第159回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「新たなエネルギー秩序を模索するサウジ・ロシア・米国」一般財団法人 国際開発センター 研究顧問 畑中 美樹(はたなか よしき)【2017/02/27】

日時:2017年2月27日

第157回 中央ユーラシア調査会
報告 「新たなエネルギー秩序を模索するサウジ・ロシア・米国」


一般財団法人 国際開発センター 研究顧問
畑中 美樹 (はたなか よしき)

1. 原油価格の推移と協調減産への合意
 石油輸出国機構(OPEC)の「OPECバスケット価格」で原油価格の推移を見ると、2011年から13年までは100ドルを超えていたが、2016年には年間平均で40.76ドルと過去10数年で最も低い価格になった。OPECと非OPECの産油国が、原油の協調減産に向けて動き出した背景には、このような価格の変化がある。昨年4月にはロシアとサウジアラビアが、少なくとも増産をやめて一定水準で生産量を止めることで合意した。ただ、サウジアラビアとしては当時まだ、イランへの対応を問題にしており、細部の合意までは到達しなかった。その5日後の4月17日には、カタールでOPECと非OPECの国々が集まり、具体的な内容を詰める話し合いをしたが、このときもサウジアラビアが「イランを入れないなら、合意できない」としたため、まとまらなかった。
 その後は上がっていた油価がやや下がり始め、8月になると、「このままでは元のように下がる可能性がある」ということで、OPECと非OPECが再び話し合いをする雰囲気が出てきた。8月に入ると、おそらくOPECでは最も財政状況が厳しいベネズエラが提言し、さらにロシアのエネルギー相が「他の国が生産量を凍結するのであれば、話し合っても良い」として動き始めた。そして昨年9月4、5日に中国・杭州でG20首脳会議が開かれた際には、裏でサウジアラビアのムハンマド副皇太子がロシアの首脳と話し合い、油価が暴落して両国が困らないよう、あるところで下げ止めた方が良いということで合意した。また、2週間後の9月下旬にはサウジアラビアのエネルギー相が、それまでは「イランも減産しなければ合意しない」と言っていたのを、テロ被害や内戦で生産量が落ちていたナイジェリアやリビアを持ち出し、「これらの国は既得権益を戻さなければいけない」ということで、イランについても認めるとし、全体の合意に到達した。9月28日のOPECの非公式協議で減産の合意がなされ、11月30日にはOPEC総会がウィーンで開かれ、まずは2017年1月から6ヵ月、生産量を減らすことで合意した。イランについてサウジアラビアは、増産するとしても国内の傷んだ油田を治すだけの十分な技術や資金量がなく、短期間での増産はできないと考え、認めたのだと思う。OPECの決議を受けて12月10日には、13のOPEC以外の国も加わり、15年ぶりの協調減産に至った。最近の原油価格は、OPECバスケット価格で54ドル前後に上がっている。

2. サウジアラビアのロシアへの接近、悪化する財政
 サウジアラビアは2015年6月ごろからロシアに接近し、同時期にフランスにも近づいている。その背景にはおそらく、当時の米国のオバマ政権による中東政策への不満があった。一昨年の6月にはムハンマド副皇太子がロシアを公式訪問してプーチン大統領と会談するなどし、サウジアラビアのロシアへの接近は5年ぶりで極めて異例なこととして注目された。同年7月上旬には、ロシアの直接投資基金(RDIF)の最高責任者がサウジアラビアの政府系ファンドの1つである公共投資基金(PIF)と、そこからロシアに100億ドルの投資をすることで合意したと発表された。なぜ、こうした取引をしたかだが、サウジアラビアとしては当時のロシアの中東政策、特にシリアのアサド政権に対する支援やアサド政権を支援するイランに対する政策を、若干でも修正するようなことを話せないかということが第1の狙いだったと思う。その見返りとして、ロシア経済を立て直すためのオイルマネーによる投資や、石油生産面での一定程度のロシアの増産容認という2つを提案したのではないか。さらに、米国のオバマ大統領に対する当時のサウジアラビア指導部の強い不満や不信を示したいということもあっただろう。
 サウジアラビアの財政は近年、極めて悪化しており、2015年の決算では財政赤字が980億ドル(約11兆3000億円)だった。さらに2016年の赤字は793億ドル(約9兆1000億円)で、今年の予算では528億ドル(約6兆1000億円)の赤字を計上している。この予算どおりと仮定すると、この3年間だけで2300億ドル(約26兆5000億円)の財政赤字を計上する形になる。現時点でサウジアラビア通貨庁が持っている在外資産はおそらく5700億ドル程度で、600億か700億ドル規模の財政赤字を続ければ、10年以内になくなる。これがおそらく昨年夏以降、サウジアラビアが石油政策を大きく転換し、同時に前年から政治的に接近していたロシアに石油面での協調関係も求める動きにつながったのではないか。 
 もう1つ、アラビア湾岸の産油国にとって大きな出来事だが、サウジアラビアを含む湾岸協力会議(GCC)の6ヵ国は2018年1月から、税率5%の付加価値税(VAT)の導入を決めている。これまで湾岸の産油国では、国営、公営の学校や病院が無料で、電気料金や水道料金なども非常に低水準で抑制されてきた。議会がなく、国民に政治参加の機会はないものの、個人の所得税がないなど、経済的恩典が多いということでバランスを取り、国民の歓心を買って政権の安定を維持してきた。そこが油価の低迷によって、立ち行かなくなっている。このため、油価の再建、回復への努力をする一方で、VATを導入せざるをえなくなった。他に、タバコやソフトドリンクなどに対し、サービス税を課すような歳入の強化策を、これらの国々では相次いで導入している。来年以降、湾岸の産油国も従来のようにすべてタックスフリーではなくなるので、その面からも動向を見ていく必要がありそうだ。
 サウジアラビアは米国のオバマ政権に対し、非常に不満を持っていた。一番の理由はサウジアラビアが最も脅威に感じているイランに対し、サウジアラビアから見ると、やや緩やかな条件で核合意をまとめたことだ。第2に、イランも支援しているシリアのアサド政権が化学兵器を使用した疑いがある時に、軍事攻撃の決断をしながら翻した。そして、サウジアラビアから見ると同じ親米のアラブの国で、軍事面での盟主でもあるエジプトのムバラク政権が「アラブの春」で倒された際、傍観していた。さらに、その後にムスリム同胞団を背景とする政権が立ち上がり、これを軍事政権が倒したが、その動きを「非民主的」と批判した。このようにオバマ政権の中東政策は、サウジアラビアが考える地域の安定政策とは逆方向だった。
 オバマ政権に反発していた分、トランプ政権への期待は大きいが、トランプ大統領の発言には非常にブレがあることもわかっており、警戒感も抱いているのではないか。ただ、しばらくはトランプ政権と行動を共にしようという姿勢が顕著だと思う。今のサウジアラビアの政権がトランプ大統領に対して信頼感を少し抱いている理由は、2つある。1つはやはり中東政策で、トランプ政権ははっきりとイランを封じ込め、イスラム国(ISまたはISIS)を打倒するとしている。サウジアラビアから見て安全保障面での最大の脅威はイランで、治安面での最大の脅威はISだ。もう1つの理由は、オバマ政権は民主主義や人権を前面に押し出し、必ずしもそれらを守っていない国々に注意を与えるような言動をとってきたが、トランプ大統領はこれまでのところ、これらには触れていないことだ。そうした点から組みやすいというのが、サウジアラビアをはじめとする親米アラブ諸国の現在の姿勢ではないか。トランプ政権から見ても、イランの封じ込めとISを叩くために何が必要かというと、これまでの同盟国で軍事力や政治力のあるアラブの盟主エジプト、オイルマネーパワーと石油面で力があるサウジアラビア、さらに実体面で軍事力を出してシリアでIS等とも戦っているトルコ、従来から米国と同盟関係にあるイスラエルを糾合することでイランと対峙し、ISを叩くという大きな絵があろうかと思う。今後はGCCと米国は、イランによるシリアのアサド政権の支援、レバノンのヒズボラ、あるいはイエメンのフーシ派、バハレーンなどサウジ東部でのシーア派住民に対する支援を声高に問題にしつつ、イランを封じ込める政策をとっていくのではないか。
 ただ、サウジアラビアと米国は、イランの脅威やIS撲滅という政治的な面では協調できても、エネルギー面ではわからない。油価が立ち直れば米国のシェールオイル生産が復活し、2、3年前の油価暴落前の状況に戻る。その辺りをサウジアラビアがどう考えているかだが、米国のシェールオイル生産はすぐには増えず、2年間程度は我慢できるという考え方ではないか。その間に油価50ドルの底値を支える体制を作り、その先についてはその時点で話し直そうという考えだと思う。

3. サウジアラビアによる米国、ロシアへの期待
 米国のトランプ大統領は当初、ロシアとの連携を模索し、1月末にプーチン大統領と電話会談した際、対ISの協力について議論し、協力する方向で話をしたと発表された。しかし、約3週間後にはティラーソン国務長官が、「IS掃討作戦でロシアと協力することには必ずしも前向きでない」、「慎重に行きたい」と述べるなど、2月13日のフリン米大統領補佐官辞任以降、トランプ政権のロシア観に変化が起きているようだ。このため、サウジアラビアの想定からややはずれる方向に来ているが、サウジアラビアはやはり、米国にもエネルギー面で50ドルという底値に協調してほしい。またイランに対し、米国とロシアがどのような姿勢をとるかに注目している。イランはサウジアラビアと比べて特に軍事面で大きな力を持ち、サウジアラビアは何としてもイランの核、ミサイル開発をやめさせたい。このため、米国に「湾岸の警官」となって取り締まってほしい。同時にイランと敵対していないロシアには、イランの周辺国への影響力行使に歯止めをかけてほしい。そういう意味で、トランプ政権がロシアとその面で話し合えるかどうかに注目している。
 イランのミサイル開発は国連決議で止められており、核兵器を搭載するようなミサイルの開発をしてはいけないとされているが、イランの言い分は「そもそも核開発はしておらず、そのようなミサイルを飛ばしている訳ではないので違反ではない」というものだ。ただ、実験の能力のほか、北朝鮮のミサイル技師約200人がイランに入っていることも確認されており、北朝鮮とイランがミサイルの共同行動をとっていることは、湾岸の為政者や専門家の間では知られた事実だ。このような中でサウジアラビアは、第1に原油価格を下げ止めて50ドルを底値とし、それ以下にはならない協調体制をとりたい。第2に、イランの脅威に対し、米国が正面から押してロシアが後ろから歯止めをかけるような体制を作りたい。トランプ政権がロシアと協調し、サウジアラビアの利益にかなうこれら2つの点を実現させるような3国の関係を作りたいというのが、現在のサウジアラビアの狙いではないかと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部