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九州へのインバウンド拡大は、一貫した顧客価値のストーリーで魅了しライフサイクル化を アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジング・ディレクター 榎原 洋【配信日:2017/06/30 No.0268-1049】

配信日:2017年6月30日

九州へのインバウンド拡大は、一貫した顧客価値のストーリーで魅了しライフサイクル化を

アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジング・ディレクター
榎原 洋


 インバウンド拡大、留学生・観光客・投資の誘致は、「顧客」のライフステージとして一貫して捉え、地域資源を「ホチキス留め型」から「一貫ストーリー型」にした訴求が望まれる。


 2016年12月初旬、九州経済産業局が貿易研修センターの協力により実施した、九州へのインバウンド拡大に向けた地域商材を外国人専門家の視点で再発見するプロモーションツアー事業に、日本人から一人、投資誘致専門家として私も参加させていただいた。同事業は、年代・目的の違ったインバウンドで訪れる外国の人を長期のライフサイクルでとらえ、留学生や短期滞在の訪日観光客としてだけでなく、貿易や投資などあらゆる目的で九州へ来られる外国の方を増やすのが狙いである。そのために、要改善点や見逃しがちな点、逆にもっともっと訴求すべき点を、様々な専門家がツアーで実地を巡りながら洗い出していくプログラムであった。筆者以外の参加専門家は以下である。

• トム・ヴィンセント (株)トノループ・ネットワーク代表取締役
• ニック・サーズ (有)フクオカ・ナウ代表取締役
• アルド・ブロイゼ IT & IP Strategy Advisory Group SA (Japan) Deputy General Manager

今回は九州のなかでも北東エリアの、福岡県と大分県を中心に以下を巡った。

• 1日目:
北九州空港⇒安川電機みらい館・ロボット工場⇒小倉織 遊生染織工房⇒縞縞本店⇒旦過市場
⇒小倉魚町サンロード
• 2日目:
門司港レトロ地区⇒門司赤煉瓦プレイス⇒フレゼニウス・メディカルケアジャパン豊前工場
⇒別府温泉海地獄⇒地獄蒸し工房鉄輪⇒別府市内
• 3日目:
湯けむり発電システム⇒立命館アジア太平洋大学⇒大分ロボケアセンター
• 4日目:
中島田鉄工所⇒中山吉祥園⇒八女伝統工芸館

縞縞本店

縞縞本店

■ 地域資源の魅せ方を「ホチキス留め型」から「一貫ストーリー型」に

 上記の訪れた箇所では、世界レベルの先端技術や、自然環境の良さ、伝統に裏打ちされた素晴らしい製品・技術など、九州の魅力を多々目の当たりにさせていただいた。その上で、企業・産業誘致に多く携わる者の目で見ると、失礼ながら広く一般には、そして恐らくまず海外には知られていないだろう優れた企業が点在していることがとにかく印象に残った。地域産業を「経営する」という見方からは、国内にも海外にも重点的に知らしめる活動を始めとした集中支援を行い、地域の中核・牽引役となり、海外への宣伝塔となるよう、こういった企業をプッシュしていくことが望まれる。企業誘致だけでなく、観光の文脈でも同様に優れた資源が知られていなくて「モッタイナイ」と、他の専門家は指摘されていた。

 そこで、「九州へ行こう」と外国の人たちに決心や意思決定をしてもらうために、なるべく数多く良い資源を取りそろえる「ホチキス留め型」の発想を多くの場合、想起されるかもしれない。しかし、良い品を一つ一つ並べても、欧米というリーチの遠いところから「わざわざ」費用的・時間的にかけるのには見合い難い(=費用に対する効用がその人の判断基準を上回るほどにならない)。ここで見逃されていることは、参加専門家のトム・ヴィンセント氏による非常に含蓄の深く重要な、「海外からわざわざ来る人に特に大事なのは、文脈・コンテクスト」という指摘であろう。すなわち、各資源を通じて体感される一貫した公約数的な価値によって満足度をより増幅させる「一貫ストーリー型」の発想こそが重要である。


 今回のツアー後のフォローアップ会議には、訪問先の企業における公約数的な共通項(上式のXにあたる)として当方の印象に残った「技術の粋・カスタムメイド力」を始め、「伝統と未来」「体験型ツーリズム」といった公約数的コンセプトによる各種インダストリアルルート案が考案されていた。こういったパッケージングを整えて、海外向けに発信したり、観光ルートとして商品組成したり、招へい事業を行うことなどが、インバウンドプロモーションには有効だろう。

小倉織 遊生染織工房

小倉織 遊生染織工房

■ 顧客のライフステージとして、留学生・観光客・投資の誘致を一貫して捉える

 本ツアー参加を通して当方が改めて、地域資源の強みの棚卸しと施策づくりの際に重要と思ったことが二つある。一つには、誘致すべき観光客を、通過するだけの観光客としてではなく、顧客として捉え(=ビジネスとして)、顧客を具体的に描き(=対象・ターゲットをちゃんと絞り)、顧客の視点で(=持っている自負を一旦傍らにおき)、本当に評価されるものを考える、という戦略面である。二つ目は、そのための対策は、意識的・組織的・徹底的にやる、という実行面である。

 長いサイクルで顧客を捉えて地域のマーケティングを行うことについては、北米の著名スキー場を中心とする総合リゾートの運営会社の例がある。そこでは、子供から学生、社会人、子供が巣立った後の夫婦、と人生を追うように、長期的なCRM(顧客関係マネジメント)の手法で、ライフステージに応じた「顧客」像に対して継続的にリゾート地として選ばれていくよう図っている。1エリアや企業体の取り組みと、九州圏全域で多数の行政機関の関わる観光・投資促進とはそのまま応用できるものではない。だが、様々なライフステージの顧客に対する魅力を一貫してとらえ増大させる取り組みに対して、地域経営として観光客や投資の誘致、留学生の獲得は、一般にそれぞれ別個に、かつ近視眼的に取り組まれてしまうことが多いように思われる。九州への観光客・留学生獲得・投資促進を「別々のカタログ」に留めずに検討する一歩を、このツアーでは踏み出せたのでないか。

 今回の道中は本当に忌憚なく、歯に衣着せぬ指摘を連発させていただき、そのため事業担当の方々におかれてはご苦労が甚大であったと思う。ここにお詫びしたい。しかしながら、「外の人の眼(外国人、九州外の人間)で」「様々な他者・専門家の眼で」「期間集中で」「現場を実際に共に見て」「ひとまず気にせず何でも指摘を洗い出す」というやり方は、取扱注意ながらも有効な試薬のような手段であったと思う。更なる檄として、今後も継続して長期の視野で、九州地域に眠っている尖った資源を見出し、磨き上げていかれることを期待している。そして、コンサルタントの常として、この2016年に感じた・考えたことの適切さを、10年、15年後に振り返ってみたい。

地獄蒸し体験・食事(地獄蒸し工房鉄輪)

地獄蒸し体験・食事 (地獄蒸し工房鉄輪)


関連情報
事業実施報告(九州経済産業局ウェブサイト)(英語 )



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