第13回 IISTアジア講演会 「海のアジア、陸のアジア」拓殖大学学長 渡辺 利夫【2007/07/18】

講演日時:2007年7月18日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第13回 IISTアジア講演会
「海のアジア、陸のアジア」


拓殖大学学長
渡辺 利夫

渡辺 利夫1. 極東アジア情勢と福沢諭吉の「脱亜論」
 福沢諭吉に「脱亜論」という有名な論説がある。今なぜこれをご紹介するかというと、現在の極東アジアの地政学は日清戦争や日露戦争の開戦前夜と随分似ていると思うからだ。要するにあの日本の敵対的な国際環境の中で、あの時代の日本人はいかに生きてきたのか。何より日清、日露戦争開戦前夜において政治家やオピニオン・リーダーたちがどのような危機意識を持ち、何をしようとしていたのか私どもは関心を持たなければならない。

 「脱亜論」の一説には、こうある。「今日の謀を為すに、我国は隣国の開明を待て共に亜細亜を興すの猶予あるべからず、寧ろ、その伍を脱して西洋の文明国と進退を共にし、その支那、朝鮮に接するの法も隣国なるが故にとて特別の会釈に及ばず、正に西洋人が之に接するが風に従て処分すべきのみ。悪友を親しむ者は共に悪友を免かるべからず。我れは心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」。この「亜細亜東方の悪友」というのは支那朝鮮、つまり清国と李朝時代の朝鮮である。往時、日清戦争前の日本は、清国と朝鮮によって非常に悩まされていたが、もう1つロシアというまことに厄介な大国があり、これが不凍港を求め南下政策を企ていた。そのような意味で朝鮮、清国、ロシアにどう対応するかが、日本の近現代史にとっての最重要のテーマであった。この状況に際し福沢は、日本が生きていく道はアジア東方の友達と縁を切り、そして自分のアイデンティティを東洋でなく西洋に求めていくことだ、と主張した。

2. 日本に敵対的な現代の極東アジア情勢
開催風景 現代の極東アジアの地政学は、当時を髣髴とさせるほどに日本に敵対的だ。まずは北朝鮮で、ミサイルに搭載可能な核弾頭をすでに保有しているかは確証が得られないが、少なくとも完成途上にあることは疑いなく、その照準はどこかと考えると日本以外にあり得ない。そして南の韓国は、異様なほどにこの北朝鮮に親和的だ。韓国は典型的に父系性社会であり、父子関係を軸に血縁を縦に継承していくという原理が非常に強い。この家系的構図が一族だけでなく、国家にまで外延的に拡大している。国家、つまり家としての家という概念は中国、日本でも強いが、格段に強いのは朝鮮半島である。私はそれを「血族的ナショナリズム」と表現する。したがって南北統合への力学が冷戦後の現在、きわめて強く働いており、この力学は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下で鮮明になってきた。そのようなお国柄なので、外の勢力から攻め入られたときには、極めて強い「反外勢ナショナリズム」が発揚される。
 次に、現代の中国について考えてみたい。反日はここしばらく骨休みしているようだが、大変に強烈力を秘めている。現在の中国の反日運動は、尖閣諸島の領有権主張や潜水艦の領海侵犯、首相の靖国神社参拝の問題、中学校歴史教科書への容喙、日中中間線のガス田開発、遺棄化学兵器問題など数え出せばきりがない。これらは端的にいって、侮日政策である。プーチン政権のロシアの行動様式には、資源とエネルギーを武器にした専制主義的な大国への嗜好性が見え始めている。北方四島に関する頑なな対応を見ても、日本に対して今後も強固な姿勢で出てくる可能性は強い。
 日清戦争前夜、朝鮮半島は、自国を取り巻く国際環境の激動にほとんど思いを至すことなく党派的な争いに終始していた。清国はこの朝鮮を属領としてひたすら宗属関係を守ろうとし、その背後にロシアが迫っていた。このような風雲急をつげる極東地政学の中で、日清戦争が戦われた。それが現在の日本を取り巻く極東アジアの地政学と酷似していると私は考える。もちろん100年以上前の歴史と現在とでは国際政治環境も全く異なるが、その本質に敵対的な極東アジアの地政学的な環境があるという意味においてである。
 日露戦争は日本、日英同盟に助けられて勝利した。英軍が軍隊を送って助けてくれた訳ではないが、日英同盟を結によってイギリスがフランスの動きを抑え、それに続いてドイツの動きをもとどめてくれた。そのことにより日本は、自らの持てる力の全てを日露戦争に集中できた。しかもシベリア鉄道が完成する前を狙って、先制攻撃で勝利した。福沢諭吉は当時、ロシアの南下政策をとどめる力を持っているのはイギリスしかなく、イギリスと同盟をしなければこの戦争には勝てないと主張していた。
 新しくアジア太平洋の盟主たらんとするアメリカが日英同盟を廃棄に持ち込んだ。日英同盟を廃棄させれば日本は手も足も出ないという判断であり、実際、現実はアメリカの思惑通りに進んだ。そして敗戦後の日本が日米同盟を結んだことは、ご承知のとおりだ。アメリカとはやはり、太平洋と大西洋に挟まれた島なのではないか。その島と島、日本とアメリカという島の連合によって、この60年余、パーフェクトな平和を日本は享受してきた。日英同盟、日米同盟という島国の連携をとっていたときの日本は、大変幸せであった。しかし大陸に関与した時代の日本は実に不幸な状況に陥った。

3. 強固な海洋国家連盟で大陸の牽制を
 東アジア共同体について申し上げる。すでに答えは出ていると思うが、少なくとも中国の主張する共同体はASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3だ。これに日本を招き入れ、日本の外交ベクトルを東アジアに向かわせる。それによって、日米離間をはかろうという中国の戦略だ。日本では「東アジアにもEU(欧州連合)のような共同体ができればよい」という希望的観測が語られるばかりだ。中国の地域覇権のことがここでは完全に無視されている。

 東アジア共同体に対する日本の対応は、日本が海のアジアを選択するのか陸のアジアを選択するのかという1つの分岐点となるのではないか。私はやはり海のアジアを選択すべきと考える。海洋国家連盟をできるだけ強固なものにし、大陸を牽制しながら生きていく。それが日本の将来の生き方ではないかと、少なくとも近現代日本100年の歴史が教えてくれているように思う。ただどうしても結論が出せないのが、朝鮮半島だ。朝鮮半島は今、大陸国家への道を歩んでいるが、これをいかに海洋国家の方に引き戻すかというのが日本の戦略でなければならない。そしてここが日本の外交政策の最も重要なポイントになるのではないかと直感する。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部