平成18年度 第3回 アジア研究会 「東アジア共同体構築-リージョナル・アーキテクチャーをどう考えるか」政策研究大学院大学教授、副学長 白石 隆【2006/10/24】

日時:2006年10月24日

テーマ「グローバル経済戦略-東アジアの統合と日本の選択」

平成18年度 第3回 アジア研究会
「東アジア共同体構築-リージョナル・アーキテクチャーをどう考えるか」


政策研究大学院大学教授、副学長
白石 隆

白石 隆 「東アジア共同体」という言葉が独り歩きしている。しかし、「共同体」と「共同体構築」ではニュアンスに大きな違いがある。東アジアでは「共同体構築」の名の下にさまざまの地域協力が進んでいる。しかし、ここに共同体をつくろうという大きな政治的意思があるわけではない。現在行われていることを素直に見ると、ヨーロッパで起きているものとは異なる。これをどういう言語で記述するか。私はネットワークの言語を使って記述するのがよいと考えている。
 それがどういうことか、これを説明するため、3つのことをお話したい。1つは、なぜ東アジア共同体という言葉になにか意味があるように受け止められ、このことばが力を持つようになったかだ。東アジアという言葉が今のように使われ始めたのは1980年代後半で、事実上の経済統合が進んだためだ。またこの地域で制度構築の政治的意思がどうして出てきたかと言うと、これは1997年の経済危機が最大の理由だろう。このとき日本は「ASEAN+1」を提唱し、ASEANは「ASEAN+3」を提案した。この結果、1997年にASEAN+3の首脳会談が開催され、1998年には「ASEAN+3」が定例化し、2001年にはASEAN+3首脳会談の合意で設立された「東アジア・ビジョン・グループ」の提言のかたちで「東アジア共同体」がうたわれるようになった。
 しかし、東アジア共同体ということばはセクシーではあっても、そういうものをつくろうという大きな共同の政治的意思はまだこの地域に生まれていない。ではなぜ「東アジア共同体構築」の名の下に、さまざまの地域協力が行われているのか。その1つの理由は、経済危機以降、民主的な体制の下で政治をどう組み立て直していくか、これが多くの国で大きな課題になっているためだと思う。「成長の政治」をしていくには、「共同体構築」という名の下で経済連携を進めることが鍵となる。もう一つの理由は、中国の台頭にどう対処するかだ。中国の台頭にどう対処するかは、経済においても政治においても、周辺諸国にとって大きな課題となっている。中国が一方的に勝手なことをしないよう、共同でルールを作る、そういう意味でも「東アジア共同体構築」は重要になっている。
 では「共同体構築」ということで、実際には、どういう協力の仕組み、あるいはアーキテクチャーができつつあるのか。3つほど特徴がある。1つは、協力が機能ごとに行われていることである。もう1つは、ASEANがハブになっていることで、さらにもう1つは協力の機能領域ごとにメンバーが異なることだ。こうして「東アジア共同体構築」の名の下に、実際には、ASEANをハブとして、領域毎に、しばしば違うメンバーシップでさまざまの協力が進んでいる。
 では現在の課題はなにか。3つ、指摘したい。1つは「ASEAN+3」はプロセス、「東アジア・サミット」はフォーラムという役割分担をどうするか、「東アジア・サミット」もプロセスにするにはどうすればよいかだ。2つめはASEANそのものへの対処だ。近年、東アジア地域統合の進展とともに東南アジアは東アジアの中に解消され、我が国では東南アジア政策がそのまとまりを失ってしまった。しかし、東南アジアに日本としてどう関与するかは今でも重要であり、そこでも特に重要なことは東南アジアの国々の国家の能力をつけていくことだ。それをしなければ、地域協力と言っても意味がない。さらに3つめはアジア太平洋協力の再活性化である。これについては、ASEAN+3、東アジア・サミットのような東アジア協力とアジア太平洋協力、この2つの協力枠組みの整合性をどうとるかという問題が鍵であり、それに関連してAPECをどう活性化するかが重要である。また中国にどう関与するかについては、中国の一方的行動のコストを上げ、中国がマルチの強調主義的な行動をとるよう促す、そのためにはどうすればよいかを考える必要がある。
 東アジアにおいて、秩序はネットワーク型で構築されつつある。その意味で、この地域の統合は、EU、NATOといった機構の発展としてではなく、ネットワークがますます密度を高めていくようなかたちで進んでいる。こういうネットワーク型の秩序形成において、ハブとなっているのはアメリカとASEANだ。このシステムはまだ当分続くだろう。日本はこの2つのハブにどうエンゲージして、どのような秩序を形成していくかを考える必要がある。
(以上、発表)

【コメント】
村山 拓己・アジア生産性機構(APO)企画調査部長:

村山 拓己 地域連携協定の推進は、先方にメリットが見えるものでなければならず、人材育成プログラム強化など支援策を明確に打ち出していく必要がある。またアジアでこれだけのネットワークを持つ組織はAPO以外にないと自負しており、こういった組織をうまく活用していただきたい。



牧野 義司・経済ジャーナリスト、アジア開発銀行前広報コンサルタント:
牧野 義司 「東アジア共同体」というよりも、「東アジア経済共同体」という形で「経済」を軸に議論を進めた方が、現実的ではないか。もともと政治の枠組み、文化、宗教、人種が大きく異なる東アジアで政治や安全保障をからめて共同体の議論をすると、さまざまな形で障害が出てきて、議論が進まないし現実的でない。それよりも東アジアで現に急ピッチで進みつつある経済連携や地域経済統合への模索の動きをしっかり捉え、その延長線上で「経済共同体」が可能かどうか議論した方がいい。ただ、東アジアはいま世界の成長のセンターになっているが、一方で、経済インフラを含めて未成熟なまま急成長しているだけに、ひとたび巨大なリスクが現実化した場合、そのリスクの連鎖は計り知れない危険性があることもあり、その議論も必要だ。

篠田 邦彦・経済産業省APEC室長:
篠田 邦彦 東アジアにおける経済統合の動きが現実的なものになってきて、APECでも経済統合や連携を進めることへの議論が盛り上がっている。具体的にどのように、自由化や円滑化を進めるかが問題になると思う。従来はAPECの中で非拘束性、自主性という特徴を生かしてガイドラインやベスト・プラクティスなどを提供することが主要な取り組みであったが、今後、こうしたメカニズムを強化し、いかにアジア大平洋地域の経済統合につなげていくかという議論がなされる見込みである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部