平成20年度 第4回 アジア研究会 ●発表1「メコン地域分業ネットワークの形成とベトナムの裾野産業の発展」桜美林大学経済・経営学系 講師 ド・マン・ホーン(DO MANH HONG)、●発表2「経済統合とインスティテューショナル・フレームワーク」一橋大学国際・公共政策大学院客員教授 浅沼 信爾、●発表3「インフラ・ネットワークの整備、クロスボーダーの貿易障壁簡素化」青山学院大学客員講師 元アジア開発銀行メコン開発室長 多田羅 徹【2008/11/19】

日時:2008年11月19日

テーマ「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」

平成20年度 第4回 アジア研究会
発表1「メコン地域分業ネットワークの形成とベトナムの裾野産業の発展」


桜美林大学経済・経営学系 講師
ド・マン・ホーン(DO MANH HONG)

ド・マン・ホーン 冷戦後の東アジア地域では、外国直接投資及び国際貿易が地域全体にまたがり工業発展が波及した。地域全体での分業ネット形成により、裾野産業の発展が重要になっている。
 同地域内での国際分業は、従来の産業間の分業を中心とする「連鎖型分業関係」からと産業内の多角分業を中心とする「複合型分業関係」へと変化することによって、工業化の初期段階に踏み込むベトナム、ラオス、カンボジアなどの追跡国でも裾野産業を育てていける状況になる。
 GMS諸国とはタイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーの5カ国で、中国の雲南省も含めると、人口規模は東南アジアの半分程度だ。現在の経済発展に関する問題点は、(1)製造業で機械と電子分野の産業が弱い、(2)各国間の分業がまだほとんど形成されていない、(3)地域内の他の国とは市場が乖離し、貿易相手はほとんど地域外の国々、(4)各国内、または地域内の生産能力が弱い-という四点が挙げられる。
 一方、現地販売のシェアや部品・中間在調達率などのデータを利用してベトナム、中国、タイにおける日系企業の活動を比較して見ると、明らかにベトナムの裾野産業は、まだ育てられない状況である。ベトナムの裾野産業の問題点としては、要するに、国内企業部門の生産能力が弱く、そして国内企業と外資系企業の乖離があり、生産技術では大きなギャップが存在し、両部門の企業の連携が形成されない。なお、国有企業と民間企業、外資系企業がそれぞれ異なるマーケットを狙い、非競争的な状態が続く。また外資系企業部門では、大規模の投資が少なく、裾野産業の発展を誘発する力が不足である。
 今後必要な政策を考えると、まずキャッチアップ国の工業化政策では、自動車バイクなど特定の分野での保護政策をとるのではなく、幅広い生産分野を一斉に動員する必要がある。長期的には地域の分業ネットワークの発展を考慮するうえで、自国の動態的な比較優位を創り出すことも必要だ。外資導入政策については、多様な分野で異なる技術レベルおよび規模の外国直接投資(FDI)を誘致することも必要だ。早期に国内市場を開放、自由化し、公平且つ自由競争環境をつくり、市場のシグナルによりFDI企業の現地化プロセスを加速させる必要もある。また、民間企業部門の振興を重視する必要、国内企業と外資系企業とのリンケージ形成をサポートすることも必要だ。


発表2「経済統合とインスティテューショナル・フレームワーク」


一橋大学国際・公共政策大学院客員教授
浅沼 信爾

1. トランズアクション・コストの削減
浅沼 信爾 きょうお話しする内容は、情報というよりはむしろ考え方についてで、情報量はあまりない。何を考えるのかというと、経済統合とインフラストラクチャーの関係だ。経済統合といったとき、最初に考えるのは経済統合を阻害する要因で、これはトランズアクション・コスト(各種の取引コスト)であり、インフラはこのトランズアクション・コストの一部で、これをどのように削減するかという話になる。これまであちこちで行われてきた実証研究で、その平均的な数字を出してもあまり意味はないのだが、取引コストを1%減少させると取引量が0.5-1%ぐらい平均で伸びる、すなわちその弾力性が0.5-1ぐらいだ、という結果が出ている。したがって、取引費用の削減は経済統合にとって、必要条件だといえる。そして財およびサービス市場では、クロス・カントリーの場合には関税があり、その他のノンタリフの貿易商品である訳だが、それを何とかして解決し、インテグレーションを進めようというとき、自由貿易市場や共同市場をつくる話になる。ASEANの場合には既に、AFTA(ASEAN自由貿易地域)というのができている。
 そして次に生産要素の市場ということで、金融資本移動を考えてみると、為替レートが完全に固定してあり、かつ将来においてもそうなるだろうことを考慮しても、例えば日本の人がタイと取引をすると、円からドルへ、ドルからバーツへということになり、それだけでも銀行が2%ぐらいをとり、往復すれば4%ぐらいになるという世界だ。そのうえ、為替相場の変動やいろいろな不安もあるので、そのコストも考えなくてはいけない。そうなると、これは相当大きなコストのバリアだ。工業製品では今は、平均、これもまた平均では意味がないかもしれないが、関税率が5%ぐらいで、これと比較してやはり大きなクロス・カントリーの取引の障害になるというのがお分かりいただけると思う。
 そして今度はヒトの移動についてで、これにはお金はつけられないが、これも生産要素なので移動として重要なことは間違いない。今の問題は、ヒトの移動に関しては統計的にも経済効果などについてもあまり研究がなされていないというのが第1点だ。そしてもう1つの点は、財の貿易なら関税率を変動させることによって、多少、貿易量を調整するという政策手段を政府が持っている訳だが、人的移動についてはほとんどが数量制限以外、もしくは職種で制限するという手段しか持っていない。したがって、経済政策としてはなかなかやりづらいところがあるのだろう。シンガポールなどでは、他国からお手伝いさんなどを輸入する際、1人につきいくらというポルタックス(人頭税)のような税金をかける。それを雇用主が払わなければいけないことにし、この金額を上下させることによって、確かに数量調整は可能になる。しかし何かもう少し、人的移動についてもすっきりした経済政策を考えなければいけないのだろうという気がしている。

2. インフラ投資、GDPの6%が必要
 これらの問題はさておき、インフラストラクチャーだが、インフラといっても、経済統合のためのハード・インフラ、そしてソフト・インフラもあり、後者はいろいろなレギュレーションその他の問題だ。そしてロジ・コストというのは先にいったように、関税率相当換算でどのくらいになるかと考えると、これも平均的な話では全く意味がないかもしれないが、一般にいわれているのは8-12%ぐらいのロジ・コストが国内外で生ずるのではないかという話だ。もしもインフラに投資することによって、ソフト・インフラなどの改善によって、ロジ・コストを1%下落させることができれば関税を1%下げたのと同じ効果で、先にいった弾力性の0.5から1ぐらいを考えると、相当の効果があることになる。そしてそのときのロジ・コストには、時間も入っている。これについてはアジア開発銀行(ADB)でもっと詳しい研究をなさっていると思うが、これまでの研究成果では大体1日遅れ、これも品物により平均では何ともいえないのだが、量的オーダーをつかむため、1日遅れということは1%のロジ・コストになる。そのくらいの感覚でとらえてよい。
 それではロジ・コストを下げるためのインフラの投資はどのくらいやらなくてはならないのか、という話がよく出てくる。よくインフラというが、あまりはっきりした定義をせずにいっている。一応、電力、通信、道路、鉄道、上下水道というのを考え、ADBで今、クロスボーダー・インフラ(越境インフラ)の比較的大規模な研究が進んでいる。しかし、クロスボーダー・インフラさえ改善すれば、という訳にはいかないだろう。相当のビハインド・ザ・ボーダー(国境内)のインフラ需要がある。全体の需要を見たとき、いろいろなところでどのくらいのものが必要かと考えており、アジア開銀とJBIC(国際協力銀行)、世界銀行が2005年に共同研究したものの中にも推計が入っている。そして今のADBI(アジア開銀インスティテュート)のスタディーでも、クロスボーダーに限ってどのくらいの投資の必要があるか、アジア全体について調べようとしているようだ。
 結論としては大体、GDPの6%ぐらいが毎年必要で、そのうちの4%が投資、うち2%がメンテナンスの投資だといわれる。しかしこの数字と推計した方法論は実は、世界銀行のフェイとイェペスという人たちが作り上げた方法論だが、どうも頼りない。普通は例えば、道路にしても何にしても、フィージビリティ・スタディーを行う。ディテールド・エンジニアリング(詳細設計)を行わないフィージビリティ・スタディーでは、コストとしてはプラス・マイナス50%ぐらいの差が出てくる。1つだけ例を挙げると、例えばトンネルを掘る場合、フィージビリティ・スタディーのレベルでは、どれぐらいの土と岩をどけなければトンネルが掘れないか、よく似たところで1トンの岩をどけるのにいくらかかったかという、ただそれだけをベースに計算をする。実際にもっと硬い岩があったり、水が出てきたりということになると、どうにもならない。ボーリングをして初めて、これがディテールド・エンジニアリングだが、そのコストが大体、経験的にいってプラス・マイナス15%ぐらいに収まるだろうという世界だ。
 したがって全体のインフラ需要ということになると、到底、計測ができない。私自身はその難しさを考え、常々自分で判断するときには6%ルールというのを頭に置き、中期的に見ている。GDPの6%ぐらいはインフラに投資をしなければ、どうも6%ぐらいの経済成長率が保てない。それで経済成長率がもっと高い場合には高く、低い場合には少なく、そして発展段階が初期であればあるほど高くという風に、本当に頭の中だけで考えて判断をしてきた。最近は世界銀行にグロース・アンド・デベロップメント・コミッションというのがあり、そこでは定義をしないでインフラのためにGDPの7%ぐらいが必要だとしている。
 そして次に地域インフラだが、ここの研究会の主題は、大メコン圏(グレーター・メコン)のサブ・リージョンで、その地域のためのインフラ計画が課題となっている。GMSの地域的なインフラ開発では、これまでアジア開銀が非常に主導的な役割を果たしてきた。遅れてきた世界銀行なども、電力市場をつくろうというような話に入っているが、結局はアジア開銀が主導してやってきた。その他にもメコン委員会、ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)などいろいろあり、税関、運輸、物品の越境移動のコントロール等々に関する実にたくさんの多国間コンベンションがあるのだが、それも役割を果たしている。私自身は、本当に積極的な役割を果たしたのはアジア開銀で、メコン川の委員会も不発で、ESCAPに至ってはほとんど何もしないに等しいと思う。多少何人かの人がいろいろな細かい研究や調査をやっているようだが、そういう感じの中でGMSの発展、開発が進んできた。
 少しここで一歩下がり、インフラ構築のどんな問題点を政府として扱わなくてはいけないのか、政府としてインフラを開発するとき、もしくは地域として、と考えると、まず資金の問題が当然ある。とくに今後、民活(いわゆるPPP)ということになると、これも資金の1つだが、なかなか難しい問題がある。そして土地収用と環境問題をどうするかという問題も常に残っている。例えばインドネシアなどでは民間がやるインフラ・プロジェクトでも土地収用については民間にまかせず、政府が何かできないだろうかということをアジア開発銀行も一緒になって考えている。そして政府保証と補助金の問題だが、これについては民間にコスト・リカバリー(費用の回収)をさせてインフラをつくれば、完全に貧困層から文句が出る。
 ラテン・アメリカでは例えば、上下水道のサービスを外国なり国内の民間の投資家にまかせた。そうするとどうしても料金を上げざるをえず、料金を上げると問題が起きる。いったい誰が得をするのかというと、財政赤字を減らした財務省だけではないかということで大反対が起きた。実際、PPPの契約の70%ぐらいが破棄されたり、改定されたりしなくてはいけなくなった。そしてマニラの水道の一部、これは東だったか西だったか忘れたが、フランスの会社が問題が生じて撤退している。そしてフランクフルトの空港会社がやってきたマニラ空港も、法的な問題から未だに使われていない。だからどうしても政府が出てきて保証したり、保証金を出したりというのがしっかりしていないと、なかなかインフラ構築は難しい。とくにその辺も扱わなくてはいけない。そして放っておくと、経済的に無用ないわゆるホワイト・エレファントが出てくる。そのようなプロジェクトというのは日本でもあちこちにある。インドネシアなら例えば、ジャバ・マドゥラブリッジ架橋、そしてスマトラ・ジャワ・トンネル、あるいはスマトラ・ジャワ架橋もある。さらにジャバ・スラウェシ架橋というのもあり、必ずそういうものが出てくる。それを何とかして押さえ込むような仕事も必要だ。
 最後に、住民問題と利益配分というのも、GMS辺りでも非常に重要な問題だ。これは国内に照らしていうと、こういう問題だ。インフラの費用便益分析を行い、このプロジェクトをやろうと計算する。そのときに利益のところで、もちろんインフラ・プロジェクトの場合には、取引コストが下がったり、安全性が高まったりということがあるが、例えばラオスを想定し、ラオスの中を行きかう、そういう便益を受ける受益者がラオスの国民ではないときに、ラオス政府は本当に投資をするだろうか。ラオス政府の立場に立って費用便益分析をすれば、その便益はほとんどベトナムとタイに行ってしまい、ラオスには落ちないので嫌だという結論が出ざるをえない。そうではなく、スピルオーバーがあって、ラオスにも利益があるということがわかって初めて彼らもやることになるだろう。しかし同じように住民問題というのが国内でもあり、このことも考えなくてはいけない。この辺が問題になってくる。

3. ASEANインフラ共同体
 私はGMSのインフラを考えるときにどのようなインスティテューショナル・フレームワークがよいだろうと考えてきたが、私自身の個人的な結論はASEANインフラ共同体だ。ASEANインフラ共同体のポイントは、ASEAN憲章でもよく、そしてASEAN諸国間の条約でもよいが、少なくとも条約レベルでこのインフラ共同体をつくったらどうかという考え方だ。そうでなくアドホックにやれば、これはADBの方が一番よくご存知だろうが、いろいろな政府、省庁が絡んできてなかなかうまくいかない。そこで非常に大きなアンブレラとなるフラッグシップ・インフラ共同体をASEANの中でつくるのだという大原則を打ち立て、それをつくってしまう、その下に個別のセクター別な共同体をぶらさげて、そういう形にしておく。別扱いしなくてはいけない、マラッカ海峡の保安維持の問題、エネルギーに関しても別扱いの市場機構のようなものが必要になると思うが、いずれにしてもインフラ共同体をつくったらどうか。
 GMSはいってみれば、参加している国ではなく、むしろADBが中心になって考えている、もしくは周りの国が中心になって考えている。中国は雲南省を通って、何とか南に進出しようとしている。そしてそれは困るからもう少しGMS自体の利益になるように、と東西回廊のようなものを考える人がいる。もしくはアジア・ハイウェイという形で何とか通そうという人がいる。地域全体として、長期ビジョンがあるとは思えないし、しっかりした長期ビジョンに基づいた長期の投資計画があるとも思えない。ASEAN諸国が共同で長期ビジョンを作り、投資計画をつくってプロジェクトを策定し、計画実施のモニターをさせる。そのポイントは、ASEAN事務局を中心にやったらどうかというものだ。かつそこに集まってきて作業する人たちは建設省やインフラ省などではなく、中心になるのは計画庁、計画機構だと思う。そうでなければ、先にいったようにホワイト・エレファントのような無用の長物的なプロジェクトが出てき過ぎる。
 当然、今まで主導的な役割をしていたアジア開銀やメコン委員会、世銀、ESCAPとも一緒に働くのだが、何とかしてASEAN事務局に中心を移せないかと思う。役割の第2は、そこでインフラの建設基準、規制などの標準化をしなくてはいけない。環境基準や住民補償の問題、相互乗り入れ対策、いろいろなソフト面でのハーモナイゼーションが必要で、それをこのインフラ共同体を中心にしてやったらどうかと考えられる。そして第3の役割は、インフラ投資資金の域外からの調達、そして技術支援と技術導入をジョイントで行うということだ。
 したがってADBにしても、日本からのバイの支援にしても、ASEAN全体の計画をベースに何かできないだろうかと思う。これについては、歴史的に例がない訳ではない。今、欧州連合(EU)ではほとんど完成に近い状態だが、初期にはECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)というのがあり、戦後すぐにヨーロッパの大陸諸国の政府が集まり、鉄鋼業の再建をはかるため共同で計画をつくり、共同で資金を導入した。これはアメリカからで、後にECSCとして、ウォール街でボンド・イッシューをやっている。彼らがやった最後のボンド・イッシューはおそらく、1970年半ばぐらいだ。各国政府が分担してこれを保証し、ボンドを出してそれをECSCに持ち帰り、鉄鋼業に投資した。同じようなことが、鉄鋼ではなくインフラでもできるだろうという気がする。
 そして4番目の役割として、ASEAN地域全体のバランスのとれた経済統合がこれによってできないだろうか。ADBにしても、おそらく経済産業省の方々にしても、東アジアの地域開発というと、どうもメコン川流域開発に焦点を当て過ぎだと思う。ASEAN全体を見てみると、メコン川流域の開発と同時に東南アジアのマーレ・ノストルム(われらが海)というのがある。これはずっとインド洋からマラッカ海峡、ロンボクを経て、サウス・チャイナ・シーに至る、ASEANの持っている非常に大きなインフラのベースだ。それを何とかして共同でメコン川を開発するように、同じように東南アジアのマーレ・ノストルムも開発していかなければ、ASEAN全体でバランスが取れないのではないかと思う。
 最後に日本の役割についてだが、このコンセプトというか、アイディアを推進し、第一にERIAの研究プログラムを取り上げていただく。ASEAN事務局というのは本当にお金がなく、加盟国は皆、100万ぐらいずつしか拠出していない。それではどうしようもないので、少なくとも当初はERIAをスポンサーにしている日本がお金を出し、このASEANインフラ共同体構想を進める研究プログラムのようなものをつくっていただきたい。これが第一だ。第二にどんどんこれがプログラム化され、プロジェクト化されていったときの技術、資金援助もできるのではないかという気がする。そうすることによって、第三が重要だと思うが、近隣の大国の影響力、メコンではどうしても中国の影響が強くなる。だから中国経済にばかり利益がいかないようにし、もっと主体的にASEAN全体の地域統合を発展させていく。ディーパー・インテグレーション(経済統合の深化)を行うため、日本がこういうことをすることによって、1つのカウンター・ウェイトを提供することができるのではないか。その3つぐらいの役割があるような気がする。
 そんなことをいっても実際には難しい、と思われるかもしれない。実は先日、スリン氏がASEANの事務局長になられるといって日本を訪問されたとき、JICA(国際協力機構)でスリン氏に会わないかといわれ、お会いした。そのときに「少しこういうことも考えてください」といって私のメモを渡したところ、スリン氏の反応は「面白いじゃないか」ということだった。またそのときに付いてこられた方が、「こちらで引き取って考えてみましょう」とおっしゃっていた。しかしもっとどこかが押さなければ、こういうことにはならないのではないかという気がする。


発表3「インフラ・ネットワークの整備、クロスボーダーの貿易障壁簡素化」


青山学院大学客員講師 元アジア開発銀行メコン開発室長
多田羅 徹

多田羅 徹 私はアジア開銀で約20年勤め、そのほぼ全てをメコン川流域の開発に費やし、GMSの立ち上げから直近のサミットまで担当した。1991年にインドシナのパリで、インドシナの和平協定が結ばれ、インドシナで平和が実現されることになった。これがきっかけでインドシナでの経済協力が可能になった。
 GMS参加国は流域の6カ国で、また当初から中国を入れるかという問題があった。結局、「メコン川は中国が源流で、中国を入れなければ将来の地域経済協力はありえない」ということになって中国を入れた。これは結果的に正解だった。最終的には雲南省と広西チワン族自治区が入ったので、GMS全体では5カ国プラス2省ということになる。2006年のランドエリアは2600万平米、人口は3億2300万人で、規模だけでいうとEU(欧州連合)と比較してもそれほど小さなマーケットではない。GMSでは一番上にサミットがあり、非常に多層的、重層的なインスティテューショナル・ストラクチャーを持っており、平均すると年間30回以上、GMS会合というのが開かれている。
 そしてインフラ統合の将来像を、最初のマスター・プランでつくった。われわれがGMSでやったのは、いわゆるインフラと物流を中心にした貿易投資のマーケットをつないでいくやり方で、コネクティビティといっており、いわゆるインフラと物流の結合でこの地域を経済統合していく。92年の発足当初、2012年ぐらい、大体20年でインフラのネットワークをつくろうではないかということになった。インフラでは道路、通信・テレコム、送電網の3つが中心になる。われわれが考えたのは、それぞれを別々にやっても仕方がなく、いわゆる複合型のインフラ・コリダーを将来的につくっていこうということだ。東西回廊、南北回廊、南部回廊の全てで、道路、通信、送電網が重なっており、ライト・オブ・ウェイに全ての複合型のインフラを建設していく。実際、2012年を目指したが、かなりの部分は既にできている。
 GMSが成功した要因としては、(1)冷戦終結と市場経済化が91年に始まったこと、(2)条約型のアプローチとは異なるインフラ、プロジェクト型のフレキシブルなアプローチ、(3)最初にマスター・プランを綿密につくったこと、(4)ADBがいわゆる中立機関としての役割を託され、担ったこと、(5)立ち上げ段階で各国に実力のある若手の指導者がいて、それらの人たちからサポートを受けられたこと、(6)マルチ・セクターの集中投資をするアプローチをとったこと、そして⑦それでも実施が遅れたので、2002年にはサミットを組織したこと-が挙げられる。さらに8つ目の要因として、小国と大国の利害調整がかなりうまくいったことがあり、最終的にはベネフィッツが行くところから資金を負担してもらえた。そしてクロスボーダーの通関制度、技術基準のハーモニゼーションをハードのインフラをつくるときに同時に進めていったことなどがあり、かなりコストを削減して物流を促進できた。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部