第74回-2 中央ユーラシア調査会 「タジキスタン-さらなる躍進に挑戦」元アジア開発銀行タジキスタン事務所駐在代表 本村 和子【2007/05/14】

日時:2007年5月14日

第74回-2 中央ユーラシア調査会
「タジキスタン-さらなる躍進に挑戦」


元アジア開発銀行タジキスタン事務所駐在代表
本村 和子

1.独立と内戦による混乱から和平達成まで
本村 和子 タジキスタンは1991年の独立後、1992-1997年の5年間、内戦を経験し、独立と内戦によるショックでGDP(国内総生産)が独立以降1996年までに3分の1に落ち込む経験をした。1997年に暫定和平が合意されたが、内戦は人心に目に見えない被害を与えた。
 タジキスタンが落ち着きを取り戻し、社会が正常といえる状況になったのは、最近2、3年のことである。1997-2000年の暫定和平期間は、1999年の憲法改定と大統領選を経て、2000年には新二院制議会選挙で新国家体制が発足したことで予定通り終結した。同時に政府は積極的に治安回復に取り組み始めたが、決定的に治安が改善されるには、南に隣接するアフガニスタンが変化し、タリバーンが勢力を失う2001年末まで待たなければならなかった。
 3年の和平期間中、ラフモノフ政権は反政府派に政府の主要ポストの3分の1を割り当てるという積極的な宥和策をとった。双方は国民的和解を目指して3つの共通目標を設定し、協力して実行した。共通の目標となったのは(1)社会的安定をはかる、(2)難民をすべて帰還させる、(3)戦後復興に共に取り組む、ということであった。
 この間、タジキスタン経済は停戦により復興への意欲が高まった1997年から回復に転じ、1998年には5.3%、1999年には3,7%、和平が終結した2000年には8.3%と増加を続け、その後は9-10%という高い回復速度を保つようになった。

2.経済復興と改革実施を助けた国際支援
 経済復興が本格化したのは、治安が良くなった2002年以降である。この年には最初の貧困削減戦略(PRS)の実施も始まった。着実な復興は国民と政府の努力によるものであったが、タジキスタンの場合は外部の要因がタイミングよく働くという幸運にも恵まれた。
 その一つは、世銀の副総裁となったシュティグリッツ氏の影響が1990年代半ば以降、顕著となり、途上国に対する国際通貨基金(IMF)や世銀の対応が変化し、支援対象国のイニシアティブを尊重するという復興・開発支援の基本が尊重されるようになったことである。またタジキスタンが2000年に国連の提唱するミレニアム開発目標の達成をめざす動きに参加したことはその後、国連のタジキスタンに対する開発支援が強化されることへの布石となった。さらにタジキスタン開発の足枷になっていた対外債務の重圧が、2004年には最大の債権国ロシアが債務総額3億ドルのうち2.5億ドルの削減に応じたことで軽減された。経済成長に伴い、貧困層が全人口に占める割合は1999年の81%から2004年には57%に減少した。

3.戦後復興から本格的経済開発へ
 タジキスタンの戦後復興は2005年ごろまでに一段落したが、それ以降も本格的な経済開発を助ける国際支援が続いている。国連は発展途上国に対して、ミレニアム開発目標を達成するために長期の国家開発戦略(NDS)をつくることを奨励し、これに応じたタジキスタンは途上国で最初に2006-15年のNDS草案を公表し、大統領自ら国連での演説で、その実現のための国際支援強化を訴えた。その要請に応える形でIMFはタジキスタンに対する約1億ドルの債務免除に踏み切った。これと先にロシアが債務を削減したことで、タジキスタンの対外債務がGDPに占めるシェアは、2000年の108%から2006年初めには39%に低下した。

4.強まる政府の基盤と大型借款の導入
 2006年11月には大統領選挙が行われ、投票率は91%、そのうちラフモノフ大統領は得票率79.3%で圧勝した。今やタジキスタンは中央アジアでも治安が良く、民主化と自由化が進んだ国と評価されるようになり、また経済が復興から本格的な開発へ移行する中で、ラフモノフ政権に対する国民の信頼が醸成され、政府のリーダーシップが強まる状況となっている。
 現在、タジキスタンではいくつかの大型プロジェクトが進行中である。2006年1月にIMFが債務削減を決めた直後の3月、タジキスタンは中国から3件、総額6.4億ドルの大型借款受け入れを決め、さらに今年に入り2-3億ドルの追加案件実施を決めた。これにより中国からの借款導入総額は10億ドルに達し、その他の借款も含めて借入額がピークに達する2009-2010年には対GDP比60%に達する状態となった。これに対し、IMFは適切な債務管理計画が策定されるのを前提に、タジキスタン支援をどう継続するか近く検討する意向である。
 このように最近、開発途上国には、あらたに経済力を持った新興諸国の提供する借款を利用するという選択肢が生まれ、これまでは先進国の決めたガイドラインに縛られて実現できなかった大規模プロジェクトが実施されるケースがみられるという変化が起きている。

5.今後のタジキスタン開発の課題
 タジキスタンでは、順調な復興により過去10年間でGDPが約2倍になったとはいえ、2005年現在のGDPは総額23億ドル、人口一人当たり357ドル程度にすぎず、失業率は30%、市民生活は出稼ぎの仕送りで支えられているというのが現実である。そのため、高成長維持が当面の最優先課題で、それを実現するには経済活動の基盤拡充のための具体策を急がなければならない。同時に富を公平に分配して社会の安定をはかり、引き続き一定のシェアの財政支出を医療や教育、社会保障など社会政策の充実にあてることも必要である。長い目で見てとくに重視すべきは、学校教育の質の改善で、これには国際協力が欠かせない。さらに今後とも中・長期にわたり、国際協力が必要なのであれば、民主的で透明性の高い開発管理体制を確立することも重要である。国内の資本蓄積はいまだ少ないが、確実に増えており、将来、国内資本を有効に利用できるよう金融システムを確立することも急務である。
 こうして現在、タジキスタンは小国ながら、国際関係のバランスをとりつつ、経済開発の舵取りに主体性を強めつつある。果たして今後とも、国際協力をテコに計画通り年間成長率を10年以上にわたり7-9%で維持し、一段と飛躍することができるのか注目されるところである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部