平成28年度 第1回 国際情勢研究会 報告/ 「二分化する中国経済:国家支配と自由化開放のせめぎあい」 学習院大学 経済学部 経営学科 教授 渡邉 真理子(わたなべ まりこ)【2016/04/13】

講演日時:2016年4月13日

平成28年度 第1回 国際情勢研究会
報告/ 「二分化する中国経済:国家支配と自由化開放のせめぎあい」


学習院大学 経済学部 経営学科 教授
渡邉 真理子 (わたなべ まりこ)

1. 昨年以降の経済政策に見られる混乱
 メディアでは様々なことが書かれているが、中国経済のファンダメンタルズは基本的に、とても良い。民間部門はかなり大きく健全で、いわゆる中間層の厚さも十分、厚くなっている。ただ、2015年の中国の経済政策は、どこか狂ってきたという印象で、2016年についても楽観できない。そうは言っても、中国には非常に勢いがある。為替に関しては昨年、人民元がやや高過ぎた。このため、日本には「爆買い」に来てもらえたが、中国の輸出と輸入が両方とも減ってしまう状態となった。一部の悲観的なエコノミストは、「もう中国はデフレで、不良債権にまみれて危ない」と声高に言っている。これについては、私も危機感としては共有するが、経済の判断としては、まだそこまで悲観的になる必要はないと思う。一般の人たちの可処分所得、かつ物価が上がっているということは、まだ経済が上向きだということで、むしろ日本の方が心配だ。ただ、債務問題については、要注意の領域に入ってきている。また、中国で高度成長期が終わるのは間違いなく、現在の中国は日本の1960年代末か70年代ごろの状況に来ていると考えれば良い。
 全体として潜在成長力が落ちるのは仕方のないことだが、問題はどこまで落ちるかだ。あるべきレベルで落ちるなら、アジアや世界の平和にも役立つが、最近の中国の経済政策は、理性を失っているように見える。2015年1月ごろの中国経済の課題は、不動産バブルをいかに抑えるかということだったが、代わりになぜか株高誘導が始まった。そして『人民日報』では、ある「権威人士」という人が、「中国経済は今後もどんどん伸び、株価もどんどん上がる」と述べ、これは、ある意味、不動産価格が落ちて、行き場を失った資金を株式市場へ誘導するような話だった。ただ、マクロの状況から見ると、株価が上がるような要素はなかった。その結果、株価が上昇して7月に最高値を記録したが、皆が「怪しい」と思った瞬間、バブル崩壊のように下がった。そこで、あろうことか中国は株の買い支えに走り、そのやり方はかなりひどかった。
 上海の株式市場は、あまりしっかりした株式市場ではない。外国からの投資家は来ておらず、中国の中でやりたいようにできるが、あまり経済的には意味がない。そういうところを無理やり開けて誘導していたところに、さらにひどい株価維持政策(PKO)を行ったため、香港市場にも大きく響き、8月には株式市場の大混乱が起きた。7月のPKOでは、中国は特別引き出し権(SDR)入りを目前にしており、国際通貨基金(IMF)に怒られたため、SDR入りの条件の1つだった為替改革を行うこととした。リーマンショック後、フォーマルには「管理バスケット」をしていると言いつつ、米ドルペッグを続けていたのだが、このようなグレーなことはやめて、バスケットに戻すということを8月に行った。しかし、情勢が悪かったので為替レートは下がり始め、大騒動になった。
 2015年にはまた、「国有企業のための国有企業改革」とでも言える通達が出た。習近平国家主席の就任直後は、「民営と国営がフェアな環境で競争する市場を作る」と大きな声で宣言していた。私はそれを高く評価していたが、次第におかしくなり、2015年の国有企業改革では、「国有企業を支えるしかしない」と言い出し、株価が下がって香港では大暴落した。それを巡って様々な右往左往が起き、1月はまた非常に混乱した。そして一定以上、為替が下がると、自動的に取引停止になるという「サーキットブレーカー制度」を入れたところ、3日ほどで大混乱になってやめるという非常に狼狽した状態となった。同時に、人民元の海外市場での空売りも進み、必死で両方を買い支えるようなことをした。これによって、一般の海外投資家は、「中国市場はもう危ない」、「政府が何をするかわからないようなマーケットには入れない」ということになり、かなり市場から離れた。
 そのためか2016年2月にはまた、「権威人士」という人が『人民日報』に現れ、1年前とは正反対のことを言い、「今後はサプライサイド改革をする」とした。このように、この1年間は、どちらへ行きたいのかわからない状況が続き、政府だけでなく社会も大いに戸惑い、中国の官僚や役人の実務部隊の人たちも「経済政策の意図がわからない」と言っていた。それに加えて、反腐敗運動をやっているので、下手なことをしたら自分たちの身が危ない。さらに人権派の活動家や改革的な提言をしてきたエコノミストなどは、活動を制限される状態となっている。中国では、これまでの30年間、高度経済成長が続いたため、政権、官僚、企業とも、下がるということがどういうことなのかがわかっておらず、日本人から見ると滑稽なぐらい恐怖感がある。

2. 市場の規律を破壊する国有企業
 今後については、政権がどの程度、理性的に経済政策を運営できるかというところに鍵があると思う。特に習近平政権は、経済政策に対して中立的かというと、次第にそうではなくなっているようだ。そもそも問題を認識しているのか、そして問題を実行できるのかという2段階で問題があり、今後は日本のように前へ進めない経済になるかもしれない。ただ、企業やビジネスのレベルで見ると、中国企業のイノベーションの力は無視できず、特にインターネットが絡む部分の力は日本を超えていると思う。インターネットを通じたシリコンバレーと深圳のつながりは強い。現在、中国がやっているインターネット政策は、行く行くはシリコンバレーのものづくりを強化していくときに大きな障害となりそうで、そこを政治的にどうするのかが、問題となる日がいずれくるという感じがする。
 経済政策に関して中国が非常に揺れているのは、国家支配を強めようとする動きと、開放によって大きくなってきた中国市場を維持しようとする動きの2つがせめぎ合っているためだ。ここを打開できなければ、潜在生産、成長力は落ちていく可能性がある。大きな人口を背景にインプットだけで成長する時代はもう終わり、今後は効率性を上げることが重要だ。また、これまでの30年間は計画経済から市場経済への転換という効率化が経済成長を支えてきた。それもほぼ終わってきたので、次の一手が必要となっている。これについて中国政府はある程度わかっており、「中国製造2025」という案を出している。ここで面白いと思うのは、「インターネットとものづくり」に関する青写真だ。
 その一方で、国有支配を強める動きもある。現在、国有企業の数や売り上げを見ると、その割合は非常に小さくなっているが、市場経済の質を考えると、やはりその存在は問題だと思う。大きな問題は2つあり、1つは独占がまだ続いているところで起きている。例えば、価格を引き上げる、品質が劣化して環境破壊も進むといった問題がある。他方で、競争があれば、国有企業の問題はないのかというと、競争があっても国有企業が非常にソフトな予算制約のまま稼働していれば、市場競争の規律を破壊すると思う。わかりやすい現象は、いわゆる過剰生産能力の問題で、もしくは過剰に安い価格で海外に輸出する。
 一方、「混合市場」と私が呼んでいる国有、外資系、民営企業が混ざって競争している市場も、実は中国にはたくさんあり、その中で悪いタイプというのが確実にある。悪いタイプの混合市場の典型は鉄鋼産業で、過剰生産能力や環境汚染の問題は、この産業から発生している。悪いタイプの混合市場はソフトな予算制約がある上、ろくなものを作っていなくても市場に残れる。中国のローカルな企業が存在しているところでは、消費者が高く評価しているタイプのものが生産できていても、価格は全く上がらない。本来は、良いものは高くなるはずなので、これについては過当な価格競争が起きていると言えるのではないか。
 今後、中国が大規模な自由化を進め、潜在成長率を上げていくには、金融の自由化や国有企業の改革が必要となる。貿易投資については、かなり自由化しているようだが、税金の問題などを見ると、古臭い規制がたくさん残っている。そのような意味で、中国の中には税金をもっと軽減する余地がたくさんあり、特に関税の部分がそうだ。この部分は中国の庶民に大きな恩恵があるので、まだこの部分を交渉し、より関税率の低いアジアを作っていくと良いだろう。さらに、債務問題も解決しなければいけない。一方、国有企業に対する中国の人たちの見方は、立場によってかなり対立している状況だ。

3. 日本は改革派が動きやすいよう働きかけを
 中国には改革派の人たちもおり、守旧派とのせめぎ合いがある。日本としてはできるだけ、改革派の人たちが動きやすいよう、外から力を加えていくことが重要ではないか。軍事や政治の部分がアグレッシブになってきており、バランスの取り方が難しいとは思うが、このような状況を良いとは思っていない人たちも多い。できるだけプラスサムの話を作ることが重要で、プラスサムの世界に入れば、中国も、特に経済に関しては勝手なことができなくなる。そのような意味で、相互依存を互いに高めていくことが必要で、相互依存は既にかなり大きくなっている。中国経済の現在の規模を世界経済と切り離して維持することは不可能で、そこをもう少し自覚してもらえるようにすべきだろう。
 そのような意味では、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が妥結できたので、国有企業の規制に関しても、ここを舞台にさまざまな交渉ができるのではないか。また、電子商取引や規制の整合性の規定といった点でも、フェアな市場経済のルールをアジアに作っていく。とにかく、中国の国有企業や体制の揺らぎ、政治が、経済に対して中立となり、「無害化」できるよう、様々なチャネルを使っていくことを考えるのが重要だと思う。他方で、経済の問題から見ても、インターネットの自由をどのようにするのかが、今後は非常に大きな問題になっていくだろう。現在は、インターネットを通じて様々な情報が経済の重要な情報となっている。中国がインターネット規制を続ければ、経済的な問題が大きくなるというような枠組みを、できるだけ作っていくのが良いのではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部