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カンボジアの経済発展と環境・省エネビジネスチャンス 日本テピア株式会社 テピア総合研究所 副所長 中小企業診断士 石毛 寛人【配信日:2016/04/28 No.0254-1008】

配信日:2016年4月28日

カンボジアの経済発展と環境・省エネビジネスチャンス

日本テピア株式会社
テピア総合研究所 副所長
中小企業診断士
石毛 寛人


 近年、インドシナ半島の物流網整備や周辺国の発展に伴い、注目が高まるカンボジア。経済発展とともに需要が増すとされる環境・省エネビジネスの可能性について調査した。


 日本企業をはじめとする外国資本のASEAN展開は1980年代から急速に増加してきた。カンボジアの西側に隣接するタイには自動車産業を中心に投資が相次ぎ、近年では、東側に隣接するベトナムへの投資も増えてきたが、両国の間に位置しているカンボジアへの投資は、インフラ整備状況などを理由にこれまで限定的であった。ところが近年、この状況に変化の兆しが見られる。カンボジアに拠点を有する日系企業数はこの5年間で約3倍に増え(※1)、その他、欧米企業や韓国企業などによる外資に牽引される形で経済も順調に推移し、名目GDPは毎年7-8%の成長を記録している。

<経済発展の背景 ~輸送インフラの改善と周辺国の投資環境変化>
 経済発展の背景としてまず挙げられるのが、カンボジアを含むインドシナ半島における道路や港湾、空港など輸送インフラの改善である。特に日本政府がアジア開発銀行(ADB)との協調のもとで開発を後押ししてきた南部経済回廊沿いでは、道路の舗装整備や河川を横断する橋梁の設置のみならず、国境通過手続の簡素化などソフト面の整備も進んできている。

 次に挙げられるのが、周辺国の操業環境の変化である。隣国であるタイとベトナムは、程度こそ違なるものの、いずれも現時点ではカンボジアを上回る経済発展を遂げている。タイでは、首都バンコクからチョンブリ、ラヨーン県にかけて多くの日系企業が立地しているが、2013年から最低賃金が全地域一律で日額300バーツ(約1,050円)に引き上げられるなど、人件費の上昇が続いている。加えて、現在の軍事暫定政権からの民政移管プロセスにおいて混乱が予想されており、政治的安定性の面で大きな潜在的リスクを抱えている。ベトナムでも、南部ホーチミン、北部ハノイ、中部ダナンといった都市を中心に工業地帯が形成されているが、人件費は毎年上昇を続け、2014年時点でワーカーの賃金レベルは月額約180ドルに達している。このため、タイやベトナムに製造拠点を置く企業が、その一部工程を周辺国に移管する動きが起こり、カンボジアにおいても、タイ国境の都市ポイペットやベトナム国境沿いのバベットの経済特区(SEZ)内に、タイやベトナムの日系企業の分工場が設立される動きが加速している。

<カンボジア工業 装置産業化進展に期待>
 外資企業数が増え、工業化が進展しつつあるようにみえるカンボジアだが、その中身を見ると、未だに繊維・履物製造が大部分を占めており、大規模装置産業はおろか、部品の鋳造、鍛造、切削などといった機械設備を使用した加工業もほとんどないのが実態である。(※2) 一般廃棄物や排水など民生部門における環境技術ニーズはあるものの、工業分野においては産業廃棄物・排水ともに処理が必要となるような工程は少なく、電気使用量も限られている。このため、現状の環境・省エネニーズを量的に評価するとすれば、限定的であると言わざるをえない。

 国家は、発展途上の段階では安価な労働力を背景に労働集約型の産業が中心となるが、人件費上昇に伴って装置産業主体に変わり、先進国になるとさらに高度な産業や研究開発に特化していく、いわば「国レベルでのライフサイクル」をたどって発展していく。現在のカンボジアは縫製、製靴などの労働集約型産業が中心だが、人件費はここ数年、年率約15%のペースで上昇しており、近い将来、装置産業へのシフトが起こる可能性が高い。こうした中、株式会社デンソーが約22.4億円を投資してプノンペンSEZに新工場を設立し、マグネトー(二輪車用発電機)、オイルクーラー他の製造をこの3月から開始する。(※3) カンボジア初の大規模装置産業の登場であり、これを契機に装置産業が増えれば、将来的な省エネ事業のチャンスは大きくなる。

<電力料金と需給状況>
 省エネビジネスの需要を量る上で、電力料金の高さも重要な要素である。電力供給不足を背景に、首都プノンペンにおける製造業向け電力料金はASEAN各都市の中でもっとも高い(※4)。現在の国内の発電量は消費量の約6割程度をカバーするのみで、その多くを他国からの輸入に依存しているが、カンボジア政府は2020年までに新たに2,500MW分の発電所建設および都市間送電網の整備計画を進めている。

 現在、外資誘致の最大の障害となっている電力供給問題が解決すれば、企業数は増え、工業分野での省エネビジネスニーズも増えるだろう。ただし、同時に、現在の高い電力価格は今後引き下げられていくと予測されるため、この観点からすれば、省エネ意欲はむしろ低くなる方向にあることに注意が必要である。

<電気以外の省エネ・創エネ需要>
 重油や天然ガス燃料に対する省エネ需要については、調査時点では石油価格がLPG価格を上回っており、例えば、ホテルで使用されるボイラーなどの機器において、より安価なガス燃料を使用した機器の需要が生まれてくると予測される。ただし昨今の原油価格下落などの影響もあり、今後のエネルギー価格次第という側面が大きい。

 太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギー発電分野については、現状、固定価格買取制度(FIT)が存在しないため、発電コストの高い再生可能エネルギー発電を売電事業として実施するビジネス実現性は低いが、高い電気代を節減するためのオフグリッドソーラーなどは可能性がある。

<カンボジアにおけるインフラビジネスの特徴>
 以上のように、カンボジアにおける環境・省エネビジネスの可能性は、現時点では限定的だが、今後数年間で拡大する可能性がある。同国で関連ビジネスを進める際には、インフラ事業に対する政府の関与度にも着目しておきたい。

 通常、途上国においては、発電や廃棄物処理や排水処理などインフラに関する許認可付与を政府がコントロールし、政府自らもしくは公社などが独占実施しているケースが多いが、カンボジアではその多くを民間企業が実施している。事実、発電事業者の多くが民間資本のIPP事業者であり、首都プノンペンの廃棄物回収は民間企業であるシントリー社が委託を受け実施している。

 官民連携型でのインフラ事業展開を目指す場合、通常であれば、政府間の枠組みを作り、制度構築や技術支援と並行して日本技術の導入を促していくのがセオリーだが、カンボジアの場合、現地民間企業と条件面での折り合いがつけば、ビジネスベースでの市場展開も十分に可能である。すなわち、JICAの民間連携促進スキームなどを活用し、民間ベースで事業展開していくスタイルがうまく適合する可能性がある。実際にJICAも近年、カンボジアにおいて環境・省エネ分野の案件を多く採用しているが、他の周辺国では権益が障害となって進まないような大規模案件を、こうしたスキームを活用しながらビジネスベースで進めていくことも有効であろう。

 ただし、国家の関与度合いの低さは必ずしもプラスにのみ働くわけではない。カンボジアにおいては、成約に向けて手段を問わない他国企業との競争や、権力者などからのインフォーマルな圧力に対して、コンプライアンスを遵守した上で打ち勝っていかなければならないという困難な状況も想定しておく必要がある。

本稿は、IISTならびに近畿経済産業局による「平成27年度 国際経済産業交流事業」として2015年7月に実施した現地調査の結果をまとめたものである。

(※1)カンボジア日本人商工会加盟企業数は2015年7月時点で156社に上り、2010年時点の50社からこの5年間で約3倍に増えた。
(※2)「ジェトロ世界貿易投資報告2014年版」から対内直接投資額および件数を抜粋し、集計。全体のうち衣料・繊維、履物に関する投資が件数ベースで約78%、金額ベースで約70%を占める。
(※3)(株)デンソープレスリリース
(※4)ジェトロ投資コスト比較

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