第148回 中央ユーラシア調査会 報告 「最近のアゼルバイジャン・ジョージア情勢」慶應義塾大学 総合政策学部 准教授 廣瀬 陽子(ひろせ ようこ)【2015/12/10】

日時:2015年12月10日

第148回 中央ユーラシア調査会
報告 「最近のアゼルバイジャン・ジョージア情勢」


慶應義塾大学 総合政策学部 准教授
廣瀬 陽子(ひろせ ようこ)

1. アゼルバイジャン:継続する堅固な権威主義体制
 11月末に1週間程度、アゼルバイジャンとジョージアへ行った。アゼルバイジャンは2000年代半ばから顕著な発展を遂げてきた、ここ2年ほどは石油価格下落の影響も大きく受けている。他方で、イルハム・アリエフ大統領の堅固な権威主義体制が続き、既に終身大統領制も確保していることから、彼の安泰は当分、揺るがないだろう。しかし、ポスト・アリエフにつながる人は想定されておらず、次のシナリオは描かれていない。また、最近は汚職を理由とする大臣の解任が増え、国民に対してクリーンな政治のイメージを植え付けているという印象だ。
 バクーのショウウィンドウ化は、順調に続いている。ドバイの建築家に依頼して造られた「フレームタワー」のほか、最近は「ヘイダル・アリエフ文化センター」(ザハ・ハディド氏デザイン)の建設が話題を呼んでいる。また、100万人が住める人工島を作る計画も進められているほか、大きな行事の開催にも熱心だ。今年はヨーロッパ版オリンピックともいうべき「ユーロゲーム」が行われ、立派なスタジアムが造られたほか、来年はF1の「ヨーロッパ・グランプリ」も開催される。町の開発は大変な規模で行われており、古い店舗や小さなビルは、どんどん潰されている。しかし、派手な都市建設が進む一方で、地方は劣悪なまま放置されている。昨年ごろからの石油価格暴落によって打撃を受け、多くのプロジェクトが中止、中断されているが、大部分は地方絡みで、バクーや国際関係のものはほとんど影響を受けていない。石油価格が暴落する中で、政府は経済の多角化を進めようとしている。風力や太陽光のような再生可能エネルギーは、第2のエネルギーとして注目されている。他方で、ナブッコ計画が頓挫したために浮上した、TANAPという新しいパイプラインのプロジェクトへの期待も高まっている。
 アルメニアとの難問であるナゴルノ・カラバフ紛争の問題では、依然として停滞状態が続く。今年はアルメニア人大虐殺から100周年で、アルメニアのナショナリズムが高まっていることもあり、いわゆる「ナゴルノ・カラバフ」の境界周辺では小競り合いが増え、かなりの死傷者が出ている。また最近、興味深いのは、アゼルバイジャン・ディアスポラによる海外での活動が非常に活発化していることだ。
 国内の政治状況は、ますます深刻になっている。特に、非民主的な動向がより顕著になり、反体制的なジャーナリストや活動家らへの攻撃や不当逮捕が続いている。人権状況は依然として劣悪で、女性の権利も依然として低い。また、社会面でも政治面でも地縁血縁が非常に強い状況が続いている。
 一方、アゼルバイジャンでは、イスラム国(ISIS) の影響はあまり大きくないが、若干の影響は出ている。報道によれば、シリア渡航を目指す人々が、何度か水際で逮捕されている。また最近、ナルダランというバクーに近い都市で大きな暴動があったが、その背後にはISIS の影響があるといわれる。事件の詳細はわかっていないが、政府はISISの影響を恐れている。
 対外的には、継続して「バランス外交」を目指している。また、隣国のジョージアとは異なり、アゼルバイジャンではまだ中国の影響はあまり大きくない。中国はアゼルバイジャンへの進出に強い関心を持っているが、アゼルバイジャン自身は、「中国とあまり深い関係を持つつもりはない」と暗に言っているようだ。アゼルバイジャンの昨年までの国民総生産(GNP)の推移は順調で、顕著な経済発展が続いている。しかし、今年は石油価格下落の影響があるため、現地では「どうなるかわからない」という声が聞かれた。

2. ジョージア:改善に向かわないアブハジア、南オセチア問題
 ジョージアでは、ロシアで財を成した富豪のビジナ・イヴァニシュヴィリが率いる野党連合「ジョージアン・ドリーム(GD)」が、2012年の議会選挙で大勝した。そのときは、まだサアカシュヴィリが大統領で、イヴァニシュヴィリ首相とサアカシュヴィリ大統領がツートップトなる形で議会と大統領の「ねじれ状態」が1 年ほど続いた。2012年の選挙後は、サアカシュヴィリの勢いがほぼなくなり、1年間は大統領で居続けたものの、ほぼすべてをイヴァニシュヴィリに握られているという状況だった。そして、最初から言っていたことだが、イヴァニシュヴィリは1年ほどで首相を辞め、現在はガリバシヴィリが首相になっている(2015年12月末に辞任。後任はクヴィリカシヴィリ)。しかし、ガリバシュヴィリについては、イヴァニシュヴィリの手下として動いているだけだという評価がなされる。
 新政権はサアカシュヴィリ派の訴追を進め、サアカシュヴィリ元大統領をはじめ、大臣や側近の多くが訴追された。かなりの人数が逮捕されたり、亡命したり、失脚した。ジョージアの怖いところは、トップが替わった影響が官僚にも及ぶことだ。サアカシュヴィリ派は激しく批判されており、その最たる批判の矛先は、サアカシュヴィリ元大統領が様々な汚職をしていたということだ。このような中、サアカシュヴィリ元大統領は今年6月、ウクライナのポロシェンコ大統領から任命され、ウクライナのオデッサ知事に就任した。それに対し、ジョージア政府はサアカシュヴィリのジョージア国籍を剥奪した。
 サアカシュヴィリは2003年のバラ革命で大統領の座に就き、汚職廃絶で大きな功績を残した。ジョージアはソ連時代、ソ連の中でも最も汚職のひどい国として知られていた。しかし、汚職のないクリーンな国に生まれ変わり、現在、その官僚システムや行政システムは、欧米より無駄がなく素晴らしいと評価されている。オデッサはウクライナの要となる都市の1つだが、汚職がはびこっており、サアカシュヴィリが知事に任命された背景には、この功績があると思う。オデッサはまた、ロシアの影響力が強い都市でもあり、汚職にまみれているとロシアに付け入られる可能性も高い。このため、内側からしっかりさせようということがあったと思う。さらに、オデッサは未承認国家である沿ドニエストルと近く、その反乱分子による混乱の波及を封じ込めるためにも、オデッサを固めておくことは重要だ。そして、サアカシュヴィリをオデッサに置くことは、ポロシェンコによる対ロシアの強い意志の表明にもなると考えられる。
 他方で、ジョージアの新政権では昨年11 月、閣僚が相次いで辞任した。アラサニア国防相が解任されると、続いてパンジキゼ外相とペトリアシュヴィリ国務大臣が自ら辞任した。さらに、ジョージアン・ドリームから自由民主主義者党が離脱している。この大量辞任は、地縁血縁の問題と密接にかかわる。アラサニアに続いて辞めたパンジキゼは、アラサニアの義理の姉だ。そして、遠縁に当たるペトリアシュヴィリも辞任し、それが波及して、辞任者が続出し、政治が混乱した。混乱は、現在も続いている。
 このような混乱もあるが、総じてみると、イヴァニシュヴィリ新政権は前政権と同じく、親欧米路線を強化しつつ、ロシアとの関係回復にも努力している。しかし、アブハジア、南オセチアの問題は改善に向かっておらず、むしろ悪化している。アブハジア、南オセチアは元々、ジョージア内の未承認国家だったが、2008年のジョージア・ロシア戦争後にロシアが国家承認し、その後はロシア化が進んでいる。特に2014年から今年にかけて、いくつかの動きがあり、ジョージア政権は警戒している。昨年11月25日には、ロシアはアブハジアと外交政策、軍事、経済の統合を進める「同盟と戦略的パートナーシップに関する条約」を締結した。ジョージアとの境界領域に、ロシアとアブハジアの連合軍を配備し、集団自衛権を高める一方で、治安や経済面のシステムを統合させ、公務員の給与や年金などもロシアに統合していくとしている。これについては、事実上の併合プロセスということで、ジョージアも欧米諸国も警戒している。さらにロシア側は今年に入り、「アブハジアとの境界線をなくしていく」という発言をしたが、アブハジアは抵抗している。
 一方、クリミア編入から1周年の今年3月18日、ロシアは南オセチアとの「同盟と統合に関する条約」に署名した。この条約は25年間有効とされ、ジョージア政府は南オセチアが完全にロシアへ統合されてしまうのではないかと危機感を持っている。しかし、アブハジアがロシアとの併合に危機感を持っているのに対し、南オセチアは元々、北オセチアという同胞がロシア国内にいることから、ロシアへの編入を目指していた。このため、南オセチアはロシアとの統合に積極的で、アブハジアと南オセチアも一枚岩ではない。
 ジョージアはまた、ロシアの経済悪化の影響を強く受けており、特にルーブル暴落の影響は大きい。ジョージアは失業率が深刻な国で、ジョージアからはロシアの、特にシベリアの石油採掘現場のような劣悪な労働環境のところへ、かなりの出稼ぎ労働者が行っている。出稼ぎでは自分の国の家族に送金することが重要となるが、ルーブルの暴落によって通貨価値が従来の半分になってしまった。このため、かなりの出稼ぎ労働者が帰国を余儀なくされており、それら失業者たちをISISがリクルートしているともいわれる。

3. 日本の援助では現地政府との話し合いを
 アゼルバイジャンとジョージアは、最近のロシア、トルコ関係の悪化による影響も間違いなく大きく受けている。しかし、アゼルバイジャンは表面的に、影響はないようなふりをしている。ウクライナ問題の余波については、ジョージアで大きいが、アゼルバイジャンにはあまりないものの、ISISからは両国ともに非常に大きな影響を受けている。石油価格の低迷は特に、アゼルバイジャンへの打撃となっているが、これを機に経済の多角化や地方に配慮した経済計画が進むと良いと思う。また、両国とも未承認国家を抱えており、その展望は決して明るくない。インフラの状況については両国とも悪く、特にアゼルバイジャンの地方で極めて悪い。
 このような中、日本の援助は高い評価を受けている。2011 年と2012 年には、日本はアゼルバイジャンへの最大の援助供与国となった。日本が「東日本大地震」や福島での原発事故からの復興に苦しんでいた時期にも援助が続けられたことへの評価は特に高かった。日本の支援では、経済インフラの整備や社会サービスの改善に力を入れ、特に地域格差や所得格差の改善に寄与している。また、日本の援助が最も優れ、効力を発揮しているのは草の根無償(草の根・人間の安全保障無償資金協力)だといわれる。ただ、援助を主導するJICA事務所はコーカサスでなく、ウズベキスタンの事務所の管轄であることから、意思疎通が難しい。また、現地の意識やスキルの低さも、援助のネックになっている。
 日本の技術支援では、地方の人も積極的に起業できるシステムを整えるような支援も、今後は検討していくべきだろう。また、アゼルバイジャンへの医療支援では、日本が提供した医療機材のメンテナンスが行われず、使用されていないという状況も見られた。現地政府の協力が得られない場合、援助は非効率になるという問題もあり、現地政府との話し合いを行った上での援助が求められていると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部