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二極化する日本映画 ―活況を呈する国内観客動員と国際映画祭での不振― 共同通信社 文化部長 加藤 義久【配信日:2017/06/30 No.0268-1046】

配信日:2017年6月30日

二極化する日本映画 ―活況を呈する国内観客動員と国際映画祭での不振―

共同通信社 文化部長
加藤 義久


 日本国内の映画興行収入が昨年、アニメの躍進などにより過去最高を記録した。一方で、海外の映画祭などでの評価は芳しくない。日本映画のプレゼンスを高めるために必要なのは何か。


 日本国内の映画興行収入(興収)が2016年、過去最高となる2355億円を記録した。「君の名は。」(新海誠監督)に象徴されるアニメの躍進が好調を支えているが、海外に目を向けると日本映画の輸出実績が伸びている一方で、映画祭などでの評価は必ずしも芳しくない。世界で日本映画のプレゼンスを高めるために、何が求められているのか。

◆アニメが牽引
 昨年の「君の名は。」のメガヒットは、映画関係者の予想を遥かに上回るものだった。当初、配給の東宝は興収20億円を目指していたというが、田舎の女子高校生と都会の男子高校生の恋に彗星来訪が絡む壮大な物語に加え、人気バンドRADWIMPSの音楽、繊細なアニメーション表現などが口コミで評判を呼び、予想の10倍を超える235・6億円(2017年1月時点)を記録。歴代の日本映画では宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(308億円)に次ぐ2位、洋画を合わせても「タイタニック」(262億円)、「アナと雪の女王」(254億円)に続いて4位だった。

 日本映画製作者連盟(映連)によると、昨年の日本映画の興収上位作品の2位以下は「シン・ゴジラ」(82・5億円)、「名探偵コナン 純黒の悪夢」(63・3億円)、「映画妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」(55・3億円)、「ONE PIECE FILM GOLD」(51・8億円)の順。上位5作中4作がアニメ作品で、定番のシリーズが安定的に観客を集めた。実写で2位に入った「シン・ゴジラ」も、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズを手掛けた庵野秀明さんが脚本と総監督を務めている。かつてアニメ映画といえば若者や一部のマニアが見るものだったが、「今では多くの観客にとってアニメと実写の垣根はなくなった」と指摘する映画関係者も少なくない。

◆伸び悩むハリウッド映画
 外国映画との関係を見ると、興収総額の63%を日本映画が占めている。日本映画が外国映画を上回るのは9年連続。2014年に「アナと雪の女王」が爆発的にヒットしたものの、近年の傾向を見るとハリウッド映画がかつてほど観客を呼べなくなっていることが分かる。アメリカンコミック(アメコミ)を実写化したヒーローものやスターが活躍するアクション大作など、米本国や他の国でドル箱になっている作品がそれほど数字を上げられなくなっている例が散見される。アメコミにそれほどなじみが薄い上に、日本にはオリジナルのヒーローが数多くいることが、その理由として挙げられそうだ。

 アニメを中心とする日本映画が日本国内で観客の人気を集めていることは、オタク的、あるいはガラパゴス的な印象を与えるかもしれない。もちろん、自国の芸術文化をはぐくむという意味で、とりもなおさず日本映画が見られていることは良いことだろう。同時に、映画はその国・地域の文化が端的に表れるメディアであり、国際交流や相互理解の手段として大きな役割を果たす。海外で日本映画はどのように見られているだろうか。

 映連がまとめた昨年の映画輸出実績(映連加盟社とグループ会社が海外配給権やリメイク権などで得た収入)は、前年比40%増の1億6282万ドル。5300万ドルだった2012年の3倍以上という急激な伸びを見せている。映連の担当者は「明確な理由はない」としながら、北米とアジアでアニメを中心に売り上げが伸びている現状を説明。アジアは、もともと人気の高かった台湾や香港に加え、中国本土で公開される日本映画が増えているという。「君の名は。」は台湾、タイ、香港、中国、韓国でも1位を獲得、海外でも受け入れられる作品であることを証明した。北米でも日本アニメへの関心は高いが、同担当者は「一般の人が日本映画をよく見ているかというとそこまでではない。アニメファンが中心という現状に変わりはないのではないか」と見ている。

◆国際映画祭における評価
 映画のもう一つの指標とも言うべき国際映画祭での評価はどうか。世界三大映画祭とされるカンヌ、ベネチア、ベルリンを見てみる。

 カンヌで黒沢明監督「影武者」、ベネチアで北野武監督「HANA―BI」、ベルリンでは宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」…。歴史を振り返ってみると、名だたる日本の映画監督たちが三大映画祭で最高賞を受賞している。日本映画の評価は決して低いものではなかった。だがここ数年をみると、必ずしもその伝統が受け継がれているわけではなさそうだ。

 2015年9月のベネチアから2016年のベルリン、カンヌ、再びベネチアと、1年以上メインコンペティション部門に日本映画が入れない状況が続いた。これは1995年以降では初めてのことだった。2017年に入り、ベルリンにSABU監督の「Mr Long/ミスター・ロン」がコンペ入りしたものの、受賞は逃した。5月のカンヌには常連の河瀬直美監督が「光」でノミネートされたが、これも主要賞の選から漏れた。

◆広がる映画勢力図
 国際映画祭で日本映画がさえないのはなぜか。一つには映画の勢力図が変わりつつあることが挙げられる。海外資本と組むことも多い映画関係者によると、近年は東南アジアや中南米といった映画新興国が力をつけてきている。同じように力の入った作品が並んだ場合、新鮮なイメージのある国の作品を選びたくなるのは当然だろう。別の関係者によると「以前は良かったが、最近はがっかりな国」に日本を挙げる海外の映画人もいたそうだ。

 文化庁の助成金制度をみると、劇映画は経費総額が5千万円以上の作品と定められているが、アート系の作品はそれよりも低い額でつくられる場合が多く、実態と合っていないという指摘もある。1980~90年代のように、ビデオ化を見込んで製作費を前払いするケースも減っている。アート系であっても資金が多いほど製作の幅が広がり、良い作品が生まれる可能性が高くなるのは自明のことだ。若手監督に機会を与える意味でも、助成金制度の条件の緩和を求める声は小さくない。

 東宝など大手映画会社による娯楽大作のメガヒットと、低予算のアート系作品の国際映画祭での不振。二極化が進む日本映画だが、その両輪が回ってこそ映画界の健全な発展がのぞめる。産業として、芸術文化として、日本映画を育てていくのに必要なのが、オリジナリティ=作家性。そのために、助成金制度や若手映画人の教育など、幅広い観点から映画製作を支援していくことが求められるだろう。

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