第10回 IISTアジア講演会 「ベトナム経済の新展開」早稲田大学教授 トラン・ヴァン・トウ【2007/04/18】

講演日時:2007年4月18日、場所:霞ヶ関 東京會舘

第10回 IISTアジア講演会
「ベトナム経済の新展開」


早稲田大学教授
トラン・ヴァン・トウ

トラン・ヴァン・トウ1. ベトナム経済の発展と課題
 ベトナム経済の現段階を総括すると、次のようにまとめられる。1つはこれまでの発展パフォーマンスでは安定と成長を両立でき、貧困削減もおおむね成功した。2001年-05年の目標、実現数値を見ると、成長率は5年間の平均で7.5%と目標を達成している。工業成長も順調で、輸出額、輸入額、一人当たりGDP(国内総生産)といった指標もほぼ計画通りだ。貧困も着実に低下している。
 このベトナム経済の順調な発展の要因は、いくつか挙げられるが、第1の要因は、環境改善に伴う投資拡大だ。投資率は着実に上昇し、今では37%程度を達成、アジア諸国の水準に近づいている。外国直接投資(FDI)認可額の変動は大きいが、実行額は高水準を維持している。また民間企業の生成、発展も2000年以降著しい。2番目の要因は生産性が高い工業部門への構造転換だ。そして3番目の要因は、輸出拡大だ。GDPに占める輸出額の割合が急上昇し、今は6割程度だ。4番目に農村での飢餓撲滅、貧困削減政策を15年ほど前から重視し、成果を生んだ。
 しかし、ベトナムにおける問題は、少なくとも3つある。1つは資本だ。投資率は上昇しているが、効率的な使用では改善の余地が大きい。2番目の問題は貧富格差の拡大、そして3番目は都市での環境汚染や交通事故増加の問題だ。今後はこの3つの問題を中心に改善していけば、さらに質の高い経済として発展していけるだろう。

2.WTO加盟の影響
 次にWTO加盟によるベトナム経済の今後である。まず、農産品、工業品とも関税率が平均して現行の約17.4%から13.4%へ段階的に削減されることになっており、これは5-7年間で実現される。関税率はさほど大きく変化しないが、サービス産業など外国企業、外国個人の参入を見ると、一部例外はあるが、例えば輸出、輸入活動ができるようになる。
 また、クォータ制が適用され、卵、砂糖、塩、生タバコでクォータ枠が年5%増加していき、少しずつ自由化が進められる。また中古車、大型二輪車などの数量制限が撤廃される。当面はこの影響が一番大きいだろう。コメ、木材製品、天然水の輸出については安全保障、環境保全などの見地から規制されている。また農業関連補助金についても撤廃していく。そして銀行関連では、外銀は支店設置が可能になる。証券については5年以内に、外資100%の証券会社設立が可能になる。
 WTO加盟に関連する関税率の削減計画は緩やかで段階的になされ、5-7年の間に数パーセントずつ行われ、国内市場への影響は小さいだろう。むしろASEAN(東南アジア諸国連合)輸入貿易地域(AFTA)の影響や、今後の中国とASEANのFTAによる影響が注目される。むしろベトナムにとっては、WTO加盟はとくに輸出に関してベネフィットが大きい。

3. ベトナムの中長期的展望
講演風景 今後の中長期的展望、発展動向は、ベトナムで関心を持たれているテーマだ。2020年は大きな目標年で、人口は現在の約8400万人から1億人程度に増加する見込みだ。この年までに工業化と近代化を推進し、経済発展と社会公正、環境との調和も進める。昨年のゴールドマンサックスによる報告では、2025年にはベトナムのGDPが世界17位になると予測した。この過程では、貿易自由化の中の工業化を進めなくてはならない。産業の国際競争力強化が急務で、近道はやはり外資の積極的な導入だ。 
 東アジアの工業発展にはこれまで雁行型という特徴があった。これには異論も出たが、全体的な流れは変わっていないと思う。ベトナムは東アジアの最後発国で、当面は労働集約的軽工業、農林水産加工で競争力を持つ。しかし将来的に競争力のある産業は、より負荷価値の高いものになるだろう。さらに今後のベトナムでは機械工業が有望だ。機械工業はまだ遅れているが、なぜ今後有望かと言うと、1つは約20年前以降のタイで機械関連が本格的に発展したことが挙げられる。今のベトナムは20年前のタイといろいろな意味で同水準だ。そして2番目に、国際協力銀行(JBIC)による日本企業に対するアンケート調査では昨年、将来有望な投資市場として世界各国の中でベトナムが3位に挙げられ、中でも機械関係の企業がベトナムを評価している。

4.日本とベトナムの今後の関係
 最後の話題は日本とベトナムの関係についてだ。直接投資は特に2004年から急速に回復、2006年には認可額が最高を記録し第2次ブームと言われるようになった。日本企業による直接投資の特徴は、製造業への投資が多いことだ。そして認可されたものの実行率が高く、ベトナムの工業化にも合致し、歓迎される。昨年10月にはベトナムの新首相が来日し、晩餐会では最大限の言葉で日本の立場、政策を支持することを表明、国会演説も行った。首相は私がハノイでお会いした際にも、とくに日本との関係について熱心に語っていた。
 日越関係の3段階論として、当初はODAが主流で、次の段階ではODA-FDIが、最後にはFDIが主流になると見る。またFDIが主流となった段階には、大衆文化交流時代が到来する。日本とベトナムの関係を見ると、このような大衆文化交流時代はすでにもう始まっているようだ。ある日本の金融グループの総合研究所の分析では、ベトナムは今、政治、社会、治安は安全かつ親日で、この双方を備えた国は他にないということだ。また2003年には前の首相がイニシアティブをとり、官民一体の投資環境改善協力を立ち上げた。05年には実施状況の評価を行い、第2イニシアティブを立ち上げている。
 WTO加盟については、挑戦より機会が大きい。ベトナムでは産業国際協力強化のため、外国直接投資が必要だ。またベトナム経済は今後、高度成長から安定成長に移っていく。あと10年程度は高度成長が続き、その後、安定成長に入ると思う。そして2010年前後には各種自由化が本格化し、2020年には新興工業国になる。日越関係も、ますます緊密化していくだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部