第80回-2 中央ユーラシア調査会 「アメリカの対中央アジア政策について」防衛省防衛研究所主任研究官 湯浅 剛【2007/10/17】

日時:2007年10月17日

第80回-2 中央ユーラシア調査会
「アメリカの対中央アジア政策について」


防衛省防衛研究所主任研究官
湯浅 剛

湯浅 剛     ブッシュ政権の終焉が近づく中、イラク、アフガニスタン政策も含め、アメリカの外交が混迷している。7月末から8月にかけてアメリカをまわったので、このような状況でアメリカがどのような対中央アジア政策をとっているか、私なりにまとめてみたい。

1. 冷戦後の対中央アジア政策の変化
 アメリカにとって旧ソ連の中央アジアは、率直にいえば対外政策の最優先地域ではない。冷戦後にアメリカの対中央アジア政策で一貫したものがあるとすれば、ソ連が解体したことによって出現した新しい独立国家に対する支援を続けてきたことだろう。ただそのためのイシューやアプローチは、政権ごとに変化した。先代のブッシュ政権では、新興独立国との関係立ち上げを早急に行い、特にカザフスタンの核問題に配慮した。これらの問題がクリントン政権第一期に、ある程度落ち着くと、国益追求の政策がとられるようになり、BTCパイプライン敷設問題などが浮上する。そして第2期クリントン政権にはNATO(北大西洋条約機構)拡大問題、対ロシア支援がある意味、失敗し、新しい地域の政治地図の中でアメリカがこういった地域にどう関わっていくかが焦点になった。この時期には安全保障分野への関与も、こういったイシューに対するアプローチの仕方として語れると思う。
 ブッシュ政権では9.11(米同時多発テロ事件)以降、安全保障分野での関与がアフガニスタンでの「不朽の自由作戦」(OEF)、「対テロ掃討作戦」に関わる基地駐留といった直接的な関与に移った。ただこういった政策は、現地の情勢変化に伴っており、一貫したものとはいえない。とくにカラー革命やアンディジャン事件による対ウズベキスタン関係の冷却化は、アメリカにとって痛手となり、現在はアンディジャン事件後の関係再構築にあるといえる。
 少なくとも現在のブッシュ政権を見る限り、明確な戦略が存在するかは非常に疑問だ。今回の出張では、アメリカの国務省担当者や国家安全保障会議(NSC)、国防省の担当者と直接何人もお話する機会があった。それまではアメリカの対中央アジア政策には一貫した戦略なるものが存在している、ワシントンに集まる政府を取り巻く大学やシンクタンクが競って政策提言を行い、その中で実際の政策として採用されるものがある、というイメージを描いていた。しかし聞き取りを進めるに従い、そのときどきの事象に、悪くいえば自転車操業的に対処しているのではないかという考えに変わった。

2. 国務省などの組織改変と効果
 アメリカの対中央アジア政策の混乱が色濃く映し出されているのが、2006年2月に国務省で行われた中央アジアの部局再編だ。つまり中央アジアを旧ソ連圏で集めていた欧州ユーラシア局から引き離し、南中央アジア局に編成替えした。これは国務省の外の中央アジア専門家には甚だ不評だ。国務省南中央アジア局のナンバー2、ファイゲンバウム国務次官補代理に今回お会いでき、彼自身は立場上「組織はうまく機能している」といっていたが、その一方でとりわけ対ウズベキスタン問題には悩まされている、と率直に認めていた。
 またアメリカの対中央アジア政策のある種の停滞は、冷戦後の国務省でロシア、ユーラシア政策を引っ張ってきた2人の大物ロシア専門家、タルボットとライスの采配のあり方に大きく左右されているということだ。クリントン政権のタルボットは対露宥和政策を積極的に進めた。それに対しライスのロシアへのアプローチは異なり、米露の新冷戦ともいうべき状況がつくり出された。マイケル・マクフォールによれば、第1期ブッシュ政権発足のとき、クリントン政権でタルボットが主導して設置した振興独立国家担当室が、事実上、ブッシュ政権になった途端に縮小された。またロシアと中央アジアが引き離され、ロシアは欧州ユーラシア局が管轄する54カ国のうちの1カ国になった。マクフォールの評価では、ロシアの宥和政策はこの時点で終わりを告げたということだ。第1期ブッシュ政権の組織再編では、ライスは国家安全保障問題の担当補佐官で、ライスがどれだけ影響を与えたかわからないが、2006年の国務省の組織替えが国務長官、ライスの承諾の下で行われたのは明らかだ。
 これに関連して今回の出張で印象的だったのは、2006年の国務省の編成替えに追従するような形で、NSCや国防省でも類似した編成替えがされているのを改めて確認したことだ。例えば国防省では今年1月、日本風にいうと防衛省の内局の改変があり、その際にアジア太平洋の安全保障問題担当の国務次官補の下に、中央アジア担当の国務次官補代理が設置された。そしてこのポストの下に、旧ソ連の中央アジア5カ国を担当するスタッフ、アフガニスタンを担当するスタッフ、パキスタンを担当するスタッフが集められた。それぞれの中央アジア担当、アフガニスタン担当、パキスタン担当の人数は、5名、9名、3名ということで、室というよりは班という感じだ。ただし、このようなアフガン情勢への対処を軸に据えた編成、シフトが、次の政権にどう引き継がれるかはわからない。

3. 新たな攻勢?:対トルクメニスタン外交の活性化
 先ほどアメリカが、対中央アジア諸国関係の再構築の中にいると申し上げたが、アメリカの目線がカザフスタン、トルクメニスタンに非常に注がれ、この2つの国への攻勢が顕著になっていると感じた。カザフスタン自体は中露に挟まれ、この2つの国と連携をとりながら、なおかつアメリカを始めとする西側諸国との良好な関係を保っていこうとしている。アメリカの立場からすると、ロシアやウズベキスタンとの関係が冷却化する中、カザフスタンが中央アジアの友好国として貴重な存在になっている。トルクメニスタンではベルディモハメドフ政権が誕生して以降、アメリカが積極的な外交攻勢をかけている。また9月にはベルディモハメドフが訪米、これは9年ぶりのトルクメニスタンの国家元首による訪米で、2国間関係の親密化を示す象徴的なイベントだった。また国務省や米国国際開発援助庁(USAID)の担当者にも会ったが、対トルクメニスタン関係には非常に期待を寄せていた。

 次期政権でも中央アジアの基本的な重要性は、引き継がれるだろう。ただそれがどのような形で政権内のチームの編成や政策として現れるかは、不透明だ。これは次期政権のアフガニスタンへの対処方針やアフガン情勢のあり方によって、次第に現れてくるのではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部