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多国籍人材の能力・個性を活かす「新たな日本的経営」への期待 ニッセイ基礎研究所・主席研究員アジア部長/新潟大学大学院教授 平賀 富一【配信日:2017/04/28 No.0266-1040】

配信日:2017年4月28日

多国籍人材の能力・個性を活かす「新たな日本的経営」への期待

ニッセイ基礎研究所・主席研究員アジア部長/新潟大学大学院教授
平賀 富一


 日本企業の国際展開における人材活用面での諸課題と、それらの改善について、企業による取り組み動向やトレンドを概観し、多国籍人材の能力・個性等を活かした「新たな日本的経営」の実現へ向けての重要点と期待について述べる。


 わが国の企業活動のグローバルな活動が進展する中でその中核を担うべき有能な人材(日本人・非日本人)の育成・活用の重要性は一層高まっている。他方、経営の現地化、特にヒトの現地化の必要が増す中で、以下のような課題が長らく指摘されている。

(1)日本的な組織特有の労働慣行や内向き傾向などのため、グローバルな人材市場における優秀な人材にとっての就職先としての魅力度が小さい、(2)現地人に対する人的資源管理は、基本的に海外拠点任せの傾向が強く、海外拠点の経営者・幹部は日本人駐在員が中心で、現地人材を登用するケースが少ない(この点に関し、「ガラスの天井」や、中国語での「発展空間」の狭さが指摘されている)。(3)企業の経営理念・方針等の徹底や浸透が不十分である、(4)本社と各海外拠点の人事評価の基準や評価・報酬制度、研修制度等が統一・整合されておらず、人材の活用がなされるベースたる制度・システムが整っていない。
 多くの日本企業の製品・サービスが信頼され親しまれているアジア諸国の多くにおいても、就職希望者による日本企業の人気度は低いことは各種の調査や報道を見ても事実のようであり、筆者の大学の講義に参加するアジアからの留学生達に聞いても、日系企業は、日本人駐在員主体の経営で現地人材の昇進のチャンスが小さい、昇給・昇進が遅いといったステレオタイプのイメージが広まっているようである。他方、国際展開の経験豊富な大手企業を中心に多くの企業で上記の諸課題の改善に向けた取り組みが進んでいることは承知しているが、その事実はあまり認知されていないとの印象がある。

 本稿では、先ず、上記のような諸課題の改善について、日本企業による取り組みがどの程度進んでいるのかに関し概観する。 次いで、多国籍人材の能力・個性等を活かした「新たな日本的経営」の実現へ向けての重要点と期待について述べたい。

1. 日本企業におけるヒトの現地化や多国籍人材の活用への取り組み

 上記(1)-(4)の課題について、日本企業の取り組みはどのように進展しているのだろうか?日本在外企業協会による「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート調査」と「海外現地法人の経営のグローバル化に関するアンケート調査」の各年版(直近のものは2017年1月公表の2016年版)や新聞報道などから、その現状やトレンドについて考えてみたい。

 <図表> 改善へ向けた日本企業の取り組みや施策の概観 (90KB)

 上図表の様に、多くの項目について取り組みや施策が進んでいる。この点につき、近年の日本経済新聞で掲載記事をランダムにチェックしても、例えば、共通の人事基準・制度の構築に取組んでいる企業として、日立、富士通、パナソニック、デンソー、LIXIL、サントリーホールディングス、資生堂、オリックス、アドバンテストなど多くの報道がある。企業ごとに取り組みの規模や内容にはバラツキはあろうが、国際的な事業展開を行なっている多くの企業で、改善へ向けての取り組みや施策が進みつつあるというトレンドが理解できる。このような動きについて、先進的な企業がリード役となってさらに推進・拡充されより多くの企業に普及することを期待したい。

2. 多国籍人材の能力・個性を活かした「新たな日本的経営」の実現へ向けて

 日本は、国土の狭い単一民族の国であるから、企業経営も含めチームプレーや組織力の発揮が行いやすいという論調がある。しかし、日本企業が国際経営で成功し発展するには、「グローバルな標準化」と「現地適応化」の二つの重要な命題を両立させる必要がある。そのためには、上記1で取り上げた取り組みや施策を推進し、国籍に関係なく優れた人材を獲得・育成し、その能力・個性・発想などを最大限に活用することが求められよう。

 同時に、日本企業の経営の優れた点を世界の多くの人々に認知してもらうべく努力することも大切であり、各企業の個社としての取り組みに加えて、政府機関(在外公館を含む)、日本経団連などの経済諸団体、各国・地域の日本商工会議所なども、日本企業の人材や雇用を大切にする経営のあり方などについて積極的に広報・アピールすることが効果的と考える。1997年-98年のアジア通貨・金融危機の際に、タイで欧米企業の多くがリストラを行ったのに対し、日本企業の多くが、雇用を重視して、本来不況のため仕事のないタイの工場に日本から仕事を移転したり、多くの現地社員を日本に招き長期研修等を実施したことは一部には知られているが、もっと多くの人々に知ってもらいたいことである。冒頭で述べたアジア諸国の多くにおける状況とは異なり、タイで例外的に求職希望者の日本企業の人気度が高い理由としては、上記の点も含め、日本企業のプレゼンスや現地への貢献度に対するタイの人々の理解がより大きいものと推量している。また、近年では中国など他のアジア諸国においても、人々の生活が豊かになる中で、短期的な昇給・昇格のチャンスよりも雇用が安定し人材の育成を重視する企業で働きたい考える人が増加しており、この考え方は就職を希望するする本人のみならず両親の間にも広がっているとも聞く。

 ラグビーのワールドカップで強豪の南アフリカに歴史的勝利を収めた日本代表チームや、リオ・オリンピックで優れたバトンパスで、個々人の記録では上回る他国チームを凌駕し銀メダルに輝いた陸上男子400メートルリレーチームなど、多国籍や異文化・異国のルーツを人材を含むメンバーが、理念・方針・目標を共有しチームとして成果を挙げている事例は、企業経営の分野においても大いに参考となろう。

 以上、多国籍人材の能力・個性・発想を活かした「新たな日本的経営」の成功事例が数多く輩出することを強く期待して本稿の結びとしたい。

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