平成28年度 第4回 国際情勢研究会 報告/ 「中国海警・中国漁船をめぐる諸問題」 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 佐藤 考一(さとう こういち)【2017/01/12】

講演日時:2017年1月12日

平成28年度 第4回 国際情勢研究会
報告/ 「中国海警・中国漁船をめぐる諸問題」


桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
佐藤 考一 (さとう こういち)

1. 中国の低強度紛争の特徴と中国海警
 中国の海洋進出が問題になっているが、これは大体3つに類型化できる。第1に高強度紛争がある。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を積んだ中国の戦略原潜と米海軍の近接偵察による対峙だ。中国側の観察では、2009年には米国は260回の近接偵察を行い、2014年にはそれが1200回に増えたという。インペッカブル号への妨害や航空機EP-3の衝突のような事件は、今後も起こり得るということだ。第2は中強度紛争で、古くは1974年と88年に中越間でも海戦があった。最近は近代的な海戦の訓練や島礁の埋め立てを中国側が行い、これに対して米国が航行の自由作戦をやっている。第3は低強度紛争で、海警、貨物船、漁船、少数の海軍艦艇を動員した中国と、南シナ海での東南アジア諸国連合(ASEAN)側の公船、漁船のにらみ合い、そして東シナ海での日本の海上保安庁との摩擦だ。中国が米海軍や海上自衛隊との衝突を避けるには、今後しばらくは低強度紛争が中心になるだろう。
 低強度紛争は、核戦争を含む全面戦争の高強度紛争、通常兵器による正規戦の中強度紛争と対比して、それ以外のテロ、ゲリラによる不正規戦争を指すとされるが、明確な定義はない。中国と他の低強度紛争を行っているグループとの間には、違いがある。第1に、通常は高強度紛争や中強度紛争ができない交戦主体が低強度紛争を行うが、中国の場合、高強度紛争や中強度紛争の手段も持っている。このため、紛争の強度を上げずに、優位に立つための工夫としての側面がある。もう1つは、これは米国が言っていることだが、「ハイブリッド・ウォー」とも言われ、高強度紛争に関わる問題に低強度紛争の要素を取り入れている。インペッカブル号事件は、その1つだ。また中国の場合、小型の海軍艦艇だけでなく、海警などの海上保安機関船艇や貨物船、漁船を含めてやってくる。
 中国の海上保安機関は、2012年までは国土資源部・海監、農業部・漁政、交通部・海巡、公安部・海警、そして税関の方の海関で、また教育部や沿岸の県や郷の政府も船を持っていた。このように、相当数の海上保安機関があった。かなり重複した形で任務を遂行しており、様々な問題も生じていた。そこで、2013年3月の第12期全国人民代表大会第1回会議で可決された国務院機構改革・職能変更法案に基づき、内水に専念する海巡を除いて国土資源部国家海洋局の管理下で、海監、漁政、海警、そして税関の海関の4機関を統合し、中国海警局の指揮下に置くことになった。
 2013年7月に海警局が国家海洋局の建物に引っ越したが、中国海警局と国家海洋局の2枚の看板がかかっており、仲が悪いのがよくわかる。中の組織を見ると、国家海洋局長が中国海警局の政治委員を兼任し、中国海警局の局長が国家海洋局の党の副書記を務めている。悪い言い方だが、相互に監視して突出したことができないようにしているように見える。人員は2013年時点で1万6296人、日本の海上保安庁は2016年時点で1万3422人なので、中国の方が多い。また、北海分局、東海分局、南海分局に船を統合したことになっているが、これについても必ずしもうまく行っていないようだ。
 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)の統計によると、2010年から2016年前半までに南シナ海で起きた船艇の衝突など、45件のトラブルの71%に中国海警かその前身組織が関与しているという。さらに中国海軍も入れると、80%は中国側が起こした問題だそうだ。一方、過去5年の中国海警の予算は年平均17億4000万米ドルで、日本の海上保安庁の15億米ドルより多い。中国は今や、世界最大の沿岸警備隊を持っている。また、中国はやはり低強度紛争で特に海警の船を重視しているとわかる。尖閣諸島へ出てきた中国海警の船も、2013年7月から12月は13隻だったが、昨年1月から12月は33隻だった。海上警察、法執行機関の船が、ベトナム等の漁船を沈めているという話もあり、かなり危ないことをしている。
 私は世界平和研究所で、自衛隊や海上保安庁のOBと昨年1年間、研究会をしており、東アジア、東南アジアの海上法執行機関の漁船などの民間船舶に行う法執行活動に関し、東アジア首脳会議やASEAN地域フォーラムなどの傘下で国際会議を作り、順守すべき原則づくりや他国の海上法執行機関との連絡体制の確保をする必要があると提案している。情報共有センターのようなものを作り、海の現場でも監視の協力をするということだ。そして最終的には、中曽根康弘元総理が提案している常設機関として東アジア海洋安全保障機構を作ろうという話をしている。

2. 海軍・海警を支援する中国漁船:海上民兵
 中国は低強度紛争で、海警や海上保安機関以外に民間船舶も使っている。2014年5月から7月のパラセル諸島周辺のオイルリグ護衛には、海警船艇と共に船体に鉄板を貼った漁船が出てきた。ちなみに、船体に鉄板を貼った漁船は過去、1995年から96年にかけてもミスチーフ周辺に出てきている。なぜ、漁船に鉄板を貼って出してくるかというと、浅いところが多く、大きな船は危ないからだ。また、海上民兵は漁民としての活動のほか、海軍、海警のために情報収集し、妨害工作なども行う。さらに海警船艇と共に他国との係争海域へ出漁しており、米海軍大学のエリクソン教授によれば、武装民兵で腕が立つ人は機雷戦や掃海、封鎖・対空ミサイル防衛、軽火器の操作等もでき、欺瞞、偽装、航行ガイド、医療行為、運搬、修理なども行えるという。基幹民兵の一部が武装民兵で、基幹民兵については軍事訓練が定期的に行われている。一般民兵は、あまり頻繁に訓練していない。基幹民兵は2010年時点で、陸、海を合わせて中国全体で800万人いたという。
 海上民兵の指揮命令系統は、人民解放軍の各戦区と海警、地方政府の3者が関与している。海警と海監、国家海洋局と海警局が入れ子になり、互いに指導者が入っているのと同じようなことが海上民兵に見られる。その理由は、3つある。第1に海上民兵の任務は元々、国防、法執行、国内の安全、自然災害、事故など多岐に渡っている。第2に、沿海諸省の地方指導者達は海を新しい開発の場と見なしている。第3に、軍事戦略として海洋強国の実現に焦点が当てられている。民兵という組織は元々、軍民二重構造で、地方の文民と軍の指導者が共に民兵建設を行うという制度化されたメカニズムが存在している。党書記が軍組織の党委員会の第一書記になり、軍の同レベルの指導者が地方の党委員会の第一書記になる。やはり相互監視になる。

3. 日本へのインプリケーション:考えるべき3つのこと
 海上民兵に関する日本へのインプリケーションとして考えられることは、3つある。第1に、日本の尖閣諸島周辺に既に出てきているのか、また、その理由は何か。第2に、海上民兵の究極の形態はどのようなものが考えられるか。そして第3に、これに対処する際の法的問題があるのかないのか。第1の尖閣諸島周辺に出てきているかどうかについては、出てきている可能性がある。
 尖閣諸島周辺の海は、3つに分かれている。中間水域は相手国の許可書なしに両方とも操業でき、暫定水域は漁船の乗り入れ数や獲って良い魚の数などで制限がある。中国漁船は1万7500隻以内、日本漁船は800隻以内となっている。そして、もう1つは何も協定がないところだ。また、日本の排他的経済水域については、中国漁船は298隻まで乗り入れることができ、獲って良い漁獲の割り当ては9341トンとされている。中国側では逆に、日本側の船が298隻までで、総漁獲割当量も同様だ。問題は北緯27度線以南で、日本の法律で海上保安庁が取締りを行う、尖閣諸島の領海内以外は何もルールがない。
 違法操業した外国漁船に対する領海外退去警告件数で中国側の数字を見ると、2008年、2010年、2012年、2013年、2014年に大きく跳ね上がっている。2008年は中国側が初めて尖閣の周りで領海侵犯をした年で、2010年には衝突事件があった。また、2012年は日本が尖閣を国有化した年で、2013年は海洋強国論が出た年だ。2014年は、サンゴの密漁船が大挙してきた年だ。2015年は70隻だったが、2016年には8月5日から9日だけで72隻も入ってきた。2014年を除いて、いずれも対日関係をめぐって中国共産党内で議論があったと考えられる。中国国内では、2008年6月に中国の胡錦濤国家主席と日本の福田康夫首相との間で日中間の東シナ海における共同開発に関する了解が出されたことに、不満な勢力があり、これを反故にしようとしているという。尖閣周辺海域は、1978年4月にも武装漁船が出てきたが、高原明生教授の研究によれば、この時は鄧小平と蘇振華の間の権力闘争が背景にあった。当時の報道では海上民兵が動員されたという。2008年以降の上記の事象も、中国国内の内紛があったと考えられるので、(習近平政権に圧力をかけるために、政権の政策に不満なグループにより)海上民兵として訓練された漁民が、平服のまま動員された可能性がある。これが、第1の問いへの暫定的な答えである。
 第2の海上民兵の究極の形態については、この1978年の武装漁船のようなものになるだろう。もう一つ考えられるのは、漁船に偽装して、巡視船や軍艦を攻撃するもので、2001年12月に奄美大島沖で自沈した北朝鮮の工作船のような形態である。第3の海上民兵に対処する際の法的問題については、米国の海軍大学のクラスカ教授によれば、海戦における現代法規では、沿岸国の漁船を犯すべからざることが規定されている。中国の海上民兵は特別の困難をもたらしており、日本では、漁船であれば、「領海等における外国船舶の航行に関する法律」や「外国人漁業の規制に関する法律」で退去命令や立入検査が可能だが、武器を持った海上民兵が乗っている場合は大きな危険を伴う。また、相手の数が多い場合、対処の困難は増加する。
 したがって、漁業関係法だけでやるのであれば、護衛艦並みの抗堪性のある巡視船で被疑船を挟み、搭載艇が攻撃されたら撃沈できる武器を装備して立入検査を実施する。その際、搭載艇の海上保安官の安全をはかるような形にする必要がある。海上保安庁については現在、1800億円ぐらいだった予算が2100億円に増え、これまでで最大規模とされているが、船の3分の1ぐらいは老朽化している。しかも、 「しきしま」クラスと「あそ」クラスの船だけが、軍艦と同じ抗堪性のある船で、あとは普通の船なのでぶつけられれば弱い。将来は海上保安庁法を改定し、法執行と国防のグレーゾーンの問題に対処できるようにしていく必要がある。また、人員・船艇の双方で海上保安庁を抜本的に拡充しなければいけない。紛争になった場合、平時と有事、戦時の境目が曖昧になっていることがあり、よほど気を付けなければやられてしまう。東アジア首脳会議やASEAN地域フォーラム(ARF)の下に国際会議を作って話し合い、情報交換をして海での監視を行い、ルール作りをしていく。その中に、海上民兵の問題も入れていく必要があると思う。
 なお、中国の対外進出は、東シナ海・南シナ海だけではない。中国は「一帯一路」のスローガンの下に、陸のシルクロード、海のシルクロードということも言っており、中央アジア、太平洋、東アジアから、印度洋、アフリカ、ヨーロッパにまで、L字型に影響力を行使しようとしている。海のシルクロードについては、中国人の学者は、海洋強国論との絡みでマハンを引用しており、その目的が経済協力だけでないことがわかるが、陸のシルクロードは経済協力だけなのか、よくわからない。欧州やロシアの学者の間では、マッキンダーのハートランド論の見地から、陸のシルクロードを内周の弧、海のシルクロードを外周の弧と見て、中国に戦略的な意図があるとする議論がある。中国側では、傅瑩元駐英大使などが、陸のシルクロードの宣伝の際に、中国の意図は経済協力と開発のみで、(ユーラシア大陸部の)覇権を握ろうとするようなハートランド論的な野心はないと否定している。陸のシルクロード自体は、あまり上手くいっていないといわれているが、この問題は、もう少し注意して見る必要がある。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部