第80回-1 中央ユーラシア調査会 「プーチン露政権の行方」毎日新聞外信部編集委員 飯島 一孝【2007/10/17】

日時:2007年10月17日

第80回-1 中央ユーラシア調査会
「プーチン露政権の行方」


毎日新聞外信部編集委員
飯島 一孝

 9月中旬に日露学術・報道関係者会議で、モスクワへ行く機会があった。国立モスクワ国際関係大学と年1回、合同でシンポジウムを開き意見交換している。この機会を利用してできるだけロシアの識者の話を聞こうとしており、今回は当然ながらプーチン大統領の後継者が誰になるかについて関心が高かった。政治評論家など、10人ほどの識者に話を聞いた。

1. 「2008年問題」に関する識者らの見方
 モスクワへ行った時期にちょうどフラトコフ首相が解任され、無名のズプコフが新首相になった。首相交代直後だったため、なぜズプコフ首相が選ばれたのか、また彼は単なる首相か、それとも大統領になる含みがあるのかについて、とくに聞いた。それまではイワノフ、メドベージェフが最有力候補といわれていたが、突然ズプコフが出てきた。「2008年問題」、プーチン大統領の後継問題は最大の関心事だった。これについて「ズプコフが第一有力候補だ」という人が2人、「所詮は首相どまりだ」という人が1人いて、その他は「なぜズプコフが選ばれたのかわからない」という感じだった。
 ズプコフが次期大統領選の第一有力候補だと断言したのは、国家戦略研究所のベルコフスキー所長と改革派の放送局「エホ・モスクブイ」のベネディクトフ編集長だ。ベルコフスキー氏によれば、後継者の条件には(1)プーチン大統領と精神的依存関係にある(2)政治的野心がない(3)政治的エリート・グループの合意が得られ、敵もいない(4)プーチン大統領との共通点がない、という4つがあり、これらをクリアしているためズプコフの可能性が高いという。またズプコフ指名の当日に、ロシアの経済紙が「内閣改造、イワノフ首相へ」という記事を掲載した。結局イワノフは首相にならず大恥をかき、イワノフを追い落とそうという人物が意図的にリークしたのかもしれない。ベルコフスキー氏は、そのような恥をかいた人間をプーチン大統領は二度と大統領候補にしないとみていた。しかし最終決定がどうなるかはわからず、下院選が12月にあるため、その結果によっても変わるということだ。
 ベネディクトフ編集長は、プーチン大統領周辺には「宮廷グループ」と「貴族グループ」の2つがあり、前者は大統領と親しいサンクトペテルブルク系の人たちで、後者は大会社のトップにいる人たちだという。最近、プーチン大統領は中でも無名で90年代に一緒に働いた人たちを重要なポストにつけており、ズプコフはそれに入る。その中でもどの派閥にも属さない人物だから首相に選ばれたのではないかという。ベネディクトフ氏はズプコフは有能なテクノクラートで、人間的にもすぐれた人物だといっていた。
 それに対し「ズプコフは後継者でない」といっていたのは、コサチョフ下院外交問題委員長だ。ズプコフはあくまでも首相として政権交代期、選挙のときに行政がうまく機能するようにするための監視役ではないかということだった。統一ロシアの党大会が10月初めに開かれ、プーチン大統領は自ら「首相になってもよい」と発言した。そこでもう一幕あり状況が変わった訳だが、私たちが話を聞いた当時はそのような内容だった。
 『論拠と事実』という週間紙の特集記事に掲載されていた識者コメントで、私自身が納得したのは、ヴィクトル・ユーヒンという下院議員の話だった。彼によれば、ズプコフは若くなく、野心もない。したがって大統領を一期務めれば、次はやらないということだ。1期、またはその途中でやめるかもしれず、そのときにプーチン大統領が再登板するのではないかという見方だ。首相指名後の9月13日の記者会見では、ズプコフは大統領選出馬の可能性も否定しなかった。大統領選出馬を示唆したのは、ズプコフが初めてで、彼はプーチン大統領によってそこまで言ってよいといわれたはずだ。プーチン大統領はズプコフを首相に指名し、大統領にして自分は下で首相になり、適切な時期にズプコフに代わって復帰するという戦略ではないか。いろいろな見方ができるが、1つ有力なのは、レイムダック化を恐れるということだ。イワノフ、メドベージェフの両氏が次期後継者だということで、いろいろな面で力を付けてきたので、プーチン大統領が警戒してきたという説もある。

2. MD問題など米露関係の行方と今後の展開
 米露関係の行方だが、ロシアは90年代、米国の言いなりで、今後は自分たちで政策も考え、存在感を出すということで、米露関係は新冷戦といわれる状態になった。しかし本当に冷戦になれば困り、米国にはまだかなわない。したがって米国のいうことは鵜呑みにしないが、喧嘩せずにうまくまとめるしかない。MD問題では東欧に米国の基地がつくられるのは、やめさせたいが、決着をつけるのは難しい。プーチン大統領は選挙が終わるまでは対立した形を残し、米国にいうべきことはいう、ということで国民のナショナリズム、ソ連時代のノスタルジーに応えようとしているのではないか。
 また次期政権の課題について、ベルゴフスキー氏は、第一に北カフカスの民族問題があり、おそらく新たな戦争が迫っているという。そして2番目にインフラ整備が過去30年間ほとんど行われていないことがあり、事故多発の可能性がある。第3にシベリア極東地域の人口急増による問題、第4に官僚の汚職があるという。
 次期大統領に関する第一のポイントは、下院選で統一ロシアがどの程度、勝つかだ。3分の2以上をとれればズプコフでも大丈夫となり、後継者に指名するのではないか。逆に過半数程度なら、プーチン大統領が首相になることも簡単にいくかどうかだ。そうなるとイワノフなどを出し、強力な政権をつくらなければいけない。プーチン大統領が首相になっても、今の憲法体制では権力が大統領に集中し、首相解任もできる。したがって、本当の院政的なものができるかだ。それをやるため議院内閣制にし、大統領は名目的なものとして首相に全権を握らせる形に憲法改正できるが、そうするとプーチンが大統領になった際、何もできない。やはりズプコフに大統領をやらせ、3分の2の議席を持っているときに大統領の任期を延ばし、ズプコフに大統領をやめさせ自分がなるのがプーチン体制を守るには理想的ではないか。

 しかし最近はシロビキの内紛も報道され、簡単にプーチン大統領の思い通りにはならないだろう。また選挙は水物で、予想通りにいかない。われわれも来年3月まで、できるだけ深層の動きまで見ていかなくてはならないのではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部