第5回 IISTアジア講演会 「変貌する巨象インドとどう付合うか」慶應義塾大学国際連帯顧問委員会委員長・グローバルセキュリティ研究所教授 アフターブ・セット(Aftab Seth)【2006/10/19】

講演日時:2006年10月19日

第5回 IISTアジア講演会
「変貌する巨象インドとどう付合うか」


慶應義塾大学国際連帯顧問委員会委員長・ グローバルセキュリティ研究所教授
アフターブ・セット(Aftab Seth)

Aftab Seth インドは伝統的親日国であり、日本との関係は実に1500年の歴史があるが、この印日関係は今日新たな次元が加わっている。インドと日本の関係が現在どのようなものであり、また今後どう築き上げられるのか。現状をみながら二国間関係の展望を考えたい。

 1998年9月にインドが核実験を行って以来、印日関係はこれまでにない冷却状態となっていた、2000年8月の森首相訪印が一つの転換点となり、印日グローバル・パートナーシップの構築が提唱された。これは単に二国間だけの問題だけを取り扱うものではなく、南シナ海、インド洋といった地域を念頭に置き、グローバルな国防および安全保障にかかわる対話である。なぜならば、外洋艦隊を所有するのはインドと日本だけであるため、アジア太平洋全域に渡る包括的な平和、安全保障を維持する責任を二国は担っているからだ。

開催風景 とりわけ日本が海洋安全保障に対する認識を改めて確認することとなったのは、1999年のアロンドラ・レインボー号事件だったと思われる。貴重な荷物を掲載した同貨物船がマラッカ海峡からインド洋を抜けたところでインドネシアの海賊によってハイジャックされ、船長と船員を貨物船から追放された。幸いなことに、インドの沿岸警備隊によって貨物船は発見され、さらにインド海軍も援護したため海賊は逮捕され、船長や船員もその後無事救出され、アロンドラ・レインボー号も日本に返還されたのだった。この出来事は日本にとって海洋の安全保障の重要性を再認識させる大変な教訓となった。つまりマラッカ海峡は日本だけではなく中国や韓国が必要とする重油の3分の2が通り、また重油だけではなくLPGやウラン燃料、あるいは日本の原発から出る放射性廃棄物もここを通る重要な地域である。また、2002年小泉総理が新たな法律を成立させ、インド洋にイージス護衛艦の派遣が可能になり、アフガン作戦以後、船舶やタンカーがインド洋に出るようになった。こうした船舶はインドで燃料補給をしているため、その点においてもインドなくしては日本の海上安全保障はありえない。

 この一件によって日印間の関係は急速に接近する。99年以降、閣僚レベル、とりわけ経済および軍と自衛隊の間での交流が盛んになった。しかしながら、この次元での協力関係は安全保障面での相互依存だけではなく、その他様々な分野での相互依存に根ざすものである。現在、日印間は科学技術や投資での交流が際立っているが、一方でインドの高校や工科大学で日本語を学ばせるというプログラムが立ち上がっている。これはこれからの日印関係に大きな意味を持つものである。

 そもそも、インドと日本は1500年にわたる仏教を通じての交流がある。仏教と同時に仏教にまつわる伝統や影響も日本に伝わっているのだ。それは、いわば民主主義の価値といえる話し合いである。小泉首相とマンモハン・シン首相は来年を日本におけるインド年、インドにおける日本年として文化的な行事を行うことを決定した。これは一連の文化活動を通じて、互いの知識ベースの結びつきを知り、改めて二国間を結び付けてきたものは何かを考える機会の場となる。そもそもITこそ知識ベースであり、それを鑑みると仏教は最大の知識ベースかつ産業といえるのだ。

 ゼロ発祥の地であるインドで現在IT関連の産業が盛んであることは象徴的なことである。バック・オフィス・サービスにおいては世界の50%以上をインドが提供し、世界各国から多数研究開発施設がインドに立地している。このように各国がインドに集中するのは決してコスト面だけを追及しているのではなく能力や知力をめぐるものでもあり、ITやIT産業関連分野、自動車産業といった様々な分野がインドで熾烈な競争を行っている。

 現在インドで注目すべき点として、一流企業の出現があげられる。アジアで第2位の経済を築く中国では、その中心となっているのは外資系企業である。一方、インドの企業はいずれも世界レベルにある企業も多い。その例として大企業であるタタがあるが、タタは労働法があるにもかかわらず大規模な人員削減を行い、世界第1位の効率を保ち現在もイギリスの大手の製鉄会社の買収に取り組むなど非常に大きな力をもつインド企業である。インドでこうした企業が成り立つのは銀行による力が大きい。銀行は生産性が高く優良な企業に率先して融資するからだ。また、この銀行にしても大きなポテンシャルがあり、今後銀行業の成長は極めて大きなものがあると予想される。

 高成長が今後予想されるインドではあるが、その成長を妨げるマイナス面はインフラである。日本企業にとっては労働法も問題であるといえるだろうが、タタの例もあるので一概にマイナス面になるとはいえない。インフラの問題はデリーやムンバイといった主要都市の空港をはじめとして、各地方都市の空港の改修および建設が計画されている。空港に関しては各国との提携によってプロジェクトが立ち上げられており、その結果旅客数は現状より45%増になる見通しである。また空港だけではなく、デリー、カルカッタ、マドラス、ボンベイを結ぶ高速道路の建設も計画されている。こうしたインフラへ整備は約5ヵ年で1500億ドルの投資が必要とされているので、日本企業にとっても投資の機会となるであろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部