第150回 中央ユーラシア調査会 報告 「中央アジア・コーカサス地方における甘草抽出事業の事業化」宏輝システムズ株式会社 代表取締役 吉田 直正(よしだ なおまさ)【2016/02/09】

日時:2016年02月09日

第150回 中央ユーラシア調査会
報告 「中央アジア・コーカサス地方における甘草抽出事業の事業化」


宏輝システムズ株式会社 代表取締役
吉田 直正(よしだ なおまさ)

1. 良質な天然甘草資源がある中央アジア
 宏輝システムズ株式会社(以下、宏輝システムズ)では、中央アジア各国に甘草を抽出する工場を作っている。医薬品用グリチルリチン酸モノアンモニウムの国内シェアではトップで、甘草成分に関する大学との共同研究も行っている。甘草の主な薬効成分はグリチルリチン酸だが、これ以外にも、数多くの薬効成分が含まれている。それらについては、慶応義塾大学や東京大学と共同研究をしている。全身性強皮症に対して効果があると見られており、これは国家プロジェクトにもなる可能性がある。営業種目は、医薬品原料製造及び販売、化粧品原料製造及び販売、医薬品原料・中間体の輸入販売、化学工業薬品の原料販売となっている。
 宏輝株式会社は1953年に設立され、グループ企業である宏輝システムズは2011年にはタジキスタンで合弁会社を設立、甘草加工品の現地生産を開始している。また、2013年にはアゼルバイジャンにも赴き、甘草加工製品の現地生産を開始した。さらに昨年11月には、カザフスタン工場で試験生産を開始し、本年度は量産を予定している。昨年はこのほか、ロシアにあるアストラハン工場の施工を開始した。ここでは今年中に試験生産を始め、来年には量産を行う予定だ。我々は現地へ赴き、どの程度甘草資源があるのか、そして甘草の性質的にどのような位置にあるのかを勘案しながら、フィールド・サーベイを行っている。甘草は冬には枯れて表面から見えなくなってしまうため、サーベイは暑い時期に行う。
 なぜ、中央アジアで事業を行っているかというと、最大のポイントとなるのが中国だ。中国は甘草の世界最大の産地である一方で、世界最大の消費量を誇っている。非常に人口が多い国なので、大変な需要がある。漢方薬の約7割には、何らかの形で甘草が処方されていることから、需要が多く、中国では甘草が乱獲されてしまった。そして資源の減少に伴い、価格が高騰し、政府は採掘や輸出を制限するようになった。しかし、我々は医薬品原料を作っており、安定供給の責任がある。このため、中国が輸出を制限したからと言って、供給をやめる訳にはいかない。そこで、何とかして甘草の資源を新たに開拓する必要があった。当時、中国人からは、「中国以外の国に甘草がある訳はない」と言われたが、旧ソ連の文献などを調べたところ、中央アジアにもあるとわかった。そして、実際にサーベイをするうちに、中央アジアには良質な天然甘草資源があることがわかってきた。
 我々は中国での失敗を繰り返さないため、2つのスローガンを掲げている。1つ目は、計画的な採掘と再生力の維持によって資源を保護することであり、2つ目は、高い生産性を有した技術によって高品質、低コストの加工品を製造することだ。このようなスローガンを掲げ、現地政府と折衝しながら、中央アジアへ進出した。

2. 宏輝システムズのビジネスモデル
 甘草はマメ科の多年草の植物で、有効成分はグリチルリチン酸と言い、その根に多く含まれている。この根を破砕し、成分を抽出するまでを中央アジアで行っている。これによって濃縮甘草ができ、製品、第一精製物となる。この濃縮甘草を日本や世界へ輸出し、製品の原料として販売している。中国は自国ではすべての需要を賄えないことから、中央アジアにも進出して甘草資源を求めており、我々も中国に輸出している。
 甘草を使った製品は、多種多様だ。例えば、高級なシャンプーやトリートメント、葛根湯に含まれるほか、目薬や化粧水、静脈注射用の薬や錠剤にも使われている。また、タバコのフレーバーや醤油にも含まれていることがある。有名なところでは、お菓子の「かっぱえびせん」にも含まれる。
 我々のビジネスモデルについて説明すると、まず日本側で行っているのは資金支援だ。中央アジアの国々は貧しいので、ジョイントベンチャーの企業を設立しても、簡単にお金が出てくる訳ではない。このため資金支援をしつつ、ジョイントベンチャーを立ち上げている。我々の工場は、毎年、非常に安い価格でレンタルしている。日本の強みとしては、技術指導があり、財務、生産管理についても日本側でITを使って行っている。タジキスタンの工場には、販売までは頼んでおらず、作ったものはすべて我々が買い取ることにしている。株式比率に乗じ、利益が出た余剰分に関しては、配当を行っている。
 中央アジア側では、現地でしかできないことをやっていただいている。まず、甘草資源の確保があり、日本には甘草資源がないので中央アジアでやっていただく。そして、水道、電気、ガスなどのインフラ整備がある。また、できる限り、優秀な人を雇用していただいている。濃縮甘草の製造を現地で行うほか、現地での経営や生産管理をしていただく。現地の株主については、ある程度の権力を持った人と位置づけている。政府と何らかの話ができる人でなければ、土地やライセンスの許認可などを得られない。このように、甘草があるのは中央アジアなので、採掘や抽出は現地で行って日本に輸出し、日本で更に精製したものを製品として納めるという形をとっている。
 一方、現地政府から見た利点は何かというと、第1に、雇用の創出がある。現在、中央アジアでは非常に経済が悪化し、雇用の維持だけでも大変な状況だが、雇用の創出で貢献している。第2に、技術の導入がある。カザフスタンなどは、資源は持っているが、技術もほしい。「資源に頼ってしまえば、第2のサウジアラビアになる」と彼らは言う。このため、新しい技術に対し、輸入の許認可の簡素化や税金の削減といった優遇策も設けている。第3に、現地生産によってMade in Tadzhikistan、Made in Kazakhstan、Made in Azerbaijanといった製品が作られれば、産業として現地に根付かせることもできる。これは、現地政府から非常に喜ばれている。
 日本には資源がなく、食べていくには技術しかないということで、技術開発を持続的、継続的に行っている。我々の中央アジアの工場は年々、進化している。工場を非常に小さくしたプラントである「ミニミニプラント」は、コアになる現地の従業員を日本に呼んで実習してもらう際、使っている。小さいので全体像がわかりやすく、その原理を理解しやすい。これを使って実習した上で帰国し、ラージスケールでやっていただく。もちろん、我々の方から技術者を派遣し、教えることもあるが、ミニミニプラントを活用することで、現地の人たちの理解がかなり速くなる。
 宏輝システムズではまた、ソフトウェアからハードウェアまで独自開発をしている。ソフトウェアは通常、外注するところが多いと思うが、すべて自社でやることに強みがある。例えば、ソフトウェアの中には、リスクマネージメントの観点から、自分のソフトウェアを消すソフトウェアも組んでいる。やはり、カントリーリスクが高い国で、文化も異なるため、突然、工場を勝手に売られてしまう、あるいは突然、工場の所有権を国が持つと言い出すというような事態も想定される。このような場合に備え、自己消去プログラムを組んでいる。これは隠すことなく、現地のCEOやマネージメント・レベルの方々にも伝えている。

3. 貧困層の所得向上に貢献し、資源を安定確保
 中央アジアの製造拠点は現在、ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、タジキスタンにある。ロシアでは現在、建設作業中で、カザフスタンでは試験生産を終了している。アゼルバイジャンとタジキスタンでは量産しており、そこで生産されたものを日本や中国へ輸出している。また、国際協力機構(JICA)と協力し、貧困層であるBOP(base of the pyramid)の活用も行っている。甘草の栽培方法を我々が確立し、農家の方々に教える。そして、農家の方々には農閑期に甘草根を持って来れば買い取るシステムを提供する。このようにして貧困層の所得向上に貢献し、我々としても資源の安定確保に成功している。
 中央アジアへの期待としては、まず資源がある。現地には数千ヘクタール、あるいは数万ヘクタールといった広大な土地に甘草の資源がある。また、農業との連携にも期待しており、農家の方々には農閑期に協力していただく。さらに、現地には安価な電気、水、燃料があるほか、優遇策への期待もある。弊社の設備は、現地政府から最新テクノロジーとして認可されたので、関税等で優遇されている。輸出手続きの簡素化・迅速化、許認可等の手続きの迅速化・簡素化もある。それらを組み合わせて、競争力ある製品を世界へ出そうとしている。他方で、中央アジアが得られるものには、雇用の創出、技術力の向上、ブランド化がある。
 将来的には、最終精製まで中央アジアで行い、それを日本へ持ってきて売れば良いという見方もあるが、これには困難が伴う。特に、医薬品原料の場合、薬事法などが関係するので非常に難しい。10~20年かけて、できるかできないかといったところだと思う。他方で、化粧品や甘味料、フレーバーなどについては可能ではないかと思っているが、これを実現するには、挑戦の継続が必要だ。
 中央アジアでビジネスを展開するにあたり、私の「座右の銘」としている言葉は、「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、故に、夢なき者に成功なし」というもの。これは吉田松陰の言葉であり、引用させていただいた。常に夢を持ち続け、その夢に向かって継続的に挑戦していきたい。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

<ご参考>
宏輝システムズ株式会社の合弁事業については、あわせて下記をご覧ください。(貿易研修センター)

◆第96回-2 中央ユーラシア調査会 (日時:2009年6月17日)
「日本・タジキスタン合弁企業”AVALIN”設立の経験」

宏輝株式会社 代表取締役会長 / 宏輝システムズ株式会社
代表取締役 吉田 博

◆第115回-1 中央ユーラシア調査会 (日時:2011年11月16日)
報告1「タジキスタンに於ける甘草事業の概要と今後の展望」

宏輝システムズ株式会社
代表取締役 吉田 博

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