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グローバル人材の育成と日本~~IISTとの関わりを中心に | 慶応義塾大学名誉教授 IIST評議員 小林 規威【配信日:2012/10/31 No.0212-0866】

配信日:2012年10月31日

グローバル人材の育成と日本~~IISTとの関わりを中心に

慶応義塾大学名誉教授
IIST評議員
小林 規威


まえおき
 今日世界経済経営のグローバル化は大きく進展した。グローバル化は経営の多様化、複雑化への対応への要求を強くする。将来に向かい日本の国際企業における国際人材育成への対応もますますこの期待に答えてゆかなければならないと思う。


 経営グローバル企業の発展段階には、本社中心型、現地経営重視型 、 地域統合管理重視型、そして本当のグローバル型 といった幾つかの類型があると考えられている。※(1) ここで本当のグローバル企業とは、国境国籍の区別を超えて人、物、金、技術、情報の最適活用をはかり、多様化、複雑化の頸木をプラスのシナジー(synergy)に転換し、グローバルにオプチマム(optimum)な経営成果を上げてゆく企業のことであると理解されている。※(2)私見によれば、この類型から見ると、日本の国際企業の多くは、未だ本社中心型か地域統合管理重視型のレベルにとどまっている。私は、日本から国際競争力の強い本当のグローバル企業が多数生まれてくることを期待している。しかし現実の日本企業とこうした本当のグローバル企業との間の格差は極めて大である。さらにこの格差を縮めるためには、経営者の意識構造(mind set)の大改革が必要となると私は考えている。

 ここでより現実的に日本の国際企業による人材育成について考えてみよう。そこで我々はその企業が上記のグローバル化4段階のうち現在どの段階にあり、またどの段階に向かっているのかを十分に見定めなければならない。その上でその現状や方向に適応した人材育成の理念や方針の立案推進が必要になるのだと思う。

日本における最初の国際経営人材育成の試みとIIST
 1969年IISTは、国際企業の人材育成を目標として、日本で始めて、富士を仰ぎ見る富士宮の広大な原野に、大学院レベルの高等専門教育訓練機関として、全寮制の一年制コースを開設した。それは時あたかも日本が、戦後続いた外資に対する国内資本保護体制から離脱し、完全な資本自由化体制への移行を決意した、不安と希望とに満ち満ちた時代であった。そこではいかに速やかに日本企業の国際競争力を充実させ、そのために必要な経営人材を養うのかが最大の関心事であった。※(3) IISTの創設はこのような時代の要請に答えるものであった。

 IISTの計画、創設、運用は次のような官,産学三者協力のもとで着実に進められていった。

 官の立場からIISTの開設計画の推進をバックアップしたのは、山下英明氏、渡辺弥栄司氏に代表される通産省の有力官僚であった。

 歴代の経団連会長、石坂泰三氏、稲山嘉寛氏、そして土光敏夫氏なども全力をあげてIISTの計画、開設、運用の努力に協力した。同じ経団連の堀江薫雄氏は、後に最初のIIST代表理事に就任されたが、幸子夫人ともどもにIISTの運営、発展に大きく貢献された。

 学界においても、当時の国際経済、開発経済のリーダーたちだった、板垣与一(一橋)、川野重任(東大)、山城章(一橋)そして山本登(慶應義塾)などの諸教授が、IISTのカリキュラッム作成(国際経済、国際経営、地域研究、貿易実務、そして英語教育から構成されていた)に参画し、講師陣の選定、授業計画の作成などに夜を日についで議論されたことを覚えている。私がIISTの設立に最初に関係したのは、こうしたリーダー、とりわけ山本登教授の要請によるものであった。私が所属していた慶応義塾大学ビジネススクールの教授陣も、当時非常にユニークだった実践的なハーバードビジネススクール流のケースメソードをIISTの教育に移植して全面的な協力をおこなった。

 当時国際経営というのは、日本では未開発の研究教育分野であった。この点を補ってくれたのが海外、とりわけ米国の国際経営学会(AIB)のリーダーたちであった。NYUのJohn Fayerweather教授, MITのRichard Robinson教授, IndianaのRichard Farmer教授などAIBの創設者であり、国際経営学の権威である有力教授が相次いで来日し、富士宮キャンパスに住み込んでIISTプログラムの開発に努力してくれたのは誠に幸いであった。さらにこのプログラムではINSEADのHenry Claude de Bettignies教授, James Abegglen氏そしてGren Fukushima氏なども外部講師として熱心に指導にあたってくれた。

 この後IISTは、一年制プログラムに加え、1991年までに、5つの短期訓練コースを開設し、その活動を拡大し、多角化していった。こうしたプログラムに参加し、終了した者の数は20余年間で5000名以上に及ぶ。そして多くの修了生は今日に至るまで日本の国際企業の国際化のため多大の貢献を行なってきたのである。

 しかしこの間IISTや日本企業の国際経営人材育成をめぐる諸般の事情は大きく変化した。その結果富士宮キャンパスは売却され、IISTもその事業の主体を長期滞在型教育訓練事業から、国際交流、地域間交流事業に変えた。かつて教育訓練事業の創設に参加した関係者の一人として誠に残念という他はない。

 けれどもこの間日本企業の国際活動は長足の発展を見た。輸出18倍、輸入16倍,海外投資8倍、GNP7倍と言うのがその成果である。※(4) 国際人材の輩出に加え、この日本経済の拡大は何を意味するのか。それは、IISTの人材育成プログラムが如何に日本の国際化の進展に貢献したのかを物語っており、IISTの教育訓練事業の意義を強調してなお余りあったと考える。

21世紀日本企業の国際経営人材育成に望まれるもの
 私は全述のように、21世紀に国際競争に勝ち抜けるのは本当の意味のグローバル企業経営であると考えている。そのためには如何なるマインドセットそして人材育成の目的や方法が必要となるのか。若干の提言をまとめておきたいと思う。

(マインドセットのオーバーホール)
 かつてグローバリゼーションというアイデアが登場した時、多くの日本の経営者は、グローバリゼーションなのだから、優れた日本の経営の考え方ややり方が、世界中どこでも通用すると考えた。しかしこのような理解は次第に必ずしも正しくないことが解ってきた。グローバル化が想像以上に多様化を促進し、経営の対応がますます複雑さを増してきたからである。すなわちそこでは、経営人材の同質化、均質化よりも異質化、多様性のほうが優位に立つとみなされるようになってきた。元来異質な人材の活用の中から、如何に同質な人材の活用だけからは期待できないシナジステック (synergistic)な効果を引き出すことが重要と考えられるようになってきたのである。

(量から質の強調への転換)
 これからの日本の経営者は、これまでの売上、マーケットシェアの拡大を目指した拡張主義の国際経営に変わり、経営パフォーマンスの質的改善を目指す体制に切り替えてゆかねばならない。リーマンショック以降、日本企業による国際化の拡大と経営パフォーマンスの評価との間に大きなコンフリクトのある可能性が明らかになってきたからである。私の最近の研究は、国際化の拡大と経営パフォーマンスレベルの維持強化の間でバランスを維持し、身の丈にあった国際化をすすめることが如何に大切なのかを教えてくれた。※(5)

(他人がマネの出来ない技術、製品、分野開発の必要性)
 グローバル企業の経営では、自社が最適な経営分野を選択し集中し、先行成功企業のモノマネでなく、競争企業が真似の出来無い技術、製品を継続的に開発することが必要だ。またその結果生まれた知的資産を保護することにも、今までよりも大きな関心をはらわなければならない。

(リーダーシップとガバナビリテイ確立の重要性)
 以上新しい視点と、経営パラダイムに立って21世紀の国際課を推進する経営者には、リーダーシップの確立が重要だ。先ず国際化の流れの中で、自社のアイデンティティーを確立しなければならない。その上で現実と実力とを直視しながら計画を立て、それを自信を持って実行してゆかねばならない。また人材の多様性、複雑性をシナジー効果を持って活用してゆくためには強力な企業統制体制を維持してゆかなければならない。さらに、変遷する国際経営市場においては、環境変化に即応したフレックシブルな対応も必要だ。

 以上列挙したような新しい国際人材養成体制を開発するためには、既存の人事育成体制の抜本的な再編が必要だ。ここで重要なことは先ず育成の理念の確立であり、育成努力の継続性である。これまでのように、他人の開発した目新しく、流行の訓練システムを次々と導入していくだけでは、決して国際企業の経営者が期待する経営の成果はもたらされないと思う。

 将来こうした新しいビジョン、理念 方針に基づく国際人材養成プログラムが、21世紀のIIST の発展過程で再び実現されるのを夢見ながら本稿の筆をおくことにしたい。

※参考文献
(1)Bartlett and Ghoshal、,”Managing Across Borders”, Harvard Business School Press,(1988). Howard Perlmutter, “The Tortuous Evolution of Multinational Corporation”: Columbia Journal of World Business 5(1) :9-18 (1969)
(2)Nancy Adler, International Dimensions of Organizational Behavior, Thomson―South Western (2008)
(3)Noritake Kobayashi, Japanese Intervention with respect to Foreign Investment in Richard Robinson,,ed..,Direct Foreign Investment: Costs and Benefits, New York: Praeger (1982)
(4)財団法人貿易研修センター“IIST 貿易研修センター35年の歩み”(平成15年 とりわけ同著P.81)
(5)小林規威 “日本企業国際課の研究―基礎データに見る光と陰” 文真堂 (2011)


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