第151回 中央ユーラシア調査会 報告 「中央アジア・モンゴルにおける欧州復興開発銀行(EBRD)の活動について」東京大学校友会国際機関銀杏会代表 元EBRDビシュケク、スコピエ、タシケント事務所長 中沢 賢治(なかざわ けんじ)【2016/04/04】

日時:2016年04月04日

第151回 中央ユーラシア調査会
報告 「中央アジア・モンゴルにおける
欧州復興開発銀行(EBRD)の活動について」


東京大学校友会国際機関銀杏会代表
元EBRDビシュケク、スコピエ、タシケント事務所長
中沢 賢治 (なかざわ けんじ)

1. EBRDをめぐる最近の話題について
1-1) EBRD総裁の訪日と東京事務所開設
 3月14日のEBRD東京事務所開所式のために来日したスマ・チャクラバルティ総裁は、同日に東京大学本郷キャンパスにおいて以下の内容の講演を行った。

● EBRDは本日、欧州域外の支援国で初の代表事務所を東京に開設した。EBRD代表事務所は、EBRDの支援対象地域への投資に関心を持つ日本企業に対する融資・出資等のビジネス関係を発掘・構築し、またメディアや学術研究機関とも連携しつつ日本企業のEBRDへの理解を高めることを目的とする。
● 東西冷戦後に設立されたEBRDは今年4月で設立以来25周年を迎える。現在は欧州のみならずアジア・アフリカ地域もカバーしている。
● EBRDは3つの特色を持つ点で他の国際機関との違いが際立つ。その1は民主主義と市場経済を目指す国のみを支援するという政治条項であり、その2は最低でも投融資合計の6割以上と民間部門への支援を重視すること(現在は8割を超す)、その3は企業に対してプロジェクト・ベースの投融資を行うことである。
● EBRDの民間部門を対象とするビジネスモデルが評価され、設立当初の欧州地域を越えた国々での活動が求められるようになった。2015年の実績では381件のプロジェクトに対し総額94億ユーロの投融資を行った。これに加えて23億ユーロの協調融資を達成した。
● EBRDは本部とフィールド事務所合計で2400人のスタッフを有する。近く東京へのEBRD採用ミッションを予定している。日本の若い人々がEBRDの活動に興味を持ち、スタッフとして参加することを検討されるよう希望する。
'The EBRD and a career in international development'

1-2) 中国のEBRD加盟について
 EBRDは2015年12月に、中国の加盟申請を承認した。中国のEBRDへの出資比率は0.1%であり、EBRDの意思決定に影響を与える可能性は小さい。中国としては欧州側との関係を深めることで「一帯一路」経済圏構想を前進させ、中国主導で同じく12月に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)と西側の国際金融機関との協調を進めるのがねらいとの見方がある。

 チャクラバルティ総裁は、今年2月の中央アジア投資フォーラムにおいて、中央アジアのいくつかの道路プロジェクトの協調融資についてEBRDとAIIBが検討を始めたことを明らかにした。同総裁は日本経済新聞のインタビュー(3月10日)でも「中国の新シルクロード構想はEBRDが力を入れるカザフスタンなど中央アジア諸国と密接に絡んでおり、中国企業と共同で投資を進める」との方針を述べた。

 同総裁はAIIBの設立に際し、EBRDとして審査基準や手続きについて助言したことを明らかにしたうえで、既存の国際金融機関だけではアジアや中東の膨大なインフラ需要に十分応えられないため、新たに設立されたAIIBと積極的に協調していくとの方針を明らかにした。また既存の国際金融機関の側でも借り手国の需要に迅速に対応するために、高い基準を保ちながらも内部手続きを迅速化していく必要があると指摘した。

2. 中央アジア・モンゴルにおけるEBRDの活動状況
 EBRDは2015年に中央アジア・モンゴル合計で前年比75%増加の14億ユーロの投融資を行った。同地域にとって貿易相手国としても、出稼ぎ労働者の受け入れ先としても深い関わりのあるロシアの経済状況が厳しい状況にある中で、EBRDの活動が急増したことが注目される。

 2015年はEBRDにとってロシアで新規案件のない初めての年となったが、全体の投融資額は対前年比5.6%増加した。EBRDは2014年7月以来、ウクライナ問題に関して主要株主であるEU諸国の方針に従い、ロシアにおける新規投融資を凍結した。ロシアでの同行の活動は2013年で全体の2割程度(18億ユーロ)を占めるなど、従来は最大の活動対象国だった。

表1 EBRDの活動の地域別分布(%)

表2 中央アジアとモンゴルでの各国別の活動(百万ユーロ)

2-1) カザフスタンにおける活動
 2015年にEBRDはカザフスタンで30件のプロジェクトを実施し、投融資額は対前年比25%増加した。カザフスタンはトルコ、ウクライナに次ぐ重要な活動対象国となった。同国の2015年のGDP伸び率は石油価格の下落と、貿易相手国であるロシアの経済不振を反映して、前年の4.3%から1.2%に減少した。

● カザフスタンの非石油・ガス部門でEBRDは最大のビジネス・パートナー。
● 同国は中小企業振興による地方開発に力を入れており、EBRDとの協調による中小企業向けの技術支援プログラムに600万ユーロを拠出している。

2-2) タジキスタンにおける活動
 タジキスタンはビジネス環境の厳しい国であり、EBRDの投融資額も限られていたが2015年には2.6倍以上に急増した。産業の7割は農業に依存しており農産品加工、流通にわたるアグリ・ビジネスの発展が課題である。2015年のGDP伸び率は出稼ぎ労働者によるロシアからの送金の減少を反映して前年の6.7%から5%に減少した。中国からの投資は増加した。

● 中小企業によるファイナンスへのアクセスと金利低減のためには銀行部門の発展が課題。
● 中小企業の活発化のためには行政手続きや税制などで制度と運用の両面にわたる簡素化などビジネス環境の改善が課題。
● 上下水道、ごみ処理、都市交通などのインフラ整備も課題。利用者によるコスト負担を進めるためにも自治体の提供する基本的なサービスの質を引き上げる必要がある。
● 電力事業の発展のためには国営企業(Barki Tojik)の効率化と外資導入が必要。

2-3) キルギス共和国における活動
 キルギス共和国は2005年の革命、2010年の政変と2度の大きな政治的変革を乗り越えて中央アジアの中で最も民主的な国とみなされている。金以外の資源が限られているため、中小企業の振興が課題である。首都ビシュケクを中心とする北部と、農村山岳地帯の南部との経済格差も取組みの必要な課題である。出稼ぎ労働者によるロシア・カザフスタンからの送金の減少、これら2国への輸出の伸びが鈍化したことが2016年以降の経済成長に影響を与えるものと予測される。

● 国内市場の規模が小さいため、中央アジア地域内での経済連携が課題。
● 少数の中規模企業以外には小規模企業が多数を占めている。中央アジア地域内での競争を図るためには経営効率の改善が前提となる。
● 地元中小企業によるファイナンスへのアクセスを改善するために、現地通貨ベースでのファイナンスの発展に力を入れている。
● 上下水道など自治体インフラの改善、電力設備のリハビリを進めて行く上で民間資本を誘致することが必要になる。

2-4) トルクメニスタンにおける活動
 トルクメニスタンにおけるEBRDの活動は民間部門に限定されており、EBRDによる投融資案件は限られている。石油・ガス価格の減少と中央アジア地域内各国の経済低迷を反映して2015年のGDP伸び率は前年の10.3%から8.5%へと鈍化した。2015年の始め以降、ロシアのガスプロムへのガス輸出は減少したが、中国へのガス輸出増加で代替された。

● トルクメン経済は依然として民間部門の発展が課題。
● 石油・ガスに依存した産業構造の改革を進めるためにはノウハウを持つ外国投資家を誘致し、中央アジア地域で競争できる産業の育成が課題。

2-5) ウズベキスタンにおける活動
 現在のEBRDによるウズベキスタンへの投融資は、民間企業への既存ポートフォリオの維持に限定されている。2005年7月にEBRDがまとめた同国に対するカントリー・ストラテジーの見直しが、新規投融資再開の前提条件となる。

2-6) モンゴルにおける活動
 2006年にモンゴルがEBRDの活動対象国になって以来、EBRDは製造業と農産品加工業などを中心に地元の中小企業を支援してきた。2015年には大規模な鉱山資源プロジェクトへの融資を行い、投融資額は前年に対して4倍の急増となった。

● 2015年の最大のプロジェクトは南ゴビ地方に位置するオユ・トルゴイ銅山に対する4億ドルの融資である。EBRDは15の商業銀行と共に総額12億ドルのシンジケート・ローン(A/Bローン)を組んだ。本件プロジェクトで国際金融公社(IFC)も同額のシンジケート・ローンを組んでいる。
● モンゴルが大規模な国際協調融資を経験したことで、今後も同様のファイナンス方式による他の天然資源開発に弾みがつくものと期待される。
● EBRDは今後とも地元中小企業支援を継続する方針である。民間企業の参加するインフラ整備(PPP方式などを含めて)を優先的に検討していく。

3. 今後の動向
 本年2月にEBRDはフィナンシャル・タイムズと共催によりイスタンブールで中央アジア投資フォーラムを開催した。中央アジア各国、トルコ、中国の政府高官とおよそ300の投資家が参加した。チャクラバルティ総裁は、このフォーラムのスピーチで2015年の中央アジア・モンゴルにおける活動が厳しい経済環境にも関わらず対前年で75%増の14億ユーロの投融資を達成したことに言及し、EBRDにとり同地域の重要性が増していることを強調した。

 ファイナンスへのアクセスが容易でないこと、不安定な電力供給など、この地域に共通する課題を克服し、ビジネス環境を改善することが中央アジア・モンゴル諸国に望まれる一方で、各国ごとに異なる実情を理解し、適切な地元企業をパートナーとして選ぶことでビジネス・チャンスにつながる。EBRDにとって中央アジア・モンゴルにおけるビジネス急増の傾向が今後も続くのか?中国のEBRD加盟、AIIBとの協調融資検討など新たに始まった協力関係がどのように発展していくのか注目される。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部