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シリーズ「インバウンド観光推進」(No.8) 城崎温泉は町全体が一つの旅館 ~データを活用した豊岡市の取組み 豊岡市環境経済部 参事 小林 辰美【配信日:2017/07/31 No.0269-0270-1051】

配信日:2017年7月31日

シリーズ「インバウンド観光推進」(No.8)
城崎温泉は町全体が一つの旅館
~データを活用した豊岡市の取組み

豊岡市環境経済部 参事
小林 辰美


 豊岡市の外国人観光客の宿泊者数は、5年で40倍と大きく伸びました。市民に関心のなかった外国人観光客の誘致の取組みが、みんなの関心の的になるまでを振り返ってみます。


「小さな世界都市」の実現に向けて

 兵庫県豊岡市は、兵庫県の日本海側に面した人口8万人余りの町です。当市は、規模は小さくても、世界の人たちに尊重され、尊敬されるまち「小さな世界都市」を目指しています。私たちは、これを「Local & Global City」と訳し、よりLocalらしいことが世界に通用すると解し、そのための様々な取組みを行って来ました。

 かつてコウノトリの有数の生息地であった当地は、「コウノトリ住めるまち」はヒトが暮らすのにも環境の良いまちであろうということを前提に、1965年からコウノトリの野生復帰活動に取り組んで来ました。この活動は世界でも例のない、人里での絶滅危惧種の野生復帰として注目されてきました。その半世紀にわたる挑戦は、2005年の初放鳥を経て、今年(2017年)はついに野外のコウノトリが100羽を超えるまでになりました。コウノトリが水田で餌をついばむ姿は、今では観光客も惹きつける情緒ある風景となりました。

水田のコウノトリ

水田のコウノトリ

 コウノトリが傷を癒していたことにより発見された、との伝説がある当地の城崎温泉は、1300年以上の歴史を持ちます。昔ながらの小さな宿と外湯の文化を守り、「駅が玄関」「通りは廊下」「旅館が客室」で「外湯が大浴場」、「お土産物店やその他店舗は売店」と考え、町全体でお客様をおもてなしします。この日本の温泉文化が外国人にも受け、2011年には年に1,118人の外国人が宿泊するだけでしたが、昨年(2016年)その数は4万人に上る観光地となりました。今回は、その豊岡市のインバウンドの取組みを振り返ってみたいと思います。

英語版ガイドブックに紹介されるも…

 「Best Onsen Town」と城崎温泉が世界的旅行ガイドブック「ロンリープラネット」に紹介されたのは2008年のことでした。当時の豊岡市観光課では、当然、外国人観光客が増えるのではないかと期待をしましたが、一方で、受け入れる城崎温泉では、外国人が増えると温泉街の情緒が保てないのではないかという不安もありました。

 2009年に城崎温泉の外国人観光客の宿泊数はやや増えたものの、2010年にはほぼ2008年並みの1,748人・泊と外国人観光客は増えませんでした。さらに2011年は東日本大震災の影響で1,118人まで減少してしまいました。「棚から牡丹餅」を期待していたのですが…。

 2012年、城崎温泉の若手を中心にインバウンドの取組みが始まり、外国人宿泊数4,732人・泊と結果を出します。翌2013年には、国内外の観光客誘致と情報発信を担う「大交流課」を設置し、豊岡市も本格的に取り組み始めました。行政にはWebの知識も旅行業の知識もないことから、総務省の「地域おこし企業人」の制度を活用してオンライン旅行会社の楽天トラベルから市に社員を派遣してもらい、「海外戦略」を進めることにしました。

 2014年には外国人の宿泊客数がついに1万人を超え、浴衣を着た外国人が珍しくなくなると、地元からは、「スタイルのええ外国人の浴衣姿は結構景色に馴染むなぁ。」とか、「外国人も浴衣着とったら同じ観光客やん。」と外国人アレルギーもなくなり、旅館や外湯では外国人には特に丁寧に浴衣の着付けをしてもらえるようになりました。

浴衣で外湯めぐりを楽しむ外国人客

浴衣で外湯めぐりを楽しむ外国人客

勘と経験の観光振興からからデータ分析による観光戦略へ

 城崎温泉は外湯めぐりを特徴とし、浴衣を着て出掛け、外湯に入ったり、そぞろ歩きをしてもらいます。このことが外国人にとっては日本の伝統的衣装や温泉文化の体験として売れるのではないかと考えました。

 売るものは決まりました。しかし、外国への営業は初めてのことで、今までのように勘と経験を生かすことができません。そこで役に立ったのが様々なデータです。

 まず、心強かったのが、市内の宿泊施設が外国人観光客の宿泊数を国別に提供してくれたこと。観光で最も消費額の期待できる宿泊を増やすことを目標とするには、基礎となる宿泊者のデータがないと事業効果を計ることもできません。城崎温泉旅館協同組合では、幸い2004年からデータを取っており、その他の地域でも2013年から報告をもらえるようになりました。

 また、JNTO(日本政府観光局)をはじめ、近年、インバウンドに関するデータは多く発表されています。これらを利用し、日本文化の体験を目的に来る国は?閑散期の春と秋に多く来ている国は?などいろいろな条件を探り、欧・米・豪を中心に売り込むこととしました。

 こうした国々から来日する観光客の予約は9割以上が個人手配ということも分かりました。そこで、英語版のホームページを充実させ、ウェブ上から宿の予約もできるようにしました。SEM(※)対策も施し、2016年5月に5,405だったアクセス数は2017年には14,856と約2.7倍に伸びています。

 2015年からは滞在時間の延長や訪問箇所を増やすための施策に活かすために、Wi-Fiのデータから外国人観光客の移動状況を調査しています。JRのみで移動している国や比較的多くの場所を訪れている国、ロープウェイの利用率の高い国など、旅行者の出身国ごとに特徴のある移動軌跡が得られ、今後の国別の営業にも利用したいと思っています。

夜の散策も城崎温泉の楽しみの一つ

夜の散策も城崎温泉の楽しみの一つ

海外での城崎温泉の知名度は?

 2014年、初めて海外の旅行博に参加しました。世界でも最大級のB to Bの旅行博World Travel Market(ロンドン)です。日本からは、豊岡市のほかに東京、大阪、京都、沖縄が出展していました。ヨーロッパの方には豊岡市がどんなに大きな市に映ったでしょうか、今思うと恥ずかしい限りです。

 しかし、ヨーロッパ各国の旅行代理店の方や旅行雑誌記者などと直接話す機会が持て、肌で反応を確かめることができたことは収穫でした。その後もフランス、タイ、シンガポールなどの旅行博に参加し、次のようなことがわかりました。

1. ロンリープラネットに紹介されていても知名度はほぼ0%
2. 城崎温泉のみを目的に来る観光客はいないので、近隣の観光地と手を組むべき。
3. 日本のきれいな海は沖縄。雪は北海道か信州。という固定化されたイメージ。
4. パッケージツアー等の旅行商品を持っていけば、すぐに商談できる。

行政の限界

 旅行博や海外での商談会に参加し、最も歯がゆく思うのが、行政は商品を持っていないことです。目の前のお客様に、観光地の魅力は紹介できても、行政は宿も体験もツアー商品も持っていないので、その場で誘客の実績を出すことができません。そこで昨年6月、日本版DMO「一般社団法人豊岡観光イノベーション」(TTI)を設立しました。

 TTIは地域の稼ぐ力を伸ばすことを第1の目的とし、もちろん旅行商品の販売も行っています。今では旅館や交通事業者などと一緒に海外への営業も主体的に行ない、外国語版(英語・仏語)ホームページによる宿泊予約も手がけています。2017年1月~5月の予約実績は前年の約3倍とこちらも順調な営業成績を上げています。

豊岡市外国人宿泊客の推移

豊岡市外国人宿泊客の推移

 地域やTTIの協力のおかげで外国人観光客の宿泊数も市全体で44,648人・泊(2016年)となり、設定時は夢のような目標だった「2020年に10万人・泊/年」も現実味を帯びてきました。コウノトリの餌を確保するために広げてきた無農薬栽培や減農薬栽培のお米は、今や安全な「コウノトリ育むお米」として高値で取り引きされ、環境保護と経済活動が両立するモデルとなっています。更にお米は米国や香港にも出荷される一方で、地域特徴を生かしたメニューとして提供する施設も増え、外国人観光客の皆さんにも喜ばれています。

 今後は、目標である10万人・泊/年を目指すとともに、データを活用することで滞在時間を延ばして消費単価を増やし、地域の観光消費額の増加に努めたいと思います。

※「サーチエンジンマーケティグ」の略称。検索エンジンから特定のWebサイトへの来訪者を増やすためのマーケティング手法の総称。


豊岡市について

豊岡市は、市域の約8割を森林が占め、北は日本海、東は京都府に接し、中央部には母なる川・円山川が悠々と流れています。海岸部は山陰海岸国立公園、山岳部は氷ノ山後山那岐山国定公園に指定され、多彩な四季を織りなす自然環境に恵まれています。2005年、国指定の特別天然記念物・コウノトリが自然放鳥され、人里で野生復帰を目指す世界的にも例がない壮大な取組みが始まりました。産業は、農林水産業、観光業などが盛んです。地場産業としては、全国の4大産地の一つであるかばんや出石焼などの生産が行われています。

関連サイト

■ディスカバー豊岡(日本語観光サイト)
■Visit Kinosaki (English Tourism Site)
■豊岡市観光パンフレット(PDF) (日本語) (English)

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