第161回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「中央アジア地域におけるJICAの取組」独立行政法人国際協力機構(JICA) 東・中央アジア部長 加藤 俊伸(かとう としのぶ)【2017/05/18】

日時:2017年5月18日

第161回 中央ユーラシア調査会
報告 「中央アジア地域におけるJICAの取組」


独立行政法人国際協力機構(JICA)
東・中央アジア部長
加藤 俊伸 (かとう としのぶ)

1. 開発課題から見る中央アジア
 JICA東・中央アジア部は中央アジア、コーカサス、モンゴル、中国の10ヶ国を担当している。中央アジアに関しては、直近では自身がモンゴル事務所に勤務していたこともあり、最初にキルギスへ行った際には、モンゴルによく似ていると思った。両国には遊牧の文化があるほか、政治体制も瓜二つで、おそらくキルギスはモンゴルの体制を参考にしたのだと思われる。一方、ウズベキスタンについては、農耕文化が定着しており、他の中央アジアの国々と多少異なる印象を持っている。モンゴルについては現在、貿易を見ると、銅・石炭の輸出がほとんどであるがその輸出の約9割が中国向けになっている。社会主義時代には、経済関係の対象はロシアがほとんどだったが、現在は貿易・投資で中国との関係が多くを占める逆転した状況である。今後は同様の状況が中央アジア諸国にも次第に波及していくのかというのが注目されるところでもある。
 中国以外の担当地域各国の共通の課題としては、ジョージアは黒海に面しているが、他はすべて一般には開発が難しい内陸国であることである。また、各国の人口はウズベキスタン、カザフスタンを除くと数百万人規模で、このため市場規模も小さい。東南アジア諸国連合(ASEAN)と比べると、人口密度は10分の1程度だ。もう1つの共通性は旧社会主義国であることであり、例えば、南アジアやアフリカの国々と比べると、基礎的な社会インフラである学校や病院は一定程度整っている。このことは開発上の優位点であり、実際に識字率は各国とも98%を超える。
 所得を見ると、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンでは石油や天然ガスのような地下資源が多く産出されるため、一人あたりの所得が高い。そしてジョージア、アルメニア、モンゴル、ウズベキスタンなどが中間にあり、所得が低いのはタジキスタンやキルギスだ。昨年まではタジキスタンが最も低かったが、今年の新しい統計ではキルギスが最下位になっている。ただし、タジキスタンの統計は不明なところもあると言われており、実感としてはタジキスタンの方が経済的に厳しい状況と思われる。
 各国の所得状況を踏まえ、JICAの無償資金協力は、低所得国のタジキスタンやキルギスが中心となっている。円借款は年によってばらつきがあるが、中所得国のウズベキスタン、モンゴルが多い。技術協力については、すべての国で実施している。JICAの事務所はODAのオペレーションの多い低中所得国を中心に設置しており、モンゴル、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスにある。今年5月には、ジョージアにも支所を設置した。
 具体的開発課題に関しては、やはり地域の連結性が向上しなければ、なかなか貿易や発展につながらない。一方で、ソ連邦時代とは異なり、各国の利益が相反するところがあるため、例えばエネルギーや水資源に関して二国間での調整が難しい部分もある。また、周辺にアフガニスタンやシリアなどの不安定要素もある。元来は穏健なイスラム主義であるが、イスラム過激主義も存在しており、この1、2年はロシアの経済減速に始まる経済不況により、ロシアやカザフスタンからの出稼ぎ者が減少し、帰国しても職がないという状況が若者のIS参加の要因ともなっていると言われている。これまで4000人がISに参加し、数百人が帰還したとの情報もある。先に述べた通り、地方でも教育や医療の基礎的インフラは一定程度整備されているが、老朽化は進んでおり、エネルギーや運輸、水資源関係設備等の経済インフラも同様の状況だ。
 多くのエリート層はロシアで教育を受け、ロシア的価値を共有していると考えられる。西側のような完全な自由経済よりも、ロシアや中国のような市場経済化を望んでいるのではないかと思われることもある。モンゴルの例を見ても大企業は国有企業で、資本の半分は政府が所有するような状況が続いている。前述したように、近年は経済成長が減速しているが、IMFの統計によれば、今年辺りから次第に持ち直す見通しだ。一方で将来的な発展を考えると、人口密度が低く、市場規模は5ヵ国で人口6800万人と限定されるため、資源分野以外の外国投資については急速な伸長は難しい面もある。
 各国政府機構に関しては、人材育成やガバナンスの向上が求められる。どこの役所も規模が小さく、専門性を持ったテクノクラートを持続的に育成していくことが課題である。とくに、世界経済の急速なグローバル化に対応して、新たな専門人材も必要になっている。
 ユーラシア経済同盟との関係で言うと、カザフスタンではロシアとの輸出入額が伸びている。一方、キルギスについては、ユーラシア経済同盟に入ったのは2015年だが、国際貿易センターの統計では2016年には輸入額で中国がロシアを上回り順位が逆転している。キルギスの今後の貿易動向とともに、同じくCSTO(集団安全保障条約)に加盟しているがユーラシア経済同盟には加盟していないタジキスタンの動向も注目される。

2. 日本への期待が高い中央アジア諸国
 2016年に中央アジア地域で、外務省が行った対日世論調査の結果を見ると、「信頼できる国」としては最も多くの人がロシアを挙げ、全体の61%となっている。一方、日本は11%であるが第2位であり、ロシア以外の国では断然高かった。また、複数回答可の「中央アジアの重要なパートナー」という質問では、中国(49%)がロシア(75%)に次ぎ、日本は25%で3位だった。
 やはり経済的な面では、特に中国からの投資に期待しているのだと考えられる。その一方で、中国の「一帯一路」構想は短期的には中国国内の過剰生産対策という面もあり、中央アジアの国々が期待する中国による投資によって各国の生産や輸出、雇用の拡大が進展していくのかという点は注視する必要がある。市場規模が小さく比較的人件費も高い中央アジア地域で、東南アジアと中国との関係とは異なる経済分業がうまく成り立つかがポイントとなるだろう。
 「一帯一路」構想と中央アジアとの関連では、最近、中国とヨーロッパを結ぶ中欧列車に関する論文を読んだが、中国内陸都市の重慶など電子・自動車部品を生産する集積地とヨーロッパを結ぶルートの発展の可能性はあるが、現状では補助金が必要であり中国へのインバウンド貨物の少なさも課題とのことである。中央アジア各国としては、このインバウンドに農産加工品などの各国の輸出品が加えられるかというのもポイントかもしれない。
 日本への信頼がなぜ高いのかについては、より詳細な分析が必要かもしれないが、やはりソ連崩壊直後からの政府開発援助(ODA)の影響が大きいと思う。中央アジア5ヵ国に対する2013年の二国間経済協力を見ると、日本は米国に次いで2位であるが、1990年代から欧米ドナーとは多少異なる漸進的な改革支援を人材育成や基礎的インフラを中心に継続的に実施してきたことが高い評価を受けていると思われる。一方、経済発展しつつある中央アジア各国は日本に対し、民間投資、民間協力への期待が年々高まっており、とくにカザフスタンなどでは経済特区(SEZ)を整備し、ビジネス環境を整え日本の民間企業の進出に大きく期待している。

3. 中央アジア諸国の自立的発展をODAにより支援
 JICAの協力に関しては、「中央アジア+日本」で言及されている、「中央アジアの国々が開かれ、安定し、自立的な発展を支えていく」ことを基本としている。協力の重点としては、やはりガバナンスの向上や市場経済化支援が第一に挙げられる。2000年のウズベキスタンを皮切りにキルギス、タジキスタン、モンゴルにおいて「人材育成奨学計画(JDS)」で毎年実施している。これは市場経済化移行国を対象に、法律や経済など主に社会科学系分野で、JICAが各国の公務員等を対象に日本の大学の修士課程に留学させる仕組みだ。留学者の中ではすでにキルギスの法務大臣をはじめ、政府で重要な位置を占める人も出てきている。中央アジア各国では欧米への留学者は比較的少なく、日本への留学が西側の制度や価値観を学ぶ貴重な機会となっている。このため、この枠組みで日本へ留学した人材に対する各国政府からの評価は非常に高く、このため登用される機会も多い。本事業はガバナンス向上、市場経済化支援における中核的事業であり今後も発展させていきたいと考えている。
 また中央アジア諸国における、産業の多角化や雇用促進も重要だ。特に安定という面では、キルギスやタジキスタンの雇用増大が重要で、農業や農産加工業を中心に産業の多角化を支援していかなければならない。所得の高い資源国についても所得の格差の緩和のための産業の多角化は必要であり、資源のみに頼らない安定した経済成長にも資するものである。
 このためのアプローチの一つは中小企業振興、産業人材の育成であり、「日本センター」が大きな役割を果たしている。日本センターはウズベキスタン、キルギス、カザフスタンで活動しており、ビジネス・コースや日本語コース、そして相互理解の促進という3つの柱で運営している。中央アジアは今、ウズベキスタンなどでも中小企業を振興しようとしており、中小企業のビジネスで成功する人も出てきている。この日本センターを核に、日本企業とのビジネス・マッチングを促進するような交流会も開いている。日本センターの他にも新たなニーズを踏まえ産業人材の育成にも着手しているところである。
 域内外の連結性強化では、幹線道路の整備について、トンネルや橋などのより技術的に難しい部分を中心に協力を実施している。アジア開発銀行(ADB)が主導する中央アジア地域経済協力(CAREC)は、中央アジア5ヵ国のほか、周辺の中国、モンゴル、アフガニスタン、パキスタン、アゼルバイジャン、ジョージアが参加し、交通とエネルギーの連結性向上、貿易の円滑化という3つのテーマに関する協力の枠組みとなっている。JICAの道路や交通インフラに関する協力についてはCAREC回廊を念頭に計画・実施しており、ADBとの連携案件も多い。老朽化したインフラの課題でも、日本の技術の活用を念頭に、ウズベキスタンのガス火力発電所などを円借款で協力している。
 中央アジアは資源分野以外で日本の大手企業が進出するのは難しい面もあるが、ニッチなところでは日本の中小企業が活躍する場も実際にあり、「中小企業海外展開支援」などの枠組みを活用し、それらを拡大する可能性も探っている。大学関係では、最近、トルクメニスタン、タジキスタン、ウズベキスタンで、イノベーションや大学改革に取り組もうとする動きが見えており、これらの改革の動向を見ながら協力を検討していきたいと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部