平成28年度 第1回 アジア研究会 テーマ『アジア新興国経済の動向』 報告2 「インドの投資環境と日系企業動向」独立行政法人日本貿易振興機構 海外調査部 アジア大洋州課 西澤 知史(にしざわ ともふみ)【2016/7/26】

日時:2016年7月26日

テーマ『アジア新興国経済の動向』

平成28年度 第1回 アジア研究会 報告2
「インドの投資環境と日系企業動向」


独立行政法人日本貿易振興機構 海外調査部 アジア大洋州課
西澤 知史 (にしざわ ともふみ)

1. インドの小売市場
 インドは小売市場の外資参入規制が非常に厳しく、外資系小売店の進出は思うように進んでいない。家族経営の小売形態が小売市場の9割以上を占めるとも言われるほどだ。しかし、徐々にではあるが、単一ブランドの小売を中心に外資系小売店の姿も目立つようになった。ZARAやGAP、H&Mなどは既に各地に店を構えている。日系では無印良品が8月上旬、ムンバイに日系初の小売店舗をオープンする。IKEAも出店準備中だ。こうしたなか、インドではオンライン取引にも注目が集まっている。これが小売市場の成長を牽引するキーワードになるかもしれない。アマゾンなどの外資系企業も既にビジネスを開始した。
 インドは非常に大きい国で、消費性向も様々だ。例えば北の方は派手好き消費意欲も旺盛、南の方は質実剛健といったイメージだ。従って、どこでどういう商品を展開するのかを見極めないといけない。また、貧しい州から都市部に出稼ぎに行った人達が地元に仕送りをしている事もある。そのような州には「統計に出てこない消費が隠れている」とも言われ、消費をどう読み解くかが重要である。その地に実際に足を踏み入れ、生活を垣間見ることで見えてくる実際の消費動向に目を向けることが肝要だ。

2. 政治、経済、FDIの概況
 政治面では国会で上院と下院にねじれが生じており、モディ首相は自ら主導する大胆な経済改革ができていない。こうしたなかでも、先日、不良債権の処理を迅速化する破産倒産法が導入された。法人税の引き下げ等に次ぐ目玉として、インドへの投資環境をより良くする動きとして評価されている。目下、最大の経済改革として期待されるのは物品・サービス税(GST)の導入だ。これには憲法の改正などの複数の法案通過が必要であり、上院における反対勢力をうまく懐柔して法案通過を目指す必要がある。モディ首相は国内の経済改革は途上ではあるものの、外交面では一定の成果を上げている。インドの進むべき方向性や強みをうまくPRして、インドを投資先として売り込み、15年のFDI金額は前年比4割近い増加となった。
 インドは経済面では中国を抜き新興国随一の成長率を誇る。16年度は7.0から7.75%という数値を予測する。その高成長の背景には、原油安に伴うインフレの落ち着きによる、利下げが消費や企業の投資行動を活性化したことがある。
 インドの自動車産業ではマルチ・スズキというスズキの子会社が、市場で45%近いシェアを誇っている。これにその他日系3社のシェアを足すと、全体で日系が6割強を占めている。二輪では恐らくインドが世界最安値の二輪車市場である。バイクは非常に安く、値段はベトナムの6~7割。二輪は約1,600万台、乗用車は約300万台生産されている。工場は北部と南部、西部を中心に散らばり、国内市場のみならず輸出も盛んに行われている。

3. 日系企業の動向
 インドにおける日本企業のプレゼンスは今、1,229社、約4,500拠点である。約85%が大企業で、中小企業はわずか15%だ。インド市場の難しさを象徴する数字と言える。進出した企業は黒字化には相当の時間を要するが、巨大市場を攻略しようと必死だ。
 コスト競争が厳しいインド市場では、コストの安い地場企業からの調達率を引き上げることは至上命題だ。人件費に関しては、インドは決して安い国とはいえず、インドはタイや中国よりも少し下か、挟まれるぐらいの中位グループに属し、人件費でのコスト削減は期待できない。
 日本企業の投資を見ると、1,200社進出があるうち半数の親会社が製造業であり、このうち400社がインドで生産拠点を設けて実際にモノ作りを行っている。ITはバンガロール等を中心に、欧米の国々が積極的に使っているが、日本企業はなかなか活用できていない。インドには欧米企業が授けたノウハウがたまっており、これを有効活用しない手はない。言葉の壁やプロセス管理方法の違いといったハードルを乗り越え、インドのIT技術を使いこなす日系企業が増えることを期待したい。

4. ビジネスのヒントと留意点
 日本企業がインド市場で生き残る術としてインド企業との合併や買収も鍵となろう。ただし、インド企業は商売上手であり、安易にパートナーを信頼するとそれが命取りになる場合もあるので、あくまで1つの戦略として地場企業との協業を考えていただきたい。合弁や買収せずとも、優秀なインド人を競合企業からヘッドハントするという例もあるので、それも有効かもしれない。
 インドは製造業誘致を掲げ「Make in India」というスローガンを打ち出している。しかしながら、モノ作りの場としての工業団地は残念ながら未整備であることが多い。そのような中で、ジェトロは2006年から日本企業専用工業団地を州政府とともに運営している。その先行例が、デリーから3時間ほど南に行ったラジャスタン州のニムラナである。46社の日系企業が入居し、日々切磋琢しながら生き抜いている。競合企業が隣り合わせで運営し、世界でも非常に珍しい企業の集積が起きている。自動車産業に関連する企業が大半ではあるが、ダイキンやユニチャームのような企業もこの地からインド市場を攻略する。ニムラナがあるラジャスタン州は、日本政府の呼びかけに応じて投資環境を整備したことで投資誘致に成功した。ニムラナの例に学ぼうと他州でも同様の取組みが始まっている。州間の健全な競争がインドのより良い投資環境づくりに貢献するはずだ。
 最後に日本企業に注意してほしい点だが、第一にインドには複雑な税務がある。モノ作りにかかる間接税も複雑な上に、物を輸入する時には基本関税のみならず、3種類の関税がかかる。10%だった基本関税が実効上は3割近くに膨れ上がる事には特に留意が必要だ。また、インフラの脆弱さや、行政手続の煩雑さ等もインド特有のハードルである。
 そこで最近、ヒンディー語の「Jugaad(ジュガード)」というコンセプトがあることを伝えている。英語では「The Frugal Innovation」と訳され、「資源が限られた中で、お金をかけずに柔軟な発想力をもって問題に対処しよう」というアイディアである。ボッシュやシーメンスは、インド人が持って生まれた発想力を活用し、インドで新たに研究開発をし(時にリバースイノベーションとも評される)、世界市場に打って出るようになった。日本企業がこうした欧米企業のビジネス手法から学ぶことも多いはずだ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部