| 最新号 |この記事のカテゴリー: 地域・産業 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • はてなブックマークに追加


IIST e-Magazine

シリーズ:「インバウンド観光推進」(No.7)「何もない」からクールな田舎へ ~ ガイドがつなぐ旅人とローカル ~ 株式会社美ら地球 取締役 山田 慈芳【配信日:2017/06/30 No.0268-1047】

配信日:2017年6月30日

シリーズ:「インバウンド観光推進」(No.7)
「何もない」からクールな田舎へ ~ ガイドがつなぐ旅人とローカル ~

株式会社美ら地球 取締役
山田 慈芳


 岐阜県飛騨地域の里山を舞台に「暮らしを旅するガイドツアー」を提供するSATOYAMA EXPERIENCE。旅慣れた世界の旅人が求めるもの、満足度99%の秘訣とは?


長旅で気づいたこととは

 SATOYAMA EXPERIENCEは、「暮らしを旅するガイドツアー」と銘打って岐阜県飛騨地域(高山・飛騨古川)を訪れる旅人にサイクリング、まち歩きなどのツアーを提供している。2009年に自転車3台からモニターツアーを開始した頃はまだインバウンドという言葉も一般的でなかったが、2017年で8シーズン目を迎え、インバウンドの扱いもずいぶん変わってきたものである。

サイクリングツアーの様子

サイクリングツアーの様子

 そもそも私たちがこの飛騨古川にやってきたのは、このツアー事業を立ち上げるためではない。足掛け2年世界を放浪し、気づかされた最も大事なことは、「貨幣価値ではかれない豊かさがある」ということ。そしてそれを求めるならば、間違いなく田舎に軸足を置くべきだと直感したのである。

 そして、もうひとつ認識したことは、旅で一番心に残るのは、「ローカルの暮らしを知り、触れ合うことである」ということ。今までは旅人として楽しませてもらったことを今度は提供しよう、というのがSATOYAMA EXPERIENCEの生い立ちである。

 実際、サイクリングツアーに観光スポットといえるようなところは全くない。案内するのは田んぼ、民家、市場、湧水…等々、地元の方にとっては当たり前のところばかりだ。しかし、私たちのような都会者、また海外からいらっしゃるお客様にはそれが新鮮であり、まさに貨幣価値では表せない豊かさ(=COOL!)なのである。実際にTripAdvisor(世界最大級の旅行コミュニティサイト)にコメントされている内容を見ると、本当にお客様が「飛騨の当たり前」に触れて喜んでおられるのがわかる。もちろん、その「当たり前」をツアーとしてパッケージ化し、ガイドがお客様とローカルなモノ、ヒト、コトをつなぐことによって初めて価値が生まれることはいうまでもない。

海外のお客様に来ていただくには

 SATOYAMA EXPERIENCE(開始当初は飛騨里山サイクリング)の顧客ターゲットには、当初より欧米系の旅慣れた旅行者を視野に入れていた。つまり私たちが旅で一緒になったような人たちであり、ニーズがわかるので、ツアーコンテンツもイメージしやすいからである。

 どこかの起業家が、「事業を立ち上げるには自分自身もそのサービスのターゲットになるようなものでないといけない」といっていたが、まさにそういうことである。ターゲットが明確であればあるほど、どんなサービスを提供すればいいのかが見えてくる。

 とはいえ、Webサイトとパンフレットをつくるだけでは海外のお客さんはそう簡単には来ない。2012年までは、やはり情報のとどきやすい日本人の方が多かった。外国人の方が多くなったのは2013年。その後国内でのインバウンドの追い風にものり、2016年には3300人ほどのお客様のうち8割弱が外国人となった。

 外国人のお客様の認知経路としては、なんといってもTripAdvisorが大きい。お客さまの5つ星コメントを積み上げるうちに、これが重要なプロモーションツールと化したのである。Webで検索上位に出てくるようにするには、今の時代お金をかければある程度できる。しかし、お客様のコメントは一夜にしてはならない。やはりひとつひとつのツアーの積み重ねであり、ひとりひとりのガイドの努力の賜物である。現在は海外の旅行会社からも多数ご送客いただいているが、グローバル展開の旅行会社を相手に比較にもならない極小規模のSATOYAMA EXPERIENCEが渡り合えるのは、ひとえにこの積み重ねの成果といえる。ガイドのみならず、予約段階から質の高いサービスを提供し、信頼関係を築く。その絆によって、個人のお客様でも友人を次々と紹介してくださったりすることも多い。

地域との関わり

 田舎でツーリズムをやっていくのに欠かせないのが地域との関わりという視点である。前述のように「暮らしを旅するガイドツアー」にするためには、地元の人の暮らしを垣間見せていただくわけで、逆にいうとその暮らしを邪魔しないように、ツアーを創る際にも実施する際にも非常に気にかけている。コースで出会う方々からは、「いながらにして海外旅行しているようだよ」と声かけていただいたり、畑のトマトをいただいたり、古民家をみせてもらったり。本当に温かくツアーを迎えていただいてありがたい限りだ。私たちも使わせていただくあずまやを掃除したり、購入するものはできる限り地元で調達したり、古民家のお手入れボランティアを、と地域貢献できるように日々努めている。ただ、お客様もかなり増えてきたので、こちらとしてはますます暮らしを邪魔しないように気をつけなければいけない、と気を引き締め、創業10周年となる今期には、地域貢献の動きを加速させたいと考えている。

飛騨の民家お手入れお助け隊

飛騨の民家お手入れお助け隊

ガイド必須の観光立国

 ツーリズムの進んでいる国には必ずプロフェッショナルガイドがいる。その多くが外国人を対象とするものが多いので、バイリンガルは当たり前だ。私たちも旅で多くのガイドに出会ったが、彼らは自分の仕事に誇りを持ち(社会的なステイタスもあり)、そのフィールドを心から愛し、客である私たちの要望に150%応えるために尽力してくれた。それに比べると日本はあまりにもガイドという職が理解されていないように思われてならない。それは従来型の日本の「観光」にはガイドはあまり必要なかったからであろう。

 ガイドというのは非常に高度な人材である。言語に加え、タイムマネジメント、エンタテイメント、リスクマネジメント等様々なことを考えながら行動しなければならず、自分の知っていることをしゃべるのでは不十分。お客様が何に興味があるのかを探らないといけない。もちろん1日中外に出ることも多いので体力もいる。現在個性豊かなSATOYAMA EXPERIENCEのガイドチームは7名いるが、バックグラウンドは多岐にわたり、ガイド経歴を持つのは1名だけ、あとは新卒、既卒、教師、サラリーマンなどなど。トレーニング中は、基本のトレーニングに加え、各自の個性を活かしつつ、弱い部分を補えるように毎回試行錯誤する。毎回デビューするときはトレーナーの方が感激してしまうくらいだ。

 オリンピックに向け、様々な施策が検討・実施されると思うが、今後ますます旅慣れた個人旅行者が増えていくことは確実で、その「ローカルを知りたい」ニーズは、ガイドなしには満たせない。

 近年は各地で研修やインバウンドコンサルティングに関わらせていただくことも増えてきた。SATOYAMA EXPERIENCEは、世界トップクラスのガイドを輩出し、他地域でも質の高いガイド育成のお手伝いをすることにより、真の観光立国に貢献できればと思う。


事業概要
「クールな田舎をプロデュースする」をミッションに2007年設立。2010年にガイドツアー事業を本格開始し、2014年「SATOYAMA EXPERIENCE」としてリブランド。ツアー予約から旅行手配まで飛騨地域を訪れる旅人にワンストップサービスを提供している。口コミサイトではアウトドアアクティビティで日本トップクラスの評価を獲得し、エコツーリズム大賞優秀賞など受賞も多数。ツーリズム関連のコンサルティングや人材育成も手がける。

執筆者プロフィール
株式会社美ら地球 取締役 山田慈芳

東京都出身。慶応義塾大学政策メディア研究科修了。外資系コンサルティング会社勤務を経て、2004年から2年弱世界を放浪。帰国後、パートナーと共に(株)美ら地球を立ち上げ、飛騨古川へ移住。現在SATOYAMA EXPERIENCE事業を統括している。総合旅行業務取扱管理者/通訳案内士。



  • はてなブックマークに追加


| 最新号 |この記事のカテゴリー: 地域・産業 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |