第78回-1 中央ユーラシア調査会 「ウズベキスタンに勤務して」外務省儀典長/前ウズベキスタン特命全権大使 楠本 祐一【2007/08/24】

日時:2007年8月24日

第78回-1 中央ユーラシア調査会
「ウズベキスタンに勤務して」


外務省儀典長/前ウズベキスタン特命全権大使
楠本 祐一

1. 親日的で自主独立心の強い国、ウズベキスタン
楠本 祐一     2004年9月から2007年7月の間、ウズベキスタンで勤務した。現地での仕事や生活を踏まえ、専門的な話よりも体験談などを通じて、この国をご紹介したい。
 一般的な印象だが、1点目はウズベキスタンが非常に親日的だということだ。現地では日本大使として着任から離任にまで、終始、破格の扱いをしていただいた。離任する大使に大統領が会うことは通常ないが、カリモフ大統領が会ってくださり、心から労をねぎらってくださった。思い起こせば、着任の際も大歓迎だった。その後アンディジャン事件が起き、私からウズベク側に耳の痛いことをいったこともあったが、ウズベキスタンの対日感情、親日的なポジションに変化はなかった。とくに小泉純一郎前首相や甘利明経済産業相が現地に来られ、日本に寄せる思いがますます高まったようだ。
 ウズベキスタンが親日的である背景には、日本と仲良くすれば経済的援助が得られるというしたたかな計算も当然ながらあると思う。他方、カリモフ大統領は過去2回来日しており、大統領自身が私におっしゃったのだが、非常によい印象を受けたという。親日的な感情はカリモフ大統領だけでなく現地の若い人たちにも浸透しており、日本のイメージは極めてよい。アメリカ、ヨーロッパとの関係が良好でないこともあり、ますます日本へシフトしているようだ。
 2つ目の印象だが、ウズベキスタンは自主独立心が強く、自尊心の高い国だということだ。ウズベキスタン経済は最近、ロシア経済やカザフスタン経済に引っ張られ、マクロ面では極めて順調で、ますます自信を付けているようだ。また自尊心、自主独立心が強い中、ソ連崩壊後の新しい国づくりへのバックボーンを求めている気がする。その1つは、ウズベキスタンがアジアの国だという明確なアイデンティティを持っていることだろう。日本はアジアのリーダーだから好きだ、ということになるのかもしれない。さらにもう1つ、最近非常に感じたのが、イスラム国としてのアイデンティティだ。ソ連時代の共産主義のイデオロギーに変わるものとして、アジアの国、イスラムの国ということを前面に出しているのではないか。

2. 漸進的な自由化・民主化の進展
 内政では引き続き漸進主義の下、自由化、民主化を進めている。欧米との間でとくに問題になっているのは、人権問題だ。これはある意味、タブーで、少しでも経済協力が人権問題とリンクしているなどというような言い方をすると、強烈な反発を招く。その一方で感じたのは、ウズベキスタンは欧米による人権批判を非常に気にしているということだ。欧米からの批判を何とかかわしたい、何とか説明したいという気持ちがある。
 麻生太郎前外相が「価値観を反映した外交」、「自由と繁栄の弧」を打ち出した際、私も現地でこれを説明した。その際、「世界にはいろいろな考え方があり、その多様性を基盤に人権なり民主化を進めていく。日本はそのような自助努力を支援したい」としたところ、ウズベク側の抵抗はなかった。やはり人権問題についても、物の言い方が重要ではないか。
 また内政面で一番注目されるのが、12月に予定されている大統領選だ。やはりカリモフ大統領しかいないため、どこかのタイミングで再選の意向を示し、12月に選挙をして、さらに7年間カリモフ体制が続いていくというのが一番あり得るシナリオではないか。
 そしてマクロ経済では経済成長が7%程度の高成長となっているものの、その恩恵がミクロに及んでいるかというと、あまりうまくいっていないようだ。物価は上昇し、市民の生活は苦しい。そして貧困、低所得の問題もある。もう1つの深刻な問題は、若者に職がないことだ。一般市民の不満が蓄積し、過激派が火をつければ、第二のアンディジャン事件も起こりかねない。

3. 緊張が続く欧米との関係
 外交面だが、アンディジャン事件後、欧米との関係は悪い状態だ。とくにアメリカとの関係は、どうしようもない。EUについては、人権対話を始めたりミッションをアンディジャンに招待して調査に協力したり、懐柔策をとったが、EU側が対ウズベキスタン制裁を延長することになり関係は改善していない。他方、ロシアや中国に非常に傾斜しているかというと、そうでもない。ロシア・中国との関係についてはメリット・ベースというか、安全保障面ではある程度の傾斜は仕方ないものの国益中心で付き合っているようだ。
 中央アジア諸国との関係については、日本も「中央アジア+日本」対活の場を通じて関係強化のため協力しているが、中央アジア地域協力については総論は賛成、各論では反対ということで、ウズベキスタンが最も足を引っ張っているのではないかと言われている。皆が集まり地域協力しようと総論を話しているときはよいが、各論、とくに水問題、電力の問題などになると、足の引っ張り合いになる。
 一方、ウズベキスタンが関係を強化したいと思っている国はアジア諸国だ。日本もそうだが、他に目立っていたのはインドネシア、マレーシアなどとの関係だ。もう1つはイスラム諸国で、エジプト、クウェート、カタールなど穏健な国々と仲良くしようとしている。

4.多様な価値観を考慮し、関係強化を
 まとめとして、5点申し上げる。これだけ日本を大切にしてくれる国なので、やはり親日的な関係を保持していくことが重要だろう。経済協力だけでなく、ビジネス、資源、観光などでも関係を強化していくべきというのが1点目だ。2点目は、ウズベキスタンをより客観的に見る必要があるということだ。世の中には多様な価値観が存在し、それを客観的に見ていく必要がある。3点目は、ウズベキスタンへの理解を踏まえ、現実的なアプローチが必要ということだ。欧米のようなイデオロギーよりも、地道な経済協力やビジネスを通じた現実的なアプローチをとるべきだ。そして4点目に、現地には日本のことを知りたいという強烈なニーズがある。とくに日本の近代化のプロセスを、わかりやすく伝えていく必要があるのではないか。そして5点目だが、中央アジアにおける日本の在外プレゼンスはまだ弱いと感じる。親日的な地域なので、よりプレゼンスを高め関係を強化していく必要があるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部