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移民は本当に危険な存在か 独立行政法人 経済産業研究所 研究顧問 根津 利三郎【配信日:2017/07/31 No.0269-0270-1050】

配信日:2017年7月31日

移民は本当に危険な存在か

独立行政法人 経済産業研究所 研究顧問
根津 利三郎


 日本における外国人の割合は極めて少ない。他の先進国は外国人を広く受け入れながら、人口減少や労働力不足に対処している。日本も世界一厳しい移民・難民政策を緩和すべき時期に来ている。


止まったか?反EUの流れ

 外国のエコノミストや市場関係者と話をすると、日本の将来については一様に悲観的である。理由は簡単で、これだけ急速に少子高齢化が進んでいるにも拘わらず、出生率向上のための効果的な政策を採ろうとせず、移民に対しても世界で最も閉鎖的な政策を続けているからだ。このままでは今世紀末には人口は6500万と、現在の半分になる。このような衰退への道を変更させるには、ヨーロッパの移民の現状をよく見てみる必要がある。

 日本ではヨーロッパの将来については悲観論が強い。特に2010年以降、ギリシャ経済の破綻、南ヨーロッパ経済の停滞などで、共通通貨であるユーロに対する警戒感が高まってきた。経済状態の異なる19か国を一つの通貨でつなぎとめておこうというのはそもそも無理で、ユーロという壮大な実験は失敗した、という見方も強い。それに加えて中東やアフリカのイスラム圏から急増する難民問題から、各国で移民、難民を排斥する動きが高まり、国ごとに国境を管理し、自国の権限で移民、難民を減らそうという声が高まっている。昨年(2016年)夏には英国が国民投票でEU 離脱を決定し、現在そのための交渉が進行中だ。

 だがその後行われたオーストリア、オランダの選挙ではEU脱退、移民排斥を唱えた極右勢力は選挙で敗退し、本年(2017年)5月のフランスの大統領選挙でも同様に極右候補は敗れた。9月に予定されているドイツの総選挙で大方の予想通りメルケル政権が勝利すれば、ドミノ的にヨーロッパが崩壊していくという流れは止まったと言えよう。なぜここに来て反EUの流れは止まったのだろうか。答えは経済にある。

日本より高い経済成長率

 経済について言えばヨーロッパは意外にも良好だ。GDP 成長率で見る限り、日本よりはだいぶいい。2016年では日本1%なのに対して、EUは1.7%、米国は1.6%である。国別ではドイツは1.8%、フランスでも1.1%と日本より高い。国際機関の見通しではこのような状況は今年、来年と続く。株価は2016年以降ほぼ米国並みの上昇を示しており、景気も悪いわけではなさそうだ。主要な景気指標であるPMIも昨年後半から急速に改善している。

 暗い面では 失業率は高留まっている。緊縮財政を余儀なくされているイタリアやスペインでは若者の失業率が高く、就業を通じて社会参加し、スキルを磨き上げるという機会が乏しくなり、将来にわたって暗い影を投げかけている。ただしこれらの国は社会的な支援制度が充実しており、不満をある程度吸収する仕組みができている。加えて失業率は徐々に下がり始めており、最悪期は脱したと言ってよい。

 物価動向についていえば、ヨーロッパ各国は日本とともに長らくデフレに悩まされてきたが、本年1~3月のEU全体のインフレ率は1.8%(日本は0.2%)、でデフレ脱却の基調は日本より強い。デフレ克服となれば金融政策も緩和から中立のスタンスに移行し、ユーロも上昇に転じるであろう。

強い経常収支

 経済の健全性を測るうえで重要な指標のひとつに経常収支がある。経常収支とはその国の経済全体として外国との受け取りと支払いの差額である。EU 全体としてみると巨額の黒字となっている。特に黒字が大きいのはドイツだが、ほかにオランダ、デンマークなども黒字だ。フランスは赤字だが、ほんの3年前まで問題国とみなされていたスペインとイタリアは緊縮政策により黒字化しつつある。その結果EU全体としても 黒字が2016年でGDP比3.4%(日本は3.9%)と増えており、米国から文句が出てくる有様だ。

 経常収支が黒字ということは競争力がある、ということであり、ユーロは強くなるはずである。そうならないのは金融緩和を続けているため、米国との金利格差が広がった結果、高い利回りを求めて資金がユーロ圏から流出しているからだが、投機マネーが際限なく流出することはあり得ないので、いつか逆流が始まるであろう。米国がドル安政策をとるならその時期は早まる。

移民、難民は人材確保の手段

 それでもこの数年の間に反ユーロ、反EUの勢いが高まったのは、2010年の「アラブの春」を契機とした中東地域からの移民、難民が急増したからだと筆者はみている。確かにこれだけの移民がヨーロッパに押し寄せ、しかも危険なイスラム過激派が多数紛れている、となればそれを規制しようと考えるのは当然だ。EUはこれを加盟国に配分して受け入れるよう迫っているが、反対が高まり、EU 離脱の動きの原動力になっている。

グラフ1 主要国の移民比率(%)
 だが、グラフ1で示したように移民比率の高い国のほうが経済はうまくいっている。移民、難民というと教育も受けておらず、貧しい人々と思われるが、実は高度の教育を受け、経済的にも豊かな人たちが多く含まれているという。国を脱出するには交通費だけでなく、行った先で生活を立ち上げるためには金が要る。国が混乱して危険が迫った時には金持ちから順に脱出するのだそうだ。ドイツが難民に対して寛容な方針で臨むのは、単に人道的な発想によるのではなさそうだ。経済の発展のためには優秀な人材の獲得が鍵になる。そのためには難民を受け入れるのは合理的である。いずれシリアやイラクに平和が戻った時にスキル水準の低い人間は返してしまい、優秀な人材のみ残しておけばよい。

 日本でも理工系の大学院では優秀な学生はかなりの割合で中国人等外国人だ。日本の問題はこれらのグローバル人材を活用し切れていないことだ。農業や建設現場、飲食店などでは外国人労働者なしにはやっていけない。逆に米国は今まで優秀な外国人は積極的に受け入れてきた。トランプ政権になってこの政策は変わるとみられていたが、裁判所の差し止めで政策変更は見送られている。IT 企業等の産業界は移民の規制強化に反対している。

 米国の最大の食料生産基地であるカリフォルニア州の農業労働者の半分は不法移民だという。ドイツは1960年代から南欧やトルコからの移民を積極的に迎え入れてきた。現在国民の十人に一人は外国生まれ、移民二世、三世を含めれば2割になる。彼らがいなければ、経済は成長どころか、縮小していたであろう。

本当の問題は拡大する経済格差

 EU 諸国が取り組まなければならないのは移民、難民の排除ではない。すでに人口の5人に一人が移民またはその子孫だから彼らを排除することは不可能だし、彼らが経済にとってマイナスだという証拠はない。テレビでよく目にするボートに乗ってアフリカから流れ着く者、中近東からトルコやギリシャを経由してヨーロッパに流入する移民、難民は実はこのような移民人口全体から見ればごく少数でしかない。大量殺人の犯人もほとんど正規の国籍を持った移民の子孫である。

 移民やその子孫がテロや過激思想に流されるのは、彼らが社会から疎外され、様々な経済的不利益を受け、将来に対する明るい希望を持てなくなっているからだ。自国民であっても社会的不満が高まっており、西欧民主主義は危機に立たされている。これらの国がやるべきことは移民の流入規制ではない。拡大する貧富の格差を止め、社会の平等感を高めることだ。

 経済格差がなぜ世界中で拡がっているかについては、エコノミストの間でも諸説あるが、最大の理由はIT などの 技術革新の結果、単純労働は機械に代替されているからだ。これからは人口頭脳(AI)が進み、弁護士や医者という知的な仕事も機械で代替されるであろう。ほんの少数の高度頭脳労働者のみが働く機会を得、それ以外の人は仕事を奪われる。当然少数の人がますます高所得を得、それ以外の人は職を失って貧困化する。社会不安も高まろう。これを回避するには金持ちから、低所得者への所得再配分を進めるしかない。

<グラフ2> OECD諸国の所得格差-Gini係数(2014年) (208KB)

 この点ではグラフ2に見るように、日本は所得格差が先進国の中では大きい部類に属する。一億総中流というのは遠い過去の話になってしまった。ヨーロッパでは子育て支援や貧困対策を強化してきた結果、日本よりは経済格差が小さい。所得再配分という考え方は米国では社会主義的として、受け入れられてこなかった。しかし2016年の大統領選挙戦で サンダース氏が善戦したのは、米国でもこのような考えが広まっていることを示している。

 日本でも本来保守政権のはずの安倍内閣が賃金引上げを企業に要請したり、最低賃金の引き上げ、残業時間の規制強化、同一労働・同一賃金、女性の活躍の場の拡大等を提言しているのは、経済格差の改善が世界的な政策課題であることを示している。だが移民や難民については相変わらず固く門を閉ざしたままだ。米国のトランプ政権の移民排除政策については日本でも批判が多いが、そろそろ自国の移民政策について真剣に考えるべき時だ。

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