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Gマークとデザイン思想について考える JCMS(株)アジア交流塾 塾長 地球産業文化研究所理事、グッドデザインフェロー 井出 亜夫【配信日:2017/03/31 No.0265-1036】

配信日:2017年3月31日

Gマークとデザイン思想について考える

地球産業文化研究所理事、グッドデザインフェロー
JCMS(株)アジア交流塾塾長
井出 亜夫

 グッドデザイン賞(Gマーク制度)(公益財団法人 日本デザイン振興会主催)は2016年度に60周年を迎え、アジア諸国諸地域(台湾、韓国、タイ、中国、インド等)からの応募を含め、工業製品だけでなく建築やサービス等合計4,085件の応募があり、1229件が選定された。そこで本稿ではGマーク制度の起源ともなったデザイン思想・運動の歴史・実績を振り返り、この問題の深層、将来展開について考えてみたい。

 Gマーク制度を運営するデザイン振興機関「公益財団法人日本デザイン振興会」によれば、「デザイン振興の歩みは時代の変化とともに手法や目指す方向も変わってきた。当初、産業育成という観点から日本の工業製品の力を向上させることを目的としたものから文化的な面を含めて社会・環境全般を整えていくためのデザインを指向する方向に変わってきている」ことが述べられている。

最近のグッドデザイン賞受賞作品 (公財)日本デザイン振興会HPより

 「デザイン」なる語を広辞苑で調べると下絵、図案、総合的造形計画とあり、また、オックスフォード英語辞典では「a plan or Produced to show the look and function or workings of a building, garment, or other」 と「デザイン」の概念は我々が従来理解してきたことを上回る広範囲にわたっている。
 ここでは、近代デザイン運動の始まりである英国におけるアーツ&クラフト運動とドイツ、バウハウス運動に触れつつ、日本近代化に当たって、類似する思想・行動を展開した岡倉天心、柳宗悦、Gマーク制度の起源たるデザイン行政等を辿りつつ、わが国デザイン運動の将来展開を展望、期待してみたい。
 英国19世紀のデザイナー&思想家ウィリアム・モリスが提起したアーツ&クラフト運動は、産業革命という歴史の進展を踏まえつつ、その弊害を鋭く意識し、これに対応した思想・哲学を有するデザイン運動の輝かしい実績である。モリスは、単に狭い意味のデザイン(意匠、造形)を考えていただけでなく、近代資本主義が生んだ弊害をも乗り越えた共同体を建設する運動をも展開し、ロンドン郊外で共同体地域(コッツウォルズ)の建設・運営に当たった人物である。(注:ウィリアム・モリス著「ユートピア便り」)
 一方、バウハウス運動は、イギリスに遅れたドイツの工業連盟の流れを持ちつつ、第一次大戦を経たワイマール共和国の民主化運動の結果といえようが、その具体的姿は勤労者の生活向上を狙った集団住宅の実現、総合芸術運動として展開、発信された。この運動は、ワイワール共和国の理想主義の未熟さとナチスの台頭・圧迫により挫折に終わるが、その精神は、後の世界のデザイン思想を刺激・誘導し、今日のデザイン思想・運動にも大きな意義を有するものといえよう。
 日本のデザイン思想・運動においては、西欧近代主義が怒涛のように押寄せる明治文明開化の時期に当たって、岡倉天心が効率至上と西欧的優越主義に毒されない東洋の思想(美と相対的思考・生活様式)と平和主義を語り、また、柳宗悦は、民衆の生活にベースをおいた思想・哲学を備えたデザイン運動「民芸」(生活と美との交渉-実用性・平常性・健康性・国民性等)を唱え、展開した。二人とも単に美の領域、美学に留まることなく極めて幅広い思想を備えた碩学、実践の人であった。こうした先人の功績は、残念ながら後進資本主義国わが国において大きな潮流としては開花しなかったが天心とタゴールとのアジア思想の相互理解、フェノロサと天心の交流による日本美学の紹介、バウハウスの指導者グロピウスの民芸館訪問やブルーノタウトによる桂離宮の欧米への紹介等に見られるようにデザイン思想を巡る国際交流にも大きな役割を果たした。
 また、デザイン行政の展開は、工芸品の向上、輸出品デザインの向上等を具体的契機として発展し、経済発展、国民生活の向上にも寄与した。
 昭和初年設立された商工省工芸試験所は、地方振興という社会政策的意図も色濃く持ったが、わが国におけるデザイナーの輩出とその社会的活動、デザインの国際交流にも大きな役割を果たした。戦後発展の中でデザイン振興は輸出振興策として始まったが、Gマーク制度はその延長線上に現れた政策展開でもあった。

過去のグッドデザイン賞受賞作品 (公財)日本デザイン振興会HPより

 市場経済の発展、グローバル社会の展開の中で、私たちは、「成長の限界」、「地球環境問題」、「経済的格差」を抱え、わが国においてもデザインは、「ものからこと」へ、「対象もソーシャルデザイン、ビジネス・モデル等への広がり」、「適切さの追求」といった形で進展している。
 こうした社会背景をベースに現在のGマーク制度は、人間的視点、産業的視点、社会的視点、時間的視点の4つを「審査の視点」として掲げ、さらに2015年度からは、デザインが向き合うべき重要な領域を明確にするために以下の「フォーカス・イシュー」を提示している。
 (1)地球環境と共生 (2)都市と社会基盤 (3)地域社会とローカリティ (4)技術と情報 (5)医療と健康 (6)安心と安全 (7)教育と学び (8)ビジネス・モデルと働き方 (9)文化と生活様式
 市場経済至上主義が横行する今日のグローバル経済社会は、市場経済システムそのもののあり方が問われている。その中において「デザインの役割を問い」、「普遍性を持ったデザイン運動の展開」とは如何なるものになるであろうか。これを論ずるにあたって、ウィリアム・モリス、バウハウス、あるいは岡倉天心、柳宗悦流に、現在我々がおかれた内外の社会・経済状況をあらためて考えてみる必要があるのではないだろうか。
 トマ・ピケティ「21世紀の資本」は経済格差、経済的不平等の是正を訴え、ビル・ゲイツは、「現状の市場経済は購買力を有する需要には対応するがニーズには対応しない」と喝破し、現行市場経済システムは、「新たな技術開発よりもシステムのイノベーションの必要性」を指摘している。また、マーケット学者フィリップ・コトラーは、「従来のマーケット論は、あまりにも物質主義に陥り、また、地球人口70億のうち20%の人しか対象にしないとして既存のマーケティング論を批判する一方、世界の平和に寄与するマーケティング論の構築」を唱えている。また、国連は、昨年「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」を提示し、地球環境問題を扱うパリ議定書は多数の国の合意を得ている。 
 「デザイン思想」「デザイン運動」そしてその一端を担うGマーク制度が、現代の市場経済が抱える課題に対し如何なる提案、行動を展開することができるか、その奥深い議論と更なる模索に大いなる期待と注目を寄せたい。

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