第67回-2 中央ユーラシア調査会 「アフガニスタン:2001~2006年」財団法人日本エネルギー経済研究所研究理事 元国連アフガニスタン特別派遣団政務官 田中 浩一郎【2006/10/23】

日時:2006年10月23日

第67回-2 中央ユーラシア調査会
「アフガニスタン:2001~2006年」


財団法人日本エネルギー経済研究所研究理事
元国連アフガニスタン特別派遣団政務官
田中 浩一郎

田中 浩一郎 私がアフガニスタンの任務から戻り、約5年が経過したが、アフガニスタンは今も安定していない。色々な問題が存在するが、それらの「負の連鎖」が断ち切られていない。「負の連鎖」は内戦時代に強化され、それを維持することが、団体や個人、周辺国を含む各プレーヤーに重要になってしまった。9・11以降は、それを突き崩して新しい国家をつくるための事業が展開され、5年間に及ぶ民主化プロセスでは「負の連鎖」を断ち切る「仕掛け」も用意されていたが、結局これらは機能しなかった。それゆえ、今は以前のものと若干異なる、新たな「負の連鎖」が生じており、これにどう対処するかが課題になっている。

1. 9・11以前の「負の連鎖」
 70年代末にはソ連軍の侵攻が起こり、以降、80年代には対ソ連戦が続いた。89年にソ連軍撤退が完了すると、今度はカブールに残された共産党政権を打ち倒す戦い、アフガン人同士の戦いが起きた。最後はこの政権を倒した後、ジハードを戦っていたムジャヒディーン同士の内戦となり、それが悪化する中でタリバンが出現した。90年代後半にはアルカイダなどのテロ組織も入ってきたほか、2000年頃には旱ばつなども重なり、「負の連鎖」をつくり上げてきた。アフガニスタンにおけるさまざまな問題は互いに作用し合い、1カ所だけ切り崩すのは難しい。内戦はまた、内戦をしていることが当事者にとって利益になるという構造を、国民を脇に置いて生み出した。これが2001年9月までの構造だった。

2. 9・11以降の展開:選挙を通じた「仕掛け」の失敗
 9・11以降の流れの中で、アフガニスタンをどのような方向へつくり変えるかについて、アフガン人と国際社会の間で合意がなされていた。それは国家の再建を目指すものであり、理念的な政策目標のほか、制度的、物理的な政治目標、そして経済的目標も打ち立てられた。「ボン合意」は、当初は2年半、最終的には4年余りかけて、アフガニスタンの政権に正統性を与え、内戦に終止符を打つことを目指していた。そのための「仕掛け」として、例えば「民主的な選挙」の実施があった。選挙を通じ、国民の理解や支持を得た政党が出現することが狙いで、同時に国民和解を目指す政策目標も盛り込まれていた。問題は国民の間で意識の分断、利害関係の対立が明確に出ていたことであり、これらを乗り越えられるかどうかが1つの課題であった。
 大統領選挙という「仕掛け」は、2004年秋に実施されたが、投票パターンは民族の壁を突き崩すことができないアフガニスタンが残っていることを示している。2005年秋には議会選挙も行われたが、不備を抱えたままでの実施となった。例えば、単一記名投票法という方法がとられ、これは既存勢力に有利な結果が出るとわかっていたが、強行された。地方を含めた選挙監視も必要だったが、どこまでできるか極めて怪しい中での選挙だった。これはDDR(元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰)やDIAG(非合法武装集団の解体)とも、密接に関係する。本来の仕掛けではDDRとDIAGの促進に、議会選挙も活用されるはずだった。政党は武装組織とは関係ないことを証明したうえで、登録されるはずだったが、政党登録では武装勢力や軍閥と関係している団体が、政党と認められてしまった。
 結局70年代から80年代に戦った人たちは国の英雄であり、またタリバン政権に対して交戦した人たちも英雄として何らかの権利を主張し、彼らの政治的権利が高められた。 彼らは現役の軍閥や武装勢力の地位がありながら、同時に政治的な立場も強化される報酬を得た。また今の議会には与党がおらず、議会ができることによって、ますます国事を動かすことが難しくなった。カブールでは、上位当選者10名のうち半分は軍閥と関係が深い人物で、投票率や無効票の発生を通じても、色々な不正があったと推測される。
 今年2月にはロンドンで「アフガニスタン・コンパクト」が採択されたが、その内容のほとんどは2001年のボン会議で言われていたことであり、5年たって何が変わったのかと言うと、ほとんど変わっていない。とくに問題なのはアメリカの本当の狙いと「真意」に対する疑問や不満が生じていることだ。それは今年5月29日にカブールで発生した暴動に、よく現れている。この事件は、アフガニスタン国軍(ANA)や、北大西洋条約機構(NATO)に率いられている国際治安支援部隊(ISAF)にとって、カブールの治安1つ維持することがいかに難しいかを露呈した。以降、カブール以外で武装勢力の活動が活発化し、攻撃は激化している。

3. 国家再建と復興を妨げる新たな「負の連鎖」
 今アフガニスタンがどのような状態にさいなまれているのかと言うと、食糧危機、貧困、麻薬栽培、国民の困窮があることでは、以前と変わらない。それらが互いにつながっている。このような構図の中心に何が存在するかと言うと、以前は内戦があったが、今はガバナンスの弱い政府がある。まだ政府という名がついているが、放置され、より弱くなれば、再び内乱や内戦状態になる。そうなれば以前と同じ構造の下で再び悪循環が生じ、さらに激化する可能性がある。
 「負の連鎖」をどう断ち切るかだが、要となるのは(1)治安悪化、(2)武装解除への抵抗、(3)テロ組織の再浸透、(4)制度・秩序づくりの阻害、(5)隣国との干渉、(6)麻薬栽培、という6つをつぶすことだ。1カ所だけ集中的にやっても、他のものがこれを補完する形で違うルートをつくってしまうので、全ての問題に同時に取り組む必要がある。そのためには行動計画や資金、要員が必要だが、2003年のイラク戦争以降、国際社会の関心はイラクへ移り、アフガニスタンに十分な資金や要員が投下されたかは怪しい。また現状では、この「負の連鎖」が悪化の傾向を見せているため、時間と共にその是正、挽回がより困難になっていく。ガバナンスの弱いアフガニスタン政府が放置されるとなると、新たな「負の連鎖」の中にアフガニスタンは陥落してしまう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部