【新年の経済見通し】   (株)日本興業銀行
  調査部長
 河野 春樹


97年の経済状況とは
 本年の経済見通しについては、かなり厳しい見方をしており、マイナス成長もありうると予想している。 しかし、それにしては危機意識が十分に共有されていず、これが一番の危機なのかもしれない。
 97年度を振り返ると、4月からの増税などで予想外に個人消費が影響を受けての、 いわゆる財政デフレが景気下振れの最も大きな原因になった。また、一連の金融システム不安の問題。 とくに、株価の低迷により、金融機関の資産圧縮の動きがひろがり、 中小企業などで資金繰りが厳しくなるなど、金融面からくるデフレ・インパクトも影響した。
 そして、アジア経済の混乱と日本への影響。これらのデフレの流れに対処しなければならない。 このことが事態を厳しいものにしている。景気の状況は、昨年秋頃から明らかに後退局面に入っている。 97年中盤までは、消費の停滞を設備投資と輸出でなんとか支えてきたが、これが期待できない。 これにアジア経済の混乱が加わり、マイナスのスパイラルが働いている。企業は在庫率が急上昇しており、 これから生産が抑制されざるを得ない。また、最終需要の動向を見ても、 97年4−6月期の個人消費は消費税の駆け込み需要の反動で大きく落ち込んだが、 その後の戻りが非常に弱く、また、設備投資も頭打ち感が出ており、政策関連需要、 公共投資は当然マイナスになっている。 また、ここまで経済を支えてきた純輸出も下がる動きで、 景気の牽引役が見当たらなくなってきた。在庫調整の進み具合は、海外経済の動向にかなり左右される。
 アジアは、これまで長く経済成長を持続してきたが、一向に経常収支の赤字が改善されず、 今回の危機を招くことになった。例えば、タイは経常収支の対GDP比はマイナス8%で、 これだけ海外からの資本が投下されながら、輸出力の向上ができず、 結局短期の資本の取り入れに走らざるを得なかった。このことが将来の懸念を呼び、 為替が大きく売り込まれ、それが他の地域にも波及した。防衛のために金利を高く設定したことで、 株価も下落し、資産デフレのマイナスのインパクトが始まり、悪循環にはまっている。 アジアがどうなるかは、輸出がどう動くかに大きく関係する。為替の切下げにより、輸出が伸び、 経済が早期に回復するという期待も一部にはあったが、輸出の伸びをみると、 せいぜいで前年比1割り程度の伸びで、これでは経済は支えられない。 アジア経済は当面大きく落ち込まざるを得ない。タイにおいてはマイナス成長は必至。 韓国もゼロ成長、あるいはマイナスもあり得る。 日本にとっても輸出環境としてのアジアは非常に厳しい状況になっており、 アジアは3ー5年の調整局面を経過せざるを得ない。

98年の経済動向予想
 このような外部環境のなかでは、在庫調整も外需の下振れ、国内需要の下振れで長期化せざるを得ない。 特に、日本の輸出は4割はアジアに向かっている。この部分が低迷、また、 アジアから安い商品が流入する影響もある。また、為替もアジア通貨が切下げで、 実質為替レートは円高の方向に動き、輸出を抑制するファクターとなっている。 個人消費も消費マインドの下振れは顕著。まず、雇用環境が徐々に悪化しており、 新規の求人数は急速に伸びが縮小しつつある。所得の伸びには期待できない。また、年金改革、 介護保険の導入など、負担が増える流れを察知し、支出を控える方向がさらに強まっている。 個人消費の動向をどう見るかが景気見通しの重要な部分だが、98年度は消費税要因がないといっても、 0.7%程度の伸びしか見込めない。2兆円の所得税減税があるが、 それがどれだけ消費にまわるかは限定的。GDP押し上げ効果は0・1%程度。 企業部門も状況判断が急速に慎重化している。ここまでの企業の利益は輸出、円安によって支えられてきた。 輸出がこれから頭打ちになり、また、情報通信も収益拡大に寄与したが、これも陰りが見え始めている。 全体を牽引するパワーがなくなりつつある。本行の企業収益の見通しでは4.5%の5年ぶりの減益となる。 設備投資の動向も景気との兼ね合いでは重要だが、ここも徐々に伸びが鈍っており、 中小企業では若干ではあるが前年比マイナスに入り始めている。収益が悪化し始めていること、 稼働率が落ちていること、アジアとの競合などを考えあわせると、設備投資は慎重化していく。 加えて、金融機関の貸し出し圧縮の動きで、中小企業の資金繰り判断がそうとうマイナスになっており、 金づまり現象が起きている。経済全体としてみると、0.5%のマイナス成長を覚悟しなければならない。 そうなると74年以来、24年ぶりのマイナス成長となる。
 このように厳しい見方をする理由は、98年が非製造業にとって調整局面と位置づけているため。 製造業がリストラなどを行い生産性の向上に務めてきたのに対し、 非製造業は生産性の向上を十分にあげるに至っていない。特に、金融、証券、建設、 不動産などは今まさに淘汰がされているときであり、 その中でより効率的なシステムを模索している最中である。バランスの良い生産性の上昇が、 全体の上昇には必要であり、98年は引き続き非製造業の分野に取組むべきだろう。 局面の打開には方法としては、海外からの直接投資をうまく活用することが一つ。 日本の資本だけで活性化を図るのも限界がある。 そのためには海外の投資が入りやすい環境を整えることが必要になる。また、 卸し売り業は他の産業にとってのインフラにあたるので、ここが効率化されることで、 産業全体にプラスの影響がでる。そういう意味では金融、建設、電力などの部門が活性化することは、 全体にとって意味が大きい。

 財政立て直しの方法論の選択は難しいが、例えば、今の公共投資の圧縮は一律7%カットということだが、 やるべき部門とやめるべき部分の吟味は進んでいない。この部分が構造改革の最重要点ではないか。 また、法人税の実効税率についても40%まで下げることが必要。二兆円の特別減税があるが、 これも5兆円規模で、しかも恒久減税化しないとインパクトがない。それに金融システムへの資本の注入と、 規制緩和など従来の構造改革をさらに推進する。この組み合わせがうまく働けば、 日本経済も浮上のきっかけをつかめる可能性がある。 政治のリーダーシップでより思い切った手を打つことを求めたい。

(第235回月例昼食講演会要旨/1998.1.16)