第7回 IISTアジア講演会 「ASEAN統合の進展と日本の役割」国際機関日本アセアンセンター事務総長 元駐タイ国大使 赤尾 信敏【2007/01/24】

講演日時:2007年1月24日

第7回 IISTアジア講演会
「ASEAN統合の進展と日本の役割」


国際機関日本アセアンセンター事務総長
元駐タイ国大使
赤尾 信敏

赤尾 信敏 東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済統合に関しては、毎年首脳会議を始めいろいろな会議が開かれ、多数の宣言、行動計画、各種協定などが採択されてきたが、統合の進展は非常に遅い。これに関しては、フラストレーションを感じている方も多いと思う。ASEANに進出している日本企業は非常に多く、それらの企業を支援するためにも、また将来の東アジア経済統合実現のためにも日本政府としては内政干渉にならないように配慮しながら、統合を積極的に支援していく必要があると思う。

1. 現在のASEANの状況
 ASEANの人口は現在5億6千万人近く、国内総生産(GDP)は約8億8000万ドルで中国の半分以下だが、韓国より大きい。しかし宗教、民族、言語、文化、歴史的背景、経済格差などはまちまちで、よい意味でも悪い意味でも多様性に富んでいる。このように多様な国々が経済統合を進めていくには、困難も多い。1997年の経済危機は大きなショックだったが、その後の経済状態は徐々に回復し、とくに2002年ごろからは非常に順調だ。
 ASEAN諸国の対外貿易額は、1980年代から2000年ごろには日本より小さかったが、今や日本を凌駕するに至っている。ASEAN諸国はまた、GDPの貿易依存度が非常に高く、2005年には139%だった。貿易相手国の多くは域外国で、ほとんど日米欧、最近では中国といった国々になっている。世界からの対ASEAN投資は、最近は順調に回復して2005年には過去のピーク(1997年)を超え、2006年には対中投資にほぼ肩を並べるに至った。過去20年間にわたって順調に伸び続けているのが観光分野だ。世界観光機関によれば、アジア太平洋地域は今後2020年にかけて、観光分野で世界一伸びる地域と見られている。

2. ASEAN統合の遅れ
 1976年のASEAN協和宣言に端を発し、特に1990年代以降、ASEAN統合は重要かつ優先課題であり、これを念頭においた首脳会議、宣言、閣僚声明、協定などが多数採択されている。07年1月の首脳会議では、ASEAN憲章策定も決められた。しかし実際の統合がうまくいっているかと言うと、必ずしもそうは言えない。経済統合の観点から最も重要なASEAN自由貿易地域(AFTA)を見ても、関税率は下がったものの、実際に利用している企業は非常に少ない。その理由の1つは、AFTAの共通有効特恵関税(CEPT)の適用を受けるためには、原産地証明書(40%以上のASEAN域内生産)を出さなければならないが、まだ電子化されておらず、手続きが非常に煩瑣だ。またシンガポールでは元々関税はほぼゼロで、AFTAの恩恵はあまりない。それ以外の国でも徐々に世界貿易機関(WTO)協定以上に実行税率を下げており、ほんの数%の差しかないため面倒な書類は準備しない。したがって、このような制度をASEANの企業はほとんど活用しておらず、日本などの多国籍企業が使っている。
開催風景 サービスの自由化に関しては1995年に枠組協定が結ばれていたが、これは枠組協定で、例えば観光は観光、金融は金融というようにセクターごとに議定書をつくることになっている。このうちすでにできたのは4本のみで、進み方は遅い。投資の自由化に関しても、さまざまな問題点や遅れが指摘される。ASEAN域内に進出する投資家は、ほとんど域外国から来ている。したがってASEAN諸国10カ国だけで自由化を進めても、あまり意味がない。域外国に対して自由化してこそ、意味があると言える。さらに税関に関しては、とくに域内のモノの自由流通にあたって、関税手続き、関税評価が最大の問題になっている。
 また経済統合では、モノやサービスの自由化をしても運輸部門が改善されなければあまり意味がない。道路や鉄道などハード面の整備に加え、規制面の改善も必要だ。例えばタイのトラックがベトナムやマレーシアに行く際には、国境でマレーシアのトラックに貨物を積み替えなくてはならない。陸上輸送が困難なため、現在は海上輸送が主だが、これには時間がかかるため、陸上輸送の改善は重要だ。最近、日本の援助で完成した第2メコン国際橋の開通は、この意味で注目されている。ただ、当面コストが高いといった問題が残るようだ。
 統合の遅れにおける最も重要な要因としては、「政治的意思の欠如」が挙げられる。またすでに何十という協定があるものの、違反に対する制裁規定がないのも問題だ。欧州連合(EU)のようにしっかりした事務局があれば事務局主導で進むのだろうが、ASEANの事務局は小さく、予算も少ない。保護主義ではなく、競争力を強化するために構造改革路線へ政策転換していかなければならない。

3. 日本政府による今後の支援
 日本とASEANは、とくに民間部門の投資、貿易、人の往来等を通じて、非常に緊密な関係にある。この実体面での相互依存関係を法的、制度的にも強化する必要がある。そのためには、第1にASEAN各国との質の高い経済連携協定(EPA)や、全体との包括的経済連携協定を締結することである。とくにEPAにある各種協力条項は、彼らの能力を高めるうえで非常に重要だろう。第2に、再び通貨危機を招かないため、あるいは通貨危機に陥った場合に早急に対応するためにも、通貨、金融分野の協力をさらに強化していくことが重要だ。ASEAN+3(日中韓)の枠組でチェンマイ・イニシアチブができ、二国間SWAP取極め網の構築が進められている。
 更に、ASEANは伝統的に日本のODA政策の優先地域だが、インフラを中心に、日本のODAはまだまだASEANで必要とされている。ソフト面でも最近、経済産業省と国土交通省が協力して、日本企業の最大の進出先であるASEANの物流を改善するために「国際物流競争力パートナーシップ会議」と「国際物流競争力強化行動計画」をつくり、検討を始めた。これらによって、物流の改善に寄与していくことが期待される。
 このように日本とASEANとの経済関係をさらに高めて緊密化したうえで、中国、韓国を含めた東アジア経済統合の実現を徐々に目指していくべきである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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