平成28年度 第2回 国際情勢研究会 報告/ 「中国の政治外交の動向」 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授 高原 明生(たかはら あきお)【2016/06/15】

講演日時:2016年6月15日

平成28年度 第2回 国際情勢研究会
報告/ 「中国の政治外交の動向」


東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
高原 明生 (たかはら あきお)

1. 経済減速と社会安定の揺らぎ
 北京では今年に入り、権力闘争の潮目が変わったような状況になっている。権力闘争の1つのベースは、経済の問題だ。部門や地方によってはかなり厳しい状況のようで、労働争議が増えている。中国ではまた、サプライサイドの改革を行うことになっており、その内容をめぐって論争がある。過剰生産能力を廃棄し、ゾンビ企業を整理する必要があり、中央の計画は炭鉱労働者130万人、鉄鋼労働者50万人の首を切るというものだ。そのために、1000億元の資金も用意してあるということで、気合いを入れてはいるが、地方は抵抗している模様である。そして、習近平総書記の権威が現在、揺らいでいる。その権威がおそらくピークにあった昨年も、中央、地方の利益対立は激しく、特にゾンビ企業の整理を巡って対立がある。昔からだが、特に厳しい情勢になると、中央と地方の対立がシャープな形で起きる。
 また、中国では今年、豚肉価格が上昇しており、これは由々しき問題だ。かつて鄧小平元党中央軍事委員会主席と並んで威信を誇った革命の元老、陳雲元副総理は「豚肉は政治だ」と述べた。つまり、中国人にとって豚肉は非常に重要で、その価格を低く抑えることは、共産党にとって重要な政治的課題だ。そして今年はその価格上昇率が高く、庶民が騒いでいる。このほかにも様々な問題があるが、もう1つの目立った問題として、大学入試の合格枠調整が挙げられる。例えば、北京大学に湖南省から入れるのは何人、江蘇省からは何人といった枠があるのだが、沿海や大都市の枠を減らして内陸や少数民族地域の枠を増やし、その枠を調整したため、枠を減らされた地域の住民が激しく抗議している。他にも、重要な問題として、環境汚染や反腐敗絡みの問題がある。反腐敗運動は、かなりの効果があって役人の振る舞いが正されているという説もあるが、末端は全く関係なく、村の幹部は今なお、ひどいことをしている。土地収用の問題などでは、実状は変わっていない。

2. 権力闘争の激化
 権力闘争の激化に関しては、12月末のある会議で、習近平が、自分を党中央の中核、中国語で言うと「核心」と呼べと言わんばかりの発言をしたようだ。これは表に出なかったが、今年1月に入ると天津のトップが口火を切り、地方の指導者が次々に「習近平同志をもって中核とする党中央を擁護しなければならない」と発言するようになり、最終的には地方の3分の2程度の指導者が同様の発言をした。様々な会議でそのような発言がなされ、「私は、しっかり言いました」というアリバイ作りのような報道もされていた。ほかには、「党中央に習え」という言い方のものもあり、来年の党大会に向けていよいよ習近平が、自分の権威と権力を一層、高めようとしているという見方がなされた。
 「党中央の中核」という呼び方には、いわくがある。かつて鄧小平たちは、文化大革命の際、毛沢東主席が権力を独占し、個人崇拝まで行って大変なことになったと思っていた。そこで文化大革命が終わった後に、権力の集中はやめて集団指導体制に変えようとし、1982年に党主席制を廃止した。従来の党主席は、政治局常務委員らが反対しても、主席の言うことが通るという強い権限を持っていたので、そのような権限を持たない総書記制に変え、集団指導体制とした。しかし、六四事件の際、総書記は趙紫陽、軍事委員会主席は鄧小平だったが、二人の間で権力闘争が起き、大混乱になった。そして鄧小平はおそらく、それを反省し、やはり1人の権力の中核がいないと混乱するという考えに至ったのだと思う。このため、文化大革命は反省すべきで、民主的な集団指導体制にしておくべきだが、それでも中核を誰か指定する必要があると考え、自分もやがて軍事委員会主席の座を降り、江沢民にそれを渡す。そして江沢民は久しぶりに、党と軍のトップを兼ねる人物、中核として君臨した。
 ところが、問題は胡錦濤政権になったとき、江沢民が軍事委員会主席の座にしがみついたことだ。そこで2年間、党中央が2つあると揶揄され、ある意味、二重権力状態になった。そして結局、胡錦濤は中核と呼んでもらえないまま、10年後に総書記を引退した。皆が注目する中、胡錦濤は党大会直後、軍事委員会主席も習近平に譲った。そして、皆が習近平を「中核」と呼ぶのかと思ったが、そうはならなかった。今日に至るまで、習近平はそのような呼称を付けていなかったが、それをやろうとし始めたということで、いよいよ自分の権威権力固めをしようとしていると見られた。
 習近平はそれまでも、権力の集中を相当、進めてきたので、「まだやるのか」という反発の声が強まった。習近平を中核と呼ばせようとする試みについては、地方の指導者が3分の2程度、呼びかけに応じたが、他の3分の1は応じておらず、中央の指導者らについては、ほとんど誰もこの言い方をしていない。このことは習近平の威信にとって、逆に大きな打撃となった。習近平はまた、メディアの報道について不満で、「中国メディアは共産党の喉であり、舌でなければならない」という昔ながらのレーニン主義的な考えを強調したが、これには強い反発がある。
 中国の政治は現在、大変な状況に陥っている。対立の構図としては、李克強総理が習近平のやり方に賛成しない、「反習近平派」の代表格になっていると思う。習近平は宣伝部門に不満があるということだが、それだけでなく、もう1つ、思い通りに行かないのが人事のようだ。確かに反腐敗では、中央規律検査委員会を使い、様々な人を打倒できるが、問題は後釜をどうするかだ。習近平のかつての部下は、限られた範囲にしかいない。これはなぜかというと、習近平はほとんどのキャリアを地方で積んできたからで、胡錦濤とは異なる。胡錦濤は共青団を率いたが、そのような人脈を習近平が持っているかというと、太子党と言っても、それほど多く要職にいる訳ではない。多くの人たちはビジネス界におり、それではだめだ。この点が、指導者として弱いところではないかと思う。
 もう1つの問題は、現在、政治局常務委員会でナンバー5に位置する劉雲山だ。彼が宣伝部門を統轄していることはよく知られているが、それだけでなく、組織部門も統轄している。通常は、そのようなアレンジメントではあまりにも権力が強くなるため、これらの部門を統轄する常務委員を別々に置くのだが、劉雲山は特別なケースだ。前の胡錦濤政権のときには常務委員が9人いたのだが、今期では政法委員会書記はもう常務委員にしないなどの事情があり、7人に減った。そして7人になったとき、1人の常務委員に2つの部門をやらせることになったため、このような状態になり、結果的に劉雲山が強い権力を有することとなった。習近平はこれまで、様々な部門をまたがる新しい組織を作り、支配権を強化してきたが、党内の宣伝部門と組織部門に関しては、それができていない。こうした軋轢の構図からすると、今年危ないのは李克強系の李源朝国家副主席で、党大会後に危ないのは劉雲山だと見られている。劉雲山は引退する見込みだが、引退後にやられるのではないかという噂が飛び交っている。

3. 中国外交の不安定な展開
 中国の外交に関して最近目立つのは、東欧への注目だ。3月には習近平がチェコを訪問し、まもなくセルビアやポーランドも訪問するという。東欧に注目する理由は、私の判断では「一帯一路」に関係がある。「一帯一路」に関しては、中央アジアはほとんど見込みがなく、中国は現在、アジアインフラ投資銀行(AIIB)も含め、儲かるか儲からないかというシビアな基準でプロジェクトを審査、検討している。では、どこに希望があるかというと、1つは東南アジアで、もう1つが東欧だ。このため東欧に力を入れて、ヨーロッパへ入っていく1つの足場にしようとしているのではないか。
 「新型大国関係」と中国が呼ぶ対米関係についても、難航しているのは、ご案内のとおりだ。これが1つの原因となり、日本へのリバランスが起きたのが、2014年11月の第1回安倍・習首脳会談だったと思う。ところが、習近平が一生懸命、対日関係を改善しようというシグナルを出したのに、不安定な状態が続いている。東シナ海、南シナ海などのリスク要因が残っており、日本や安倍晋三首相に関する中国メディアの報道も厳しいままだ。そして、特に目立つのが、王毅外相の異常なほどイライラした様子だ。3月の全人代の記者会見では、日本について「2つの顔を持つ人」という言い方をした。これは、一方では一生懸命、日中関係を改善しようというふりをしつつ、他方では、あちこちで中国の悪口を言っているという意味だった。もちろん、後者は、南シナ海の問題を指している。アメリカの先棒を担いでいるという訳だ。そして、この「2つの顔を持つ人」という言い方は習近平の言葉で、王毅外相が自分で考えたものではないようだ。
 日中のハイレベル経済対話については昨年11月1日、安倍・李克強会談で行うことになったが、汪洋副総理は「安倍内閣の間はやりたくない」と述べており、困った状況だ。6月9日には軍艦の接続水域侵入があり、本日も情報収集艦の領海侵入があったという。彼らにすれば、日本が大騒ぎをして何か強い反応をしてくれれば、それを機にナショナリズムを盛り上げて求心力を高めようという非常に古典的なオペレーションをしているという気がする。日本側は毅然たる態度で抗議するのは当然だが、あまり騒ぎ過ぎない方が良く、冷静に対応することが重要だろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部