平成19年度 第3回 アジア研究会●「中国金型産業論:中国産業システムとアジア国際分業の統合的理解を求めて」東京大学大学院准教授 天野 倫文、●「日本鉄鋼業の海外事業戦略とアジアでの事業展開」新日本製鐵株式会社 常務執行役員 プロジェクト担当専任部長 入山 幸【2007/10/23】

日時:2007年10月23日

テーマ「日本企業のアジア事業戦略」-アジア・イノベーション・システムとR&D-

平成19年度 第3回 アジア研究会
「中国金型産業論:中国産業システムとアジア国際分業の統合的理解を求めて」


東京大学大学院准教授
天野 倫文

天野 倫文 中国の機械産業の形が変わりつつある。自動車産業が外資系を中心に発展し、とくに金型では質的、量的にも高いレベルが必要になっている。また中国各地へ行くと、金型産業の誘致を大々的にやっている。金型産業は中国のベンチャー・ビジネスと見るとよく、担い手は民営企業が多い。そして国有企業改革や民営企業育成という立場から、見ることも重要だ。また今後は中国の金型が、アジアの一翼を担っていく可能性がある。中国の金型産業が国際的な競争力を持つようになるかという過程では、金型の質が問われる。量から質への転換が起こり得るかという辺りを中心に、(1)市場形成(2)技術基盤形成(3)民間企業の創業の背景(4)外資系企業の戦略、の4つの観点から基盤形成の様子を分析する。
 調査は2年ほどかけ、5地域ぐらいの35社、8機関を回った。生産規模が大きいのは深?と東莞だ。ここでは成型金型はかなり飽和状態だが、他の地域では全く足りないところもある。規模的には華南が大きく、浙江省が次で、ここも民営企業が活発だ。民営企業の活発さは、金型産業の全体的な分布を見るうえで1つのキーになる。市場形成としては3つほどパターンがあり、わかりやすいのは域内の需要から適応していくパターン、もう1つは、域外市場を志向し外部需要を引き込むものだ。そして組織内需要の外部化があるが、これはとくに大手国有企業中心で、企業内の需要を当てにビジネスを形成したが立ち行かなくなり、他のユーザーにも供給していく展開だ。
 技術の流れがどこから来ているのかだが、内部要因としては既存の技術蓄積、海外技術の移転、外部要因としては例えば伝統産業の影響、工作機械メーカーによる技術支援、ユーザーの技術指導に注目、そして技術形成の経路、例えば国営企業からの人材のスピンアウトによるものか、金型企業の進出によるトランスプラントの影響かという技術のルーツを見た。基本的にルーツの多様性があるほど、技術レベルは高くなる。また地域に歴史的に形成されてきた企業家の創生メカニズム、創業風土にも注目した。外からきた人が多い地域では、比較的創業に対する見方が楽観的で、創業へのよい循環が働くが、東北はそうではない。
 また金型とは関係ないが、全産業をベースにとったとき、日台アライアンス対中投資の件数は、2000年以降明らかに増え、いろいろな産業、形で展開されている。また中国をモジュラーアーキテクチャと一括りにすることは、危険だ。南ではよそ者が入ってきて形成され、モジュラーアーキテクチャになっているが、北ではインテグラル型の地域特性が強いところがある。国の成り立ち、人の流動性や関係を見て、アーキテクチャ特性を考えることが今後、産業の配置図などを考えるうえでは重要ではないか。

「日本鉄鋼業の海外事業戦略とアジアでの事業展開」


新日本製鐵株式会社 常務執行役員
プロジェクト担当専任部長
入山 幸

入山 幸
 新日鉄で、海外事業展開を担当している。鉄の環境は、この5年間でかなり変化した。世界の消費は1970-90年代後半まであまり伸びなかったが、90年代後半に変化し始め、この5、6年で急激に伸びている。大半は中国の伸びにより、続いてBRICs諸国がある。全体の需要が増え始めたこともあるが、企業も様相が変わってきた。ミッタル・スチールがアルセロールを買収し、中国企業も非常に増え、次第に大手に絞られる傾向が見えている。日本のわれわれが今のままでは、かなり小さな存在に見えてくるのではないか。  中国における鉄の消費をする代表的な産業の伸びは著しい。需要が増え、鉄鉱石の価格も驚くほど上がっている。幸いコストを大体、吸収できるような値段の変わり幅にあったので、鉄自体はこの数年間、これまでにないような好業績になっている。ただ中国での設備投資が急速で、以前は輸入国だったのだが、2006年から純輸出国となった。中国の輸出が全世界の鉄の需給バランスを壊すのではないかという懸念が持たれている。  このような中、当社や日本の大手鉄鋼会社が何を考えているかというと、鉄を一本で見るのではなく、質に分けて見るべきということだ。ミディアム・ハイグレードが、アジアの需要からすると約5分の1、その他、建設用に使っている資材などのロー・グレードが4億トンで5分の4だ。このロー・グレードの部分は、中国で拡大が進み、その過半はこれだ。幸い技術的、設備的な差がまだ存在しており、ミドル・ハイグレードへの参入障壁は大きい。ここだけ見ると日本のシェアは高く、われわれもロー・グレードではアジア全体の3%程度のシェアしかないが、ミドル・ハイグレードでは5分の1程度を占める。このミドル・ハイグレードの需要が、中国を始めとする産業構造の高度化で、かなりふくらんでおり、われわれとしてはこの鋼材の需要を確実に把握していくのがポリシーになる。  中国からの鋼材の輸出はかなりあるが、対日本ではかなり輸入超になっている。当社はこのような動きの中、積極的、効率的に投資をし、またアライアンスを進め、国内では住友金属、神戸製鋼など株の持ち合いを含め、業務提携などを行っている。海外ではポスコ、ウジミナス、宝鋼、タタといろいろな交流をしている。最も気になるのは中国で、とくに自動車鋼板の需要を把握しようと、上海の宝山製鉄所の中に合弁企業をつくり自動車需要を抑えつつある。非常に巨大な鉄鋼会社がすでにでき、中国にもさらに大規模な鉄鋼会社が出てくるだろう。当社やポスコ、他の日本企業などがどう対応していくかが大きな課題だ。

【コメント】
若林 寛之・国際貿易投資研究所専務理事:

若林 寛之 中国の金型産業発展には、他のLDC諸国にモデルとして持っていけるものがあるのか。また中国政府は東北地域を今後、重点的に開発していく方針を打ち出したが、沿岸地域と同様の形で発展させていこうとしているのか。鉄の話ではミッタルの動きが気になる。マネー・ゲームのように企業を買収しているが、日本としては基幹産業をどう育成し守っていく必要があるか。

岩本 功志・公正貿易センター所長:
岩本 功志 中国へ行き驚いたのは、訪問した工場がどれも新しく、また機械や鋼材が日本製であることだ。しかし、加工している人たちの技術レベルにまだ問題があるという。日本は三角合併等の外資導入政策を推進しており、海外の企業にとって日本企業が買いやすい状況だ。
 中国には経済発展の結果、資金力のある企業もあり、日本の技術に注目して主要産業を買収することもできる世の中になってきた。日本企業にとって企業戦略の立て方が非常に難しい状況になっている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部