第11回 IISTアジア講演会 「2020年に向けての東アジア」日本国際交流センターシニアフェロー 田中 均【2007/05/29】

講演日時:2007年5月29日、場所:霞ヶ関 東京會舘

第11回 IISTアジア講演会
「2020年に向けての東アジア」


日本国際交流センターシニアフェロー
田中 均

田中 均1. 今後の東アジアにおける2つの大きな趨勢
きょうは「2020年に向けての東アジア」という、少し大仰な演題でお話をする。東アジアといえども、国際社会の大きな、趨勢的な流れに非常に大きな影響を受ける。
 今の国際社会には、2つの大きな趨勢がある。1つは例えばフランスの大統領選でハンガリー移民2世のサルコジが勝利し、これまで考えられなかったような選択がなされた。また日本国内では、所得格差の問題が指摘される。社民主義的な考え方は、グローバリゼーションの大きな力の前では無力だ。フランスの選択は、社会主義へ戻ることに大きな抵抗があるということだ。経済成長が先を走りそれを修正していく、例えば環境問題、エネルギーの効率化という問題が、まさに今後の世界を動かす大きな柱になっていく。この趨勢は今後10年、20年経っても変わらないだろう。
 もう1つの大きな趨勢は、国際的な統治体制の多極化である。それは、エネルギーを背景に専制的になったロシアであり、無視できない存在として台頭している中国、またインド、ブラジルでもある。欧州では憲法条約が今、頓挫した形になるなどさまざまな問題はあるが、結果的に彼らはEU的な解決をする。今後10年、15年の大きな趨勢としては、やはり国際社会が多極化に向かう。それを加速させた1つの要因は、アメリカのイラクにおける失敗だった。そして、この多極的な国際社会で、日本がどのように処していくかが大きな課題となっている。

2. 日本の外交に求められる緻密な戦略
 「主張する外交」、「民主主義に基づく安定の弧」、「美しい国」を体現する外交という抽象的な概念だけでは国際社会の現実に立ち向かえない。援助(ODA)の額はどんどん下がり、イギリスに抜かれて世界で3位だ。この2年でさらに、ドイツやフランスにも抜かれるだろう。国連平和維持活動(PKO)を見ても、日本が送っているのはせいぜい50人か100人規模だ。一方、中国のPKOは7000人いる。そのような状況で、日本が「主張する外交」として「俺の言うことを聞け」と言っても相手にされない。一種の理念的なことは大事だが、具体的に物事を決めていく緻密な戦略も必要だ。
 10年、15年先を見据え、いくつかのことを日本の外交政策の柱にしなくてはならない。一番大事なのは、国力がないときに強い外交はできないことだ。そして国内の力はイノベーションによる。これを進め、経済の効率性を高めていく、改革をゆるめないことが大事だ。
講演風景 2番目に必要なのは、日本の安全保障のあり方を見直すことだ。「憲法があるから、法律があるから日本の安全を守ることについて制約がある」という考えは誰も理解しない。タブーをなくし、日本の安全保障という問題を正面から見なくてはいけない。何が国際社会の中で普通のことなのか、日本が自己の国力に基づいて何をすることが必要なのか、真正面から議論すべきだ。大きく分けて2つある。1つは日本の安全保障体制の基本的な考え方だが、いわゆる集団的な安全保障体制、国連の安保理決議に基づき、国連が集団的に措置をとっていくこと、国連軍からいわゆる多国籍軍まで幅はある。これは一刻も早く憲法解釈を見直し、可能にすべきだ。そして日米同盟条約に基づく集団的自衛権行使については、私は実は少し別の考慮が必要だと思う。これはやはり憲法改正という議論の中で、考えていくべきだ。逆説的に聞こえるかもしれないが、これからの時代はアメリカとの関係で従属的な要素が少ないほど、日米関係が強くなる。

3. 日本がとるべき朝鮮半島の平和へのイニシアティブ
 朝鮮半島について、私たちは何のために何をするかということについて、あまりにも厳密でない。「拉致はけしからん」、「北朝鮮に制裁だ」というのは外交ではない。外交とは結果をつくる作業で、自分の不満や自分が持っている気持ちを外に表すことではない。
 私はこれまで20年ぐらい北朝鮮の問題を見続けてきた。2001年の小泉純一郎前首相の訪朝は「日本にとって朝鮮半島は外交の原点で、今後の日本の安寧にとって、どうしても形をつけなければならない課題だ」という概念で行われた。小泉前首相の意識は、「拉致の問題も大事」、「核の問題も大事」だが、日本にとって一番大事なのは今後10年、20年のうちに安心できるような朝鮮半島をつくることだった。
 北朝鮮という国は、2つの大きな矛盾する目的を持っている。1つはアメリカの力による圧迫が怖くて仕方がなく、それに対して核の抑止力を持とうとしている。同時に彼らは、国内からの圧迫におびえている。今の経済状況では政権は維持していけず、経済改革、そのための外からの支援が必要だ。これはいつか矛盾する。また戦争に至る危険性は、皆さんが考えている以上に大きい。北朝鮮が他の国の出方を見誤り、戦争に至る可能性は、他の国と比較して圧倒的に高い。したがってわれわれは、しっかり計算しなければならない。

4. 日中関係の重要性
 日本が中国をどう扱っていくかという問題も、やはり何が問題なのか真正面から向き合うことで初めて議論が始まると思う。中国は2020年にはGDPで日本を抜き、世界第2位の経済大国になるだろう。一方、中国が毎年高い経済成長を続けていくには、克服すべき課題も多い。共産党の腐敗をなくすことは、共産党政権、胡錦濤政権にとって一番深刻な問題だ。
 私は最も大事なものの1つは、安全保障だと思う。日本と米国と中国の三角形で、中国の安全保障政策の透明性をはかることが必要ではないか。そして2番目に重要なのは、エネルギーと環境だ。3番目は歴史問題で、私は歴史の見方は多様なものがあってよいと思う。しかし時の政府が基本的な認識に反した行動をとるのは、やめた方がよい。同じことは中国にも言える。また日中間で時間をかけて考えていかなければならないものに、東アジアの秩序づくりがある。そして10年先を見ても非常に大きな問題は、非伝統的安全保障の課題だ。
 20年、30年先には日本がより質の高い国になり、この地域でより自由な貿易体制、投資体制ができ、より安全な世界になっていることを私は夢見ている。そのためには具体的な戦略と、戦略に基づく政策が必要だ。日本という国が、2020年にどうなっているかを考えると、私は非常に心許ない気がする。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部