平成20年度 第2回 アジア研究会 ●発表1「カンボジアへの直接投資と地域経済化」山口大学大学院技術経営研究科准教授 廣畑 伸雄、●発表2「メコン地域における国境経済圏の可能性」日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 地域研究センター東南アジアⅡ研究グループ長 工藤 年博【2008/09/03】

日時:2008年9月3日

テーマ「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」

平成20年度 第1回 アジア研究会
発表1「カンボジアへの直接投資と地域経済化」


山口大学大学院技術経営研究科准教授
廣畑 伸雄

廣畑 伸雄 カンボジア経済は、1993年に本格的に市場経済への移行を開始し、貿易の自由化、投資の自由化、金融の自由化が進んでいる。また、国際援助機関による援助依存型経済構造である。 数多くの援助機関等のスタッフがプノンペンに住んでおり、その人たちが使うお金も多い。同国最大の産業は繊維縫製業である。また、農業とアンコール遺跡群を中心とした観光産業も伸びてきている。なお、同国ではドル化が進んでおり、90%程度と推計される。  東アジア経済統合という視点からみると、外国直接投資が重要な役割を果たしてきている。1994年に施行された投資法や、米国向け輸出に際しての一般特恵関税などのメリットにより、繊維縫製業を中心とした外国企業の投資が増加した。ただし、税収を増やす必要があるため、投資法は2003年に改正され、直接投資のメリットは減少している。同国への投資について、最近増えているのは、セクター別では農業関連と鉱業関連、投資国別では、中国、韓国などである。  カンボジアに進出している代表的な日本企業は二輪車の組み立てで、タイで製造した部品をカンボジアへ運んで組み立てている。製造業では亜鉛鉄板がある。エネルギー関連では、原油関係の合弁会社がある。鉱業関連では、ボーキサイト、銅がある。天然資源については天然ゴムがある。最近、増えてきているのは農業関連で、スーパーマーケット・チェーンによる開発が行われている。その他では、銀行、保険会社や、工業団地の開発などが行われている。  カンボジアなどメコン地域の開発途上国においては、初期条件が厳しく、制約条件も多く、外部環境が厳しいことから、どのように産業開発を進めていくかは非常に難しい問題だが、7つの可能性が考えられる。第一は、繊維縫製産業等の労働集約型産業の維持・拡大である。第二は、垂直分業と水平分業の拡大で、これはカンボジアよりもラオスの方が進んでいる。第三は、天然資源開発である。第四は、観光開発である。第五は、農産品加工産業である。第六は、天然ゴム産業で、これは非常に伸びている。第七は、東アジア経済統合という観点からみて、進出企業をサポートする裾野産業が重要である。特に、これらの分野において、金融面、技術面の支援を考えていく必要がある。


発表2「メコン地域における国境経済圏の可能性」


日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所
地域研究センター東南アジアⅡ研究グループ長
工藤 年博

工藤 年博 国境経済圏とは、ラフな定義だが、国境地域に限定された地理的範囲に形成される局地経済圏のことである。1980年代末の冷戦終結を契機に、90年代にはインドシナでも市場経済化が進み、市場経済化の波は国境を越え、経済活動圏として合理性を持つ局地的な経済圏を誕生させてきた。メコン地域では、市場経済国であったタイをCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)及び中国が取り囲む形で市場統合が進み、東南アジア大陸部大の経済統合が進んできた。国境地域に産業が立地することは、すでにいくつか観察されているが、理由は3つほどあるのではないか。1つは、国境をまたいで補完的な生産要素が賦存していること。もうひとつが、経済統合が進んでいく、その経済統合の度合いとの関係。3つめに、サービスリンク・コストである。
 まず、国境をまたぐ補完的な生産要素の賦存だが、国境経済圏では国境があるために、国境の両側で資源の賦存状況が変わる。例えばミャンマーとタイの国境では、タイ側では政府が決めた最低賃金を払って労働者を雇わなければならないが、一歩ミャンマー側に行くと低廉な労働力が豊富に存在している。国境経済圏の先進地域は資本、技術、インフラサービス、企業(家)、中間財、市場へのアクセスなどを提供し、後進地域は豊富で低廉な労働力、広い土地、天然資源、LDC(後発開発途上国)特恵措置などを提供する。
 もうひとつの要因として、経済統合の進展度がある。生産活動は国境の向こうかこちら側でやるので、国境が完全に閉じている状況ではできない。国境を少し渡った場所でよいが、労働力、原材料、製品などが国境を越える必要がある。国境経済圏の成立には国境によって資源の賦存状況が変わる分断性と、それをつなげる、移動可能とする連結性の両方が必要だ。
 そしてもうひとつは、サービスリンク・コストだ。これまでCLM経済はサービスリンク・コストの高い経済で、輸送のインフラ、通信インフラが未整備である、制度的な問題、輸出入の手続きに時間がかかる、サービス産業に対する政府の規制がある、さらにはそもそも物量がないために規模の経済が十分に働かない、などの問題に直面していた。こうした問題を国境経済圏が解決する可能性があるのではないか、ということだ。とくにタイや中国などすでにインフラが整っている地域の国境に立地する、そして越境インフラをつなぐことで、後進地域にあっても隣国の発達したインフラを活用できるようになる。
 さて、国境経済圏が競争力のある局地経済圏となり得るとすれば、次の課題は国境経済圏、とくに国境産業を、よりシステマティックに形成していくために、どのような政策が考えられるかである。ここでは国境地域における経済特区の設置を提案したい。国境の経済特区というのは、国境を挟んで存在する経済リソースを、低いサービスリンク・コストで結び付けるための政策ツールである。現状では、タイを見てみると、CLM各国から大量に移民労働が来ている。後進地域に産業が行くのではなく、先進地域に労働者が来ているのである。企業はミャンマーへ行けば労働者を現在の半分の賃金で雇えるのだが、それでも行かない。これは後進地域の政治的な不安定さ、政府の規制、劣悪なビジネス投資環境のためである。現在の状況を改善するには、国境に経済特区を設置して、そこでは例えば委託加工(CMT/CMP)ができるような仕組みを作ることが必要である。
 結論としては、国境経済圏、とくに国境産業は、CLMの新たな開発戦略のひとつとなり得るのではないかと考える。すでにメコン地域の各国政府は国境に注目し、開発を進めようとしている。そして、国境経済圏を低開発国であるCLMの国内経済の発展につなげるには、CLM側に産業や貿易、観光などの経済活動を呼び込むことが必要だ。そのためにはやはり、ビジネス、投資環境の整備が重要になると思う。同時に越境インフラ、これは制度面でのインフラを含むが、これを整備していく必要があるだろう。国境における経済特区の設置は、そのための有効な政策ツールとなるだろう。
 但し、全ての国境ポイントで国境経済圏を形成できるわけではない。実際に国境経済圏の形成を促す場合には、すでに経済活動が行われている国境地域に注目し、そこの活動をスムーズにするような政策手段を投入することが現実的だろう。そのようにして、CLM側の国境に産業を誘致することができるのではないかと考える。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部