第79回-2 中央ユーラシア調査会 「性と生殖に関する健康を守る:ウズベキスタン国連人口基金での活動を振り返って」在ウズベキスタン国連人口基金〔UNFPA〕前副代表 日比 絵里子【2007/09/20】

日時:2007年9月20日

第79回-2 中央ユーラシア調査会
「性と生殖に関する健康を守る:ウズベキスタン国連人口基金での活動を振り返って」


在ウズベキスタン国連人口基金〔UNFPA〕前副代表
日比 絵里子

1. 国連人口基金の活動理念
日比 絵里子     UNFPAは1969年に設立された国連の機関で、約150カ国で活動している。開発と人道支援の両方を行い、パートナーは各国政府が主だが、非政府組織や民間研究機関などとも提携している。UNFPAのバイブルといわれるのは、1994年にエジプトで開かれた国際人口開発会議(ICPD)の行動計画だ。この会議はそれまでの人口という概念を180度変えた、画期的なものといわれる。従来はマクロの視点から人口爆発を抑え、資源に見合った人口の成長率に抑えていくかが注目されたが、この会議はむしろ個人の人権に着目し、マクロとのバランスで考える必要があると唱えた。またUNFPAの重点活動領域は(1)リプロダクティブ・ヘルスとライツ、(2)人口と開発、(3)ジェンダーの平等、の3つだ。

2. ウズベキスタンにおける活動状況
 世界人口白書によると、ウズベキスタンの人口の2007年推計は2740万人で、2050年には3870万人になるといわれる。人口の年平均増加率は1.4%で、現在の平均寿命は男性が63.9歳、女性が70.3歳となっている。また都市人口の割合は、37%とされるが、実際には水面下で動いている人口も多いと思う。とくに近年は貧困の影響で地方から都市部に出る人たち、海外に出る人たちが多く、これらの人口をどう正確に推計していけるのか若干、疑問だ。
 2002年に米国政府の支援で保健省を中心に政府が行った保健調査があり、その結果をここでかなり引用する。この調査は非常に内容が的確で信憑性のあるものとして、評価が高かった。ウズベキスタンの合計特殊出生率は、過去10年間で低下している。妊産婦死亡率(世界人口白書)は出生10万に対して24で、例えばロシアの方が67と高い。タジキスタンでは100で、カザフスタンでは210、シエラレオネでは2000、日本では10となっている。これはその国の妊娠、出産が、いかに安全あるいは危険かをはかる指標として使っている。ウズベキスタンの場合、妊婦の97%が産前のケアを受けており、医療施設での出産が大半だ。これは医療サービスが非常に行き届いたソ連時代のポジティブな遺産といわれる。
 乳児死亡率には過去10年間、大きな変化はないということだが、この言葉はウズベキスタンで非常にセンシティブなものだ。妊産婦死亡率もそうだが、この分野で各国を比較する場合、例えば経済分野でGDPや失業率が指標となるように、妊産婦死亡率、乳児死亡率が主に引用される。したがってこの分野で働く人たちにとっては、指標がよいか悪いかは自分のキャリアや名声にかかる。ウズベキスタン政府の発表では1000に対して19だが、2002年の米国政府が支援した調査では62だった。このように、ずいぶん差がある。また定義の仕方、統計の集め方で過小評価する傾向もあり、これはいろいろなドナーからも指摘されてきた。
 またウズベキスタンでは避妊実行率が高く、63%だ。しかし圧倒的に避妊リング(IUD)の使用が多く、他の方法は限定されている。したがって私どもは、もっと様々なオプションを保証したい。また避妊の手段としての中絶だが、ウズベキスタンでは妊娠12週まで中絶が合法で、2002年の調査結果では女性は一生涯に平均0.9回の中絶をしている。ただし中絶はどこの国でも非常に難しいトピックで、正確な数値を得るのは難しい。
 そして性感染症だが、旧ソ連圏では90年代に急速に拡大し、今やはり注目されているのはAIDSだ。ウズベキスタンでは15-49歳のHIV感染率は男性で0.4%、女性では0.1%で、アフリカの感染率が高い国から見ると、少なく見えるかもしれないが、非常にトレンドが悪い。公式に届け出られた感染者数だけでも2001年以降倍増しており、実際には届け出ない人がほとんどと見られる。現在のところ、薬物利用や売春婦を通じた感染が多いようだが、一般の人たちの性的関係による感染拡大、とくに若者の間での広がりが今後、懸念される。HIVは社会的な問題で、女性と男性の関係、若者の問題、失業の問題、薬物を利用する人たちの動きなど、さまざまな面から見なければならない。またウズベキスタンにおける15-19歳の女性1000人当たりの出生率は、34だ。さらに私どもが行った意識調査では、未婚の若者の35%が、性関係があるとしている。ウズベキスタンには若い世代が多く、このグループの健康が今後のこの国の性と生殖の健康を左右するだろう。
 2002年の保健調査は画期的で、乳児死亡率や結核など病気、保健にとどまらず、通常はあまり言及しない女性問題にも言及している。これによると「結婚式場で初めて夫に会った」という人が既婚女性の10%で、3割近くがほとんど見ず知らずの相手と結婚している。また家庭内で決定に参加できる話題にどのような物があるか、あるいは家庭内の女性に対する暴力についても調査がなされた。
 2005年のアンディジャン事件では、キルギスタン南部に500人ほど難民が出た。この地域では他に大地震の可能性などもあり、またアフガニスタンと国境を接していていろいろな動きがある。しかし何かが起きて難民が流れ込んだ場合、受け入れる側は既に貧困にあえいでいる状況だ。何千という難民が生じた場合、それを支えていくキャパシティをつくることも、今後の課題として浮き彫りになってきた。

3. 今後の課題:求められる人道支援と開発支援の連携
 旧ソ連圏の国々は似ているのかもしれないが、とくにウズベキスタンでは医療に従事している人の人口比率が高く、社会問題を医療用語でわかりにくく説明する傾向がある。AIDSのように保健分野だけで対処しきれない問題では、このような状況から脱却する必要がある。また懲罰的なデータ、統計の利用を変え、正確な数字が出るよう前向きに努力することも必要だ。ただし基本的には貧困問題、マクロで見た経済問題が解決しない限り、これらの問題も根本的には解決しないだろう。そして地方、グラスルーツのニーズへの対応、さらに大災害など不慮の事態に備えてキャパシティをつくることも重要だ。これについては従来、あまり仲が良くなかった人道支援と開発支援のグループが互いに協力し合っていくことも課題となっている。ウズベキスタンには優秀な人材が多いが、海外への頭脳流出も少なくない。ただ非常に難しい環境にありながら、コミットメントのある人が多い。地方でも中央でも、今ある人的資源を今後、どのように活用していくかが、非常に重要になると感じた。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部