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シリーズ「AI/IoTの活用から生まれる新たなビジネス」(2) 未熟練者も現場の安全管理を担える -設備点検に活用する身近なIoT 株式会社木幡計器製作所 代表取締役 木幡 巌【配信日:2017/07/31 No.0269-0270-1052】

配信日:2017年7月31日

シリーズ「AI/IoTの活用から生まれる新たなビジネス」(2)
未熟練者も現場の安全管理を担える
-設備点検に活用する身近なIoT

株式会社木幡計器製作所 代表取締役
木幡 巌


 人材不足が課題となる設備点検メンテナンス分野で、手軽に始める事が可能な現場のIoT化事例「RFIDを用いたクラウド対応型計器・設備保全管理システム」の紹介。


今も世界で使われている機械式のブルドン管圧力計

 弊社は1909年の創業時から100年以上変わらずに機械式のブルドン管圧力計を生産している。この圧力計は、工業計器として汎用的な製品であり、古くは19世紀半
ブルドン管圧力計
ばにこれが開発された頃から、原理機構が変わらない。日本だけでなく世界的にも、安価で精度のよい現場指示計として多用され、現在でも年間約1,000万個も国内生産されている。こうした機械式計器類の特徴は、物理的な金属の変位を利用した計器であるため、測定には電源が不要であり、配管に取り付けるだけで簡単に計測が可能で、視覚的にも直観的に値の変化が読みやすいことである。

管理されぬまま放置されている計器たち

 そうした理由から工場やビルの各種機械設備や配管等には、このような圧力計や温度計などの機械式工業計器が数多く設置されている。これらは運転状態を現場監視するための計器として、安全管理のために、日常の設備点検の対象となっている場合も多い。しかしながら、現場では実際に設置されてから、管理されないまま放置され故障しているような計器も見受けられる。

設備点検・管理現場の実例
 上記写真の圧力計は、ある宿泊施設の地下駐車場の配管圧力の元圧確認用の圧力計である。赤い針は常用値や安全上の閾値を示す目安の針で、一見、この針はいずれも正しい圧力を示しているようではある。しかし、実際の圧力値を示す指針は黒針の方であり、左の計器は指針が計器の下部に脱落し、右の計器は目盛りのないところを指している。つまり両方とも壊れているわけだが、安全を監視する役割を担うはずの計器がこのように本来の役割を果たしていないのは悲しいことであり、もしもこの施設への宿泊客がこの計器状態を見たならば不安にかられるのではとも思う。

背景に人材不足と人材育成難の影響も

 私は職業柄、計器を見つけるとまず間違いなく覗きこむのだが、実際にはこのように現場に放置されたままの計器を時折見かける。本来は安全や安心を見守るはずの計器類であるが、事故が無ければ見過ごされがちだ。こうした状況がなぜ散見されるのか。実はそこには設備現場における深刻な課題がある。それは「設備メンテナンス技師の人材不足」と「高齢化による後継者の育成難」である。これにより、現場によっては業務が必要最低限になっていたりする。設備のメンテナンスには幅広い機器に関する知識が求められるが、工場のプラントメンテナンス分野もビルメンテンス業界でも、こうした人材の課題に直面しているのである。

 確かに外観の似た計器類が数多く設置されていると、その識別も大変だ。加えて、機器毎に点検項目や適性・異常の状態判別は様々で、業務は煩雑である。そして設備保守点検業務は、大手企業の工場でも、紙のチェックシートを用いた点検がまだまだ多く、IT化は思うほど進んでいない。紙ベースの点検結果を、事務所で改めてExcel入力して記録管理するなどの例も見られ、点検ミスや転記ミスの可能性も否定出来ず、効率も悪い。生産設備への投資は積極的な企業でも、維持メンテンス面では、予算化が厳しいという企業の現状も見受けられる。

より身近に、すぐ始められるIoT

 近年、IoTが注目され、今後、電子式計器類による遠隔監視の進展が更に進むことが期待されている。しかし、通信インフラの課題や、投資コストの問題からも、まだまだ、話題先行で、現場には進展導入は思うように進んでおらず、老朽化する既存設備には未だに多くの機械式計器が存在する。

 なんとかこうした現場の課題を、比較的身近に、低コストで容易に、後付けで省力化出来ないものかと勘案した。そうして、より身近に、すぐ始められるIoTとして、RFID(※)を用いた計器・設備保全点検管理システムを弊社で考案した。

※“Radio Frequency Identification”の略。電波を使って物品や人物を自動的に識別するための技術全般を指す。RFIDタグと呼ばれる媒体に記憶されたデータを、電波を用いて非接触で読み書きすることが出来る。FeliCa技術などを使った非接触ICカードもこのRFIDに含まれる。バーコードでは、タグを1枚1枚スキャンする必要があるのに対し、RFIDでは、複数のタグを一気にスキャンすることが可能。

工業計器類のIoT化による安全性の確保が必須
RFIDを用いた計器・設備保全点検管理システム

 考案したのは、各種機械式工業計器のガラス面に、小型のRFIDチップを配し、フィルムラミネートした「計器専用RFIDタグラベル」(特許取得済)と、クラウド対応の「設備保全管理システム」である。

(1)既設の計器にも取り付け可能なRFIDタグラベル

 このRFIDタグラベルを用いると、外観の類似した計器類も容易に識別が出来る。更にIoTデータベースの連携により、現場での情報参照や、設備点検業務の合理化、点検ミスの防止の実現も目指した。

 このタグラベルのポイントは、既設の計器にも容易に取り付けが可能な点だ。計器前面のガラス面に取り付けられるので、金属の影響を受けず、直観的にRFIDの読取位置を判別し、自動認識する。加えて、タグの脱落を防ぎ、RFIDを湿気や埃等から保護する特長も併せ持つ。一方で、計器ガラス側にも利点がある。機能性フィルムを用いることで、ガラスの割れや飛散防止、防曇性や遮光性などの機能を付加出来るのである。なお、計器以外の設備機器の点検には、別途、金属対応型のRFIDラベルを供給している。点検個所にこのRFIDタグを取り付ければ、総合的に設備管理することが出来る。

計器専用RFIDタグラベル
(2)現場の作業効率を改善し、未熟練者も点検業務が可能に

 実際の点検では具体的にどのように使えばいいのだろうか。まずクラウド側の設備データベースに各設備機器の詳細や点検項目を事前にマスタ登録し、現場で利用する携帯端末に点検作業項目をデータ転送しておく。一方、現場では、携帯端末により点検個所のRFIDを読み取りながら、その機器に対応した各点検項目を呼び出して、点検結果を入力していく。このとき確認すべき項目や、正常範囲等の閾値、前回点検記録なども参照することが出来、異常時には写真記録や、録音なども可能である。

 点検対象のRFIDのメモリには、点検業務の作業履歴を書き込み、タイムスタンプすることが出来る。これにより、点検の実施記録を記すことが可能で、点検業務の実行性を担保することが出来る。作業後は、点検データを再びデータベースの点検履歴に取り込む。これらのデータはCSVファイルとして保存出来るため、管理データとして分析を活用することも可能である。

 RFIDには個別の識別情報と併せて、通常は事務所内にて保管されている機器の仕様書、図面、取扱説明書などの各種文書とデータベース情報を連携することが出来る。これにより、現場でも携帯端末で個々の情報確認が可能となり、作業合理性を向上させられる。人材不足が課題の点検業務をシステムにより情報支援し、未熟練者でも確実な点検業務を可能にするのだ。

ユーザーのメリット
(3)遠隔監視システムの活用で海外の現地工場も管理可能に

 もう一つの、クラウド対応の設備保全管理システムに関しては、別途開発の遠隔監視システムとの連携により、機器の遠隔監視と巡回点検を一元で管理出来るIoTサービスの提供も可能である。これにより、日本企業で海外に生産シフトした現地工場の設備管理も、日本国内から可能になる。

 今後は、巡回点検時の計器の値を作業者による手入力ではなく、端末を近づけることで自動検針ができ、データ収集可能な機能と、遠隔への定時データ送信機能も付加すべく、現在開発に取り組んでおり、近々の実用化を目指している。


事業概要
創業明治42年(1909年)1月より、機械式ブルドン管圧力計の専業メーカーとして、長年、造船・舶用機器、プラント、ボイラ、熱交換器、ポンプ等の各種産業用機器分野に「イカリ印」ブランドの圧力計製品を納入。近年は圧力測定技術を応用したリハビリ分野の呼吸計測器開発に取り組み医療機器メーカーへの参入や、IoT分野製品開発へも取り組む、老舗企業かつベンチャー企業でもある。

執筆者プロフィール
株式会社木幡計器製作所 代表取締役 木幡巌
株式会社木幡計器製作所 代表取締役 木幡巌

昭和43年1月生。関西大学社会学部卒後、大手空気圧機器メーカーの営業職を経て、家業の (株)木幡計器製作所に入社。平成8年、同社取締役就任。平成25年代表取締役就任。創業100年以上の主力製品である機械式圧力計の製造販売に従事するとともに、現在は保有技術の応用で、医療機器開発や、既存計器のIoT化など、産学連携で新たな開発に挑戦し、地元大阪市大正区の「ものづくり事業」を通じ地域振興にも官民一体で取り組んでいる。



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