多くの貴重な人材、資金を投入した海外事業が、果たして初期の成果を得ているのであろうか。期待半ばにして事業縮小、撤退、廃棄の選択肢を迫られる事業者、あるいは想定外のコスト増のため所期事業目論見を縮小せざるを得ない事業者など、経営リスクは甚大とみなければならない。経営はリスクを排除しては成り立たないが、管理可能なリスクは予め管理し、犠牲を最小化するか、迂回するか、排除しなければならない。
現地操業立ち上げ時から見落されがちなのが、自社企業機密情報の漏洩問題であろう。自社経営上の優位性を支える根幹となるものが知的財産であり、そのなかでもトレード・シークレット(わが国法律用語では“営業秘密”とされるので、以下営業秘密と云う)は特許や意匠等の工業所有権や著作権等の知的財産権と異なり“秘密として管理されている”企業経営に有用な情報である。はたしてわが国企業では自社「営業秘密」に関する保全体制が充分確立されているのであろうか。過って日本産業を支えてきた終身雇用制、運命共同体意識が企業機密保持義務感の支えとなってきたのであろうが、この仕組みが揺らいだ今日もはや機能しなくなった。まして日本の企業風土、カルチャーを離れた他国ではこの規範は作動しない。
この経営根幹に関る基本課題で、まず先決すべきは企業機密情報防衛の基本規定、指針、手法、手段、収拾策等の経営管理手法の確立であり、かつ、その周知徹底であろう。(因みに経営施策として検討されるべき主要項目を下表に示してみた)
「営業秘密」の保護対象となる情報は広範囲に亘る。新製品開発計画、経営計画、新規事業計画始め、製造ノウハウ、品質管理ノウハウ、あるいは部品調達先リストといった工場現場ノウハウの他、セールス・マニュアルや販売促進計画、顧客リスト等の販売機密も含まれ、これらの経営全般にわたる価値ある情報は特許の対象とはなり難いものでも「営業秘密」として法的保護対象とされるのである。また、特許の対象となりうる「営業秘密」もある。新規開発技術の特許出願に際してはその技術内容の開示が必要とされ、公示までの間相当の時間経過を要する。急激な新製品競争下では特許公示までの時間余裕を待てないこともり、その間、「営業秘密」として保護処置を講ずる選択枝もある。発明、新技術は、生産部門や営業部門、管理部門など企業の総合力をもって開発し、その結集された結果が新製品であり、市場へ送り出されてはじめて利益源泉となる実情がある。このため同業他社への秘匿性確保のため敢えて特許申請を行わず、関連する機密事項を「営業秘密」扱いとして保護処置を採ることも可能である。このように「営業秘密」の経営管理手法としての役割と重みが増大してきた。
一方、不正行為によって営業秘密が他の第三者に開示された結果発生した直接損失や機会損失を取り戻す行為よりも、そういった不正行為そのものを抑制する行為の方がより経済的メリットが高く、かつ現状優位性を継続することができる。いったん営業秘密が他の第三者の利用するところとなり、あるいは公知の情報となった場合には、機会損失の他、その救済処置と損害賠償請求に比較にならぬ時間とコストを費やし原状復帰は事実上不可能に近いからである。
欧米諸国、東南アジア諸国はじめ殆どの国の定める不正競争防止法では、その違反者に対する刑事罰の定めがあると云われてきたが、今国会でわが国も刑事罰を導入する等の不正競争防止法改正法か成立し、明年1月1日から施行される。
秘密管理性 ― 検討すべき主な秘密保持システム
1.営業秘密管理規定の策定、実施
(1) 社員、派遣社員等との雇用契約及び役員の就任契約
(2)取引先等との秘密保持契約
(3)情報管理のルール化
(4)職場のセキュリティ環境整備
(5)コンピュターまわりの機密保持
(6)従業員教育・海外赴任前研修 他
2.秘密情報取扱の仕方
(1)秘密保持義務の注意喚起
(2)管理対象としての秘密情報の特定
(3)秘密情報のグレード管理
(4)管理責任者とその権限
(5)アクセスの限定、記録
(6)会議における秘密情報の特定、回収、出席者の守秘義務の確認
(7)その他制限事項、遵守事項
3.オフィス・工場現場の秘密保持対策
(1)アクセス・コントロール
(2)情報の移動管理
(3)ハイ・セキュリテイ・エリア
(4)訪問者の管理
(5)コピー機、通信機器、複写機器の管理
(6)保管設備
(7)鍵および錠の管理
(8)クリーン・デスク方針
(9)清掃/保守
(10) 機密情報の処分
(11) 警報装置
(12) 照明
4.通信ネットワーク上の情報漏洩対策
5−1)情報漏洩の要因
5−2)情報漏洩対策
5−3)コンピュター本体のセキュリティ対策
その他
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