第146回 中央ユーラシア調査会 報告 「イスラム金融の概要と最近の世界的潮流」早稲田大学ファイナンス研究センター 招聘研究員 吉田 悦章(よしだ えつあき)【2015/10/15】

日時:2015年10月15日

第146回 中央ユーラシア調査会
報告 「イスラム金融の概要と最近の世界的潮流」


早稲田大学ファイナンス研究センター 招聘研究員
吉田 悦章(よしだ えつあき)

1.金利は用いず、公平と教義を重視
 まずイスラム金融とは何か。イスラム金融は、イスラムの教義であるシャリアに則った金融である。歴史的には、1975年に設立されたドバイ・イスラム銀行が世界初のイスラム銀行である。具体的な金融商品としては、イスラム金融の方式で、自動車ローンや生命保険、債券など多様なものが提供されている。イスラム金融サービスを提供する金融機関には、シャリア学者、すなわちシャリアに関する知識人によって構成される「シャリア・ボード」と呼ばれる組織があり、その組織がイスラムの教義に照らして大丈夫と認めたものだけがイスラム金融商品として提供される。イスラムには聖職者のような制度がなく、シャリア学者が宗教的な権威である。宗教の知識を求めることはイスラム教徒の義務でもあることから、これらの人たちは尊敬される。
 現在、イスラム金融の世界的な市場規模は1.7~2.0兆ドル程度である。世界全体の金融資産に占める比率は0.5%未満と小さいが、年20%程度の高率で成長を続けており、注目されている。イスラム金融には、イスラム金融だけを提供する専業銀行と、イスラムではないコンベンショナルな金融を主に提供する銀行がサービスの1つとしてイスラム金融も提供する兼業銀行とがある。イスラム金融の大きな特徴としては、金利を用いないこと、そして教義に反する事業には資金供与をしないことが挙げられる。これらをチェックするのがシャリア・ボードで、教義に反するものとは、例えば、豚肉、アルコール、武器、賭博、ポルノなどである。
 イスラム金融で禁じられる金利は、アラビア語でリバーと呼ばれ、元々「増殖」を意味する。リバーが禁じられる背景には、公平を重んじるイスラムの教義がある。例えば100円の賃貸借契約において、お金を貸した側は何もしなくとも100円が110円となって帰って来る契約になっている一方、お金を借りた側は汗水垂らしてリスクを背負いながら、借りた100円を元手に事業を行い、返済すべき金利分の10円を稼がなければならず、リスクの負担が公平でないと解釈される。過去には高利や固定金利のみが禁じられるという考え方もあったが、現在の一般的なプラクティスでは、金利と考えられるものがすべて禁じられる。また、投機的な行為やギャンブルは禁じられるほか、契約等において不確実、不明瞭なものも極力回避される。
 金利を用いずに、銀行はどのように儲けるのか。イスラム金融では、商品取引等を絡めることで、実質的には金利と同様の効果を有する部分を含む金融取引を実現している。例えば、一般的に用いられるムラバハというスキームでは、割賦販売のようなイメージでローン取引と同等の効果を得ていると考えることができる。自動車ローンを例に説明すると、まず買い手が自動車を買うことを決め、銀行に相談し、銀行はその詳細情報を持ちつつ、100円を支払って売り手から自動車を購入する。銀行はその自動車を買い手に110円で転売し、買い手は銀行に対して、事後的に一括あるいは分割で自動車購入代金の110円を支払う。銀行にとっては、この差額の10円が金利相当になる。
 聖典コーランには、「アッラーは商売をお許しになった、だが利息取りは禁じ給うた」とあり、商売は許されている。商売によって物が実際に移動し、そのために金融が発生するのは問題ないという考え方である。つまり、イスラム金融の本質は事業の活性化にあり、事業本位の金融であると捉えることができるだろう。建設ファイナンスや、製造業の前払いファイナンスのように、現時点で存在しないものを対象とするファイナンスの形もあり、そのときにはイスティスナというスキームが頻繁に用いられる。イスティスナでもムラバハでも、製造物の所有権が移転し、それが付加価値となっていることが重要なポイントである。また、イジャラと呼ばれる、使用料という形で金利に相当するものを銀行に支払うリースのようなスキームもある。また、様々な事業に出資する投資型のものもある。ムシャラカと呼ばれる共同出資のスキームでは、パートナーがお金を出す際、銀行も一緒に出資する。そこから上がってきた利益は、何らかの配分比率によって分配されるもので、いずれも出資金に対する配当、利得のようなものが金利に相当する。
 これらを応用した例として、イスラムの債券取引であるスクークがある。イジャラというリースの概念を用いた方式を見ると、形式的な特別目的会社であるSPCを作り、このSPCとリース契約を結ぶ。例えば、企業がスクークを発行する場合、それをSPCに売るのだが、自社ビルを使い続けるので、同時にリース契約を結ぶ。すると、ここにリース料というキャッシュの流れが生まれる。このキャッシュフローは投資家(スクーク保有者)に支払われるが、SPCが投資家(スクーク保有者)に支払うは単なる金利ではなく、そのリース事業の利益であるため問題ない。イスラム金融では、このようにして、様々な商取引や投資を絡ませ、金利ではない取引を実現している。

2.非イスラム国の関与も増加
 世界のイスラム金融を見ると、非イスラムの国々もイスラム金融に関与しているのが最近の1つの特徴と言える。世界を地域別に俯瞰すると、ムスリム人口は中東のほか、南アジアでも比較的多い。また、東南アジアでは金融先進国であるマレーシアにおいて、イスラム金融が早期に発展してきた。一方、中央アジアについては、ムスリムの比率は高いものの、イスラム金融はあまり見られないが、これから様々な取り組みが起きてくるのではないかと思われる。このほか、ロシアは最近、イスラム金融の世界で注目を浴びており、タタルスタンなどではイスラム金融の会議が頻繁に開かれてもいる。そして、非イスラム諸国によるイスラム国債(ソブリンスクーク)発行が相次いでみられたのは、最近の大きな特徴である。イギリスが2014年6月に発行した後、香港、南アフリカ、ルクセンブルクもそれに続いた。
 日本の状況を見ると、第二次オイルショック後の1980年代に、日系商社のロンドン拠点などが、中東の石油関連企業を相手にイスラム金融もどきの取引をやっていた。1990年代後半には、日本の証券会社が、株式投資ファンドを中東に売るサービスを提供し始めた。さらに2001年には、東京海上がサウジアラビアでタカフルと呼ばれるイスラム保険を開始した。東京海上は世界的にもタカフルのパイオニア企業であり、その後はサウジアラビア以外にもこれを拡大し、インドネシア、マレーシアに及んだ。シンガポールでも再保険の事業を行っている。最近ではエジプトでもイスラム保険を始めた。2005年頃になると、イスラム金融への関心が日本の一般の人々にも広がり、メディアを含め、イスラム金融という言葉が広く知られるようになった。マレーシアでイオンやトヨタの現地法人がスクークを発行したり、国際協力銀行や日本銀行がイスラム金融サービス委員会(IFSB)のメンバーになったりもした。
 金融庁も前向きに対応しており、2008年に銀行法施行規則の改正により銀行の子会社にイスラム金融が解禁されたほか、本年には銀行の監督指針の改正により銀行本体にもイスラム金融の一般的なスキームが認められるようになった。また、野村證券がマレーシアでスクークを発行したことなどもあり、日本の法律の枠組みでもスクークに関する整備が進められ、税制改正なども含め、必要な枠組みが整えられた。ただし、今のところその実績はない。
 イスラム金融の解禁の詳細を確認しよう。銀行の業務は銀行法によって定められており、従来の考え方では、例えば車の売買などは、金融業務ではないため、銀行の業として認められず、そのため法律で禁じられると解されていた。しかし、監督指針の改正により、イスラム金融の仕組みであれば、これをやっても良いということになった。Jスクークは、特定目的信託という既存の枠組みを使い、例えば、企業が資産を信託し、それに対して信託したものから得られるものの権利を受領する。ここでリース契約を結び、リース料を支払う訳だが、この権利を社債的受益権として債券のような形でイスラムの投資家に渡す。リース料は、クーポンのような形で分配される。従来の税制では、この部分で利子所得税がかかったが、これをかからないようにしたというのが税制改正の1つのポイントである。

3.今後も続くと見られるグローバルな拡張
 Jスクークの実現に向けて、私個人としては、東京都にスクークを発行してもらうのが良いと考えている。東京都は様々な資産を持っておりJスクークのスキームに馴染むほか、東京オリンピックでイスラム教徒の人たちが多数訪れることが見込まれる中、東京がイスラム教徒にフレンドリーであることをアピールする上で、スクークは有効なツールとなり得る。
 他方で、世界のイスラム金融の現状を見ると、後ろ向きな事例もある。香港上海銀行(HSBC)がサウジアラビアとマレーシア以外のリテール業務から撤退したほか、最近はシンガポールのアジア・イスラム銀行も、親会社に吸収されてしまった。子会社を設けるなどして成功している事例も多いが、イスラム金融というだけで儲かるということでもない。第2に、市場規模の縮小がある。2015年の年初来9月までの世界におけるイスラム債発行は、前年同期比で40%も減っている。理由としては、マレーシアの中央銀行があまり発行しなくなったという技術的な要因もあるが、油価の下落も大きく響いているとみるべきだろう。
 一方、イスラム金融のグローバルな拡張自体は、今後も継続すると見られる。世界には多数のイスラム教徒がおり、中央アジアやロシア、アフリカなどでは今後もどんどんイスラム金融に関する取り組み出てくるだろう。非イスラム圏諸国も、同様である。イスラム金融では既に多様な商品が出てきているが、通常の金融と同様、商品開発の努力は今後も続くだろう。それに加え、イスラムの伝統的な金融取引である、ワクフ(寄進)やザカート(喜捨)なども注目を集めている。ザカートとは、宗教的な税のようなもので、富める人が資産の一部を支払う。そうして得た基金は、例えば、貧者の救済のような使途に用いられる。ビジネスとしてのイスラム金融のみならず、宗教理念を重視した側面は、今後ますます意識されると考えられ、貧困者向けの小口金融であるマイクロファイナンスや、既に発行されているワクチン債などを、イスラム金融の方式で提供するというのも1つの着眼点だろう。加えて、食品、観光、医療のようなハラル産業への注目も高まっており、実体取引との関係でイスラム金融が再注目される部分もあるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部