平成27年度 第4回 国際情勢研究会 報告「朝鮮半島情勢と日韓・日朝関係」 関西学院大学 国際学部 教授 平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ) 【2015/10/19】

日時:2015年10月19日

平成27年度 第4回 国際情勢研究会
報告「朝鮮半島情勢と日韓・日朝関係」


関西学院大学 国際学部 教授
平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)

1. 日韓関係の悪化と改善の兆し
 北東アジア情勢が大きく動く中、日本は朝鮮半島との関係を再構築するプロセスにあると思う。今後の日本の立ち位置も含め、再構築後にできあがる東アジア情勢は非常に重要になるだろう。今年は日韓国交正常化50年に当たるが、日韓関係の悪化は、日本側の認識で言うと、2012年8月に韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島に上陸してからだ。その後、天皇陛下に対する失礼な発言があり、さらに「日本は国際社会の中で影響力がなくなり、韓国としてはあまり気にする必要がない」といった発言もなされた。これらがある種の3点セットとなり、日韓関係は非常に悪化した。他方で、韓国側に言わせれば、そのような発言をしなければならなかったのは、それまでの日本側の対応が良くなかったからだ。2011年には韓国の憲法裁判所で、慰安婦問題について「日本側と協議をしないのは憲法違反」という判決が出た。そこで、韓国側は当時の野田政権に協力を求めたが、冷淡な対応をされたとしている。このため仕方なく、竹島に上陸し、その後の展開になったのだという。
 私はこの韓国側の主張が正しいとも思わないが、韓国側にはそれなりの言い分もあると感じる。いずれにせよ、李明博政権の最後の段階で日韓関係は修復不可能になった。しかし、過去の例を見ると、韓国の政権末期には日韓関係が悪くなり、政権が変われば修復されるということが繰り返されてきた。このため、今回も多くの人たちが、韓国で朴槿恵(パク・クネ)政権ができれば、日韓関係が修復されると考えたが、結果的にそれは起きなかった。
 では、なぜ起きなかったのかというと、1つはやはり中国の存在が非常に大きい。従来、韓国の政権交代と共に日韓関係が改善されてきたのは、日本が新政権にとって重要であったためだ。例えば、李明博政権のときは、経済を立て直すには日本との関係が非常に重要と考えられた。また、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権では、日本の小泉純一郎首相との間で「シャトル外交」を行い、年に1往復しようということになった。盧武鉉大統領は当時、北朝鮮との関係を変えたいと思っており、そのためには日本と北朝鮮の国交正常化が重要だと考えた。いずれにせよ、日本の重要性が大きいために、政権発足時には関係を修復するという構造だった。
 しかし、今回はそれが起きなかった。韓国では未だに「G2」という言葉がよく使われ、これは要するに、朝鮮半島に影響力を持つ国は米国と中国だということだ。また最近は、韓国の中国傾斜も指摘されるが、経済面でも中国の存在が非常に大きくなっている。9月3日の中国における、抗日戦争および反ファシズム戦争勝利70周年記念では、西側の代表としては珍しく、朴槿恵大統領が訪中して厚遇を受けた。
 他方で日本側でも、韓国との関係に関し、組み換えが始まっているという印象だ。1965年の日韓国交正常化以降の日韓関係の構造的なもの、いわゆる「65年体制」を前提としつつも、対等な関係に組み替えていこうとしているという印象がある。従来の関係は日本側からすれば、おそらく韓国に対し、ある程度、大目に見たり、特別扱いしてきた部分があった。それが徐々になくなってきているというのが、現在の全体的な特徴だ。その背景には経済面で、国際社会においても韓国側に非常に勢いが出てきたことがある。
 このような中で出された日本の「70年談話」に対しては、韓国側からヒステリックな反応が出るかと思われたが、実際には、やや抑制的で理性的な反応だったという印象だ。韓国側がこのように出ると、日本の中でも「韓国に対して、もう少し厚い内容にしても良かったのではないか」という声が出てくる。そして、日韓関係が良い方向へ動き始めたのかと思う。日韓関係では、ユネスコ問題をはじめ、地雷のようなものもたくさんあり、揺り戻しもあるが、全体としては「70年談話」を機に良い方向へ向かっているのではないか。なおかつ、そこから日中韓、日韓の首脳会議開催という運びになったのだろう。ただし、今後も難しい状況は続きそうで、楽観視はできない。

2. 日朝ストックホルム合意後の状況
 北朝鮮との関係では、日朝ストックホルム合意から1年以上が経過し、北朝鮮側から調査結果報告の延期が通告されている。ストックホルム合意に基づき、北朝鮮側が対応を求められているのは、以下の4つの点だ。第1に、戦前、北朝鮮に住んでいた日本人の遺骨の返還や、家族による墓参の問題がある。第2に、在日朝鮮人と結婚して北朝鮮へ連れていかれ、日本に帰ることができなくなっている日本人配偶者の問題だ。そして、第3に、日本にとって最も重要な拉致問題の再調査があり、第4に、政府認定ではないものの、北朝鮮にいると見られる特定失踪者に関する調査がある。
 日本側は、拉致問題を「最優先」としているが、なかなかうまく行っていない。ストックホルム合意では、一部の調査を優先するのではなく、4つについて「同時並行で」で進めるとされている。先日、北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化交渉担当大使が共同通信のインタビューに答え、もう報告書はできているが、ストックホルム合意にある「関連資料を日本側と共有し、適切な措置を取る」という部分がまだできていないとしていた。北朝鮮側からすれば、自分たちが出したものを一方的に拒否されてはいけないので、調査結果を発表する前に日朝でそれを「共有」し、結果について日本側も責任を取るということで合意したというのだろう。北朝鮮側には依然として、日本と交渉する意思はあると思う。ただ、北朝鮮が非常に弱っており、あと一歩、仕込めば白旗を揚げるという考え方は、おそらく妥当ではない。北朝鮮が日本との交渉を維持していることに関しては、米国を含めた対外関係の調整という観点から見るべきだと思う。
 2012年の金正恩体制発足から、既に3年以上が経過した。金正恩体制の安定度をどう評価するかだが、韓国の専門家らに聞くと、口を揃えて「安定している」と言う。他方で、金正恩自身がどの程度、権力を持っているかという点については、曖昧な状態で議論がなされている。私自身は、金正恩が完全に「お飾り」だとは思わないが、彼がすべてを決めているのかというと、30歳そこそこの人にそれができるとは思わない。金正恩政権の対外政策や国内政策を見ると、「もっとうまくやれば良いのに」と感じる部分はあるが、大きな失敗はしていない。これはおそらく北朝鮮で、テクノクラート、あるいは専門家らの意見が、しっかり機能しているということだろう。もちろん、それを取捨選択する権利は金正恩にあるのかもしれない。
 その一方で我々は、金正恩について、かつての韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領と同様の末路というのもイメージしておく必要があると思う。あの時はまさに、朴正煕大統領がやや気まぐれな人事を行い、人を処分したりした。側近が「次は自分がやられるかもしれない」と考えれば、合理的な判断ではなく、何らかの形で咄嗟に行動してしまう危険性がある。韓国側で報道されるような「恐怖政治」が北朝鮮にあるとすれば、我々はそうしたものについても気を付けておく必要があるだろう。
 金正恩政権の対外政策における最大の目標は、核保有国として国際社会に受け入れられることだ。最終目標が米国であることは、間違いない。また、今年は金正恩の外交デビューの年になるのではないかと言われる。北朝鮮はおそらく一昨年1月ごろから、対話路線に舵を切っている。しかし、韓国や米国がなかなか応じないため、間歇的に暴力的な行為を繰り返している状況だった。中朝関係については、今回、朝鮮労働党創建70周年に際し、中国から劉雲山政治局常務委員が派遣されたことによって修復されたと言われる。実はこれに合わせて北朝鮮は、「人工衛星」と称するミサイルを発射するのではないかと言われたが、発射しなかった。
 北朝鮮側がミサイルを発射しなかった理由としては、中国の影響もあったかもしれないが、最大の理由は南北関係だという見方がある。朴槿恵大統領の訪米前にミサイルを発射すれば、これまで積み重ねてきた南北関係が台無しになるという判断があったと見られる。さらに、米朝間でも水面下で様々な動きがあるという噂もなされる。いずれにしても北朝鮮側からすれば、総合的に判断し、今回はミサイル発射を見送ったということだろう。ただ、そうであるとすれば、北朝鮮側が今後、「これまでやってきたことは全部だめだった」、「米国は本気で動かない」と判断した場合には、再びミサイルを発射するかもしれない。

3. 日本は南北双方を視野に入れ、関係再構築を
 最後に、今後の焦点となるのは6者協議の再開だ。今年は北朝鮮が6者協議で共同声明に署名し、核放棄を約束してから10年になる。このため、これを6者協議再開の1つのきっかけにしなければいけないという考えがある。今後は金正恩が、いつ中国を訪問するのかが話題になりそうだが、北朝鮮の最終目標は米国で、やはり米国の対応が重要なカギとなるのではないか。ただし、米国には北朝鮮と安易な合意をしてもだめだという、ある種のトラウマがあり、米国は米朝協議に対して非常に慎重だろう。さらに米国には、金正恩体制は安定的でなく、いずれ崩壊するので、もう少し待っても良いといった分析もあると聞く。この辺を米国がどう判断するかが、今後の朝鮮半島情勢を大きく左右するだろう。
 現在、中国との間で北朝鮮側が怒っているのは、2012年12月に行った北朝鮮の「人工衛星」発射実験に関し、中国が国連決議に初めて賛成したことだ。核実験に対する国連決議には、中国はこれまでも賛成してきたが、北朝鮮が「人工衛星」と称して発射しているものに対しては、それまで議長声明にとどめていた。北朝鮮からすると、この変化は許せず、次に行うミサイル発射は、ある意味で中国に踏み絵を踏ませるようなものとなりそうだ。また、日本が今後、朝鮮半島との関係を組み替えていく際には、やはり南北双方を視野に入れて関係を再定義、再構築していく必要があるだろう。それがうまくできるかによって、東アジアにおける日本の立ち位置も決まってくると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部