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期待されるミャンマーでの農業ビジネス 一般社団法人 国際人流振興協会ASEAN事業担当理事 (初代ジェトロ・ヤンゴン事務所長) 荒木 義宏【配信日:2017/02/28 No.0264-1035】

配信日:2017年2月28日

期待されるミャンマーでの農業ビジネス

一般社団法人 国際人流振興協会ASEAN事業担当理事
(初代ジェトロ・ヤンゴン事務所長)
荒木 義宏


 アウンサンスーチーの新政権が発足して間もなく1年になろうとしている。さすがにひと頃のミャンマーに対する熱狂は沈静化してきたが、可能性を秘めたミャンマー市場への外国企業の関心は依然として大きい。これまで農業分野への外国投資は低迷を続けてきたが、GDPの約30%を占める農業はこの国の要であり、大きなビジネスチャンスが残されている。本稿は貿易研修センターが2016年12月に実施したミャンマー農業有力者招聘事業に随行した筆者が札幌、旭川で実施したセミナーでの講演を基にまとめたものである。


■2人の専門家がビジネスチャンスを力説
 ティン・トゥット・ウー氏は軍政時代の農業灌漑省の元計画局長。その長年の農業への見識、ビジネス感覚の良さを買われて、ティンセイン政権では大統領経済社会諮問委員会の議長の要職に就いた。米国や日本への留学経験や、FAO(国連農業食糧機関)での勤務経験などから国際感覚も非常に豊かで、彼の持論は、“農業ビジネスは単にミャンマー一国のみで考えるべきではなく、少なくともアジア大の視野で取り組むべき”という点である。
 インド、中国の両大国に挟まれ、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアといった先発ASEANの先進国、中進国の近隣市場を持つミャンマーは農業生産や農産物加工、食品ビジネスが立地する上で戦略的に優位な位置を占めている。日本企業のこれまでの伝統的な“アジアの安い労働力を使って生産し日本に輸入する”といった考えを捨てて欲しいというのである。日本の優れた農業や食品加工のノウハウを使って、自然豊かなミャンマーで生産し、それを近隣の巨大都市市場に向けて売り込めという発想だ。
 モー・ミン・チョー氏、まだ50歳代半ばの気鋭の実業家である。2016年年10月まではミャンマー商工会議所連合会の事務局長の要職にあったが、11月以降は公職を一切捨てて自分自身の農業ビジネスに本腰を入れている。元々彼はミャンマーで初めてプルトップの水産缶詰を製造販売するメーカーの社長である。そのノウハウは1990年代の半ばにタイから技術導入した。また野菜を原料とした各種ソースも製造しており農業や農産物への豊富な知見も持っていた。農業への本格的な参入は、数年前に設立した稲作用コンバインの会社である。タイ製のコンバインの部品を輸入してミャンマーで組み立て、Alligatorという独自ブランドで販売している。
 彼はタイとの連携の重要性を強調している。バンコク周辺には日系企業を含めて多くの食品加工業が集積している。既に一部原料調達をミャンマーから行っている企業もある。またミャンマーに製造拠点を確保しようという動きも始まっている。そのカギを握るのはタイとミャンマー間の物流網の整備である。タイのメソトとミャンマーのメイヤワディを結ぶ陸路の国境貿易は、早ければ2017年半ばに完成予定の第2友好橋によって飛躍的に拡大すると見られている。間もなく両国のトラックが積み替えなしで相互に行き来できる政府間協定が結ばれる見込みで、そうなればミャンマーの農産物のタイ向け輸出が飛躍的に拡大するだろう。また外資を含めて食品加工産業が東西回廊のミャンマー側に数多く立地する可能性も高まる。そのためにも農産物の効率的な生産ノウハウ、各種の農業機械や食品加工機械のニーズが飛躍的に高まることが十分に予想される。

旭川の企業を訪問:Maw Myint Kyaw氏(左端)と一人おいてTin Htut Oo氏

旭川の企業を訪問:Maw Myint Kyaw氏(左端)と一人おいてTin Htut Oo氏

■農業の新天地、シャン高原
 一般的にミャンマーは熱帯の灼熱の国とイメージされているが、現実は非常に多様な自然と気象条件を持つ国である。ベンガル湾とアンダマン海に臨む南部をのぞいては周囲を1000~2000メートル級の山岳部に囲まれており、この地形が様々な気候分布をもたらしている。
 例年5月初旬から始まる雨期には、インド洋からの熱帯モンスーンがインド国境のアラカン山脈にぶつかりチン州やアラカン州に多雨をもたらす。年平均雨量が5,000ミリを超える超多雨地帯だ。しかしその東にはマグウェやマンダレーの中央乾燥地帯が広がり、さらに東に至ると平均標高900~1,500メートルのシャン高原が続き、モンスーンは適度な雨量を高原地帯にもたらす。雨期(5月~10月)の月平均降雨量は200~300ミリで、平均気温は23~24度。これは北海道中部の上川地方の雨量と気温に非常に近い。乾季(11月~4月)の気温も平均16~20度で農業に非常に適した気象条件となっている。
 英国植民地時代にはメイミョやカローなどに外国人の別荘保養地も開発され、周辺では高原野菜や花卉の栽培が盛んに行われた。また近年では、マンゴーやスイカなどの果物、しょうがやニンニクなどが国境貿易を通じて中国に大量に輸出されている。さらにはヤンゴンなど大都市部での近代的な大規模スーパーで生鮮野菜・果物の販売が急速に拡大するに従って、キャベツや白菜などの葉物野菜、カボチャやパプリカ、いんげん、ハウス栽培のイチゴなど多様な作物を栽培する農家が増えてきた。
 従って、ミャンマーで農業ビジネスを考える場合には、シャン高原が有力な候補地となっている。日本からの農業視察ミッションを計画する場合にはここの視察は外せないだろう。じゃがいも、玉ねぎ、大豆、人参、豆類など北海道が得意とする農産物の多くがシャン高原でも盛んに栽培されており、これに使用する各種の農業機械もシャン高原でも応用できる可能性が高い。特にマンダレーに近いメイミョ、首都ネピドーやタイへの道路網の整備が急ピッチで進んでいる南部のタウンジーやアウンバン周辺には早くから外国企業も注目している。

マンダレーを中心としたミャンマー食品物流ネットワーク ■急増する若者の離農
 ミャンマーの人口は2014年に38年ぶりで実施された国勢調査によると約5,020万人。それまでの推計人口約6,200万人を1,000万人以上も下回った。このうち農村人口は約3,500万人と70%を占め、依然として農村部の人口は大きい。しかし農業従事者はここ数年減少傾向にある。特に顕著なのが若年人口の急激な減少だ。経済成長に伴う都市部への人口流入はアジア共通であるが、ミャンマーの場合には海外への流出が顕著な事だ。特に隣国タイには不法滞在を含めると約400万人のミャンマー人が居るという。マレーシア、シンガポール、インドネシアなどのASEAN諸国、韓国や台湾、さらに中東諸国にまでミャンマー人の若年労働者が流出している。今後はこれに技能実習生の拡大を目指す日本が加わってくる。
 若者の多くは農村部出身だ。結果的にミャンマー農業を支えるのは高齢者となり、機械化が必要な理由はまずここにある。またこれ以上若者の離農を食い止めるためには、重労働を忌避する若者に対して“農業がこれまでのように重労働を課すものではない”ことをアピールすることが必要だ。言い換えると“若者を引き付けるかっこいい”農業のためには機械化やIT技術を駆使した“新しい農業”の確立が必要となっている。外資導入が本格化し製造業やサービス業が急速に発展すれば、それに伴って益々人口の都市集中が進むだろう。今のうちに農業を近代化しなければ、ミャンマーにとって重要な農業の担い手が居なくなる危機に直面している。
 さらに必要なのは新しい農業を目指すための技術やノウハウの積極的な海外からの導入、それを担う人材の育成だ。種苗、育苗、品種改良の技術、土壌改善、施肥、灌水、ハウス栽培などのノウハウ、農産物の貯蔵など生産面での改善がまず急務である。こうした営農指導はこれまで農業灌漑省が管轄する地方の営農事務所が行っているが、脆弱な政府の予算や、指導員の能力不足などで機能不全の状況にある。この分野での日本の公的な技術協力もようやく始まったばかりで十分とは言い難い。今後は民間ベースでの技術供与も積極的に行われるべきで、既に一部の日本の大手商社もこれを視野に入れて動き出した。
 人材育成では農業分野での学校教育の抜本的な改革も必要だ。ミャンマーには農業を専攻する大学はネピドー近郊にあるイェジン農業大学のみである。この大学に対しては2年ほど前からJICAを始め韓国、インドなどが支援をしているが十分ではない。また農業機械分野での教育機関は全くないのが現状だ。
 自然を相手の農業は、それだけでもリスクを伴うビジネスである。また成果物を得るにも時間がかかる。民間ビジネスが手を出しにくい分野であるが、だからと言って手をこまねいているわけには行かない。今回招聘された2人の有力者は、旭川、美瑛、千歳の各地でそれぞれ個性的な農業機械メーカーを訪問した。製品はどれも今すぐにでもミャンマーに応用できるものばかりで、各社の説明に熱心に耳を傾け多くの細かい質問を発していた。最後には“ぜひ早くミャンマーに来て実情を知って欲しい。さもなければビジネスチャンスを逸してしまいますよ”という言葉も忘れなかった。


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