平成28年度 第3回 国際情勢研究会 報告/ 「金正恩体制と国際社会 ― 5度目の核実験をめぐる北朝鮮情勢 ―」 関西学院大学 国際学部 教授 平岩 俊司(ひらいわ しゅんじ)【2016/10/26】

講演日時:2016年10月26日

平成28年度 第3回 国際情勢研究会
報告/ 「金正恩体制と国際社会 ― 5度目の核実験をめぐる北朝鮮情勢 ―」


関西学院大学 国際学部 教授
平岩 俊司(ひらいわ しゅんじ)

1. 次元の異なる脅威となった北朝鮮の核ミサイル
 北朝鮮が5度目の核実験を行い、北朝鮮にどう向き合うべきか、あるいは北朝鮮の核の現状をどう捉えるかというところに国際社会の関心が集まっている。他方で、昨年は日韓国交正常化50年、そして日本にとっては戦後70年という1つの大きな区切りで日韓関係への関心が高まった。日本からすれば、朴槿惠(パク・クネ)政権は従来の政権とはやや異なり、協力関係を作るのが難しく、どうなるのかというところに関心が集まった。昨年末には慰安婦問題で日韓の電撃的合意がなされ、不可逆的に解決することになったので、1つの区切りがついたと思った。もちろん、韓国国内で反発があり、朴槿惠政権は厳しい政権運営を強いられてきた。しかし、年明けに北朝鮮が4度目の核実験を行い、朝鮮半島の問題は一気に韓国から北朝鮮へシフトした。むしろ、昨年末の合意があったため、北朝鮮の核実験に対し、日米韓で協力できる状況ができたと感じでいた。韓国については、ここ数日の動きを見ると、大統領に対し、憲政史上で2度目の弾劾がなされるかという状況だ。それほど、大統領に対する不信感が募っており、最近の世論調査によれば、支持率25%という厳しい状況に追い込まれている。
 米国ではクラッパー国家情報長官が、北朝鮮とある種のディールをするような発言をしたというが、ホワイトハウスは否定している。北朝鮮の核ミサイル能力については、異なった次元に到達しているという見方がある。そして大雑把に言えば、ブッシュ政権のころによくいわれたレジームチェンジ論になると思うが、北朝鮮は崩壊させるべきという考え方がある一方で、クラッパー国家情報長官が言ったように、北朝鮮の核の現状や主張をある程度受け入れ、北朝鮮の核を凍結すべきという考え方がある。米国の政権を見ると、息子のブッシュ政権の前半にはレジームチェンジを主張していたが、北朝鮮が2016年10月に核実験を行った後は、核を移転させないというところにも政策のポイントが移ったと思う。それ以前は、北朝鮮に核を持たせない、別の言い方をすれば、NPT(核拡散防止条約)体制を維持するというのが大きな目的だっただろうが、核実験後はどちらかというと、北朝鮮の核を拡散させない、とりわけ中東のテロリストたちに渡さないというところに重点が移ったようだ。さらにオバマ政権になると、「戦略的忍耐」ということで、北朝鮮に姿勢の変化がない限り、取引も交渉もしないということになった。実際には交渉もしているが、交渉が容易な相手ではなく、米国の思惑とは異なる結果になってしまったということだろう。そして、北朝鮮の核ミサイルは次元の違う脅威になった。今後は米国の次期政権に対し、北朝鮮がどう向き合うのか、あるいは逆に、次期政権が北朝鮮にどう向き合うのかというところで随分、朝鮮半島情勢が変わるだろう。

2. 金正恩体制の現状と核問題
 金正恩(キム・ジョンウン)体制は若い指導者の体制で、北朝鮮の対外行動や核ミサイルに関する行動、実験は、思いつきで行き当たりばったりでやっているといわれるが、果たして本当なのかだ。もう1つは恐怖政治で粛清を繰り返しているため、亡命者がどんどん出ているという見方がある。もちろん、亡命者は増えており、次第に地位の高い人が亡命しているが、北朝鮮は体制が明日にも崩壊しそうなほど、おかしくなっている訳ではなさそうだ。特に韓国からよく出てくるのは、「北朝鮮はまもなく崩壊するから、備えなければいけない。交渉して向き合う必要はない」という、いわゆる早期崩壊論である。こうした早期崩壊論はむかしからある。
 たとえば、第一次核危機の時がそうだ。北朝鮮の核危機は1980年代に始まり、北朝鮮は1993年にNPTを脱退した。1994年には米国と北朝鮮の間で「合意された枠組み」が締結され、北朝鮮が核開発をやめる代わりに、比較的、核兵器転用が難しいとされる軽水炉を供与することになった。後に伝えられたところによれば、当時のクリントン政権は共和党優勢の議会に対し、「北朝鮮はあと5年も持たないから、軽水炉供与はない。現在の北朝鮮の暴走を抑えるために合意する」と言い、ある種、崩壊を前提とした合意を形成したというが、北朝鮮は崩壊しなかった。そのため、ブッシュ政権は、クリントン政権期の合意は破棄するということで、「合意された枠組み」について様々な条件をつけ、北朝鮮に破らせたと言ってよい。
 現在の北朝鮮の体制は、経済状況だけ考えれば崩壊してもおかしくない状態だが、必ずしもすぐさま体制が動揺するという状況でもなさそうだ。もちろん、急変事態がいつ起きてもおかしくないという分析も完全には否定できず、そのような事態に備える必要はあるが、いずれ崩壊するだろう、崩壊した方が良いので放置する、という政策の結果、現在の状況になったと思う。今年は2度にわたって核実験を行い、ミサイルもノドン、ムスダン、潜水艦発射弾道弾(SLBM)と続いている。我々は北朝鮮の政治体制の安定度を過小評価してきたところがあるが、核ミサイル技術についても、かなり過小評価してきたといえる。国連は北朝鮮の4度目の核実験に対し、決議2270を採択し、「これまでにない強力な決議だ」と主張した。しかし、その後の北朝鮮を見ると、経済状況はさほど悪くなっていないようだ。とりわけ、中国と北朝鮮の貿易は全体的にあまり減っておらず、北朝鮮が態度を改めるほどの変化はない。要するに、中国が抜け穴になっているとみられるが、中国側は「米国が北朝鮮を相手にしないからいけない」と主張する。

3. 36年ぶりの党大会が意味するもの、北朝鮮への日本の対応
 北朝鮮では今年、36年ぶりの党大会が開催された。注目されたのは金正恩の新しいポストで、それまでの党第一書記を党委員長に変更した。父親金正日(キム・ジョンイル)は「永遠の総書記」としてその地位は欠番になっている。金正恩がまだ若いので、父親が死んだ直後は父親の権威威光を最大限に利用しつつ、政権運営をしようという思惑があったのだろうが、それから4年が経過し、新しい体制をスタートしたのだ。これは「脱金正日」なのだと思う。金正恩政権では、いわゆる老壮青のバランス人事が行われており、80歳以上の人たちもかなり残っている。実際の政策は若い人たちがやっているのだろうが、その政策に対するある種のお墨付きを与える役割として、これらの人たちがいるのだろう。
 金正恩は祖父の金日成(キム・イルソン)、父の金正日の流れの中に自分の体制を位置づけているが、おそらく危機管理体制としての金正日時代の先軍政治の終了を党大会で宣言したかったのだと思う。党大会終了後、国会に相当する最高人民会議で組織改編が行われ、国権の最高機関であった国防委員会を組織替えして国務委員会とした。危機管理体制を象徴する国防委員会を国務委員会としたのだ。
 北朝鮮の立場からすれば、冷戦期には中国やソ連が自分たちに核の傘を提供し、米国は韓国に提供していたことから一応、バランスがとれていた。しかし、中国やソ連が韓国と国交正常化したため、北朝鮮に核の傘を提供してくれるかわからなくなった。このため、自分たちが一方的に核の脅威にさらされているというのが、彼らの認識になった。北朝鮮の核に対する野心は1950年代に遡るが、彼らは現在、自分たちが核兵器を持つ必要があるのは、一方的に米国の脅威にさらされているからだと主張する。
 今回の党大会開催に関してはまた、経済危機もある程度、脱したというのが彼らの認識だ。そして金正日時代には採択できなかった社会主義の多年度型経済計画も採択したという。韓国銀行などの分析によれば、今年は少し右肩下がりだが、北朝鮮は一昨年まで4年連続で経済成長したという。国連の経済制裁の効果が見られないのは中国が抜け穴になっているからだと言われるが、中国の東北3省と北朝鮮を見ると、微妙な相互依存が成立している。このため中国が、経済を梃子にして北朝鮮に影響力を行使するのは難しい。中国に対しては、韓国も経済的な対策を要望してきたが、中国からは、「まず開城工業団地を止めれば良い」と言われてきた。そして朴槿惠政権は、「核関連にお金が流れていた」という理由で、本当にこれを止めた。韓国はその後お金が流れていた訳ではないと訂正するが、いずれにしても、核を理由にこれを止めたために、韓国は自らの判断で工業団地を再開できなくなった。
 また政治的な面で、中国が北朝鮮への影響力をうまく行使できない要因として、北朝鮮が米国を恐れなくなっていることがある。ブッシュ政権のときは、北朝鮮は米国にいつ攻撃されるかわからず、良くも悪くも恐れていた。このため、中国に頼らざるをえず、金正日は中国に通って「6ヵ国協議を再開」に応じた。しかし、現在、北朝鮮は「米国に対する打撃力を持った」としているし、オバマ政権も、「世界の警察官」はやめたといっている。シリアの空爆を一度決定したものの、議会でひっくり返されたころから、北朝鮮はおそらく、米国が北朝鮮に対して物理的強制力を使うことはないと判断したのだろう。
 経済に関しては、中国人の学者によれば、北朝鮮が改革開放政策をとれば、ある程度の成長が可能だという。しかし、さらに成長を求めれば外国からの「モノ、カネ、ヒト」を導入する必要がある。だからこそ、36年ぶりに党大会を開催して平時に戻し、対外的な関係を調整しようというのが彼らの目論見だったのだろう。実際、韓国や米国にも対話を提案したが、韓国も米国も当然、拒否している。すると、ますます北朝鮮は対外的に挑発行為を繰り返す。要するに、彼らは挑発行為を繰り返して危険だと思わせなければ、相手が交渉に出てこないと思っている。米国で次期政権がスタートするまでに、北朝鮮はあらゆる実験を繰り返し、核ミサイルの能力を上げて次の政権と向き合うだろう。クラッパー国家情報長官のような発言が出ると、北朝鮮には都合の良い話になってしまうかもしれない。
 そのような状況で、日本は国際社会との協調で核ミサイルに向き合わなければならないが、拉致問題もある。拉致被害者の家族会などからは、核ミサイルと拉致の問題を切り離し、個別に交渉してほしいという話も出てくる。今の政権はそこを切り離さず、包括的にという姿勢を変えずにやっているが、北朝鮮は対話路線がうまく行かなければ挑発行為を繰り返し、核ミサイルの能力を上げてくる。その過程で日本に対し、拉致問題で対話を要求する可能性はある。その際、おそらく日本側からすれば、核ミサイルに資する形での日朝交渉であれば、拉致問題を含めて行う。逆の言い方をすると、拉致問題を機に、核ミサイル問題にも資するような対話にするということだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部