平成27年度 第3回 国際情勢研究会 報告「『海洋強国』中国をめぐる国際関係:南シナ海紛争を中心に」 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 佐藤 考一 (さとう こういち) 【2015/07/07】

日時:2015年7月7日

平成27年度 第3回 国際情勢研究会
報告「『海洋強国』中国をめぐる国際関係:南シナ海紛争を中心に」


桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
佐藤 考一 (さとう こういち)

1. 「海洋強国」を目指す中国
 中国が目指す「海洋強国」については、いつごろ誰が言い出したのかはわからない。ただ、南シナ海問題などに関して論文を書いている上海交通大学の季国興は2008年の著書で、シーパワー論の父、アルフレッド・セイヤー・マハンを引用し、尖閣諸島を日本に、スプラトリー諸島の40余りの島礁を周辺諸国に奪われたとして、「我が国の海洋安全の厳しい形勢は、我々に海洋安全戦略と、付随する実施政策を統一的に研究し、以て海洋強国建設を行い、我が国を世界海洋強国の列に引き上げることを要求している」と述べている。また、『中国海洋発展報告』という国家海洋局の年鑑には、2009年から「海洋強国」という言葉が出ている。さらに、大きく話題になったのは、胡錦濤国家主席が引退する、2012年11月の第18回中国共産党大会の報告で、短くだが、これに言及したことだ。「海洋強国」の定義について、劉賜貴前国家海洋局局長は「海洋開発・海洋利用・海洋保護・海洋管理統制等の面で総合的な実力を有する国を指す」としている。
 2013年7月には、中国共産党政治局の海洋強国建設研究進行のための第8回集団学習会で、習近平国家主席がこれを取り上げている。その発言を受け、海軍の中では、「中国の海軍力は日本を大幅に超えるべき」という発言が出ることになった。そして今年の国防白書では、最大の眼目は日米同盟への警戒と、島礁等をめぐる海上での国家権益維持とされた。従来は陸上部隊重視だった人民解放軍内でも、海軍の立場を強化するとしている。

2. 南シナ海での中国の進出
 2014年5月から7月には、パラセル諸島沖にオイル・リグ「海洋石油981」が出たが、アメリカのケリー国務長官やヘーゲル国防長官のコメント、オバマ大統領と習近平・中国国家主席の電話会談などがあり、撤収する形で終わった。このとき、ベトナムは相当、米国政府に働きかけたと言われる。そして昨年9月ごろから埋め立てが問題になったが、これについては実は、かなり以前からやっていた。2009年4月にフィリピンの空軍機がミスチーフ礁、ガベン礁、ジョンソン(南)礁で、中国海軍が島礁拡張作業を行っていることを確認している。
 埋め立てを行っているスプラトリー諸島の島礁で、中国が占拠していると称しているのは8つある。大きいのはフィアリークロス礁(永暑礁)、ジョンソン南礁(赤瓜礁)、スビ礁(渚碧礁)で、おそらく滑走路を造ると言われている。埋め立てで中国が狙ったのは、仲裁裁判の判決より前に「主権」を強化し、「航行の自由」を形骸化し、A2/ADの能力拡充を図ることだ。そして、現在実施している5月半ば、あるいは6月から7月いっぱいまでの北緯12度以北での禁漁を、南シナ海全域に拡大するのではないかと考えられる。それから、海南省の出漁許可証を持っていなければ漁業ができないようにし、海警船艇による臨検・取締りをするだろう。そして九段線の内側での石油・ガス等の探査をすべて中国の許可制とし、中国海洋石油総公司等の中国企業との合弁企業以外を締め出すのではないか。さらに、実弾演習などで一定海域に入れなくなる。また、埋め立てた島礁で滑走路を造ると言っているが、それ以外に漁業支援施設などの名目で、様々なものを造るだろう。
 兵站基地化して周辺の島礁の埋め立て、軍事施設化が促進されるのではないか。それから防空識別圏(ADIZ)を設定し、長距離爆撃機(H-6K)や哨戒機・戦闘機を使う、あるいは海軍・海警の船のパトロールを強化し、南シナ海を事実上の内海化していく。また、中国が設定するEEZ内での外国軍艦・航空機による偵察・軍事演習禁止をやりかねない。

3. ASEAN諸国の対応
 中国の埋め立てに対する東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の対応だが、ベトナムは、キロ級の潜水艦を6隻注文し、3隻は既に着いている。そして、沿岸警備隊を作り、漁業監視局も活動している。党対党の関係で中国とも交渉を行い、ASEAN側との軍事交流を進め、会議外交に参加している。アメリカは、対越武器輸出の禁輸を一部解除するなどしている。さらに冷戦後、ベトナムが決めた、外国と軍事同盟を結ばない、外国軍に基地を使わせない、他国との軍事紛争に関して第三国の援助を求めないという「3つのノー」政策があるが、これをそろそろ下ろさなければならないという議論が始まっている。
 フィリピンでは、パガサ島、アユンギン礁などに兵員が駐留している。中国とフィリピンの交渉は、あまり進んでいないようだが、ASEANの会議外交を使い、米比相互防衛条約の見直しが始まっている。訪問米軍協定についても、これから改定が進むと思われる。アメリカは、海上保安能力向上のために援助するとしている。マレーシアでは、海軍がスコルペン級潜水艦を購入し、準備しているほか、スワロー礁等に50名前後の守備隊がいる。ジェームズ礁に中国が3回来たということがあり、2013年に海兵隊設立も決定した。
 このほかインドネシアはナツナ諸島に、兵員の増員を計画し、海上保安調整機構を海上保安機構に変えて、強化しようとしている。最も業を煮やしているのは、5400隻程度の外国漁船が毎年来て、不法操業で2兆9000億円ぐらいの被害が出ていることで、昨年12月以降、船の拿捕や(船員を退去させた後での)爆破を始めている。シンガポールは米海軍の駐留を認可しているが、中国との関係も維持している。タイやカンボジア、ラオスについては、中国寄りだ。
 米中関係では、航空写真で中国の埋め立てが進んでいることがわかり、ラッセル国務次官補がこれを非難した。そして、アメリカの下院は、南シナ海と東シナ海の海洋管轄紛争が国際法の基礎の下で平和的に解決される必要を強調する決議を可決した。さらに、中国の「九段線」は「国際法に合致しない」などと言うようになり、また、カーター国防長官が「中国の埋め立てはASEANとの約束に反する」と批判して、中国側と議論になる。国防総省は年次報告書で、スプラトリー諸島の埋め立て問題を取り上げている。5月にはついに、シンガポールに配備されている米沿岸戦闘艦が1週間にわたって偵察し、「海上での不慮の遭遇の際の衝突を回避するための行動規範(CUES)」を幾度もとる状況に至った。そして、2015年5月にケリー国務長官が訪中し、王毅外相とやり合う。さらに、習近平国家主席と会も面談した。このため、中国側はそろそろ引かないとまずいということがわかり、外務省報道官が、「埋め立て工事は近く完成」と6月16日に述べた。米中戦略安全・戦略経済対話でも、ケリー国務長官と楊潔篪国務委員がやり合ったが、この時は南シナ海問題については、あまり長く話をしなかったようだ。
 中国が特に南シナ海にこだわるのは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、潜水艦の隠し場所として、深海のある南シナ海の方が良いためだ。SLBMの射程を延ばして第2撃力を確保したいというのが中国の意向だが、これはなかなかできない。7500キロから8000キロの射程の長距離弾道ミサイル(JL-2)ができても、東シナ海なら、大隅海峡を抜けて日本の先の太平洋へ出なければ、ロサンゼルスまで届かない。ハワイへ行けばニューヨークやワシントンまで届くだろうが、太平洋の二分割というアイディアをアメリカに認めさせることは難しい。ただ、中国は潜水艦を一生懸命、造っており、弾頭の小型化を進めようとしていることがわかる。さらに中国の海軍の動向で見落としてはならないのは、2007年に第三列島線を設定していることだ。

4. 尖閣諸島問題への対応
 尖閣諸島問題では、我々は挑発せず、力負けしないようにしなければならない。日米同盟を強化すると同時に、自助努力で島を防衛することも考える必要がある。第一線は、海上保安庁になるだろう。そして、東南アジア方面での情報収集能力を強化する必要がある。現在は防衛駐在官の数が足りない、あるいは陸上自衛官がいるところには海上自衛官がいないという状況になっており、これを何とかしなければならない。
 「三戦」(心理戦・世論戦・法律戦)対策と、環境協力が必要になるだろう。漁業資源を増やす、海をきれいにするといったことを、中国に呼びかけても良い。挑発されたら力負けしてはいけないが、元々、喧嘩する気はないと言って良いと思う。また、海上連絡メカニズムを構築し、海上事故防止協定や、不慮の遭遇での行動規範を結ぶべきだ。そして、南シナ海で起きることに注意しなければならない。さらに、もしかすると、中国は新しい地域秩序を考えているのかもしれず、こういうことも今後の政策オプションに入れておく必要がある。もしも、アメリカが「いいよ」と言ってしまえば、大変なことになるので、我々は米中関係の変化についても考慮しなければならない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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