必要とする措置の実施も遅れがちである。民間資金を活用するPPPが1つのキーワード、バズワードとして用いられているが、そのために必要なノウハウ、法制度を持たない国が多く、なかなかそれを活用した事例が出てこない。他方で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金のような新興ドナーについても、ASEAN側は使えるものは使おうという形で動いている。このほか遅れがちなのは省庁横断的措置であり、その改善のためには全体を見る調整評議会の役割が重要となる。

3. まとめ:実行可能性を重視、現実路線に
 2025年に向けたブループリントには、前回のハイライトであった「戦略的計画」が添付されなかった。本文中でも、実施期限や具体的な取り組み内容はあまり明記されず、詳細は別途、分野別行動計画などで定められるとしている。その背景には、1つはAECスコアカード、モニタリングに関する苦い経験がある。経済統合を促進したい加盟国やASEAN事務局は、実施を促進するにはピアプレッシャーが必要としていたが、加盟国の反対でスコアカードは骨抜きになった。また、実際問題として情勢変化への柔軟な対応が必要であるため、詳細な行動計画を定めることが必ずしも望ましいわけではないだろう。今回のブループリントで官民対話が強調されている点も重要である。
 全体として、2015年版と比べ、コミットメントは表面的に後退しているが、現実路線を採用したという印象を受ける。1つは、実行可能性があるものを出すようにというISEASの提言、警鐘に応えた部分もあると思う。もう1つは、官民対話や実施メカニズムへの外部機関の明記、実施を円滑化するための制度設計、自動的に何年か経つと消えるサンセット条項を組み込むことなどを通じて、実現可能性を高める工夫が講じられており、その意味でも、より現実的な路線を採用していると感じる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部